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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
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第97章: 沈黙の予言者

イザベルがヨリンのもとを訪れる夜。

それは、ただの密会ではなかった。

ウォーデンとしての信念と、ひとりの人間としての罪が、静かに交わる時――。

イザベル・ブラックウッド――ナーラカラのウォーデンにして、少なくとも今はカシュナールの守護者――は、予言者ヨリンの書斎の前で足を止めた。


北から吹き込む冷たい風がフードを揺らし、顔をさらそうとする。彼女は片手で布を押さえ、深く息を吸い込みながら、もう一方の手をローブの大きなポケットに滑り込ませた。


指先に触れたのは冷たい金属――盗んだコイン。彼女は拳を握りしめ、関節が痛むほど力を込める。これから踏み越える一線に、戻る道はない。


この調査を単独で続ける許可はない。しかも、ヨリンのような怪しい男に頼るのは、なおさら刃を自分にねじ込むようなものだ。ここで誰かに見つかれば――とくにこの格好で――疑いを切り裂けるほど鋭い嘘をひねり出すしかない。


だが、嘘は彼女の得意な武器ではなかった。


胸が激しく打ち、肋骨を突き破って逃げ出そうとしているかのようだ。なぜオルビサルは彼女をこのように試すのか。


扉へ一歩を踏み出すと、コインが手のひらに食い込んだ。


【ギャラス】「失礼」


背後から男の声が空気を切った。


彼女は凍りついた。鼓動が止まり、冷たい沈黙が胸を満たす。誰かに見つかった――しかも、この声には聞き覚えがある。


彼女はゆっくりと振り返り、フードを深く保ったまま、わずかに首を傾けて縁をほんの少しだけ持ち上げた。


視界の端に、鋭く探る視線がのぞく。


そこに立っていたのは尋問官ギャラス。彼の視線はフードの影を剥ぎ取り、隠そうとしたものをすべて暴き立てるかのようだ。


喉が締まり、脈が跳ね上がる。ギャラス……なぜ彼がこんな地区に? 見抜かれたのか? いや、落ち着け。彼に見えているのはローブ姿の人物だけ。顔はほとんど見せていない。


【イザベル】「……はい?」


彼女は肩をすくめ、声を低く荒くして、ほとんど別人のように応じた。


【ギャラス】「君は……」


彼は紙切れを一瞥した。


【ギャラス】「ヨリンのところに行くのか?」


ギャラスらしい。名を言い間違えるのが罪でもあるかのように、いつも名前を書き留める。


もう彼は、彼女がヨリンの扉まで歩いたのを見ている。否定しても悪化するだけだ。


彼女は一度うなずき、目を閉じて覚悟を決めた。


【ギャラス】「それで……あいつはどんな人物だ?」


【イザベル】「……どういう意味でしょうか?」


【ギャラス】「繊細な件で話がある。腕前と口の堅さは噂どおりか、知りたい。普段は、ああいう手合いとは関わらないんだが」


イザベルは瞬きをした。ギャラスが、しかも個人的な理由で、ヨリンについて意見を求めるとは。


好機だ。こちらからも情報を引き出せる。


【イザベル】「依頼の性質によります。私的なご相談ですか? それとも職務上の件? 鑑定すべきは物か、人か――」


【ギャラス】「……それが重要なのか?」


もちろん、本質的には関係ない。だが尋問官の腹の内を探らずにいるのは難しい。捜査に関わるかもしれないし、思わぬ弱点の手がかりになるかもしれない。


【イザベル】「場合によっては、意味を持ちます」


フードの陰から見えるのは彼の脚だけだが、それで十分だった。落ち着かず身じろぎし、離れかけては戻り、咳払いをする。


【ギャラス】「いくつか見せたい物がある。どこから来たのか、誰が触れたのかを知りたい」


彼は不安げだった。いつものギャラスではない。見知らぬ相手に助言を求めに来るほど――よほど切羽詰まっている。


彼も同じ用件なのか? 事件現場のコインを鑑定させに来た? だが、城塞の予言者を使えばいいはずだ。捜査を統べる尋問官である彼なら権限はある。


危険だが、もう一つだけ聞くべきだ。


【イザベル】「その手の鑑定なら、ヨリンは……とても得意です」


【ギャラス】「信用できるのか。秘密は守るのか?」


【イザベル】「その種の依頼を扱っているので、信用は厚いはずです。――それは私的なご用件で?」


【ギャラス】「……それは君には関係ない」


【イザベル】「承知しました。少々、興味があっただけです」


この声色を続ければ、喉がいずれ咳き込む。早めに切り上げるべきだ。


【ギャラス】「今から会うのか?」


彼女はうなずいた。


【ギャラス】「なら、奴が手すきの時にまた来よう」


彼は踵を返し、反対方向へ歩き出す。


イザベルは軽く頭を下げ、オルビサルに感謝した。ようやく彼が去った。――もう、この茶番をこれ以上引き延ばすわけにはいかない。


【ギャラス】「待て」


呼び止める声が先ほどより鋭く、心臓が跳ねた。彼女は立ち止まり、目をぎゅっと閉じ、肺が固くなった。


【ギャラス】「もし俺に気づいていたとしても、ここで俺を見たことは誰にも言うな。いいな?」


【イザベル】「誰だか知らないし、興味もない」


彼女は素っ気なく吐き捨てた。


振り返りもせず書斎へ向かった。足取りはあくまで一定――今すぐ駆け出したい衝動を押し殺しながら。背中に彼の視線が熱のように張りつく。アンデッドとやり合う方がまだましだ。こういう駆け引きは彼女の得意な戦場ではない。


入口に近づくと歩みを速め、ノックもせず取っ手を掴んで中へ滑り込む。


扉を閉め、フードを下ろす。ヨリンに顔を隠す必要はない。彼は彼女を待っているはずだった。


だが、部屋を見回しても彼の姿はない。


書斎は以前来た時とほとんど同じ。散らかったろうそく、雑然とした机、焼けた蝋の匂い。ただ一つ違っていたのは――隅の肘掛け椅子が空で、予言者の姿が見当たらないこと。


もしかすると、ほんの少し席を外しているだけかもしれない。


イザベルはコインを指で転がした。ヨリンが本当にその起源をたどれるかはわからない。だが、どこかから始めなければ。どうやら、ギャラスも同じ考えらしい。


水晶だけが魔力の器ではない。金属も痕跡を保てる――ただし量は少ない。残った残滓だけでも、以前にそれを手にしていた者を示すことがある。


熟練の予言者の手にかかれば、かすかな魔力の囁きでも十分だ。


彼さえ見つけられれば。どこへ行った? 約束の時間はもう始まっているはずだ。


イザベルはそっと室内へ踏み込んだ。


【イザベル】「ヨリン、入っていい?」


近くで見ると、書斎はいつもより乱れていた。倒れたろうそく、古い敷物に固まった蝋。横倒しの花瓶、床に散った色粉の鈍い雲。


視線が場をなぞる。誰かが急いで立ち上がり、花瓶を倒し、その勢いでろうそくを散らしたのだ。


彼女は片肩をわずかにすくめた。


ヨリンは奇人だ。今度はどんな思いつきで席を立ったのか、見当もつかない。そもそも予言者とはそういうもの。見えざる潮流に片目を据えて生きるのだから、日常が容易なはずもない。孤独なら、なおさらだ。彼女の知る限り、そんな暮らしをしている予言者は彼だけだった。


数年前、理由は不明のまま破門され、ここに居場所を築いた。そして、決して悪くはなかった。


無所属の予言者は稀で、秘匿を求める者たちが彼を訪ね、依頼は途切れなかった。


その時、壁に赤い筋が走っているのを見て、彼女は足を止めた。指で引きずったような跡。絵の具か? それとも――。


胃がきゅっと縮み、唇を固く結ぶ。息を整え、隣室へ踏み込む。重いカーテンを鋭く引いた。


ヨリンが仰向けに横たわっていた。両腕は力なく脇に落ち、目は大きく見開かれ、ガラスのように虚ろ――驚愕の面相のまま凍りついている。大きく開いた口の下には、さらに大きく穿たれた傷。血が細い筋となって床へと滴っていた。


喉が締まり、熱い鉄の匂いが鼻を刺す。吐き気がこみ上げる。戦場は見てきたが、ここで――彼の自宅で――こんなふうに出くわすのは、膝が崩れそうになる。


胸を締め付ける鼓動のまま、彼女は彼のもとへ駆け寄り、手首を掴んで静脈に指を当てた。


……何もない。


腕を放すと、その重みは命を失っていた。


くそ。誰かが先に来ていた。哀れなヨリン。彼女の調査を妨害するためか? いや、理屈に合わない。彼女がここに来る計画を知る者はいない。――いや、今朝までは彼女自身も予定していなかった。予約を入れると決めた、その朝までは。


誰かに尾けられ、意図を見抜かれたのだろうか。だが――彼女があのコインを持っていることまで、どうして分かる?


ヨリンはいつも多くの秘密を抱えていた。おそらく、別の依頼人の誰かが「生かしておくのは危険」だと判断したのだ。


彼女は膝をつき、短い祈りを捧げた。今できるのは、それだけだ。


この殺人を報告すれば、ここにいた理由を説明しなければならない。


残念だが、この遺体は別の者に見つけてもらうしかない。


イザベルは立ち上がり、部屋を見回した。寝室は書斎と同じように、花瓶やろうそくで飾られている。


倒れた花瓶やこぼれたろうそく以外に、争いの跡はない。犯人は刃を持って素早く仕留めたのだろう。ヨリンは肘掛け椅子から逃げ出し、寝室へ走った。その途中で花瓶やろうそくを倒したが、相手のほうが速かった。


喉を裂く刃を振り下ろされる、その瞬間に振り返ったに違いない。その恐怖は、凍りついた顔が物語っている。


一撃で仰向けに倒れ、二度と立ち上がらなかった。


犯人は入ってきたのと同じように去り、扉を閉めて出ていったのだろう。


ここで誰かに見つかれば、彼女が犯人にされる。すぐに立ち去らなければ――だが、その前に確かめたいことが一つ。


犯人はおそらく依頼人だ。ヨリンは迎え入れ、椅子に座って待っていたはず。


ならば、どこかに名前が記録されている可能性がある。彼は几帳面ではないが、依頼を追跡する手立てくらいはあるに違いない。


依頼人の名簿か、予定を書きつけたスレート。偽名でも、暗殺者や犯罪者は思ったほど用心深くない。


彼女は書斎へ戻り、低い机の前にしゃがみ込んだ。


花瓶、ろうそく、色粉の瓶、輝く水晶――しかし、名前のリストはない。


イザベルは唇を噛んだ。まだ何をしているのだ、私。死体と一緒に見つかれば説明は不可能だ。しかもヨリンの死は、私が来た理由とは無関係。


フードを被り直し、立ち去るべき――。


その時、紫の輝きが目に入った。寝室の小さな台座の上に、水晶が一つ。机の上に雑然と散らばる他のものとは違い、それだけは明らかに意図して別に置かれている。


その色の水晶は幻影の魔法を蓄え、映像や形、記憶さえ投影できる。


【イザベル】「――あるいは、情報を記録するために」


彼女は空の部屋に囁いた。


紙ではなく水晶に隠す。彼なら当然だ。


彼女は棚へ歩み寄り、水晶を手に取り、力をそっと流し込む。


……何も起きない。


ヨリンは封を施していたのだろう。依頼人リストは仕事の中でも最重要の機密。驚くことではない。


これを解ければ、犯人の名――少なくとも予約時に使った偽名――に辿りつけるかもしれない。


【???】「……何をしている」


突然の声に、血が凍った。


戸口にはギャラス。彼の視線は遺体に釘付けになり、見開かれた。


【ギャラス】「オルビサルよ……君は何をした」


沈黙の中に隠された真実。

ヨリンの死が偶然か、それとも仕組まれたものか――。

そして、ギャラスの言葉の裏には何があるのか。

次回、「裁きの影」にて、イザベルの選択が試される。

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