表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
76/102

第76章: 最後の砦、寺院へ

今夜もお付き合いいただきありがとうございます!

次の展開に向けて、じっくり楽しんでいただければ幸いです。


獣たちの列は、まるで別世界のような静けさの中を進んでいた。鳴き声もなければ、虫を払う尻尾の動きもない。つまずきも、押し合いも、まったくない。


ただ、ひたすらに、容赦なく進み続けていた。


木々や建物が、そのアンデッドの群れに震えた。枝がばきりと折れて、地面に落ちる。ぬかるみに吸われたような蹄の音が、それでもはっきりと響いていた。


デレクには、それが動物の群れには見えなかった。むしろ、装甲車の隊列のように感じられた。彼はそういう映像を見たことがあった。遠い惑星の夜を、戦車が進むあの映像だ。


──遠い惑星の戦争記録で見た映像だ。まさか自分の目で見ることになるとは……。


二人が乗る太い枝が、わずかに軋む。


デレクは体勢をずらし、隣のシャーマンに目を向けた。



「なあ、ジャングル男。名案はあるか?あの連中の進路を変える手段、思いついたか?」


【ツンガ】「もう死んでる。恐れ、ない。」


「……まあ、そうかもな。」



──動物と見なすのは、やめた方がいい。行動パターンも、反応もまるで違う。



「……虫みたいだ。」


【ツンガ】「虫で、脅かす?」



デレクは首を振った。──やっぱ、コイツ頭おかしい。


けど、他に選択肢もねえ。息を吐き、決めたように呟く。



「よし。火だな。」


【ツンガ】「アリの列みたいだ。あそこ。」


「そう。で、アリの列を逸らすには?」


【ツンガ】「アリ、燃やす。変なとこ行ったら。」


「だが、あいつら痛みを感じねぇ。焼いても突っ込んでくるかも。」


【ツンガ】「本能。」


「……何?」


【ツンガ】「動物、強いのは本能。」


「面白いな。やつらにも、本能が残ってると仮定するわけか?」


【ツンガ】「かも。」


「……今、うなずいたよな?」


【ツンガ】「考え中だった。」


「お前なあ……」


【ツンガ】「火。」


「火以外にしろっつってんだよ!」


【ツンガ】「火、恐れる。本能。どの獣も同じ。火、得意。お前より。」


「じゃあ、火つけて、炎まみれのアンデッド水牛が突っ込んできたら?」


【ツンガ】「見たい。」


「……やっぱり、狂ってるわ。」



でも、他に方法もなかった。



「……よし。火でいく。」


【ツンガ】「うむ。」



──また笑った。あの、嬉しそうな狂った笑顔で。



―――



マルクス、アリラ、そして子どもたちの一団は、雨に洗われたエボンシェイドの通りを静かに進んでいた。


村の家々は背が低く、粗末な造りがほとんどだったが、ただ一つ──寺院の尖ったシルエットだけが、あらゆる場所から空を突いて見えていた。


背後から響く地鳴りは、徐々に重みを増していく。遠くで、小屋が何軒か──巨人に踏み潰されたかのように潰れた。


マルクスは通りを駆けていた。肩には巨大なハンマー。数歩ごとに振り返り、全員の姿を確認していた。


アリラはすぐ後ろ。片目に眼帯を巻いた少年の手を握って走っていた。


──同じくらいの年齢のはずなのに、怯えた表情のせいか、その子はもっと幼く見えた。


ふと気づくと、眼帯がずれて落ちかけていた。


彼女がしゃがんで直そうとしたとき、その下の目が──まったく無傷だと気づいた。


少年は軽く肩をすくめ、再び走り出す。さっきまで使えなかったはずの腕も、今では普通に動いていた。隣の子の腕も。


──なにかがおかしい。寺院に着いたら、ちゃんと確かめなきゃ。


そのとき、角を曲がった先に──影。


通りを塞ぐように立っていた。


アリラは「助け──」と声を出しかけて、すぐ口を閉じた。


骨が露出している。顔の皮膚の大半を失っている者もいた。


──アンデッド。


生気のない眼が、こちらを捕え──突っ込んできた。



【マルクス】「下がれッ!」



巨体を踏ん張り、両手でハンマーを構える。



【アリラ】「みんな、ここで待ってて!すぐ戻る、絶対に!」



少年が何か言いかけるが、年上の子が引っ張って後退させた。


アリラはマルクスの隣へ。拳を構える。──高く、硬く、準備万端に。



【マルクス】「これはお前の戦いじゃない。下がれ。」



──逃げたい。それが本音だった。頭の中で、心臓が爆音のように鳴る。だが──



【アリラ】「数で劣ってる。私も戦う。」



マルクスが何かを言おうとした、その瞬間──一体が跳びかかってきた。


ハンマーを構える余裕もない。


柄を掴まれ、そのまま押し潰されそうになる。


さらにもう一体、同じくマルクスを狙って突進──



【アリラ】「っ……!」



横から、全力で体当たりした。


──けど、止まらない。揺らぎさえしない。


まるで、彼女など視界にないかのように。



【マルクス】「うおおおおっ!!」



咆哮とともに、一体を投げ飛ばす。ハンマーが手を離れ、地面に落ちる。


二体は地面に倒れ、骨が砕ける音が鳴った。


マルクスは即座にハンマーを拾い、立ち上がろうとした個体の頭へ──


ゴンッ──! 脳漿が飛び散る。


四肢は痙攣していたが、意志は──もう、なかった。


稲光が空を裂き、雷鳴が響いた。


二体目が跳ぶ。


マルクスは蹴り飛ばし、泥の中に叩きつけた。起き上がる。──だが、そこにハンマーがあった。



【マルクス】「……すまん、ローランド。」



一閃。


アリラは目を閉じ──そして、開けた。


マルクスの穏やかだった顔は──今、血と泥と、名もなき何かに塗れていた。


雷光の下で、その姿はまるで地獄の獣のようだった。


……それでも。


彼は、いい人だ。


自分たちを助けるために──ただ、それだけで。



【マルクス】「行こう……もう少しで、寺院だ。」





―――





【デレク】「……おい、ツンガ。ほんとにこれ、うまくいくんだろうな?」



シャーマンは、黙ってうなずいた。


デレクは濁流と化した通りを見下ろす。


もはや、道ではなく川だった。



【デレク】「……お前の「物理学」がジャングル仕込みなのは知ってる。だがな、火は水で消えるってくらいは、さすがに理解してんだろ?」



ツンガは、感情を見せずに睨み返す。



【ツンガ】「魔法の火。燃やすと決めたら燃える。水、止められん。信じない限りはな。」



デレクはまばたきした。


──ああ、なるほど。それがこいつの「火」の扱いかたか。ジャングルごと燃やさずに操れる理由は、そこだ。



「信じればいい」──それだけ?



……ったく、NOVAのシステムとはまるで別物だな。



【デレク】「悪いが、俺は「水が火を消す」ってのを科学で学んでるんでな。」


【ツンガ】「じゃあ、その考え方をやめろ。」


【デレク】「……なるほどな。俺はお前ら宗教家みたいに、頭空っぽにするのは得意じゃないんだがな。」



ツンガは唸った。



【ツンガ】「もう話すな。時間ない。やるぞ。」



そう言うと、泥に膝をつき、呪文のような言葉を低く唱え始めた。


──この声だ。


あの日、ここに落ちてきた最初の日……耳にしたのと、同じ声。


何が来るか、デレクにはわかっていた。


暗黒の群れは、すぐそこまで迫っている。


あと、数秒。


止めなければ──誰も生き残れない。



「デレク?」



──ヴァンダの声が、耳の内側に響いた。



【デレク】「なんだ。」


【ヴァンダ】「本当に……この作戦を、実行なさるおつもりですか?」



胸の中で、心臓が爆撃のように鳴っていた。


今まで何度も死にかけた。だが今回は、自分一人じゃない。



【デレク】「……他に方法はない。」



一呼吸。


視界のHUDに、白い光が瞬いた。


──NOVA昇華プロトコル、起動。




―――




アリラは、不安げな目でマルクスの背中を見つめていた。


家の角から覗き込むと、目の前には最後の区間──開けた広場が広がっている。


遮るものは、何もない。


隠れる壁も、走って逃げ込める建物も、何一つ。


うまくいけば──あそこに入って、扉を閉じれば助かる。


中に何がいようと、それはその後の話だ。


今は、とにかく、選択肢がない。


アンデッドの群れはすでに周囲を制圧し、背後から迫ってきていた。


ジャングルに逃げ込む? 真夜中で、土砂降りで、獣の群れが徘徊してるってのに?──無理だ。


ここが最後の砦だった。


マルクスは眉をひそめ、雨の幕越しに前方を睨んでいる。


アリラと子供たちはその背に身を寄せ、息を殺した。



【アリラ】「何か……見えるの?」



マルクスはしばらく黙っていた。


そして、驚きというより、困惑に近い顔で呟いた。



【マルクス】「……変な鎧を着た男が、広場のど真ん中に立ってる。あと、原住民っぽい男も一人。──誰だ、あれは?」


【アリラ】「デレク!」



思わず声を上げて、数歩前に出る。



【マルクス】「おい、声を抑えろ!見つかるぞ!」



アリラは手を振り払い、目を凝らして確認した。


──間違いない。


ツンガが膝をつき、泥の中で体を揺らしている。


その前に立つ鎧の戦士──あれは、デレクだ。


まるで、アンデッドの大群に立ち向かうかのように。


それなのに、動こうともしない。


一歩も退かず、そこに立ち尽くしている。



【マルクス】「知り合いか?」



アリラは笑顔を浮かべてうなずいた。



【アリラ】「うん。カシュナール……デレク・スティールだよ。」



子供たちは息を呑み、彼女の隣に集まってくる。


あれがメサイアなのかと、目を見開いていた。



【マルクス】「あれが……?本当に、あいつか?」



アリラは、信じきったような顔で答える。



【アリラ】「きっと、考えがある。デレクなら……大丈夫。」


【マルクス】「じゃあ、あいつら何してるんだ?群れに押し潰されるのが見えないのか?」


マルクスは彼女を見つめ、そしてうなずいた。



【マルクス】「お前が信じるなら、俺も信じる。急ぐぞ。とにかく、寺院に入れば……まだ間に合う。」



彼は走り出した。子供たちもそれに続く。


アリラは振り返りながら走った。何度も──何度も、デレクの姿を確かめるように。


だが、彼は──ただ、立っていた。


あの嵐を前にして、まるで嵐の「核」そのもののように、静かに、確かに、そこにいた。


突然、マルクスが「うっ」とうめいた。


──まるで、何かにぶつかったような音。


アリラが振り返ると、彼は地面に倒れ、額を押さえていた。ハンマーは泥に埋もれている。



【アリラ】「どうしたの? 転んだの?」



子どもたちが彼女の背にぶつかり、立ち止まる。


マルクスは苦しげにうめきながら立ち上がり、手を前に突き出した。



【マルクス】「何かに……ぶつかったんだ。」



その動きは、まるで盲目の人が空間を探るようだった。


寺院までは──あと数メートル。


その背後では、アンデッドの獣たちが迫っていた。


濁った目、ぬかるみを蹴り上げる巨大な蹄、突き出た角。


彼らの足元で、建物はまるで紙のように潰れていく。


それでも──あの二人は動かない。


デレクとツンガ。


進路上に立ち尽くし、嵐が迫ってくるのを、ただ待っていた。



【アリラ】「急いで! もうすぐ来る!」



そのときだった。


かすかなハミング音とともに、緑の光が──マルクスの目の前に現れた。


彼が手を押し当てると、そこから波紋のように光が広がる。



【マルクス】「これだ……これにぶつかったんだ。」


【アリラ】「……結界?」


【マルクス】「……たぶん。見ろ、動くぞ。」



手を滑らせると、バリアはそれに合わせて静かに流れた。


隙間は、どこにもない。



【マルクス】「寺院全体を……囲ってやがる。」


【子ども】「なんで……?なんでこんな……」


【マルクス】「……わからん。こんな魔法、見たこともない。」



彼は両手をつき、力を込めた。


背中の筋肉が盛り上がり、顔が紅潮する。


押し出されるように、手のひらから幾重ものエネルギーの輪が放たれた。


アリラは息を呑み、見守る。


あの腕なら、牛車を丸ごと持ち上げることだってできるはず──でも。


緑の壁は、まったく揺るがない。


マルクスはうなだれ、息を吐いた。



【マルクス】「……だめだ。すまん、アリラ。山でも動かせるくらいの力が必要だ。」



彼女はうなずいた。心臓が、全力で警鐘を鳴らしていた。


そして皆が──振り返る。


迫りくる、終末の獣の群れ。


角が閃き、泥が跳ねる。大地が割れるような蹄の音。


だが──彼らは、まだそこにいた。



(沈黙のまま、嵐に立ち向かう。)



何も言わず、何も動かず。


ただ、あの怒涛の終焉に、立ち向かうように。



【マルクス】「……今、俺たちにできるのは──信じることだけだ。」



彼は膝をついた。


そして、胸の前で手を組む。


その視線の先には、二人の男がいた。



アリラも、彼の隣に膝をついた。



一人、また一人と。


十数の震える手が、静かな希望を求めて重なり合う。



【マルクス】「オルビサルのご加護を……」


【子どもたち】「オルビサルのご加護を……」



その瞬間。


──空に火花が散った。


まるで、目に見えない巨大なシャンデリアに、無数の蝋燭が一斉に灯ったかのように。


アリラは、息を呑む。


──これって……奇跡?


そして、空が──


炸裂した。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

感想や評価をいただけると、次の章を書く力になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ