総長戦記 0036話 完成
【筆者からの一言】
遂に、あれが……
1941年初頭 『陸軍参謀本部 参謀総長室』
「何? 完成しただと?」
副官からの報告を聞いた閑院宮総長は表情にこそ出さなかったものの、その言葉には暗に意外だと言う意味合いが色濃くあらわれていた。
「はい、遂に勇爆弾が完成したとの事です」
秘匿名「勇爆弾」……
それこそは、この数年の歳月と多大な資金を投入して完成を目指して来た爆弾。
「ウラン爆弾(原子爆弾)」の事である。
閑院宮総長は「ウラン爆弾(原子爆弾)」の完成を望んではいた。
だが、それが非常に困難な事も分かっていた。
史実において唯一、第二次世界大戦中に原子爆弾を完成し使用したアメリカにしても、3年の歳月をかけ優秀な多くの科学者と最先端の機材と、当時の日本円に換算して約70億円という多大な予算を使っている。
それ以後の歴史においても原子爆弾を完成させた国は少なく核保有国は限られている。
アメリカが手探りで様々な試行錯誤を重ねながらも原子爆弾を完成させたのとは違い、日本には未来知識文書、秘匿名「勇文書」と言う反則的知識の道標があったとは言え、科学技術では日本は欧米に一歩も二歩も立ち遅れていた。
それ故に閑院宮総長は、「ウラン爆弾(原子爆弾)」の完成には、まだまだ時間がかかるものと思っており、まさか1941年という時点で「ウラン爆弾(原子爆弾)」が完成するとは思ってもみなかったのである。
これまでにも重水製造工場の完成や世界初の原子炉の完成の報告等はその都度受けていた。
それでも、まだ、数年の歳月と更に多大な資金の投入を覚悟していた。
それどころか完成せずに失敗に終わる場合すらも有り得ると覚悟していたのである。
それを思えば、この完成は望外の幸運とも言えた。
こんなにも早い完成は閑院宮総長にとって嬉しい誤算と言えた。
とは言え、「ウラン爆弾(原子爆弾)」の開発開始から実に9年の歳月が流れている。
使われた予算は実に90億円。
戦艦大和が60隻も建造できる額である。
その90億円のうち約9割は偽札と麻薬売買、武器の売買により得られたブラックマネーで賄われていた。
「くっくっくっ、そうか、遂に完成したか。ならば計画を早めるとしよう……
これで歴史の歯車をこの手で回す事ができる」
そう呟き自分の固く握られた左拳をじっと見つめる閑院宮総長の瞳には黒い炎が燃え盛っているかのような不気味な光を宿していた。
その表情はまるで悪魔が乗り移っているかのように、狂気と闇に彩られていた。
閑院宮総長は「ウラン爆弾(原子爆弾)」をどうするつもりなのか。
それを知る者は、まだ閑院宮総長のみであった……
【to be continued】
【筆者からの一言】
ブラックマネーにより開発が進められていた「ウラン爆弾(原子爆弾)」が遂に完成しました。
正直な話、例え未来知識と資金があり、海外から各種機器や資材を得ようとも、この時点で日本が原子爆弾を完成させる事は非常に難しいと思っています。
成功率はエヴァ◯◯◯◯◯の起動確率であるオーナインシステ◯(0.000000001%=十億分の一)よりも更に低く、
オーセブンティーンシステム(0.00000000000000001%=千兆分の一=殆ど不可能)だと思っています。
しかし、この小説では奇蹟が起き0.00000000000000001%=千兆分の一の成功確率が実現しました。




