総長戦記 0025話 投資 その②
【筆者からの一言】
うまく行かない事もある。
1938年 『太平洋 洋上 客船上』
この日、満洲重工業開発株式会社の鮎川義介総裁は、太平洋を航行する客船の乗客になっていた。
手すりにもたれて海を眺めているが、青く澄んだ空と深い海の青色とは違い、その顔には憂いの色が色濃く表れている。
アメリカでの成果が捗々しくなかったのだ。
外国資本の取り込みに苦労していた。
満洲への投資を呼び込もうにもうまくいかない。
満洲を短期間に開発するには、まず第一次分としてだけでも日本円にして50億円は必要との試算が日本政府より出ている。
日本の国家予算の丸2年分である。
日本が単独で満洲を開発するのは荷が重い。
中華民国からの賠償金を使用す事を鮎川義介総裁は望んでいたが、残念な事に国内投資に回される事になってしまった。
短期で満洲開発を成功させるには、どうしても外国資本の力が必要だ。
しかし、海外における経済界の反応は芳しくない。
アメリカは「満州事変」以降、日本との関係はあまり良くない。
しかも「日華事変」で発生したパネー号への日本軍機による誤爆事件で、アメリカ国内世論の対日感情は最悪だった。日本製品のボイコット事件が起きているぐらいだ。
既に「日華事変」は終わり「パネー号事件」も日米政府間で平和的に解決済みとは言え、未だアメリカ国民の反日感情は高かった。
故にアメリカの経済界は世論の動向を気にして満洲への投資には消極的だった。
頼みのユダヤ人資本も予想以上に消極的だ。
今、満洲に投資して国民感情を逆なでする事は避けたいと考えている。
イギリスではどうやら経済界が満洲への投資を自主的に自粛しているらしい。
イギリスは中国の華南地方にかなりの権益を保持している。それ故に満洲国を認めていない中華民国政府との軋轢を警戒しているようだ。
そのためイギリス経済界の満洲への投資は望みが薄い。
ドイツの経済界は外国へ資本を投下するより自国の軍需産業に投資する事を政府の主導の下に行っており、満洲への投資は消極的だ。
どうにも手詰まりである。
現状では如何ともし難い。
個人的なコネをフルに使ったが成果は無かった。
お手上げである。
アメリカで何の成果も得ずに帰国の途につく事になった鮎川義介総裁は深い溜め息を太平洋の大海原に漏らすのみだった……
【to be continued】
【筆者からの一言】
「河豚計画」は挫折か?
いや、いや、こういう時こそ焦っちゃいかん。




