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総長戦記 0060話 ニューヨークの惨劇 その⑨ 疫病

1941年9月 『アメリカ ニューヨーク州&ニュージャージ州』


 ニューヨーク市とニュージャージ州での大火災は終息した。

 しかし、人々の悲しみと苦しみは終わらない。


 負傷者は300万人を超え今なお傷の痛みに耐えている。

 負傷者を含め400万人が住居を失い避難民キャンプでの暮らしを余儀なくされていた。


 その避難民キャンプで新たに病人が増えていた。

 次々と病人が増えている。

 避難民キャンプに暮らす避難民だけではなかった。被災地周辺地域住民、災害活動に出動した軍人や消防隊員、医療関係者達が次々と病に倒れている。


 しかし、その病名がわからない。

 これまで殆どの医者にとって馴染みのない症例だった。

 髪が抜け歯茎等から出血し体調不良となりやせ衰え亡くなっていく。


 この世界で一人だけその病を知っている者がいた。この惨事をもたらした張本人である。総長である。

 総長ならばこの病が「原爆症」だと知っている。

 しかし、当然の事ながら総長がそれを公表する筈もなかった。


 この病は当初、伝染病の類と思われ患者の隔離措置がとられた。

 だが次々と発症する者が現れ患者は増える一方だった。

 そして亡くなって行く。

 正体不明の伝染病の蔓延に人々は恐怖した。


 この疫病にはいつしか「NNP」という名前が付けられていた。

 誰が言い出したかはわからない。

 主にニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州で発生している事からその3州の頭文字をとって呼ばれ始めたようだ。


 一般の医師達にはわからなかったが、アメリカにもこの症例から放射線によるものではないかと推測する病理学者もいた。

 創立されて約80年になる「アメリカ軍病理学研究所」に所属する医師達である。


 この「アメリカ軍病理学研究所」はアメリカにおける伝染病や珍しい病気の症例を研究している。


 この「NNP」と呼ばれる正体不明の伝染病の蔓延に「アメリカ軍病理学研究所」の医師達も出動しており、そこでこの病の症状が「放射線障害」に酷似していると気付いたのである。


 既にこの時代、X線撮影装置(レントゲン)が出現して40年が過ぎており、徐々にではあるが、その放射線による人体への悪影響が一部の医療関係者の間で知られつつあった。所謂「放射線障害」である。


 まだX線撮影装置(レントゲン)自体が珍しいものであるため「放射線障害」の症例は多くはなかった。

 だが、それ故に「アメリカ軍病理学研究所」ではこの症例について少ないながらもデータが蓄積されていた事が幸いした。


 しかし、気付いたまでは良かったが、まだ、「放射線障害」に対する有効な治療法は確立されていない。

 その為、これから病におかされた患者達と医師達の治療という名の苦闘は長い期間続く事になる。




 疫病は「NNP」だけではなかった。

 ニューヨーク州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州だけが疫病におかされていたわけではなかった。


 最悪な事にこの時期、大西洋岸のボストンとフィラデルフィアでは天然痘の流行の兆しが見え始めていた。

 同じく大西洋岸のジャクソンヴィルとメキシコ湾岸のニューオリンズではペストの流行の兆しが見え始めていた。


 アメリカ東海岸とメキシコ湾岸で次々と疫病に倒れる者が出始めていたのである。


 ニューヨークの惨劇と「NNP」だけでも手に余るのに東と南で疫病の流行である。

 事態は深刻を極めた。


 最悪なのは東海岸最大のニューヨーク港を失った事で、船舶は他の港を使わなければならないのに、代替港となるべき主要な港で疫病が発生しているのである。

 これは海上交易と物流にとって致命的に拙い状況と言えた。

 防疫態勢の強化が図られた為、これまでよりも船舶による輸送は日数を要する事になる。

 他の中小規模の港も防疫態勢の強化が図られた為、同様であった。


 アメリカは疫病により苦しい状況に追い込まれていったのである。 


 【to be continued】

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