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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
85/102

第85章: 死の種を宿した少女

今回は《死の教団》が本格的に登場します。アリラに何が起きたのか、そして戦争の気配……波乱の幕開けです。

風が雲を払い、月光が七人のフードを被った者たちを照らした。


黄昏は去り、残されたのは闇と――かつて村だった戦場。


勝者はいない。


生き残った者だけ。


フードの男の要求は、明確でありながら馬鹿げていた。


彼らが欲していたのはアリラ。


理由は、彼女があの怪物にしたことだろう。あの忌まわしき存在は彼女を恐れ、少女は素手だけで傷を与えていた。


そこには異様な気配が漂っていた。――魔法の匂いだ。


デレクは肩を強張らせ、身を引いた。


【デレク】「で? なんでその子を狙う? 理由があるなら言えよ。……まあ、俺からすれば、ただのローブ姿の怪しい連中にしか見えないけどな。」


アリラは顔をしかめ、デレクを振り向いた。


彼は片口を歪め、にやりと笑った。


男は沈黙したまま。フードに覆われた顔の半分は影に呑まれ、表情は空虚だった。


やがて、声が闇を切り裂いた。


【フードの男】「この少女は《死の種》を受け入れた。若くしては稀なことだ。鍛錬を積めば我らの一員……いずれは導く者となる。」


デレクは顎ひげをなで、鼻で笑った。


【デレク】「『体の中の種』なんて言葉、聞くだけで不安になるな。」


肩をすくめる。


【デレク】「悪いが、彼女は俺たちと一緒だ。」


男の姿勢が硬直した。


【フードの男】「彼女はもはやお前たちの仲間ではない。」


イザベルとツンガへ視線を向ける。


【フードの男】「オルビサルの教会にも、ジャングルの部族にも属せぬ。死はこの地に歓迎されぬ。我らはそれを知っている。この荒廃がその証だ。」


【ヴァンダ】「デレク、後方に動体反応。大規模な集団です。密集陣形を取っています。」


聖なる守護兵か? ――もしそうなら、数週間ぶりの僥倖だった。


イザベルが一歩進み出る。


【イザベル】「お前の言葉だけで、我らの芽生え(スプラウト)を差し出すとでも? この件は預言者と錬金術師に諮ります。真実を見極め、彼女を導くでしょう。」


男は首を振った。


【フードの男】「預言者が視た瞬間、守護兵を呼び寄せるだろう。」


腕を組む。


【フードの男】「彼女を渡せ。今は無理に力を振るう必要はない。いずれ分かる。彼女がどこに属すべきかを。」


痩せたフード姿の者が耳打ちした。


男はうなずき、再びこちらを向く。


【フードの男】「我らは行かねばならぬ。いずれ分かる。その時が来れば、ここへ連れ戻せ。我らの誰かが待っている。」


七人は返答を待たず、北へと歩き去った。


儀式のように揃った動き。一糸乱れぬ列。


デレクはその背を見送った。


ただの狂信者と切り捨てたい。だがこの世界では、それすら楽観に過ぎる。


――それに、どうしてアリラがシルバー級の怪物を傷つけられた? イザベルもツンガも歯が立たなかった相手に。


あの少女に一体何が起きているのか。


デレクはアリラに向き直った。少女の瞳が揺れ、手を背中に隠した。


【デレク】「……大丈夫か?」


彼女は小さくうなずいた。


デレクはあごをしゃくって、去っていく影を示した。


【デレク】「なあ、さっきの変な奴が言ってた「種」の話……心当たりはあるか?」


アリラは首を横に振り、唇を噛んだまま手を隠し続けた。


【デレク】「なるほどな。」


声をやわらげる。


【デレク】「イザベルに話してもいいし、ツンガでもいい。ただ……学校じゃ言うな。他の奴にも、だ。」


アリラは視線を上げ、問う。


【アリラ】「なぜあの人は、あなたが私の居場所を知ると言ったの?」


【デレク】「ああ、簡単だ。お前があいつらの仲間になるって勝手に思ってるだけだ。」


片口を吊り上げる。


【デレク】「ほら、ファンクラブができたみたいだな。」


だが笑みは返らなかった。


顔色が失せ、瞳が潤む。


【アリラ】「本当に……そうなるの? 私、あの人たちと行かないといけないの?」


デレクは即座に首を振った。


【デレク】「馬鹿言え。そんな必要あるか――」


【イザベル】「デレク!」


鋭い声が割り込んだ。彼女が手招きしている。


彼は眉をひそめ、アリラを見返した。


【デレク】「ちょっと待て。」


そう言い残してイザベルの方へ歩いた。


二人が十分離れると、ウォーデンは足を止め、青ざめた顔で告げた。


【イザベル】「あの男は《死の教団》の高司祭でした。」


デレクは影に消えかけた一団を振り返る。


【デレク】「へえ。てっきり「死者を呼んでおぞましい家族会」でもやってる連中かと思ってたが……司令系統まであるとはな。」


【イザベル】「噂はありました。」


【デレク】「噂、確認済みか。最高だな。次は俺をメサイアにでも祭り上げる番か?」


イザベルの灰色の瞳は揺るがなかった。


【イザベル】「あなたは何事も真剣に受け止めないのですね。」


【デレク】「真面目になったら、その時こそ俺の頭が終わってる。」


彼女の瞳は鋼のように鋭かった。まだ言わぬ何かがそこにあった。


デレクは腕を下げたまま待った。


【イザベル】「お伝えすべきことが、もう一つあります。」


【デレク】「その口調、知ってるぞ。「これからお前が嫌がることを言う」ってやつだな。……アリラのことか?」


【イザベル】「……あなた、《死の球体》のレベルを確認していませんね? NOVAなら、そういう情報を読み取れるはずだと知っていました。」


デレクは肩をすくめた。

【デレク】「NOVAはいまガラクタ同然だ。通知なんて確認できなかった。」


目を細める。

【デレク】「……なんでそんなことを聞く? その口調、わかるぞ。『これから俺が嫌がることを言う』ってやつだな。アリラのことだろ?」


イザベルは小さくうなずいた。


【イザベル】「彼が言っていた《死の種》ですが……」


言葉が途切れる。


デレクは目を翻した。


【デレク】「ヴァンダが集団を見た。おそらく聖なる守護兵だ。話すなら今だ。もう静かな時間は来ない。」


イザベルは深く息を吸った。


【イザベル】「詳しくは知りません。ただ、死の《球体》を扱った者に起こると聞いたことがあります。十分なエネルギーがチャクラに染み込むと、力が肉体と融合してしまうのです。」


デレクは乾いた口で唾を飲んだ。


【デレク】「……危険なのか?」


【イザベル】「ほとんどの場合、致命的です。死の魔法ですから。」


【デレク】「だが俺は丸ごとの《球体》を吸収したぞ!」


【イザベル】「吸収したのはNOVAです。あなたではありません。オルビサルのアセンダントは、オーリックレベルが十分に高くなってから死の《球体》を取り込みます。そして生命の《球体》で均衡を保つのです。」


デレクの目が鋭く光った。


【デレク】「アリラはレベル不足だったが、持っていたのは少しの間だけだ。NOVAが吸収したんだ、彼女じゃない。」


イザベルの体が硬直し、唇が震えた。


【デレク】「イザベル……何を隠してる?」


【イザベル】「……彼女が持ってきた《球体》は……ブロンズ級でした。」


デレクは目を瞬かせた。聞き間違いかと思った。


【デレク】「おい、子供にブロンズ級の死の《球体》を持たせたのか?」


イザベルは不安げに顔を曇らせる。


【イザベル】「あなたにすぐ渡す必要がありました。あれだけが唯一の手段でした。私は……自分で持っていける状態ではありませんでした。試みはしましたが――」


【デレク】「イザベル、正気か!」


怒声が夜を裂いた。心臓は鼓動を打ち、拳はNOVAのサーボを軋ませた。


イザベルは必死に視線を受け止めた。


【イザベル】「あの状況では、それしか道はありませんでした。」


デレクは首を振った。


【デレク】「違う。選択肢はあった。俺を《球体》なしで戦わせるか、死なせるかだ。」


口の端を歪め、苦笑した。


【デレク】「でもできなかったんだろ? 俺がカシュナールだから。救わなきゃならなかった。どんな犠牲を払ってでもな。」


イザベルは視線を落とした。


【イザベル】「あなたが死んでいたら、あの怪物は残りの私たちを皆殺しにしました。」


【デレク】「ハッ、嘘だ!」


ブーツで木の梁を蹴り飛ばし、数十フィートも先まで転がした。


【デレク】「で? アリラは死ぬのか? お前が殺したのか?」


イザベルは声を詰まらせながら言った。


【イザベル】「い、いいえ……司祭の言葉が正しければ、彼女は死にません。チャクラの中のエネルギーは封じられ、安定しています。稀ですが、そういう例もあります。」


デレクは目を細めた。


【デレク】「……つまり?」


【イザベル】「彼女は死の魔法を宿したのです。あの男が「種」と呼んだもの。それは完全な《球体》吸収とは違いますが……ある意味では同じ。今やその力は彼女の一部なのです。」


デレクは顔を手で覆い、呼吸を整えた。


――またか。科学を無視した魔法の戯言。


【デレク】「つまり、あの男の言った通りだ。アリラは教会にも、部族にも居られない。」


イザベルはうなずいた。


【イザベル】「部族は自然を崇め、死を究極の悪と見なします。そしてオルビサルの教会は……ご存じの通りです。」


彼女はさらに近づき、声を落とした。


【イザベル】「彼女はアセンションの儀まで、この力を隠さねばなりません。汚染されたチャクラにオルビサルの《球体》を吸収すれば、死の魔法は抑え込まれるのです。」


デレクは怒鳴らぬよう舌を噛んだ。


【デレク】「だが預言者に調べられたら? 痕跡は残るんじゃないか?」


【イザベル】「可能性はあります。しかし、疑いがなければ深くは調べません。」


デレクは空を仰ぎ、大きく息を吸った。


肺を腐臭が満たした。


【デレク】「やっと普通の生活を取り戻しつつあったのに……これからは秘密を抱えて生きるのか。」


イザベルの眉が寄った。


彼女は剣を拾い、泥を払い、鞘に納める。


【イザベル】「それでも命は残ったのです。死の《球体》なしでシルバー級のアンデッドに勝てたと思うなら、それは幻想です。」


顎でしゃくり、デレクを示す。


【イザベル】「ご自慢の鎧を見なさい。」


デレクは視線を落とした。


腹部装甲は裂け、配線が腸のように垂れ下がっている。


【デレク】「関係ない。お前に彼女を犠牲にする権利はなかった。」


イザベルの声が荒んだ。


【イザベル】「彼女は無事だと言ったでしょう!」


【デレク】「お前のおかげじゃない!」


鋭く言い放つ。


【デレク】「ただの運だ。正当化するな。」


イザベルは顎を固く結び、しばらく彼を見つめ、そして小さくうなずき、背を向けた。


アリラは呆然と立ち尽くしていた。瞳に衝撃が宿っている。


――いいだろう。ウォーデンが何をしたか、知ればいい。


【ツンガ】「誰か来る。」


デレクはツンガの指差す先を見た。


ロスメアから兵士の列が行進してくる。戦鎚と塔盾が月光を反射していた。


その先頭にいたのはギャラス。


ギャラスは部隊を止め、一人で前に出た。血まみれの戦場を進みながら、眉をひそめた。


彼は鼻と口を手で覆い、蒼白な顔で言った。


【ギャラス】「……何があった。」


デレクはひげをかいた。


【デレク】「ちょっと面倒ごとに巻き込まれてな。」


ギャラスは目を見開き、周囲を見回した。


【ギャラス】「これが面倒事だと?」


視線はイザベルに。


ウォーデンは顎を上げ、肩を張った。


【イザベル】「我らは《死の教団》に襲われました。」


【ギャラス】「《死の教団》が? 奴らは罪に生きてはいるが、教会に刃向かったことなどない。……どうやってこの惨状を?」


【シエレリス】「違うわね。最初にやらかしたのはあなたたちの司祭よ。」


紫の霧が渦を巻き、形を成す。


ギャラスとイザベルは同時に柄へ手を伸ばした。


霧が晴れ――シエレリスの顔が現れた。


彼女はデレクへウインクする。


デレクは眉を上げた。


――やっぱり、狐女か。何を企んでやがる。


【シエレリス】「武器はいらないわ。私はここにいない。ただ水晶を通した投影。長くはもたないけど。」


【イザベル】「……目的は?」


【シエレリス】「真実を伝えること。そして、ひとつ警告を。」


ギャラスの声は鋭くなった。


【ギャラス】「なぜ異端の間者の言葉を聞かねばならん。」


【シエレリス】「好きにすればいいわ。もう父には報告済み。これは伝言よ。終われば消える。どう扱うかはあなたたち次第。」


ギャラスは顎を固く結んだ。


【ギャラス】「なら早く言え。異端者。」


シエレリスの唇が刃のように歪んだ笑みを形作った。


【シエレリス】「あなたたちの司祭――エリアスは、《死の教団》が使っていた《球体》を奪った。そして、彼らが導いていた生命の《球体》を吸収したの。」


【ギャラス】「それは正当な権利だ。」


【シエレリス】「想定通りの返事ね。でもその場は生命魔力で飽和していた。チャクラは既に満ちていたのに、さらに《球体》を取り込んだ……限界ぎりぎりまで。」


【ギャラス】「それでも限界内なら問題はない。」


【シエレリス】「問題は次よ。もうひとつ《球体》が空から落ちた。オルビサルの「悪戯」とでも言いましょうか。……どう思う、審問官?」


【ギャラス】「オルビサルは戯れなどせぬ。」


【シエレリス】「ええ、同感よ。」


首を傾け、笑みを深める。


【シエレリス】「なら神罰と呼びましょう。落ちてきたのはアイアン級。砕け、彼を汚染した。限界を超えてね。」


ギャラスは顔をこわばらせ、周囲を見回した。


【ギャラス】「……エリアスが惨事を招いたと? 馬鹿げている。」


デレクは鼻で笑った。――やっぱり賢い狐だ。だがどこへ持っていく気だ?


【シエレリス】「故意じゃない。でも制御を失った瞬間、《死の教団》の高司祭たちが到着した。彼を操り人形にし、報復に利用したの。ゴーレムを召喚し、教会に「代償」を払わせたのよ。」


【ギャラス】「つまり《死の教団》が攻撃したと認めるのか。ウォーデンの言葉通りだ。」


シエレリスは目を翻した。


【シエレリス】「その一点だけ? 最初に仕掛けたのは教会。次に失敗したのも教会。その後に教団が報復した。父の意図は単純。双方に非があることを伝えたい、そして『今は魔女狩りを始める時ではない』ってこと。」


【ギャラス】「異端の長とその娘を、誰が信じる。」


シエレリスの笑みは毒を含んだ優雅さで広がった。


【シエレリス】「信じなくていいわ。神殿にエリアスの遺体がある。最高の預言者に調べさせればわかるはず。あるいは無視すればいい。私の関心じゃない。」


彼女はため息をつく。


【シエレリス】「そろそろお別れね。」


アリラへ片目をつむり、紫の煙に溶けて消えた。


ギャラスは首を振り、デレクは小さくうなずいた。


彼女の話は筋が通っていた。嘘をつく理由もない。だが――狐を完全に信用する日は来ない。


イザベルが咳払いした。


【イザベル】「確かにエリアスは制御を失っていました。私自身が相対しました。《死の教団》との戦争は……過剰かもしれません。」


【ギャラス】「我らに二つの戦争を抱える余裕はない。」


デレクは目を細め、背筋に冷気を覚えた。


【デレク】「二つ?」


ギャラスは胸を張り、声を張った。


【ギャラス】「橋での襲撃――神聖なるカシュナールの命を狙ったのは、ナコリ族の者だと判明した。」


視線がツンガへと向けられた。


ツンガは歯を剥き、低く唸った。


デレクの心臓が跳ねた。


【デレク】「まさか本気で――」


ギャラスはうなずいた。


【ギャラス】「ユリエラは討伐準備を命じられた。すでに神聖宰相ルシエル・オスランに軍事行動の許可を要請し、この聖戦に祝福を賜るよう嘆願している。」


ツンガの眉間に皺が刻まれた。「何を言う。はっきり言え。」


ギャラスは冷ややかに笑った。「戦争だ、シャーマン。」

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!

ついに《死の教団》が姿を現しました……そして最後の衝撃展開は、これからの大きな火種になりそうです。

次回はさらに深い裏側に迫っていきます。ぜひお楽しみに!

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