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総長戦記 0027話 取り引き その①

【筆者からの一言】


ゴッドファー◯ーと言う三部作のマフィア映画がありまして結構好きです。


今回、舞台がアメリカでして作中にスラングやファーストネームが出て来て分かりづらい部分がありますが、後書きにて、まとめて解説していますので、よろしくお願い致します。

1939年 『ニューヨーク』


 ニューヨークに根を張る犯罪組織ルチアーノ・ファミリーの幹部ジョー・アドーニスは葉巻をくゆらせながら目の前の男を値踏みしていた。

 体格のいい白人で、いかにもこれまで危ない橋を渡って来たという雰囲気を漂わせている。


 数日前、ファミリーの中堅幹部の一人ヴィドーが南米に移民した従兄の伝手の紹介という事で目の前の男と仕事の話しをする事になった。

 表のビジネスかと思いきや、何と大量のヘロインをこれから継続的にうちに売りたいと言う。

 南米で麻薬を扱っている同業者(犯罪組織)らしい。


 相手はニューヨークに密輸する手立てを持っていないと言うので、ヴィドーは罠を警戒しつつヘロインを確認する為に手下と公海上に停泊している相手の船まで出向いた。

 大量のヘロインがあったそうだ。


 相手の組織は手下もかなりいるらしい。

 船には何とシカゴピアノを持った奴が60人はいたという話だ。それも隙の無い奴らばかりだったらしい。


 組織の全員で船旅をして来たわけじゃないだろう。

 国許にも当然、それ以上の手下がいてもおかしくない。いや、当然だな。

 100や200はいるだう。


 密輸する手立てを持っていないと言うのは嘘で、手下達を見せて牽制したのだろう。

 侮るなよ、下手な事はするなよ、という訳だ。


 まっ、それぐらいじゃなきゃ暗黒街は渡っていけん。


 マフィアの全国委員会に所属するファミリーは24。

 その中には数十人規模からうちのように800人が所属している大規模なファミリーもある。

 マフィアの構成員は全国で1万5000人程度だろう。

 平均すればファミリー一つの規模は約600人なのだから、犯罪組織で外部に60人も出してくるというのはマフィアからしても侮れない組織力と見てとれる。


 だが、まぁ戦争しようと来たわけじゃないしな。

 お互いに利益があれば手を結ぶのもやぶさかじゃない。

 うちのファミリーは他とは違いイタリア人以外とも手を握るのを嫌う事はない。  

 

 ともかく、大きい商売になりそうなので一存じゃ決められないとヴィドーの奴は俺の所に話を持って来たわけだが、勝手に話を進めなかった事については、後で誉めておいてやろう。


 さて、どうするか。

 チャーリーがシベリアにいる間、ファミリーを預かっているのはフランクだが、あいつは賭博稼業を大きくする事に夢中で麻薬にはちっとも関心がないしな。


 まぁ、取り敢えず手を握っておくか。

 ヘロインが不足気味で困っていたんだ。

 手土産と言う事で貰ったヘロインも相当な量だしな。

 逃すには惜しい話だ。

 他の組織に奪われたくはない。


 アメリカの犯罪組織構成員は約10万人。マフィアは組織力に優れてはいるが、それでも全体の15%を占めているに過ぎん。取り引きしようと思えば、売る先も買い手にも事欠かないからな。


 ジョー・アドーニスは葉巻を灰皿に押し付けると、改めて手を差し出した。


「その話を受けよう。ヘロインは全て購入しよう。おたくの言い値で構わない。公海上からはうちの者が運ぶようにさせる。よろしく頼む」


「こちらこそ、どうよろしく」

 

 二人はがっちりと握手を交わす。



 こうしてアメリカでナンバー1のマフィア組織であるルチアーノ・ファミリーはヘロインの扱い量を各段に増やしていく。


 また、取引相手の要望により大西洋ルートだけでなく、太平洋ルートでもヘロインの密輸が始まった。

 これは主に全国委員会に所属しているマフィアで西海岸に縄張りを持つ他のファミリーが取り引き相手となった。

 これには他の組織にも利益を分け与える事で妬みや、やっかみを買い過ぎないようにしようというルチアーノ・ファミリーの思惑もあったせいである。


 そのマフィア達は知らない。

 自分達の扱うヘロインが、満洲国と蒙彊聯合自治政府で生産された物であり、ある国のある人物の意思が働きアメリカに流されている事を。

 知ったとしても気にもとめなかったかもしれないが。


 以後、アメリカでは東海岸、西海岸の両海岸での麻薬常習者の数が激増する事になり、深刻な社会問題となっていく。

 しかし、麻薬常習者の数は増える事はあれど減る事は無かったのである…… 


【to be continued】

【筆者からの一言】


作中の「シカゴピアノ」はトンプソン短機関銃の事です。シカゴのギャングがよく使い弾を発射する音がピアノを思わせる音からそう呼ばれていました。


「チャーリー」は、チャーリー・ルチアーノの事です。

マフィアのルチアーノ・ファミリーのドンです。

綽名のラッキーと合わせたラッキー・ルチアーノの通り名の方が、その筋では有名で、マフィアの世界における屈指の実力者です。

この時期、ルチアーノは犯罪者達の間でシベリアと綽名されたニューヨーク州のダンネモーラ刑務所に服役し、刑務所の中からファミリーに指令を出しています。


「ジョー・アドーニス」はルチアーノの信頼が厚い幹部で、ファミリー及びマフィアの全国委員会と服役中のルチアーノとの間の連絡役をしていました。


「フランク」はフランク・コステロの事です。ルチアーノが服役している間、ファミリーを預かっており、この時期は賭博稼業拡大に精力的に動いていました。


これらは史実であり今回の歴史でも変わりありません。



さて、そんなわけで今回は、前話(第26話)で出て来たヘロインの行き先のお話でした。

どうやら総長はアメリカの麻薬汚染を悪化させるつもりのようです。



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