総長戦記 0072話 擦り付け
【筆者からの一言】
結局、この時代の多くの白人は黄色人種を劣等人種と見ていたわけで、ならば、その先入観につけいるまでの事。
くっくっくっ……
1941年9月 『アメリカ』
アメリカにおいて、ニューヨークの惨事が原子爆弾による可能性が非常に高いと判明し、その犯人がドイツだと推測されていく中で、日本を犯人だと疑う者は皆無だった。
日本は列強の一国であり、アジアで最も近代化が進んだ国だと判断されてはいたが、それでも欧米諸国からは一段低く見られていた。
特に科学技術については欧米諸国より遅れていると見られていたし、実際のところ、それが間違いというわけでもない。
日本はこの時代、工作機械から飛行機に至るまで色々な物や技術を欧米諸国から輸入し、それを研究して国産品を作り上げて来た。
それを欧米諸国は知っている。
だからこそ、そうした技術的に欧米諸国に一歩遅れていると言っていい日本が、それこそ最先端の先をゆく物であろう原子爆弾を独自に完成し使うとは露ほども考えていなかったし、その可能性があるとは思っていなかったのである。
イギリスでさえ完成させておらず、アメリカでさえろくに研究がされていない原子爆弾を技術的後進国の日本が造れるわけもないというのが、関係者全員の見方であった。
アメリカやイギリスは完全に日本は遅れているという先入観に凝り固まっていたのである。
それに、もし万が一、日本が原子爆弾を完成させたとしても、この時点において、アメリカのしかもニューヨークに使う理由が不可解と言えた。
日本にとりアメリカは絹製品の唯一の大きな輸出先と言っていい存在である。
アメリカを攻撃するという事は経済的に自国の首を絞めるのに等しい行為と見做されていた。
日本海軍は日露戦争以後、アメリカを仮想敵としている事は周知の事実である。
だが、もしそれで原子爆弾を使用するならフィリピンやパールハーバー、サンフランシスコやサンディエゴ等、目標となる場所は太平洋に事欠かない。
どうせ原子爆弾を使うならアメリカ太平洋艦隊に被害を与えるように使う方が日本にとっては効果的であると考えられていた。
また日本の政治に大きな影響力を持つ閑院宮は常にソ連に注目しており、現在生じている独ソ戦によりソ連が弱体化した頃合い見計らってソ連領侵攻を狙っているとの情報が入って来ており、最初からアメリカには目を向けていない。
もし日本が原子爆弾を持ったとするならばソ連に使うと予想された。
つまり、アメリカの判断としては日本が原子爆弾を持つ事は技術的には不可能であり、万が一の場合があったとしてもアメリカに使用する事は経済的に自ら首を絞める事になるし、軍事的にはニューヨークに使用するという意義を皆目見いだせなかったのである。
故に今回のニューヨークの惨事において日本が疑われる事はなかった。
状況証拠とファシスト団体幹部の自白だけが証拠ではあったが、それで充分にドイツが犯人と目されたのである。
総長はその思惑通り「ウラン爆弾(原子爆弾)」の犯人をドイツに擦り付ける事に完全に成功していたのである。
【to be continued】
【筆者からの一言】
楽な擦り付けでしたなぁ。
先入観や固定観念って恐いものですなぁ。
クスクスクス……




