表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/98

総長戦記 0050話 惨劇の直前 その② 同盟

【筆者からの一言】


忘れちゃいけないこの組織。




1941年8月25日(月曜日)午前 『アメリカ シカゴ』


 野外に設置された会場には無数の旗が翻っていた。

 ナチス・ドイツの国旗、アメリカの国旗、そして「ドイツ・アメリカ同盟」の旗だ。


 会場は3万人を超える人間で熱気に溢れている。

 男性は制服である白いシャツに黒いズボン。女性も制服である白いブラウスに黒いスカートをはいている。


 その一糸乱れぬ整列した集団を見ながら組織の幹部達は一部を除き誰もが感無量の感慨にふけっていた。

 ようやくここまでこれた。

 無事、大会を開催できた。

 そういう思いで、それぞれの胸が満たされている。


 今、この会場にいるのは「ドイツ・アメリカ同盟」に所属するドイツ系アメリカ人だけだ。


 ヨーロッパにおけるナチス・ドイツの勢いはとどまる所を知らない。

 ヨーロッパ大陸は今もなおドイツと戦っているイギリスとソ連。中立国のスイスやスウェーデン等を除き

ファシズムに席巻された格好だ。


 海を隔てたアメリカにもその影響を受けたファシスト団体がある。

 それがドイツ系アメリカ人による「ドイツ・アメリカ同盟」であり、ナチス・ドイツの信奉者達の集まりだ。


 このファシスト団体がここまで来るには紆余曲折があった。


 元々はドイツ本国がナチス党員をアメリカ国内に送り込み、ナチスの宣伝と賛同者を集める目的で「新たなドイツの友人達」という組織を1933年に設立させた事から始まる。

 送り込まれたナチス党員は、その頃アメリカ国内にあった複数のドイツ系アメリカ人の小さなファシスト団体を合併させ組織を設立した。


 そこまでは良かったが、ナチスの影響が強い故に反ユダヤ主義の行動にも当然の如く出る。

 隊列を組んでユダヤ人が多く住む地域を行進し、いざこざを起こす等トラブルが多発した。

 親ナチスの集会に反ナチスの人々が押しかけ暴動騒ぎが起こる事件も発生する。


 ここで、動いたのが州政府だった。マサチューセッツ州やニュージャージー州では州法により、人種差別的活動を抑止する法律を施行した。


 国も動き始める。

 連邦政府内部の特別委員会で、外国籍の者がアメリカ国内で政治的活動に携わり影響を与えている事や、反ユダヤ主義の活動で不法行為が行われている事について調査が開始される。


 ここに来て、ドイツ本国はアメリカとの関係悪化を憂慮して一旦、アメリカでの活動を自粛する事にした。

 元々、ナチスの宣伝と賛同者を集める事が目的なのに逆効果になっていたのだから無理もない話しではある。

 アメリカに派遣されていたナチス党員は本国に返され、資金援助も大幅に減らされる。


 しかし、ドイツ系アメリカ人のファシスト達はこの逆境に挫けなかった。

 「新たなドイツの友人達」は解散したが、新たに「ドイツ・アメリカ同盟」という組織を1936年に設立し再起をはかる。


 ここで時代が味方した。


 ヒットラーのナチス・ドイツの快進撃が始まったのだ。

 1936年3月の「ラインラント平和進駐」に始まり、1937年3月の「オーストリア無血併合」、そして1938年の「ズデーデン平和進駐」と、3回も血を流さずに領土を広げる事に成功した。

元々、これら3地域はドイツの領土だった地域や、ドイツ系住民の多い地域だから第一次世界大戦で失った領土を奪回したとも言える。

 更に1939年にはポーランドをも征服した。


 アメリカ国内において、このドイツ本国の躍進に影響を受けた者が大勢出た。

「ドイツ・アメリカ同盟」に参加する者が増えたのだ。

「新たなドイツの友人達」時代の会員は最大で約1万人だった。

 ドイツがポーランドを征服した頃には会員の数は2万5千人を超えていた。


 しかし、再びここで逆境が訪れる。

 急激な人数の膨張とドイツ本国の躍進に危機感を抱いたのか、アメリカ政府は姑息な手段に出て来た。

 組織のリーダーたるフリッツ・ユリウス・キューンを横領容疑で逮捕したのだ。


 組織のトップを失った「ドイツ・アメリカ同盟」は揺れた。

 横領容疑という事で組織内外でのイメージダウンも避けられなかった。


 だが、新たに加入してくれたメンバーが支えてくれた。

 南米との貿易を営むドイツ系アメリカ人経営者が巨額の寄付をしてくれたのだ。

 そして本部をニューヨークからシカゴへ移すようにも提案してくれた。

 移転にかかる費用も全て新たに寄付してくれるという。

 確かに東海岸周辺は州と国の締め付けと監視が厳しく、これまでのようには活動できない。

 それに元々、シカゴは以前より自分達への賛同者が多い地域でもあるし支部もあった。 

 

 組織の幹部会議で全員一致でこの案を受け入れる事が決まった。裁判中のフリッツ・ユリウス・キューンには弁護士を通じてシカゴへの移転を知らせたが幹部会に任せると言って来た。


 そして中西部のシカゴへ移転する。

 移転はこれまでのところ成功だった。


 連邦政府の監視はあるが、シカゴのあるイリノイ州政府はうるさい事を言ってこない。それだけでも大分状況は楽になった。

 これについては南米との貿易を営むドイツ系アメリカ人経営者が裏で動いてくれたらしい。 


 会員は増加する一方だし、こんなに大勢の会員が参加する大会は初めてだ。

 今の所、何もかもうまくいっている。

 

 この良き日がこのままずっと続いてくれれば……

「ドイツ・アメリカ同盟」の幹部達は一部を除き大半の者がそう思うのだった。


 彼らは知らない。

 その新たに加入した南米との貿易を営むドイツ系アメリカ人経営者の裏の裏の更に裏には、東洋にある国の地位の高い軍人の存在がある事を。


 そして気付いていない。

 何故、巨額の寄付をしてくれたからと言って、自分達が新参者のいう事に唯々諾々と従ったのかを。

 その原因は「ブルンダンガ」……21世紀においては「悪魔の吐息」と言われる南米に咲く花の花粉が正体だ。

 この花粉は脳の受容体への信号をブロックしてしまう。一種の麻薬だ。

 摂取し過ぎると記憶が飛び自制心を失わせる。

 しかし、極少量の花粉を吸い込ませる事ができれば、人心操作術をマスターした者ならば言葉だけで、その人物の思考を誘導し操る事もできる。

 

「ドイツ・アメリカ同盟」の幹部達は、南米との貿易を営むドイツ系アメリカ人経営者という表の顔を持つ工作員に踊らされ利用されていた。


 だが、その工作員さえ本当は知らない。

 何故、拠点をニューヨークからシカゴへ移させたのか。

 

 その理由を知る者はただ一人、東京にいるある人物だけであった…… 

 

【to be continued】

【筆者からの一言】


「ブルンダンガ」……某海外人気テレビドラマの中でも人を操る麻薬として犯罪に利用されていたので知っている方もおいででしょう。

実際に人を操れるのか否かは使った事が無いのでわかりません。使うどころか入手もできませんし。

まぁこのお話ではこういう感じにうまい具合に成功したという事でご了承下さい。

せっかく、南米と工作員を関連付けているのだから、南米特産品として使いたかったのです。


なお組織名や人名について翻訳名や発音が違うとお思いの方もいるかと思いますが、それは文献や翻訳者による微妙な差異という事でご了承下さい。

こういうのはあちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たずで、必ずどちらか一方に不満がでるものですから、この作品ではそういう設定という事で一つよろしくお願いいたします。


私が若い頃のミリタリー系の本はヒットラーと書かれているのが主流でした。

今ではヒトラーが主流ですが、私には何となくしっくりこないのですよ。しっくりこないのですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ