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総長戦記 0070話 紛糾

【筆者からの一言】


さぁどうする? というお話。


1941年9月 『アメリカ ワシントンDC ホワイトハウス』


「今すぐドイツに対し宣戦布告するべきです大統領」

 ノックス海軍長官がルーズベルト大統領に戦争突入を進言していた。


「それはまだ早い。避難民の生活さえままならない状況なんだぞ」

 それに異を唱えるのはモーゲンソウ財務長官だ。


「だが手を拱いていては再び攻撃を受けるかもしれない」

 スティムソン陸軍長官はノックス海軍長官と意見を同じくしている。


「海軍が警戒体制をとっているのだろう。海軍長官は防いでみせると言ったじゃないか」

 ハル国務長官は慎重派だ。


「被災地に派遣されている兵士達がNNP(放射線障害)に侵された可能性の問題もある。下手をすれば数万人の兵士達がだ。それを無視して戦争突入は危険じゃないのか」

 ウォレス副大統領も即時開戦には消極的。

 

 ルーズベルト大統領は眉間に皺をよせ皆の意見を黙って聞いている。

 未だ決断にはいたっていないようだ。


 会議が紛糾していた。


 この会議の参加者は主催者のフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領

 ヘンリー・アガード・ウォレス副大統領

 ヘンリー・モーゲンソウ財務長官

 コーデル・ハル国務長官

 ヘンリー・ルイス・スティムソン陸軍長官

 ウィリアム・フランクリン・ノックス海軍長官

 以上の6人である。


 参加している者達は戦争が発生した場合、閣僚の中でも特に重要な地位にいる者達であり、政権の中でもその中枢と言ってよい者達が集められた重要な会議だ。

 日本で言えば五相会議に相当するだろう。


 この会議に参加している者達は、既にニューヨークの惨劇の犯人がドイツである事を疑っている者はいない。

あらゆる状況証拠がドイツが犯人である事を指し示し、それに加えてFBIから報告があったのである。

「ドイツ・アメリカ同盟」の幹部が、前もってドイツからニューヨークへの攻撃があるという連絡を受けていた事を自白したと。


 犯人は判明した。

 問題はその犯人であるドイツへのアメリカの出方だった。


 この歴史的とも言える程の多大な犠牲者を齎したドイツの大虐殺行為を許す事はできない。

 この点について異議を唱える者は誰一人としていないし全員の見解は一致している。

 つまりドイツに対し宣戦布告をして戦争するという事については閣僚全員が賛成していた。


 問題は、いつドイツに宣戦布告をし戦争に突入するかという時期の問題だった。

 これについては意見が割れた。


 一つは直ぐにでもドイツの蛮行を世界に訴え宣戦布告し大戦に参加するべきだという意見である。

 これには、これ以上ドイツの原子爆弾使用を許してはならず、直ぐにでもイギリスに長距離爆撃機を派遣してドイツへの戦略爆撃を実行し、これ以上の原子爆弾製造を阻止するべきだという理由も含まれている。


 もう一つは今暫くは国内の状況立て直しを優先し、ある程度国内が落ち着いてから時機を見て宣戦布告するべきだという意見である。


 何しろアメリカの現状は酷かった。


 ニューヨーク経済圏という国内一の経済地域を失った痛手は大きい。

 経済的には蛇の頭がもがれたような状況と言っても良かった。

 多くの大企業が消滅している。

 ニューヨークに本社があった企業は多い。そうした企業の各地にある支店は混乱の最中にある。

 ニューヨーク経済圏を中心とする物流も破綻していた。

 全てが大混乱の中にある。


 それに加えて400万人と推定される避難民がいた。

 そのうち300万人は負傷者と推定されている。

 その衣食住と負傷者の手当だけでも大変であり、未だ充分な物資が届いているとは言えない。

 

 それに疫病の問題もある。

 世間では「NNP」と呼ばれる病、所謂、放射線障害はニューヨーク、ニュージャージ、ペンシルベニアで猛威をふるっている。

 しかも大西洋岸のボストンとフィラデルフィアでは天然痘の流行が始まっており既に数千人の死者が出ていた。

 同じく大西洋岸のジャクソンヴィルとメキシコ湾岸のニューオリンズではペストの流行が始まっておりこちらでも既に数千人の死者が出ていた。


 アメリカ東海岸とメキシコ湾岸で次々と疫病に倒れる者は増加している。

 要となる重要な港湾都市での疫病の流行は海運に大きな影響を及ぼしている。

 ただでさえ第三国からの全船舶に対しては検疫の強化という名目で海軍まで動員して強制的に臨検を行い、原子爆弾等が持ち込まれないか厳しい警戒体制を敷いている。

 その為、海運については、これまでよりも日数がかかり輸送に大きなロスが出ている。


 そして深刻なのは、この港湾都市での疫病の流行もドイツが行ったのではないかという疑いがある事だ。

 原子爆弾の使用と同時期に重要な港湾都市で流行り出した疫病を偶然と考える者は少ない。

 細菌兵器による同時攻撃と見る方が自然だ。


 恐らくは原子爆弾も細菌兵器もドイツお得意のUボートにより運ばれ使用されたに違いないというのが、この会議にいる者達の共通認識である。


 そして問題は原子爆弾や細菌兵器による攻撃を繰り返させない防衛体制を整えられるのかという点だ。


 今すぐにでもドイツへの宣戦布告をしニューヨークで犠牲になった数百万ものアメリカ国民の仇をとりたい気持ちは誰もが持っている。


 しかし、宣戦布告をしたとして果たしてドイツの攻撃を防げるのか? 原子爆弾を阻止できるのか? 細菌兵器を食い止める事ができるのか?


 宣戦布告をした途端に今度はボストンが、フィラデルフィアが、ニューオリンズが原子爆弾の標的になるかもしれない。

 今度は他の港に細菌兵器が使われるかもしれない。 

 それを防げるのか?

 ニューヨークの二の舞は何としても防がなければならない。

 それが問題だった。


 ノックス海軍長官は自信を持って海軍は防いで見せると断言している。

 しかし、万が一という場合もある。

 もし、現状で更に原子爆弾による攻撃が行われれば、アメリカは……


 だが、逆に言えばここで開戦しないのならば、それこそドイツに対し時間を与える事にもなる。

 それは確実に新たな原子爆弾の製造に時を与える事は間違いないだろう。

 現在のところドイツにあと幾つの原子爆弾があるのかは不明だが、増える事になるのだけは間違いない。


 この日、会議は紛糾し遅くまで続けられた……


【to be continued】

【筆者からの一言】


即時開戦か、それともまずは被災民救済と経済界の立て直しを優先か。



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