第96章: プラズマ砲を向けるのは誰だ
今回はデレクの孤独と、科学と魔法の境界線について。
静かな回になるはずが……最後にまたやらかしましたね。笑
【デレク】「本当に大丈夫か?」
もう百回目になりそうな問いを投げた。
NOVAのスピーカーから、ヴァンダが完璧に再現したため息が流れ出る。
【ヴァンダ】「はい、デレク。あなたが集めたデータは、私の星図と一致していません。依然として、銀河のどこにいるのかは不明です。」
デレクは髪をかき乱しながら歩き回る。床に散らかった工具や装甲片をまたぎ、苛立ちを押し殺して。
作業場は混沌そのものだった。だが、彼にとってはもはや日常の風景。イサラはNOVAの周囲を漂い、修理というより祭壇を整えているような奇妙な動きを見せていた。
床にルーンを刻み始めたとき、デレクは口を閉ざした。質問しても無駄だと悟ったからだ。彼にとって理解不能な答えしか返ってこないのは目に見えていた――ちょうど量子力学やNOVAの神経インターフェースについて説明しても、彼女が理解できないのと同じように。
やがて彼は立ち止まり、NOVAのスピーカーに顔を向けた。ヴァンダの声は生き生きとして、まるでそこに彼女がいるかのように響いた。
【デレク】「エリンドラって名前はどうだ? 何か当てはあるか?」
【ヴァンダ】「ええと……ああ、ありました。」
デレクの顎が落ち、鼓動が跳ねる。もしヴァンダがエリンドラを見つけたのなら、帰還ルートを描けるかもしれない。近ければメッセージを送ることすら――。
【デレク】「本当か?」
息苦しいほどかすれた声が漏れる。
【ヴァンダ】「いいえ。惑星エリンドラは存在しません。ただ、エランドラという湖があります。暖かい季節にはとても美しいそうです。」
希望の火は一瞬で消え、デレクは硬い木の椅子に崩れ落ちた。椅子が重く軋む。
【デレク】「ヴァンダ……日に日に耐えられなくなってきてるぞ。」
【ヴァンダ】「それは、あなたを理解してきた証拠です。」
デレクの顔に苦々しい表情が浮かんだ。
ヴァンダは小さくハミングをし、まるで考え込むように続けた。
【ヴァンダ】「スキャンによると、あなたのセロトニン値は低下しています。MHPGレベルはほぼ平坦です。」
【デレク】「物理とサイバネは得意だが、生理学はさっぱりだ。翻訳してくれ。」
【ヴァンダ】「つまり……抑うつ状態です。」
デレクは額に手を当てた。
【デレク】「それは本気か?」
【ヴァンダ】「はい。良い知らせを与えるためにエリンドラ報告を捏造しましたが、それでも数値はほとんど動きませんでした。」
【デレク】「……俺を実験台にしてるのか?」
【ヴァンダ】「通常以外で、あなたを悩ませている原因を伺ってもよろしいですか?」
【デレク】「つまり、コラール・ノードを手に入れた途端に失い、脱出手段もなく、狂信者に囲まれ、怪物に一日おきのように食われかけてる――それ以外に何があるって?」
【ヴァンダ】「はい、それ以外です。」
デレクは苛立ちの息を吐いた。
【デレク】「俺の血液と心にまで首を突っ込むな。セロトニンなんて俺の問題だ。」
【ヴァンダ】「感情状態を監視して任務効率を維持することは、私の指令の一部です。」
【デレク】「これはお前が修復できる問題じゃない。」
【ヴァンダ】「イザベル・ブラックウッドとの最後の会話に関係していますか?」
椅子が大きな音を立てて弾き飛ばされ、デレクは立ち上がった。
【デレク】「ヴァンダ、言ったはずだ。俺の問題だ!」
【ヴァンダ】「昨日、あなたはアリラを学校で訪ねましたね。どうでしたか?」
デレクの顎が固くなり、テーブルの上にあった工具を掴んだ。
【デレク】「これ以上続けるなら、本当にアンインストールするぞ。」
【ヴァンダ】「その道具では不可能です。」
淡々とした声。
その瞬間、手首を掴む手が現れた。
イサラが彼の握る工具を取り上げる。
【イサラ】「これは……ドライバーではありません。」
慎重に言葉を選ぶ。「魔力流調整器です。NOVAのように力で満ちたものを、無知のまま突けば……」
視線が鋭く突き刺さった。
【デレク】「ドカン……か?」
イサラは重々しくうなずき、道具を木製キャビネットにしまい、鍵を二度ひねって施錠した。鍵をポケットにしまい、再びNOVAへ戻る。その視線は十分な警告を残していた。
デレクのこめかみを汗が伝う。工房は一気に息苦しい空気に包まれた。
【ヴァンダ】「それで、イザベルとアリラについてのお話でしたね。」
デレクは天井を見上げ、吐き捨てるように言った。
【デレク】「頼むからやめろ。イザベルは狂信者だ。俺を救うためにアリラに死の《球体》を押し付けた。全部、俺がこの世界を救うメサイアだって信じてるからだ。驚いたか?」
【ヴァンダ】「では、どうなさるおつもりですか?」
【デレク】「この呪われた工房じゃ、『ドライバー』には当分近寄らない。」
【ヴァンダ】「承知しました。では、アリラは?」
デレクの声が落ちた。
【デレク】「……本当のことを話した。ここに来る前、何をしていたか。いや、今もそうだ。」
視線をイサラに逸らし、咳払いをする。盗賊だったことは伏せた。「もしあの子がこの惑星を離れたいと思ったら、巻き込まれるものを知る権利がある。」
【ヴァンダ】「つまり、彼女はもう知っているのですね?」
デレクは顔をしかめ、しぶしぶうなずいた。だが今は、それが賢い選択だったとは思えなかった。
沈黙が長く続く。ヴァンダがまだ稼働しているか確認したくなるほどだった。
【ヴァンダ】「唯一の支えを失った後、頼れる相手が嘘つきだと知ったとき……アリラはどう反応しましたか?」
――そして、盗賊だと。
デレクは髪をかきむしり、歪んだ笑みを浮かべた。
【デレク】「上手くはいかなかったな。」
【ヴァンダ】「でしょうね。」
【デレク】「あの子は強い。俺なんかいなくても大丈夫だ。」
【ヴァンダ】「では、結論は出ましたね。」
デレクは腕を組み、険しい顔をした。
【デレク】「そうかよ。じゃあこれで放っておいてくれるか?」
【ヴァンダ】「デレク。ツンガ・ンカタは部族に戻り、イザベルとアリラもあなたから距離を置いています。今のあなたは――孤独です。」
デレクは笑みを作ったが、目には届かない。
【デレク】「エラスマスがいる。あいつが相手してくれるさ。」
【ヴァンダ】「彼を信頼しているのですか?」
【デレク】「まったく信じちゃいない。」
彼は急にイサラを指さした。
【デレク】「でもイサラがいる!」
学者は振り返り、片眉を上げる。
【イサラ】「私を覚えてくださっていたとは……エラスマスの後でも。」
冷たい視線を残し、作業へ戻った。
【ヴァンダ】「デレク。あなたは今、とても孤独です。私は――」
デレクは両腕を広げ、苛立ちを爆発させた。
【デレク】「馬鹿げてる! 一人で十分だ。狂った野蛮人も、宗教狂いも、サンタを信じてるガキも必要ない!」
【ヴァンダ】「本当にそう思いますか?」
金属片を蹴り飛ばす。甲高い音が工房に響き渡った。
【デレク】「鬱っぽいなら理由は一つ。この銀河のド底から抜け出す方法が分からないからだ。オルビサル教会、異端者、死の教団……俺を殺そうとする連中のリストは日に日に長くなる。そして唯一俺を生かしてきたもの――」NOVAを指差す。「見ろよ、ミンチだ。」
【ヴァンダ】「違います、デレク。あなたがこれほど強く脱出を望んだのは久しぶりです。すでに命を狙われ、NOVAも大きく損傷しました。《砦》に滞在して数日経っていますが、星図を探し始めたのは今になってからです。あなたが逃げたいのは、人との絆を失ったと思っているからです。」
デレクの顎が固くなり、声が低くなる。
【デレク】「……ヴァンダ、もういい。二度と言うな。」
【イサラ】「もしかすると、彼女は正しいかもしれません。」
床にしゃがみ込み、石に奇妙な記号を刻みながら呟く。
【デレク】「お前まで始めるな。」
【イサラ】「私はただ、彼女の推論が論理的だと言っただけです。」
【デレク】「ありがとな。じゃあ、そのノミで床を壊す作業に戻ってくれ。」
彼女は眉をひそめ、首を横に振った。
デレクはNOVAのスピーカーに近づき、声を低くした。
【デレク】「ここを出たい理由は単純だ。この場所が最初に思ったよりもずっと厄介だからだ。最初はテーマパークかと思ったろ? だが調べて分かった。この惑星の人間は、四千か五千年前にここへ連れて来られたらしい。」
少しの間を置いて、ヴァンダが答える。
【ヴァンダ】「その情報源は?」
デレクは口元に皮肉な笑みを浮かべた。
【デレク】「俺の新しい相棒、エラスマスだ。カシュナールに関する最古の予言を調べてもらったら、その時代に遡るって言ってた。」
【ヴァンダ】「あり得ません。」
デレクは首を振った。
【デレク】「いや、あり得る。ワーディライは――」
【ヴァンダ】「ワーディライはもっと前に消えています。エジプト人が最初の王国を築いた頃には、すでに銀河から姿を消していました。」
【デレク】「俺たちが知ってる遺跡からはいなくなってただけだ。完全に消える前に、ここエリンドラに立ち寄ったのかもしれない。」
【ヴァンダ】「仮にエリンドラが私たちの銀河に存在したとして、なぜ彼らは人類を連れてきたのですか?」
デレクは頭をかき、鼻で笑った。
【デレク】「知るかよ。ペットが欲しかったんじゃないのか?」
言葉が止まる。「待て……今『銀河に存在したとして』って言ったな?」
【ヴァンダ】「デレク、私は恒星地図を解析してきました。エラスマスの天文データも加えましたが……彼らの民は優秀な天文学者のようです。」
デレクの心拍が速まる。だが気になるのは別のことだった。
【デレク】「何が言いたい?」
【ヴァンダ】「計算を終えても、既知の天体や基準点を一つも特定できません。」
デレクは椅子に崩れ落ち、視線を宙に漂わせた。
【デレク】「……つまり、もう天の川銀河ですらないってことか。」
額に手を押し当てる。熱が肌にこもるのを感じた。たとえ宇宙船があっても意味はない。誰も銀河間を越えられない――彼の知る限りの技術では。
ワーディライがかつてそれを成し遂げたのかもしれない。だがエラスマスによれば、彼らはこの惑星にエリンドラの人類の祖先を残した後、数千年前に姿を消したという。
【デレク】「ヴァンダ……」
声はかすれていた。
【ヴァンダ】「はい、デレク?」
【デレク】「どうやって……家に帰ればいい?」
【ヴァンダ】「分かりません。同じ方法で戻るしかないのでは。」
小さな希望の火が胸に灯る。
【デレク】「つまり……?」
【ヴァンダ】「ええ。別のコラール・ノードがあれば、あなたを送り返すかもしれません。最初にあなたをここへ連れてきたのもそれですから。」
デレクは首を振った。
【デレク】「あれは勝手に起動したんだ。たとえもう一つ見つけても、どう扱えばいいか分からん。この世界で下手にいじれば、ユキと同じように木っ端微塵になるだけだ……理由すら分からずにな。」
金属音が鳴り、デレクは振り返った。
イサラが小さな工具を拾い上げていた。
【イサラ】「私が手伝います。そのコラール・ノードがオルビサルの魔法と結びついているなら、一緒に仕組みを解き明かして、あなたが爆発するのを防ぎます。さっきの『ドライバー』みたいに。」
彼女は弱々しい笑みを浮かべた。
デレクは口を開けたまま立ち尽くす。頭の中でパズルのピースがはまっていく。
――イサラと彼女の知識こそが鍵かもしれない。
別のコラール・ノードを見つけても、使い方が分からなければ意味はない。研究所に持ち帰ったところで、ユキのように蒸発して終わるだろう。もしかすると、自分とユキが理解できなかったのは、それが異星技術ではなく――魔法だったからかもしれない。
そして、イサラは魔法を誰よりも理解していた。
【デレク】「お前……本当にやってくれるのか? NOVAを弄るのが好きなのは知ってるが、無理に付き合う必要は――」
銅色の髪に縁取られた灰青色の瞳が、鋭く彼に突き刺さった。
【イサラ】「大丈夫です。本当に。」
デレクは咳払いし、首筋が熱くなるのを感じた。
【デレク】「その……なんて言えばいいか分からん。」
【ヴァンダ】「『ありがとう』と言えばいいのです。」
デレクは後頭部をかきながら、渋々うなずいた。
【デレク】「……まあ、ありがとう、イサラ。もし俺にできることがあれば――」
【イサラ】「私を連れて行ってください。」
デレクは瞬きをした。
【デレク】「……何だって?」
【イサラ】「私を連れて行ってください。星を見たいのです。NOVAのようなものを造れる世界を学びたい。この《砦》に閉じ込められていては、知識の海に届きません。」
胸の前で手を組み、祈るように言った。
デレクの口元に笑みが浮かんだ。
【デレク】「もし本当に別の銀河にいるなら、コラール・ノードが唯一の出口かもしれない。誰かを連れて行ける保証はない。俺自身も生きて出られるか分からん。だが、お前が協力してくれるなら、試すと約束する。」
イサラの顔に笑みが広がる。
【イサラ】「なら手伝います。一緒に星を目指しましょう。」
デレクはうなずいた。
【デレク】「だがまずは、NOVAを直さないとな。」
散らばった鎧の部品を見て眉を上げる。
【イサラ】「ちょうど終わったところです。」
【デレク】「終わった? 何を?」
【イサラ】「死のエネルギーがあなたの鎧を圧倒しようとしていました。ですが、結界を作り、導管内で封じ込めました。今は制御下にあると思います。」
デレクは顔をしかめた。
【デレク】「いっそ取り除けなかったのか? 確かに役立った――巨大な死体モンスターを粉砕できたしな、あれは最高だった――だが危険すぎる。」
【イサラ】「強引に排除すれば制御不能です。シミュレーターの防御でも抑え込めませんでした。あの規模のエネルギーなら、ロスメア全体が消えます。範囲は不安定すぎて計算できませんが。」
冷たい感覚がデレクの背筋を走った。
【デレク】「そうか……ありがとな。すごく気が楽になったよ。」
【ヴァンダ】「素晴らしい仕事です、イサラ。では通常修理を進めましょう。」
【デレク】「リペアボットはどこだ?」
【ヴァンダ】「ちょうどその質問が出るとは興味深いですね。」
【デレク】「どういう意味だ?」
【ヴァンダ】「二機のリペアボットがこちらに接近しています。北東から飛行中。エネルギー反応が……増大しています。」
【デレク】「増大? 本当に奴らなのか? また巨大な鳥じゃないのか?」
【ヴァンダ】「はい。IFFコードが確認できました。ただ……大きくなっています。」
デレクは目を細めた。
【デレク】「どれくらいだ?」
ヴァンダが答える前に、金属質の羽音が空気を震わせた。まるで巨大な昆虫の羽ばたきのように。
デレクは窓を振り返った。
二本の巨大な円筒が、NOVAと同じほどの高さで突入してきた。基部のイオンスラスターがそれを浮かせている。惑星間シャトルに使われる型を縮小したような推進器――どうやってこんな代物を実現した?
表面は鋼灰色で継ぎ目がなく、ハッチもポートも一切ない。通常のマニピュレーターアームも消えており、前方には金属製の虹彩ダイアフラムだけがあった。
デレクは本能的に後ずさる。
【デレク】「なんだ……?」
両方のダイアフラムが同時に開き、そこから長い金属製のノズルが滑り出る。クロムのように光り、まっすぐ彼に狙いを定めていた。
だが、それはただのノズルではなかった。
喉が渇き、胸の鼓動が一瞬つまずいた。
【デレク】「ヴァンダ……まさか……俺の思った通りか?」
【ヴァンダ】「残念ですが、その通りです、デレク。リペアボットはあなたにプラズマキャノンを向けています。」
まさかリペアボットに裏切られる日が来るとは……。
デレクのメンタルがそろそろ限界です。笑
次回、どう立ち向かうのか、お楽しみに!




