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総長戦記 0039話 選択

【筆者からの一言】


独ソ戦が始まったようです。

1941年7月上旬 『日本 政府&陸軍』


 陸軍参謀本部と関東軍司令部が一部浮足立っていた。

 6月にドイツ軍がソ連への侵攻を開始し快進撃していたからである。


 史実では後世において、このドイツの二正面作戦は無謀と評される事も少なくはない。

 しかし、当時の主要各国はドイツが勝利するものと判断していた。

 イギリスでは3週間から6週間。 

 アメリカでは1ヵ月から3ヵ月。

 このままでは、それぐらいの期間でソ連が敗北すると軍の幹部が国の指導者に報告している。


 日本においても大勢的にはその見方は変わらない。

 参謀本部と陸軍省の部局長会議では2ヵ月から3ヵ月との見方が出ていた。


 それ故に関東軍による「北進」、所謂「ソ連侵攻」が取り沙汰された。


 ソ連侵攻作戦に必要な兵力は最低34個師団とされていた。

 史実とは違い「日華事変」が早期終了したため、動員をかければ34個師団を揃えるのは可能だった。

 兵力的には作戦可能である。


「北進」を行うべきか否か……

 これについては陸軍内において積極派と消極派と静観派の三派の意見に分割されたと言ってもよかった。


 積極派は「青柿派」とも呼ばれ、ドイツに呼応して直ぐにでもソ連領内に侵攻しようという一派である。


 消極派は「熟柿派」とも呼ばれ、ドイツ軍の侵攻に苦戦すればソ連は極東のソ連軍を西方に送り、極東は手薄になるからその好機をとらえソ連領内に侵攻しようという一派である。時期的にはその好機を夏頃と見ていた。


 静観派は最も人数が少なく、ソ連はドイツの侵攻に持ち堪えるであろうから日本は中立を維持し続けるべきだという一派である。現状では戦争という賭けをする必要は無い。藪をつついて蛇を出すな、という考えの慎重論でもある。


「青柿派」と「熟柿派」の存在は史実通りであるが、この歴史では何故か「静観派」という一派が存在する。恐らく、日本が史実とは違う歴史を歩み、アメリカ、イギリス、オランダからの経済制裁を受ける事がなく、そのため「南進論」が存在しなかった事が原因だと思われるが、あくまで推測である。


 政府内においては、史実通りドイツ贔屓の松岡外務大臣がソ連への積極的な行動を陸軍に求めた。

「ソ連を討つべし。虎穴に入らずんば虎子を得ず。即時断行すべし」

と、陸軍大臣を焚き付け、他の閣僚にも同意を求めたのである。


更に松岡外務大臣は、陛下にも奏上する。

「何れは戦わねばならぬ相手。ならばドイツと協力してソ連を討つべきであります」


 この奏上に陛下は驚き「政府内でよく相談せよ」と、取り敢えずは判断を保留にしている。


 政府閣僚の反応はどちらかと言うと困惑であった。

 結局は剛腕閑院宮総長がどう判断するのか。

 それを気にしていたのである。 


 そして閑院宮総長の操り人形である陸軍大臣は政府内の閣僚会議において「時期尚早」と早期開戦を否定する。

 これで政府内の空気は決まった。

 陸軍大臣の言う事は閑院宮総長の言葉である。それに敢えて反対しようとする者は松岡外務大臣以外にはいなかった。

 大半の閣僚は閑院宮総長の不興を買う事を恐れ、その意向に従っているのが現状である。


 いや、事と次第によっては海軍大臣が反対する場合もあり得たが、さして対ソ戦に興味の無い海軍としては、積極的に開戦を支持する理由も無かったのである。



陸軍内では「青柿派」「熟柿派」「静観派」という派閥が出来たが、結局、一番の問題となったのは閑院宮総長の意向である。

 全てを決めるのは閑院宮総長である。


 そして、その閑院宮総長の意向は……

「こういう時こそ焦ってはならん。急いては事を仕損じる。必ず好機が来る。しかし、それは今年ではない。まずは我が軍の準備を整える事が先決だ」


 つまり閑院宮総長は「超熟柿派」と言った判断を下したのである。


 閑院宮総長の判断が正しいのか、間違っているのか、それは分からない。

 だが、閑院宮総長の判断が示された事で、陸軍内の派閥争いは終わる。

 全ては決定されたのだ。


 参謀本部の参謀達は計画していた「関東軍特種演習」、通称「関特演」という名の満洲兵力増強作戦及びソ連領侵攻作戦を一時棚上げする事になったのである。


 果たして、閑院宮総長の言う好機は本当に訪れるのか……

 それを知るには、まだ暫しの時が必要であった…… 


【to be continued】

【筆者からの一言】


腐りかけが食べ頃という物もある。



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