総長戦記 0021話 河豚(ふぐ)を食す その④
【筆者からの一言】
2017年ゴールデンウィーク特別企画「毎日2話連続投稿しちゃうぞ!」は昨日をもって終了致しました。
お付き合い下さり誠にありがとうございました。
本日より毎日1話投稿となりますが、これからもよろしくお願い致します。
1938年1月 『日本 東京 某料亭』
旬な河豚料理の美味さに満足している5人の男達。
陸軍参謀本部の閑院宮総長。
陸軍の関東軍ハルピン特務機関長の樋口季一郎少将。
満洲での経済界の重鎮、満洲重工業開発株式会社の鮎川義介総裁。
満洲国の国務院総務長官の星野直樹。
満洲国でのユダヤ人社会代表アブラハム・カウフマン。
その中でハルピン特務機関長の樋口季一郎少将は人道的見地、博愛主義からユダヤ人に救いの手を伸べる事になった事を喜んでいた。
かつてポーランドに駐在武官として赴任していた時にユダヤ人と親しむ機会を得た。そのユダヤ人に、いや国を失ったユダヤの民達に心から同情した。
だからユダヤ人を援ける機会を得た事は嬉しい。
日本としては完全に無償の善意からと言うわけではなく、ユダヤ資本が目的ではあるが、それはまぁ仕方がない。
何事にも代償はつきものだ。
それにしても2カ月程前に閑院宮総長から突如送られて来たユダヤ人対策の計画書「河豚計画」には驚いた。
迫害されているドイツ系ユダヤ人を満洲に受け入れ、それを餌にアメリカ系ユダヤ人の資本を満洲に投資させ満洲の開発を進める。
その為の便宜をハルピン特務機関が図るように指示されていた。
陸軍内部には必ずしもユダヤ人に好意的ではない者もいる。
いや、それどころか多いだろう。
ロシア革命の後に世界中に広まった「シオンの議定書」を信じる者は多い。
馬鹿馬鹿しい話だ。あんなユダヤ人による世界征服の陰謀論を信じるなんて。
その点について閑院宮総長は流石だ。
全く信じていない。
ただ閑院宮総長は「日ユ同祖論」も信じておらず、これについてはお叱りをいただく結果になった。
「日ユ同祖論」は日本人とユダヤ人の祖先が同一のものという説で、元はイギリスの学者が言い出した。
自分の下でユダヤ人対策に当たる安江仙弘大佐が、この説を利用してユダヤ人への風当たりを弱め「河豚計画」の追い風に利用しようと画策したが、それを聞きつけた閑院宮総長から待ったがかかった。
閑院宮総長からのお言葉はたった一言。
「それは、やり過ぎだ」だった。
自分も「日ユ同祖論」は信じていないが、利用できると思い安江仙弘大佐に許可を与えたのだが、やり過ぎてしまったようだ。
それにしても思うのは閑院宮総長の真意だ。
これは勘に過ぎないが、どうも閑院宮総長には「河豚計画」に書かれた以上の思惑があるように思えてならない。
ユダヤ人を保護して利用しようという一方で、ロシア・ファシスト党をもっと軍事的に利用しようと動いているという話が自分の耳に入って来ている。
いったい閑院宮総長は何を考えているのか……
【to be continued】
【筆者からの一言】
総長はユダヤ人への同情心よりも利用したいという考えが大きいようです。
同情心1% 利用する気99%
史実の「河豚計画」にはアメリカ系ユダヤ資本の存在、つまりバックにいるアメリカという国の存在がソ連を牽制し満洲の安全が図られるという安全保障の考えも入っていました。
しかし、今回の歴史で総長が推し進める「河豚計画」には安全保障の考えは入っていません。
総長はアメリカが満洲に投資したとしてもソ連はやる時はやるだろうという判断をしています。
もしソ連が、満洲侵攻を決意した場合、
ソ連が前もってアメリカに対し満洲でのアメリカの権益を保障すれば、アメリカはソ連の侵攻には動かないだろうというのが総長の判断です。
総長は、アメリカは満洲に投資でき利益を回収できれば、その相手が日本だろうがソ連だろうが相手は構わないだろうとも見ています。
アメリカの資金と技術だけ狙い、安全は期待していないのが総長の「河豚計画」なのです。




