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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
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第90章: イザベルとの決裂、そして世界の名を知る

今回、デレクとイサラの会話が中心の章です。

イザベルとの関係に少し変化があり、世界の謎も一歩進みます。

しっとりめの展開ですが、次回からまた動きがありますのでお楽しみに!

デレクは、イザベルが出て行ったあともしばらくの間、イサラの研究室の扉を見つめていた。


声を荒げるつもりなんてなかった。だが、この呪われた惑星とそのくだらない不条理のせいで、頭がおかしくなり始めているのかもしれない。


一瞬、彼女が泣いていたように見えた。馬鹿馬鹿しい。イザベル・ブラックウッドが泣くわけがない。怒っていたのは確かだが、人を苛立たせるのは、昔から彼の得意技だ。


拳を握りしめ、息を吐く。――どうすりゃよかった? 『立派だ』って拍手でもしておけばよかったか。


オルビサルの聖騎士、ナーカラのウォーデンは、自分の命だけでなく、アリラの命までも投げ捨てて、カシュナールを守ると言い切った。


つまり――自分を、だ。


苦笑いが漏れた。イザベルは、あのジャングルで初めて出会った時から何も変わっていない。狂信的な信者のまま。理屈に反して、心のどこかで変わるかもしれないと期待していた自分が馬鹿だった。


NOVAへ向き直った瞬間、灰青色の瞳がまっすぐこちらを射抜いていた。


イサラだった。その視線に思わず息を呑む。彼女がこんな目をするのは初めてだった。


【デレク】「……何だ、イサラ」


返事はすぐに来なかった。頬にうっすら赤みが差し――

【イサラ】「あなたって、本当に天才だよ! このアーマーを造って、ヴァンダを作って、頭脳と戦略だけで自分より強い敵を倒してきた。すごい! 尊敬してるんだから!」


デレクは皮肉げに片方の口角を上げた。

【デレク】「はは、光栄だな。まあ運が良かっただけだ。死にかけたことも何度もあるし――」


【イサラ】「それなのに、どうしてそんな馬鹿になれるの!?」


彼は固まった。笑みが引きつる。

【デレク】「……アーマーのことか? 設計ミスでも見つけたのか?」NOVAを指差した。


【イサラ】「違う! イザベルを、そのまま行かせたでしょ!」


デレクは顔を手で覆い、天井を仰いだ。

【デレク】「……女同士の連帯ってやつか? 何の話だか分からん。イザベルは一線を越えた。本人も承知してる。正直、彼女がそこまでやるとは思わなかった。それ自体が驚きだな。俺は、人に何をされても驚かないつもりだったんだが」


イサラは、誤作動で火花を散らす装置でも眺めるような目で、彼を見た。

【イサラ】「本気で言ってるの? あなたが時々、本心と逆のことを言うのは知ってるけど」


【デレク】「それは『皮肉』ってやつだ。だが今回は違う。珍しく本気だ」目を細めた。

【デレク】「で、これは何の話なんだ?」


扉を指差し、イサラは声を強めた。

その声には、心配だけではない棘がひとすじ混じっていた。

【イサラ】「彼女はあなたを大事に思ってる! 命を懸けてる! 持ち場を捨ててジャングルを出たのは――『あなたに会う夢を見たから』だって、私に話してくれた!」


デレクの口元が苦く歪む。

【デレク】「それは『俺を大事に思ってる』んじゃない。」

デレクはこめかみのあたりを指でぐるりと回した。

【デレク】「彼女は俺をメサイアだと思い込んでるだけだ。だから命がけで守ろうとする。文字通りな。あの狂信者は、俺を生かすためならロスメアを燃やし尽くすだろうよ」


イサラは顎をきゅっと引き結んだ。


【イサラ】「それが彼女のすべてだと思ってるの? 『メサイア』としてしか見てないって?」


デレクは顎髭を指で撫でた。

【デレク】「いや、他にも見てるだろうさ。無謀な馬鹿、皮肉屋、信仰心ゼロの無責任男。リストが欲しけりゃ本人に聞け。喜んで列挙してくれる」


イサラの目が大きく見開かれ、唇がわずかに震えた。

【イサラ】「本気でそう思ってるの? あの人が、あなたをそう見てるって?」


デレクは咳払いし、苦々しい声を漏らした。

【デレク】「……どうせ、俺が間違ってるって言うんだろ」


首を振るイサラの顔には、不信が濃く浮かんでいた。

【イサラ】「違う。私は、彼女は本当にあなた自身を大事にしてると思う。カシュナールじゃなくても同じ。きっと」


デレクは乾いた笑いを喉に引っかける。

【デレク】「そこが間違いだ、イサラ・ミレス。最初に会ったときの彼女の態度を覚えてるか? メサイアなんて話を信じる前だ。あれのどこが友好的に見えた?」


【イサラ】「じゃあ、彼女が考えを変えるまでにどれくらいかかったの?」


デレクは肩をすくめた。

【デレク】「二日か三日だな」


【イサラ】「それが普通でしょ。関係なんて一晩で築けるものじゃない。まだほとんどあなたを知らなかったんだから」


デレクは大きく息を吐き、髪をぐしゃりと掻き上げた。

【デレク】「お前が何を言いたいかは分かる。でも外してる。イザベルは――強い。肝が据わっている。戦ってる姿を見たら、俺だって一瞬、本気で信じかけた。彼女が教義と義務だけでできてるんじゃないって」

口元が歪み、苦笑に変わった。

【デレク】「……俺は彼女を信じたんだ」


イサラは腕を組み、顎を高く上げた。

【イサラ】「それで?」


デレクは指を一度振った。

【デレク】「詳細は言えない。ただ、俺の信頼を裏切った。それだけだ」


イサラはゆっくりとうなずいた。

【イサラ】「……なるほど。あなたの信頼を裏切ったのね」


デレクは目を細める。

【デレク】「それを大したことじゃないと思うのか?」


【イサラ】「そうは言ってない」声は落ち着いていたが、腕の組み方は固かった。

【イサラ】「ただ、考えてただけ。――あなたが彼女に同じことを、何度してきたか」


デレクは口を開いたが、言葉が詰まった。鋭い舌は止まり、代わりに頭の中に浮かんだのは――イザベルの助言を無視してきた数々の場面。ユリエラ。評議会。シエレリス……数え上げれば、もっとあった。


彼は唾を飲み込み、咳払いをする。

【デレク】「……違う。彼女のしたことは別だ」


【イサラ】「どう「別」なの?」


――別なのは、彼女がアリラを危険に晒してまで、自分を救おうとしたことだ。

だがそれを口にすれば、死の《球体》とエボンシェイドの真実を認めることになる。

それはできない。誰にも話せない。イサラにさえも。

それを口にすれば、アリラを危険に晒すことになる。


背を向け、NOVAに歩み寄った。傷だらけの装甲に指先をなぞらせる。

【デレク】「……もういい。このスーツはまだボロボロだ。いつ必要になるか分からん」


イサラはためらい、作業台から工具を掴む。そしてNOVAの横に立ち、装甲の隙間を覗き込んだ。

小さくつぶやいた。

【イサラ】「好きにしなよ。でも――あなたは、彼女について大きな勘違いをしてる」


デレクは低く唸り、議論を打ち切った。彼女がどう思おうと勝手だ。これは彼女の問題じゃない。


二人はその後、黙々と作業を続けた。口を開くのは、ボルトや回路に関する短い指示だけだった。


―――


デレクは研究室を出た。足取りは重く、肩は垂れ下がっている。太陽はすでに地平線に傾き、空を薄橙に染めていた。全身の筋肉が痛み、疲労は鉛のように身体を沈ませていた。


デレクは《砦》の書庫と図書館へ続く長い廊下を進んだ。


高い窓から琥珀色の光が石の床に差し込み、壁には金と影が揺れる模様を描いている。塵が光の中を漂い、足音の反響に合わせて舞った。


廊下を歩く者はわずかで、粗末な法衣を着た者から豪華な装飾をまとう者までさまざまだ。本や奇妙な器具を抱えている者もいた。彼の姿を見ると、皆は目を伏せ、足を速めた。


――やっぱり、ここでも人気者にはなれないらしい。


それでいい。余計な邪魔は要らない。NOVAを修理する方法を見つける方が先だ。


リペアボットなしで直すのは、ほとんど不可能に思えた。


かつては豪語していた。目隠しでもスーツを分解・再組み立てできると。だが今では、まるで解けないパズルだ。理解できるシステムが一つあれば、見たこともないものが二つ現れる。しかも「魔法」と呼ばれる水晶部品まで組み込まれている。


オーラレベルが上がるたびに、回路は勝手に変化した。配線が組み替わり、基板が新しいものに置き換わる。


最後のジャンプ――エボンシェイドで怪物を倒した後の三段階アップ――では、アーマーの半分が書き換えられた。新しいサブシステムが出現し、電力供給ラインは倍増し、アクチュエーターは補強された。気のせいか、スーツの全高まで伸びた気がした。……だが、この世界で何が理屈に合う?


唯一の手がかりは、リペアボットが消える前にヴァンダへ残した設計図だけだった。

必要なときですら彼を見捨てなかったのに――いまは、ただ消えてしまった。


彼はできる限り指示に従い、慎重に作業した。だが、見たこともない部品を手探りすることの方が多かった。


数か月あれば、一つずつ解明できただろう。だがここでは? 時間は贅沢品だ。細工は後回しにするしかなかった。


他にも、調べるべきことが山ほどある。


彼はエラスマスの研究室と思われる扉の前に立ち、ノックした。


【エラスマス】「入れ!」


……人付き合いは相変わらずだな。


デレクは肩をすくめ、扉を押し開けた。


古文書と香の匂いが濃く漂う。ステンドグラスの光が赤と金に部屋を染めていた。


エラスマスは巨大な書物に顔を埋め、周囲は写本と地図で埋め尽くされていた。その中には、どう見ても星図のようなものがあった。


デレクは部屋を一瞥し、すぐに目を細めた。遺跡を漁ってきた経験が、物の価値を見抜く目を養っていた。数秒あれば、面白いものは見抜けた。


壁には革装丁の本がびっしりと並び、その背は赤い蝋で封じられている。いわゆる禁書の類だろう。にやりと口元が歪んだ――今回の「戦利品」を見抜くのは簡単だった。


部屋の隅には真鍮の天球儀と古いアストロラーベ。神の啓示を描いたタペストリーに挟まれて輝いていた。


もしエラスマスが本当に星を研究しているなら、この惑星の位置を特定する手助けになるかもしれない。宇宙船がなければ意味はないと思っていたが……ヴァンダにはできなかったことでも、これらの星図なら可能かもしれない。


やっとエラスマスが顔を上げ、慌てて立ち上がった。椅子を倒しかけながら。

【エラスマス】「カシュナール! まさかお越しになるとは。私は発見があればすぐに伺うと――」


デレクは両手を上げ、にやりとした。

【デレク】「落ち着け。少し暇つぶしに寄っただけだ。それと、「カシュナール」はやめろ。デレクでいい。今は相棒だろ?」挑発めいたウィンクを添えた。


エラスマスの唇は硬く結ばれ、軽薄さに苛立っているのが見えた。


実際のところ、デレクはこの男に自分のゴミすら任せたくなかった。だが他に頼める者はいない。ならば、重要感を与えてやるしかない。


エラスマスは二度瞬きをしてから、恭しく頭を下げた。

【エラスマス】「光栄です、デレク殿」


【デレク】「よし、その調子だ。で、何か掴めたか?」


エラスマスは一瞬笑みを浮かべ、すぐに消した。

【エラスマス】「あなたが求めるものを知るには、エリンドラの歴史を遡らねばなりません。カシュナールの予言の起源は、二千年前にまで遡ります」


デレクの眉が跳ね上がる。

【デレク】「……エリンドラ? 何だそれ? それに、どうして歴史がそんなに古いんだ? 恒星間航行が始まったのは、せいぜい数百年前だろ」


エラスマスは固まり、困惑を浮かべた。

【エラスマス】「それは……冗談ですか? それと、「恒星間航行」とは?」


デレクはこめかみを押さえた。

【デレク】「冗談じゃない。……ああ、悪い。疲れてるだけだ」


書庫長は咳払いし、法衣を整えた。

【エラスマス】「エリンドラとは、この世界の名です。当然のことではありませんか」


デレクは弱々しく笑った。――惑星の名前を尋ねたことすらなかった。どうせ、正規のデータベースには載らないと思っていたからだ。


彼は眉をひそめる。

【デレク】「さっき……二百年じゃなくて「二千年」って言ったか?」


【エラスマス】「ええ、二千年です。書は写されて保存されていますが、記録は明確です。さらに古いものもあります」


デレクの喉が詰まる。

【デレク】「……どれくらい古い?」


【エラスマス】「最古の記録は五千年前です。未解読の原始的な刻印ですが、確かに人間のものです」


床が傾いたように感じ、彼は壁に手をついた。五千年前? その時代、人類はまだ粘土板に記号を刻み始めたばかりだ。――どうやってここに?


エラスマスが心配そうに近づいた。

【エラスマス】「ご気分が優れませんか?」


デレクはこめかみを押さえた。

【デレク】(……全部ひっくり返ったな。五千年前に地球すら満足に植民してなかった人類が、この惑星に?)


結論は一つ。――誰かが連れてきた。予定より数千年も早く、恒星間技術を持つ者が。


【デレク】「……ワーディライ」


【エラスマス】「はい?」


【デレク】「人類がここに来た起源について考えてただけだ。「ワーディライ」って名は、どこかの記録に出てこないか?」


エラスマスは首を振った。

【エラスマス】「その名が古代に存在したなら、今とは異なる形だったでしょう。似た語根を探すべきです。「ヴァルドゥナイ」が近い」


【デレク】「ヴァルドゥナイ? どういう意味だ?」


【エラスマス】「この世界に人が来る前からいたとされる神々です。子供でも知っています」


デレクの心臓が跳ねる。ワーディライは本当にここにいたのかもしれない。銀河を植民したなら、この惑星も例外ではない。もしそうなら、コラール・ノードが眠っている可能性すらある。


だが考えれば考えるほど、胸が重くなる。数千年前、彼らは十分な数の人類をここに連れてきた。その目的は――?


エラスマスは書の端に触れながら言った。

【エラスマス】「研究の方向が変わりつつあるようですね。カシュナール伝説の起源を続けますか? それともヴァルドゥナイと最初の人類について?」


デレクは指先の震えを見下ろした。世界観が完全にひっくり返った。だが今は処理する時間はない。拳を握り、深呼吸する。


【デレク】「……いや。カシュナールの研究を続けろ、エラスマス。俺自身のことだからな」


エラスマスは深々と頭を下げ、椅子に戻った。

【エラスマス】「承知しました」


デレクは扉に手をかけ、開けかけて――振り返った。

【デレク】「エラスマス?」


【エラスマス】「はい?」


【デレク】「星図を少し借りていってもいいか? ――いわゆる『空の地図』だ」


エラスマスは机の羊皮紙を見下ろし、うなずいた。

【エラスマス】「ええ、もちろん。ここ《砦》では天文学に興味を持つ者は少ない。《球体》の力に関わらないものは無視されがちです。私は魅力的だと思いますが」


デレクは皮肉な笑みを浮かべる。

【デレク】「ああ、分かるよ。星なんて、遠くから眺めてるだけの方が面白いもんだ」


エラスマスは彼をじっと見つめ、皮肉かどうか測るように黙った後、うなずいた。

【エラスマス】「……では、その言葉を信じておきます」


デレクはかすかに笑った。

【デレク】「助かった。役に立ったよ」


エラスマスは小さく頭を下げた。

【エラスマス】「私は書庫長としての務めを果たしているだけです」


デレクは頷き、扉を閉めた。


廊下には静寂が広がり、遠くの鐘の音だけが響いた。


数歩進んで、彼は立ち止まる。


高窓の向こうに広がるジャングル。暗く、果てしなく、神秘に満ちていた。まだこの世界には、どれだけの秘密が眠っているのか。初めて――ここに囚われていることを、悪くないと思った。


無数の謎が、まだ残っている。


この惑星で一歩踏み出すたび、真実は遠のく。掘れば掘るほど、謎は絡み合い、重くのしかかる。


だが少なくとも、今はこの世界の名を知った。


ここは――エリンドラ。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

デレクとイサラのやり取り、そして世界の謎の一端を楽しんでいただけたでしょうか。

感想やブックマークをいただけると、とても励みになります。次回もお楽しみに!

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