総長戦記 0068話 苦悩
【筆者からの一言】
ルーズベルト大統領のお時間。
1941年9月 『アメリカ ワシントンDC ホワイトハウス』
スティムソン陸軍長官からニューヨークの惨劇がドイツの原子爆弾によるものだという報告を受けたその日の夜、ルーズベルト大統領は自室で一人苦悩していた。
ニューヨークの惨劇における原因の一端が自分にあるという考えがどうしても頭から離れなかった。
政治的価値観から専制国家やファシズムの存在を許せなかった。
イギリス連邦はアメリカにとり主要な輸出先として経済的に死活的な存在位置にいる。それ故に経済的見地からイギリスを支えねばならなかった。
その為にドイツとの戦争を望んでいた。
国民に対しては、選挙で戦争は行わないと約束した。約束しなければ大統領にはなれない。
だからドイツに重圧をかける事でアメリカに対しドイツが激発する事を望んでいた。
それにより大義名分を得て戦争に突入する。
そういう思惑があった。
だが、しかし……
これ程までの激烈な反応が返って来るとは思ってもみなかった。
ニューヨーク壊滅。
死者、負傷者は500万人に上ると推定されている。
このような無差別攻撃、いや大虐殺は人道上、許される事ではない。
非は完全にドイツにある。
だが、自分が……
そう、自分こそが中立という概念を捻じ曲げて来たのも事実だ。
国際法上の中立の枠を破りイギリスへの肩入れを行いドイツを敵視した。
その報いがこれか……
ドイツとの戦争になってもアメリカ本土が脅かされる事はないと考えていた。
安全だと考えていた。
第一次世界大戦と同じく戦場はヨーロッパと大西洋になるものと思っていた。
それがどうだ。
宣戦布告も無しに200万人が死んだ。いや、死者は今も増え続けている。
最終的に犠牲者がどれほどの数になるのか見当もつかない。
そして考えずにはいられない。
もし自分が厳密に中立を維持していたとしたらどうだろう?
恐らくドイツはこのような攻撃をしなかっただろう。
そう判断せずにはいられない。
それを思わずにはいられない。
このニューヨークの惨劇は自分の甘い判断が招いたものだ。
その甘い判断が200万人以上を死なせてしまった。
赤子も幼児も少年少女も働き盛りの男女も老人たちも……
何の罪も無い大勢の国民を死なせてしまった。
自分の責任だ。
大統領になる時、この国を守ると宣誓した。
それなのに……
瞼を閉じれば大勢の人々が苦しみながら死んでゆく姿が見えるようだ。
この国民の死に対する責任は……
ニューヨーク、国民、死、ドイツ、中立、そういった言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
その日、ルーズベルト大統領はとうとう一睡もできなかった。
翌朝、大統領を起こしに来た執事は憔悴しやつれきったルーズベルト大統領の姿を見て驚愕する。
頬はこけ目は落ちくぼみまるで生気が無かった。
それに加え大統領の頭髪は白髪が多くなっていたとは言え、まだ黒髪も残っていた。しかし、一夜にして全てが白髪と化していたのである。
ルーズベルト大統領の苦悩はそれ程大きなものであった……
【to be continued】
【筆者からの一言】
国際法を遵守していれば、こんな悩みは生じなかった。
相手の非を責めるだけですんだ。
ある意味、身から出た錆ゆえの苦悩。
調子に乗り過ぎたなルーズベルト大統領。
悔やんで悔やんで悔やみまくるがいい。
くっくっくっ……




