表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
87/102

第87章: 死神の呪い ― 鋼鉄のメサイアの影

予言の正体を探るため、あの嫌味なエラスマスに仕事を押し付けるデレク。

しかし本当の恐怖は、NOVAに隠された「死神の刃」かもしれません……。

デレクは《砦》の廊下を足を引きずりながら研究室へ向かっていた。歩みは一歩ごとに重く、慎重だった。脚をえぐるような鋭い痛みが容赦なく続き、治癒には長い時間がかかると痛感させられた。


狭い窓から差し込む光が、石の壁と床に金色の帯を描いていた。外よりは涼しい空気だったが、湿気は同じく重くまとわりついた。


奥からは工具の音と金属を叩く響きが伝わってきた。イサラ・ミレスがNOVAをいじっているのだ。その音は、まるで《砦》自体が彼女の作業の一打ごとを響かせているかのように廊下に広がっていた。


廊下はL字に折れていた。そこに現れたのは、金の刺繍を施した儀式用の長衣をまとった痩せた長身の男。片腕には古びた大書を抱えていた。


男はデレクを見ると立ち止まり、軽く一礼した。


【エラスマス】「お戻りになりましたな、カシュナール。」


デレクは顔を引きつらせて笑った。正直、会いたくない相手トップ3に入る。いや、ウリエラと同率一位だな。


【デレク】「エラスマス・モルシャント。――たぶん合ってる。名前覚えるの苦手なんだよな、特に避けたい相手のは。どうした?イサラを困らせるのに飽きて、今度は俺を邪魔しに来たのか?」


エラスマスの額にしわが寄ったが、すぐにねっとりとした笑みを貼り直した。


【エラスマス】「ご存じのとおり、私の務めは《砦》で学者たちの活動を監視することです。」


デレクはうなずいた。


【デレク】「それと、評議会に告げ口だろ。なるほどな。で、モルシャント、お前の趣味はスパイ以外にないのか?履歴書、空白だらけだろ。」


笑みは一瞬揺らいだが、すぐまた戻った。こいつ、ゴマすりに関しては根性がある。


デレクはそれを少し評価した。しぶといほうが遊び甲斐がある。


エラスマスは抱えた書を持ち上げた。


【エラスマス】「私は《砦》の大書庫長です。第一の務めは、過去と現在の知識を守り、伝えることにあります。」


デレクは黒い髭をかいた。まるで彼らが切り抜けてきたジャングルそのもののように、藪のように伸び放題だった。


【デレク】「へえ。で、ちゃんと読んでんのか?それともアクセサリーか?」


エラスマスは胸を張り、背筋を伸ばした。


【エラスマス】「私は《砦》でも最古の聖典に関して第一人者です。より新しい書物、たとえばイサラのNOVA研究などは、他の者に任せています。」


デレクはゆっくりとうなずいた。ああ、最悪だ。ウリエラの忠犬で、細胞レベルでイライラする本の虫。よりによって、今必要なのがこいつとは。クソったれな宇宙だ。


【デレク】「ちょうどいい。お前に仕事を頼む。」


男は目を瞬いた。まるで頭の上でゴブリンが踊っているとでも言われたかのように。


【エラスマス】「わ、私に?」


デレクはにやりと笑った。


【デレク】「ああ。お前の得意分野だ。」


エラスマスの額に深いしわが刻まれた。


【エラスマス】「どのような仕事ですかな?イサラがあなたの鎧でやっている研究には関心がありませんが。」


デレクは骨ばった肩を軽く叩いた。


【デレク】「安心しろ。NOVAに触らせる気はない。俺の命がかかっててもな。これは別件だ。拒否権はねえぞ。」


エラスマスの目が見開かれ、喉がごくりと鳴った。


デレクの笑みはさらに広がった。


【デレク】「いいか、エラスマス。俺がここに来てから、みんなが俺をカシュナールだとかメサイアだとか呼んでくる。最初はただの狂言だと思った。だが予言が出てきた。しかも曖昧じゃない。まるで俺の予定表を先に読まれてたみたいに。」


【エラスマス】「それが予言というものです。」


【デレク】「おお、ありがとな教授様。で、広場の像だ。NOVAの完コピ。リベットまで同じ。予言がふわっとしてんなら笑って済ませる。でも像となると、気味悪すぎるだろ。」


【エラスマス】「あの像こそ、カシュナール予言の核心です。鋼鉄のメサイア。」


【デレク】「はいはい。だが問題は、俺が盲信アレルギーだってことだ。信仰は体質的に合わん。」


【エラスマス】「カシュナールご自身がそのように仰るとは、奇妙ですな。」


【デレク】「みんなそう言う。でも事実は変わらん。俺は証拠がないと信じない。だからお前にやらせるんだ。」


【エラスマス】「私に?」


【デレク】「そうだ。「鋼鉄のメサイア」の話を源までたどれ。誰が書いたのか、どこで聞いたのか。そして何より――あの像だ。」


【エラスマス】「……像を?」


【デレク】「ああ。今広場に立ってるやつじゃない。最初のやつだ。誰が作ったのか、どうやってその発想に至ったのか。」


【エラスマス】「つまり、鋼鉄のメサイア予言の最古の起源を?」


【デレク】「ビンゴ。言ったろ?お前向きだ。学者の宝探しみたいなもんだ。」


【エラスマス】「……確かに興味深い。しかし、我らの信仰の根源をさかのぼることになります。最古の文書は一般には禁じられております。」


【デレク】「俺が一般人に見えるか?俺はメサイア様だぞ。」


【エラスマス】「もちろんです、カシュナール様。ただちに調査を始めましょう。」


【デレク】「よし。役に立つものを持ってきたら、「ありがとう」と言ってやる。」


【エラスマス】「承知しました。」


デレクは腕をつかんで止めた。


【エラスマス】「他にご用でしょうか、カシュナール様?」


【デレク】「ああ、エラスマス。この件は二人だけだ。俺がくしゃみするたびにユリエラに報告する必要はない。ただの歴史調査だ。高司祭の許可なしでも問題ないだろ?」


【エラスマス】「……もちろんです。この件で高司祭を煩わせる必要はありません。」


【デレク】「だろ?もう絆が深まってきたじゃないか。」


エラスマスはぎこちない礼をして、つまずきそうになりながら廊下を去った。


デレクはその背を見送った。信じる気は毛頭なかったが、答えを得るには他に手がない。埃と羊皮紙に何年も埋もれるのはごめんだ。


彼は向きを変え、イサラ・ミレスの研究室へ足を引きずりながら進んだ。中の様子をうかがうため、わざと歩みを遅らせた。


エボンシェイドから戻り、NOVAをイサラのもとに持ち込んだとき、彼女の顔は恐怖と衝撃で凍りついた。一瞬、本当に倒れるんじゃないかと思ったくらいだ。


だが次の瞬間には、震えの奥にパニックの影が走り、そのまま真夜中でも作業に飛び込んだ。デレクは疲れ切って『明日でいい』と言ったが、彼女は聞きもしなかった。


彼女は顔を上げもしなかった。議論する気力もなく、彼はベッドに沈み込んだ。


――そして今も、音の調子から判断する限り、彼女は全速力で作業を続けている。


これは本来、NOVAに「魔法的」システムを組み込む共同作業のはずだった。徹夜で修理するなんて話ではない。


デレクは研究室の入り口に立ち、慎重に覗いた。


もともと散らかっていた部屋は、今や完全な混沌だった。まるで魔術の嵐が吹き荒れた後のようだ。


人の背丈ほどの機械がルーンで刻まれ、横倒しになっている。フレームに埋め込まれた結晶はまだ脈動し、壁に揺らめく光を投げていた。光脈を走らせた鉱石の塊が床に散らばり、その間を《オルビサル》の《球体》が子供のビー玉のように転がっている。


デレクは、それが死の《球体》でないことを祈った。


中央の円形プラットフォームにはNOVAが――いや、その残骸が横たわっていた。前部装甲は剥ぎ取られ、パワークリスタル、プラズマ導管、基板がむき出しになっている。いくつかのパネルは床に整然と積まれていたが、他は思いつきで放り出されたように散乱していた。


結晶の山が崩れ、虹色の光がデレクの足元にこぼれた。


その向こうから、赤銅色の巻き毛が飛び出し、勝ち誇った笑みが弾けた。


【イサラ】「見つけた!」


彼女は傷だらけの手に掲げた。それは周囲のどの石よりも明るく輝く緑の結晶だった。


【ヴァンダ】「よくやりました、イサラ。右肩のパワー導管の近くに設置してください。」


イサラはにっこり微笑み、うなずいた。


【イサラ】「もちろん、すぐにやるわ、ヴァンダ。」


――今、何て言った?


【デレク】「……何をするって?」


口調は指揮官を意識したが、足を引きずるただの不機嫌な男にしか見えなかっただろう。


イサラは振り返り、笑みが一瞬消えた。


【イサラ】「あら、おはよう。調子はどう?」


【デレク】「脚は燃えるように痛ぇ、頭は割れそうだし、この《砦》の医療班って存在してんのか疑わしくなってきた。お前、医務室の担当もしてたよな?」


彼女は瞬きをした。


【イサラ】「あ、そうだった!昨夜見に行こうと思ったのに、作業に夢中で忘れちゃったのよ!」


【デレク】「見事な患者ケアだな。で、ヴァンダ、お前の言い訳は?二人揃って「パイロット忘れましたコース」か?」


【ヴァンダ】「同じです、デレク。」


デレクは目を回した。


【デレク】「俺が動けなきゃ、NOVAはただの高級文鎮だぞ。修理ってのは俺込みだ。」


その瞬間、光るものが飛んできて、反射的に掴んだ。淡い緑色の立方体で、光は弱く、実体感すら怪しかった。


顔を上げると、イサラがにっこりとうなずいた。


【デレク】「……石?」


【イサラ】「生命力を帯びた石よ。まだ少し残ってるはず。痛むところに当ててみて。効かなかったらまた来て!」


【デレク】「はいはい。ファンタジー痛み止め、キューブ版ってわけか。」


イサラはすぐにNOVAへ向き直った。


デレクは石を見つめ、ため息をつき、それを腿に押し当てた。


NOVAに近づきながら言った。


【デレク】「で、何やってんだ?俺の承認なしのサプライズ改造か?」


【ヴァンダ】「デレク。修復ドローンが最初のクリスタルを設置した時点で、これはもうあなた一人のプロジェクトではありません。」


【デレク】「ふん。今のは礼儀で聞いただけだ。改めて聞く。NOVAに何をしている?」


イサラは顔を上げた。


【イサラ】「え?ごめん、何て?」


【デレク】「大事な質問は一つだ。俺の鎧に――何をしてる?」


【イサラ】「ああ、ごめんなさい!あなたの鎧ね!見てのとおりよ、死のエネルギーを封じ込めるフィールドを作ってるの!」


デレクは固まった。


【デレク】「……何を封じ込めるだって?」


【イサラ】「死のエネルギー!もちろんでしょ!」


【デレク】「「もちろん」ね。で、それが何で必要なんだ?NOVAに力場なんて要らなかった。まして内部に。」


イサラは「水は濡れるの?」とでも言われたような顔をした。


【イサラ】「そうしなきゃ、あなた死ぬわよ?」


【ヴァンダ】「はい、デレク。イサラの説明によれば、その種のエネルギーに長くさらされると、直接チャネルしなくても肉体だけでなく精神にも影響します。死に対する認識そのものが変化するのです。」


【デレク】「死の受け止め方?……意味が分からん。死をどう受け止めるっていうんだ?」


【ヴァンダ】「死に伴う感情を失います。死への恐怖、他者を失った悲しみ……さらに、殺すことに快楽を覚える可能性も。」


【デレク】「つまり、サイコに変わるってわけか。」


イサラは屈託なく笑った。


【イサラ】「だから封じ込めシステムを作ってるの!」


デレクは頭をかいた。


【デレク】「封じ込めシステム、ね。聞こえはハイテクっぽいが、実際は魔法のおまじないだろ。」


【イサラ】「それが正式な専門用語よ!あなたも使い慣れたら?」


【デレク】「ヴァンダ、お前の科学語で翻訳してみろ。『死のエネルギー』じゃ「悪い気配」くらいにしか聞こえねぇ。本当の正体は?」


【ヴァンダ】「はい、デレク。あの放射はエントロピーを急速に増加させ、不可逆的な細胞崩壊を引き起こします。すべての生体組織に作用します。」


デレクは唾を飲み、袖をまくって指を動かした。外見は何ともない。


【デレク】「じゃあ……もう俺は腐り始めてるってことか?」


【ヴァンダ】「表面的なレベルです。軽度の日焼けのように皮膚にひび割れが出るかもしれません。深刻ではありません。現時点では。NOVAが放射の99.65%を吸収しました。」


【デレク】「……0.35%で日焼けか。フルドーズだと笑えねぇな。そりゃ自殺志願者以外は禁止されるわけだ。で――俺の頭のほうは?」


寒気が背筋を走った。


【デレク】「俺、これから連続殺人鬼コースにでも進むのか?」


イサラは近寄り、目を細めた。


【イサラ】「イザベルは死んだわ。」


デレクの心臓が跳ねた。


【デレク】「……は?」


イサラはニヤリと笑った。


【イサラ】「冗談よ!テストしただけ!もし悲しみを感じたなら、まだ大丈夫ってこと!」


デレクは黙り込んだ。アリラの件があるせいで、イザベルへの感情は複雑に絡まり、簡単には解けないものになっていた。死んでほしいとは思っていない。だが、その瞬間、自分は本当に悲しんだのか?


イサラは奇妙な車輪型の装置を手に取った。それは回転しながら光を放ち、NOVAの腕に近づけると一気に輝きを増し、回転も速まった。


彼女はふと固まり、青灰色の瞳がデレクに釘付けになる。まるで幽霊でも見たように。


デレクは眉をひそめた。


【デレク】「何だよ?歯にホウレンソウでも挟まってるか?」


【イサラ】「……エボンシェイドで死の《球体》を使ったとき、どう見えた?」


デレクは腕を上げた。


【デレク】「NOVAの腕が巨大な刃に変わった。」


【イサラ】「どんな刃?」


彼女の瞳孔は大きく開いていた。


【デレク】「曲がってて、まるで――」


【イサラ】「大鎌?」


デレクは目を細めた。


【デレク】「……ああ。だが、この世界に来てからの「妙」ランキングじゃトップ10にも入らねぇな。」


イサラは拳を噛み、視線を落とした。


【デレク】「今度は何だよ。ホラー話の時間か?」


イサラは顔を上げ、声を低くした。


【イサラ】「死神の呪いよ。」


デレクは片眉を上げた。


【デレク】「名前からして不吉だな。もう少しマシに説明しろ。」


【イサラ】「死神の呪い――この力に結びついた呪詛、死の刃のこと。文化ごとに呼び名はいろいろある。ジャングルの部族は「血を吸う大鎌」と呼ぶわ。」


【デレク】「どの名前も「安全です」って響きじゃねえな。 不吉な呼び名はどうでもいい。実際の害を教えろ。」


【イサラ】「それはオルビサル自身が呪った刃。命を奪うたびに力を増し、持ち主の殺意を肥大させるの。」


【デレク】「俺が使ったときはそんなの感じなかったぞ。殺意は……工場出荷時設定で十分だったからな。」


【イサラ】「まだ生きている者には使っていないからよ。アンデッド相手なら有効なの。生命の力を打ち消すから。」


彼女はデレクの腕をつかんだ。


【イサラ】「でも生者に使ったら気をつけて。制御を失うかもしれない。仲間を斬った兵士の話もあるのよ。」


彼女の手は離れ、顔を青ざめさせて一歩下がった。


【イサラ】「その力が体に流れ込めば、もうあなたが武器を操るんじゃない。死の魔法があなたを操るの。あなた自身が死そのものになるのよ。」


デレクは顔を手で覆った。


【デレク】「最高だな。運が良きゃ死ぬだけ。運が悪けりゃ「世界を滅ぼす魔王」役。完璧すぎる未来ってわけだ。」


――ツンガが言っていた「世界を滅ぼす」という言葉が、不意に馬鹿げたものには思えなくなった。


デレクは唾を飲み込み、低く言った。


【デレク】「……イサラ、封じ込めシステムを必ず完成させろ。さもなきゃ――お前を殺すかもしれん。」


デレクの前に現れた「死神の呪い」。

今後の戦いで、この力が彼を守るのか、それとも蝕むのか――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ