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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
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第99章: 鋼鉄の守護者たちと埋もれた神殿

プラズマキャノンはまるで組み立てラインから出たばかりのように輝き、クロムメッキが太陽光を反射していた。

研究室に響く音は、リペアボットのイオンスラスターが発する低いうなりだけだった。


デレクは眉間にしわを寄せた。

こいつらはいつも忠実で、文句一つ言わずに働いてきた。

だが今、その砲口は彼の胸にまっすぐ突きつけられている。


イサラは両手を胸の前で組み、皿のような目を見開いていた。


デレクは口角をゆがめ、皮肉な笑みを浮かべた。

【デレク】「やあ。いいおもちゃだな。」


NOVAは暗いまま沈黙していた。

たとえ今ここで装甲が起動しても、撃たれる前に辿り着くことは不可能だ。


ボットは空中に静止し、砲口をぴたりと固定していた。


【デレク】「もう十分見せてもらった。だからしまえ。……誤射なんてごめんだ。」


スラスター音が低く唸りに変わり、かつては命綱だった二つの金属シリンダーはさらに降下しながら迫り、逃げ道をすべて塞いでいった。


デレクは両手を上げて一歩後ろへ下がった。

【デレク】「おい、まさかまだ囮にした件を根に持ってるのか? あれは計算済みのリスクだったんだぞ。お前らが無事に戻れるのは分かってた。」


【ヴァンダ】「デレク。彼らの構成が変化しています。」


【デレク】「ああ、見りゃ分かる。……止められるか?」


【ヴァンダ】「不可能です。」


ボットはさらに前進し、砲口を彼の顔すれすれに突きつけた。


普通ならパニックを起こす状況だ。だがデレクの胸には妙な静けさが広がっていた。理屈ではパニックになるはずなのに、ここで死ぬかもしれないという感覚は遠く、ほとんど現実味がなかった。


【デレク】「奴ら、何かを求めてるな。……殺すつもりなら、とっくにやってる。」


【ヴァンダ】「彼らがあなたに求めるものとは……砲身の磨き上げでしょうか?」


デレクのまぶたがぴくりと動く。

【デレク】「……案外当たってるかもな。新兵装をスキャンしろ。」


【ヴァンダ】「なぜ私が――」


【デレク】「いいからやれ。」


【ヴァンダ】「……了解。解析を開始します。」


イサラは一歩ずつ慎重に進み、彼を銃口で狙う二つのシリンダーに近づいていった。


【デレク】(バカか? 魔法まがいのガラクタで止めるつもりか? 撃たれる前にできるわけねえだろ。)


彼女はボットの外殻に指先で触れた。目が輝き、吐息のような声を漏らす。

【イサラ】「すごい……! あなたの創造物、本当に驚異的だわ……!」


デレクは天井を見上げ、大げさにため息をついた。

【デレク】「イサラ、下がれ。見えないのか? こいつら、完全武装で俺に狙いを定めてんだぞ。」


イサラは金属の殻を子犬のように撫でながら微笑んだ。

【イサラ】「いいえ、彼らはあなたを傷つける気なんてない。ただ助けたいだけよ。そしてそのためには、あなたの助けが必要なの。」


デレクの視線はイサラとボットを行き来した。

馬鹿げた話だが、全くの嘘とも限らない。

【デレク】「ヴァンダ。状況は?」


【ヴァンダ】「解析完了。各ボットにはライト・プラズマ・リピーター(LPR)が搭載されています。NOVAのマルチフェイズ・プラズマ・パルスキャノンの軽量版ですが、発射速度はより高いです。」


デレクは口をゆがめた。

【デレク】「その型は知ってる。他には?」


【ヴァンダ】「……からです。」


【デレク】「は?」


【ヴァンダ】「はい。NOVAとは違い、リペアボットにはクアドラコア・プラズマリアクターがありません。発射するには、我々のリアクターから直接プラズマを供給される必要があります。」


イサラは手を叩くように声を上げた。

【イサラ】「そういうこと! だからここに来たのよ! 新しい武器にあなたの装甲のエネルギーが要るの!」


デレクは眉をひそめ、声を低くした。

【デレク】「つまり俺の装甲からプラズマを渡せって? それで俺を撃つためにか?」


イサラはさらに近づき、彼の手を握りしめる。

【イサラ】「違うわ、分かってない! 彼らはあなたを守りたいの!」

彼女はNOVAを指差した。

【イサラ】「あなたが装甲を失ったから、小さなゴーレムたちは必死で武装して、あなたを守ろうとしたのよ。」

彼女の目は母性めいた優しさで潤んでいた。

【イサラ】「彼らは……あなたを守るために、あなたの助けを必要としているの。」


デレクは硬直した。

銃口は相変わらず顔に突きつけられている。

だが中身が空だと知ると、まるで景色が変わった。


玩具の銃を抱えた子供が「リロードして」とせがんでいるように見えた。


……毎分千二百発のプラズマを吐く玩具の銃だが。


【デレク】「ヴァンダ。」


【ヴァンダ】「はい、デレク。」


【デレク】「イサラの寝言、筋通ってるか?」


【ヴァンダ】「……内部ロジックにはアクセスできません。ただし行動パターンから推測すれば、良い意図で動いている確率は七十四パーセントです。」


【デレク】「残り二十六は?」


【ヴァンダ】「単なる誤作動です。プラズマを与えれば、そのままあなたを殺すでしょう。」


デレクはイサラに視線を送った。

彼女はまるで死の危険など存在しないかのように、輝く笑顔を浮かべていた。


デレクは手のひらを顔に滑らせた。


【ヴァンダ】「デレク?」


【デレク】「聞こえてる。……もし渡さなかったら?」


【ヴァンダ】「彼らはボットです。おそらく要求を続けるでしょう。」


デレクは天井を仰ぎ、毒づいた。

【デレク】「クソったれな宇宙だ。たまには俺以外を困らせろよ。」


ボットが鋭い電子音を鳴らし、左右に揺れ始めた。


【デレク】「……分かった。プラズマを渡せ。」


イサラの笑顔が一層広がる。


デレクはしかめっ面をした。

【デレク】「どうせ撃たれるんだろ。撃ってくれりゃ、ようやく静かになる。」


その時、背後で咳払いが響いた。


デレクは振り返った。


そこにはエラスマス・モルシャントが立っていた。

あごひげをなで、金の刺繍が施された儀式用のローブがきらめいている。

彼の視線は実験室の惨状を冷ややかになぞった。


【デレク】「エラスマス。……いつもながら、“お会いできて光栄”だよ。」


彼は眉を上げた。

【エラスマス】「本当ですかな?」


【デレク】「お前、ニュースでも持ってきたのか? それともいつものありがたい説教か?」


エラスマスは軽く一礼した。

【エラスマス】「カシュナール殿。私の部屋までお越しいただければ、発見をお見せしましょう。」


デレクはうなずいた。

エラスマスにカシュナール伝説の起源を調べさせていたのだ。

もし何かを掘り出したなら、この混乱を解く鍵になるかもしれない。


イサラとヴァンダを呼ぼうとしたが、すでにNOVAとボットの改造に夢中になっていた。


【デレク】(まあいい。放っとけ。)


彼は肩をすくめ、エラスマスの後について研究室を出た。

書庫係は顎を高く上げ、舞台に立つ俳優のように歩みを計っていた。


【デレク】(さて、本の虫。今度はどんなネタを仕入れてきた?)


【デレク】「で、エラスマス。あの予言の件、何か進展は?」


彼は眉を上げた。

【エラスマス】「この廊下でこの件をお話しするおつもりですかな?」


デレクは周囲を見回した。

廊下は空っぽで、すれ違った学者たちは慌てて目を逸らし、足早に去っていく。

【デレク】「何だよ。……そんなにヤバいもん見つけたのか?」


エラスマスは小首をかしげる。

【エラスマス】「ヤバい……? その用語は存じませんな。」


デレクは皮肉な笑みを浮かべた。

【デレク】「まあな。お前の人生で一番刺激的なものって、寝る前のカモミールティーだろ?」


エラスマスの眉間にしわが刻まれる。


【デレク】「さっさと吐けよ。」


彼は小さく一礼した。

【エラスマス】「ではご希望通りに。(とりで)の起源をご存知ですかな?」


【デレク】「知らねえな。俺が頼んだ調査と何の関係が?」


エラスマスの口元に満足げな笑みが浮かんだ。

【エラスマス】「説明いたしましょう。」


デレクは長いため息をついた。

【デレク】(あーあ、また始まった。放っときゃ宇宙の終わりまで喋り続けるぞこいつ。)

【デレク】「いいから短くまとめろ。」


彼はうなずいた。

【エラスマス】「昔々、現在『砦』と呼ばれる壮大なオルビサルの拠点――礼拝や学問の中心地――」


【デレク】「エラスマス。」


エラスマスは咳払いをし、言い直した。

【エラスマス】「はい、つまり……《砦》は古代の神殿の上に建てられたのです。オルビサルが興る以前から崇拝されていた聖域の上に。」


【デレク】「なるほどな。」デレクは鼻で笑った。

【デレク】「退屈なものの上にもっと退屈なものを積んだだけじゃねえか。それで?」


【エラスマス】「その神殿の中で、鋼鉄のメサイアの聖なる装甲の姿が初めて顕現したのです。」


デレクの眉が寄った。

【デレク】「顕現? 空に浮いたのか? それとも幻視か?」


【エラスマス】「碑文には『動く絵画』の記述が残っていました。おそらく幻影の魔法でしょう。その姿は全ての神殿に同時に現れ、奇跡のように、将来カシュナールがとる姿を世界に告げたのです。」


デレクはあごひげをなでた。

【デレク】「動く絵画? ……スクリーンってやつか?」


エラスマスは眉をひそめる。

【エラスマス】「スクリーン? それは何です?」


【デレク】「俺の世界じゃ、映像を映す板のことをそう呼ぶんだ。……つまり古代の神殿にスクリーンがあって、そこに俺の装甲が映し出されたと。」


エラスマスはうなずく。

【エラスマス】「今では語られることもありませんが、最古の碑文にはそう記されています。そのスクリーンからは声も発せられました。まさしくオルビサルご自身の声でしょう。」


【デレク】(はいはい。神様の声ね。ブルーフェアリーの可能性もあるがな。)

【デレク】「で、その声とやらは何て言った?」


【エラスマス】「その姿を忠実に彫刻や絵画に再現せよ、と命じたのです。そうすれば、メサイアが現れた時にすぐにわかるようにと。」


デレクは髪をかき上げた。

たった一度の放送と信仰心だけで、数千年も自分の姿が伝承されてきた。

だがなぜ? どうしてNOVAが作られる前から、その姿が知られていた?


【デレク】「そのスクリーン、今の《砦》の下にあるって言ったな。」


エラスマスはうなずいた。


【デレク】「なら、ここで見られるんだろ?」


エラスマスは深いため息をついた。

【エラスマス】「現在《砦》と呼ばれるものは、もともとそれらの神殿を守り研究するための要塞でした。世紀を経るごとに新しい建築層が積み重なり、今のような巨大な構造となったのです。」


デレクの目が細くなる。

【デレク】「つまり、その神殿は地下に埋まってるわけか。」


【エラスマス】「現在の《砦》の下、数十メートルの場所です。」


デレクは喉を鳴らした。

【デレク】「降りる手段は? それともシャベルでも持って掘れってか?」


エラスマスは眉を上げた。

【エラスマス】「私は信仰の歴史を誰よりも重んじますが、第一層に到達しようとするのは……行き過ぎではありませんか。」


【デレク】「俺には理由がある。いいから答えろ。」


彼は小さく一礼した。

【エラスマス】「ご意思とあれば。道は存在します。ただし各層は元の神殿を守るために設計されました。容易には到達できません。」


【デレク】「つまり障害物だな。」


エラスマスはあごひげをなでた。

【エラスマス】「正確には……罠です。不敬な者が聖域を汚さぬよう仕掛けられたもの。後の世に発展したオルビサルの魔法に基づいています。」


デレクは舌打ちした。

【デレク】「で、罠の場所を示す地図は?」


エラスマスは首を振った。

【エラスマス】「残念ながら存在しません。かつてあったとしても失われました。多くは作動しないかもしれませんが、確証はありません。」


【デレク】「入口くらいは分かるんだろ?」


エラスマスは満足げにうなずく。

【エラスマス】「はい。最初の部分を示す地図なら見つけました。そこまではご案内できますが、その先はご自身で神殿を探さねばなりません。」


デレクは頭をかいた。

エラスマスの言う「神殿」は、聖域というより端末に聞こえた。

スクリーン、インターフェイス、すべて揃っている。ワーディライの技術に違いない。


そこに侵入しデータを引き出せれば、求め続けてきた答えが得られる。

いや、それ以上かもしれない。


NOVAが作られる前からその姿が知られていた理由。

オルビサルの《球体》の真の性質。

なぜ空から降るのか。


そして――別のコラール・ノードの位置すら。


デレクは両手をパンと打ち鳴らした。

その音にエラスマスが肩をすくめる。


【デレク】「完璧だ。地図をよこせ、エラスマス。……俺の古い仕事に戻る時が来たらしいな。」


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