表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
82/102

第82章: 血と泥に咲く誓い

本章ではシルバー級魔獣との激戦が描かれます。

デレク、アリラ、そして仲間たちの運命が大きく動き出します。


※本章には流血や悲惨な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

巨大な怪物が分厚い蹄で泥をかき、裂けた大口から荒々しい鼻息を鳴らした。突進の構えだった。


デレク・スティールは装甲ブーツを地面に踏みしめ、まだ稼働している唯一のプラズマブレードを構えた。退路はない。仲間が倒れ、負傷している今、後退は許されなかった。相手は銀等級の魔獣――速く、強く、容赦のない存在。


しかも、片脚は壊れたまま。


少し離れた場所で、アリラが頭を押さえながらふらつき、よろめき立ち上がった。目が回っているようだった。


デレクは息を吐いた。生きてる。とりあえずな。


怪物が咆哮した。その声は、体中に縫い付けられた数十の人間と牛の口からの悲鳴で反響した。無数の目が狂ったように転がり、盲目の狂気をさらけ出していた。


まだ意識があるのか、それとも魔力の残響か? どうでもいい。普段なら立ち止まる疑問だが――今夜は違う。


今夜、この忌まわしき存在を切り裂く。中に誰がいようと、生きていようと死んでいようと、関係ない。


【ヴァンダ】「デレク。異常な脳波パターンを検出しました。ご無事ですか?」


【デレク】「最高だよ。お前がぶち込んでる鎮痛剤の副作用かもな。」


【ヴァンダ】「鎮痛剤はそのような作用を示しません。投与量も正常です。何かが――」


怪物が飛びかかった。一瞬、その姿が二つに分裂し、点滅してから目前に現れた。


牙をむき、喉の奥から唸り声を上げながら、顔のすぐ前で止まった。


接近アラームが鳴り響いたが、衝撃は検知されていない。


速すぎて目で追えなかった。だが、なぜ攻撃してこなかった?


デレクは視線を上げた。


NOVAの腕が化け物を押さえていた。ただ、それはもう腕ではなかった。長く湾曲した金属の大鎌に変わり、彼が《球体》の力を吸収したときに覆った黒い物質と同じものに覆われていた。


それは、銀等級の魔獣の突進を止められるほどの速さと力を持っていた。


黒い腐蝕は肩から広がり、外へ溢れ出し、怪物の爪を押さえ込む巨大な刃を形成していた。


怪物が咆哮し、もう片方の爪を振り下ろした。デレクはプラズマブレードを持ち上げたが、遅く、弱すぎた。


その一撃が直撃した。


彼は地面に叩きつけられ、HUDはノイズで埋まり、赤いエラーが画面を覆った。左腕と肩の装甲が損傷したと警告が点滅している。


マイクロスラスターが点火し、反応する前に無理やり立ち上がらせた。


巨体が彼を見下ろしたが、攻撃はしてこなかった。


なぜだ。ビビったのか?


デレクは右腕に目を落とした。黒い大鎌。そのせいか? それとも、楽な戦いじゃないと理解しただけか?


確かめる方法は一つ。


彼は残された力を脚に注ぎ込み、雄叫びを上げて突撃した。


―――


アリラはふらつきながら立ち上がった。気づかぬうちに倒れていたのか? 一瞬、世界は暗黒とあり得ない冷気に包まれ、死んだと思った。次の瞬間、意識が途切れていた。


数歩先での戦いの音が彼女を現実に引き戻した。振り返った瞬間、記憶が押し寄せる。


デレクが一人で、今まで見たこともない巨大で恐ろしいものと戦っていた。大きく、速く、そして……彼の腕にあるのは何?


悪夢のような存在が彼を投げ飛ばした。だがデレクはすぐに立ち上がった。鎧の奇妙な力に持ち上げられながら。装甲は凹み、泥に汚れ、辛うじて形を保っている。まだ立っているのが奇跡のように思えた。


彼一人で本当に止められるのか? 彼を助けられるのは自分しかいないのか? 無力なアリラが?


そのとき、泥の中からマルクスがよろめき出た。大槌に体を預けながら。


【アリラ】「マルクス!」


彼は顔を上げ、苦痛に歪んだ顔で言った。


【マルクス】「何してる、子供。ここから離れろ!」


【アリラ】「置いていけない!」


【マルクス】「……お前は俺が知る中で一番勇敢な子供だ。願わくば、またオルビサルの光の下で会えるように。」


彼は大槌を肩に担ぎ、戦いへと向かった。


その間にも、デレクと怪物は空中で激突していた。NOVAは布切れのように投げ飛ばされ、泥の中を転がり、それでも立ち上がった。


だが今度は、怪物が腕を一本失っていた。切断された肢は地面に横たわり、動かない。


アリラは、それが以前のように這い戻るのを待った。しかし動かない。なぜ再生しない?


怪物は涎を飛ばし、歪んだ両腕でデレクに突進した。黒い大鎌と次々ぶつかり、速すぎて目で追えない。金属音が響き、紫の光が受け止めるたびに強まった。


奇妙だった。デレクがその攻撃を受け止めるたび、怪物の動きが遅く、弱くなっていった。


怪物が前に突進し、蹄で彼の腹を蹴りつけた。


速すぎて、アリラにはほとんど見えなかった。デレクは後退し、装甲ブーツで地面に溝を刻み、それでも倒れなかった。


だが次の瞬間、NOVAが硬直した。膝が折れ、デレクが地面に倒れ込んだ。


アリラは恐怖に震えた。彼は動かず、あの怪物の慈悲に委ねられていた。なぜ立たない? なぜ何もしない?


怪物は慎重に近づいてきた。罠を警戒するように。


アリラの視線は動かないNOVAに釘付けになった。怪物が迫ってくる。


体に縫い付けられた無数の口が身をよじり、喘ぎ、叫び、獣のように噛みついた。


無数の目が狂ったように動き、あるものは異なるリズムで瞬き、あるものは憎悪に満ちて彼女を見つめた。


怪物が巨大な腕を持ち上げた。


落ちれば終わり。


【アリラ】「デレク、駄目ぇぇぇ!」心臓が裂けるように叫んだ。


怪物は彼女を向き、その瞬間、マルクスが突撃した。


鍛冶屋は残り数歩を詰め、大槌を高く掲げ、雄叫びを上げた。


黒い閃光。何かが飛んだ。


アリラは瞬きをした。一瞬、まだマルクスが突撃していると思った。だが――


次の瞬間、槌は消え、頭も腕の大部分もなかった。


巨体が崩れ、泥に沈んだ。


【アリラ】「マルクス! いやぁぁぁぁ!」甲高い悲鳴が空気を裂き、視界は涙で粉々になった。


泥を掻き、肩を震わせ泣き続けた。自分のせいだ。叫ばなければ怪物に気づかれなかった。何をしてしまったのか?


湿った音が響き、顔を上げると怪物が迫っていた。


胸が締め付けられた。次は自分だ。逃げられない。止める者も救う者もいない。悪はすでにすべてを奪った。


村を。家族を。過去を。


そして今、残された僅かなものまでも。


熱が体内から湧き、胸を焦がし、血管を焼いた。涙は乾き、嗚咽は止まった。胸に残ったのは、別の熱だった。


彼女は震えながらも立ち上がった。巨影はもはや無敵には見えなかった。初めて、それを恐れるべき悪夢ではなく、本当の敵として見た。


狂気。しかしその狂気の中で、彼女は明晰さを得た。喪失の重み、悲しみの炎、意志の火花――すべてが一つに融合した。


【アリラ】「来い! 来やがれ、このクソ野郎!」怒り以上のものが声に宿っていた。魂そのものだった。


怪物は立ち止まり、蹄で地面を擦った。


なぜ止まった? 彼女の中で目覚めた何かを感じ取ったのか?


どうでもいい。もう抑えられなかった。来るなら、自分が向かう。逃げない。死が望むなら、正面から受けて立つ。


【アリラ】「ああああああっ!」誓いのような叫びを上げ、彼女は突撃した。


―――


【デレク】「……クソッ! ヴァンダ、何が起きてる? 体が動かねぇ!」


【ヴァンダ】「それは当然の結果です。あれだけ攻撃を受けて、すべて正常に動作すると思う方が不自然です。」


彼の脈が鎧の中で轟き、NOVAのコアを凌駕するほどだった。


【デレク】「くそっ、あの化け物、アリラを狙ってる! 今すぐ動けるようにしろ!」


【ヴァンダ】「故障した周辺モーターボードを迂回中です。制御を――」


【デレク】「解説はいい! 急げ!」


【ヴァンダ】「……承知しました。」


アリラの叫びに、怪物は引き寄せられていた。


もし彼女がいなければ、デレクはすでに死んでいた。


怪物は恍惚状態にあるかのように動き、泥に沈む蹄を響かせながら揺れ、彼女に向かって進む。デレクを忘れたかのように。少女に魅了されたかのように。


理由は分からない。だが好機を逃すつもりはなかった。


【ヴァンダ】「完了しました。動けます。ただし注意してください。アクチュエーターは半分以下しか稼働しておらず、複数の機能を迂回させました。動きはぎこちなく、機敏さは期待できません。」


【デレク】「やっとか。」彼は唸り、立ち上がった。NOVAは千鳥足のようにふらつき、バランスを保つのに必死だった。


彼は怪物に向き直った。


アリラは走っていた。逃げるのではなく、怪物に向かって。まるで悪魔のように叫びながら。


【デレク】「……は? 正気かよ。」思わず呟いた。


追いかけようとした瞬間、顔から泥に突っ込んだ。


【デレク】「……クソが!」


【ヴァンダ】「デレク。注意しろと警告しました。『アクチュエーターの半分が壊れている』という説明を、全力疾走の許可と解釈されたのですか?」


【デレク】「……そういうことかよ。だが『立てない』とは言わなかったな。」


【ヴァンダ】「立つだけなら簡単です。でも、転ばずに歩けるかは別問題ですよ。一部の制御が逆転していますので――」


【デレク】「うるせぇ! 急いでんだ!」彼は唯一機能する腕で体を支え、立ち上がった。もう片方は巨大な黒い大鎌のままだ。戦闘には最適だが、バランスは最悪。


努力の末に片膝をつき、立ち上がった。


アリラはまだ立っていた。叫びながら空に拳を振り回して。それなのに怪物は彼女を攻撃せず、躊躇していた。


異形は揺れながら立ち尽くしていた。その忘我の状態がいつまで続くかは分からない。だが、デレクに調べる気はなかった。


ぎこちなく、一歩ずつ。NOVAを動かした。


痛々しいほど遅く。

マルクスの最期、アリラの叫び、そして黒き大鎌の出現――。

この瞬間から、すべてが変わっていく。

次回もぜひお楽しみに。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ