総長戦記 0024話 投資
【筆者からの一言】
賠償金の使い道……
1938年 『日本』
日華事変の勝利により日本は多額の賠償金を中華民国から得られる事になった。
ただし、中華民国の哀願ともとれる要請と交渉の末に分割払いとなっている。
賠償の総額は、日華事変における戦費を補填し、戦死者や被害を受けた者達への補償を充分に行っても余りある額である。
政府では当然、その使い道について議論が交わされた。
ここで意外な主張をしたのは陸軍大臣である。
国内投資を第一にするべきだとの意見を述べたのである。
陸軍大臣以外の政府閣僚全員がこの主張に虚を突かれた。まさに意外であった。
実際に戦争を戦い勝利した陸軍の事であるし、賠償金のかなりの割合について要求して来るものと皆、考えていたのだ。
「対ソ連という仮想敵国もある事であるし、陸軍は軍備の増強をしなくてもよいのかね」
という大蔵大臣の問い掛けに対し、陸軍大臣は毅然と返答する。
「今日の戦争は国家総力戦である。
国家経済の基盤の上に軍事力が成立する。
経済が脆弱では戦争は戦えない。
このまま、賠償金を軍備増強に回しても、それは一部の軍需産業を儲けさせるだけで、日本全体の経済は戦争特需の反動から、戦後不況に陥るだろう。
そうなれば、また国民の生活は逼迫する。
それを陸軍は望まない。
戦後不況の到来を避け日本の経済をより強固にする為にも中華民国からの賠償金は国内投資に回すべきである。
陸軍へは戦死者への充分な補償と失った兵器の補填で今は充分である」
これは閑院宮総長の意向であった。
日本全体の経済力を底上げすれば、自然に軍備も増強される。
経済力に見合わない軍事力を持っても、その先にあるのは破綻だと、操り人形たる陸軍大臣に指示していたのである。
この国民生活第一とも言える陸軍の方針は他の閣僚からは諸手をあげて賛同された。
ここで苦虫を潰したような表情になったのが米内光政海軍大臣である。
自分達の取り分よりも日本の経済、国民生活を第一に考えるという姿勢を陸軍が打ち出して来ている中で、まさか海軍だけが沢山寄越せとは言えなくなったのである。
そんな事を言えば海軍は国全体の事を考えていないと批判され閣僚全員が敵に回る事は確実だった。
それに陸軍なら海軍を叩く恰好の材料として閣内での話を外に漏らしかねない。それで国民にでも知られたら海軍は袋叩きになるだろう。
海軍は陸軍に追従するしかなかったのである。
こうして中華民国から得られた賠償金は主に国内の公共事業に用いられる事になったのである。
【to be continued】
【筆者からの一言】
満洲よりも国内優先!
それが総長の経済政策




