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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
75/102

第75章: アンデッド司祭の告白

エボンシェイドに迫る影――そして、アンデッド司祭の告白。嵐の中で交錯する思いを見届けてください!

鍛冶場の壁に掛けられた道具がガタガタと揺れた。まるで何かに取り憑かれたようだった。

フックからハンマーが落ち、床に大きな音を立てて叩きつけられた。子どもたちの一人が悲鳴を上げた。


アリラの足元で地面が震える。


彼女は天井の梁にしがみついて、なんとかバランスを取った。


これは雷じゃない。もっと深くて、もっと一定だ。


鍛冶屋は動かずに立ち尽くし、眉をひそめて耳を澄ませている。


マーカスの見習いたちは隅に固まり、ほとんどが震えていた。

包帯を巻いた少年だけがアリラのそばにいて、片目を見開いたまま彼女を見つめている。


彼女は安心させようと微笑んだ。

だが地鳴りはさらに大きくなり、トタン屋根を打ちつける豪雨の音さえかき消すほどだった。


胸の鼓動に呼応するように、外から轟音が響いていた。


何かが来ている。巨大な何かが。


【アリラ】「……何?」


ついにアリラが口を開く。


マーカスは彼女を一瞥し、真剣な顔で答えた。


【マーカス】「わからん。だが……こっちに向かってる。」


―――


デレクは巨大なカポックの木の下で立ち止まった。装甲の腕を節くれ立った幹に添える。

嵐はまだジャングルを引き裂くように雨と風を叩きつけていた。

日没も近く、視界はますます悪くなるだろう。


【デレク・スティール】「ヴァンダ、あのゾンビバッファローの群れ、どこへ向かってる?」


【ヴァンダ】「少々お待ちください。……確認完了。予測どおり、エボンシェイドに向かっています。」


デレクは顔をしかめた。


【デレク・スティール】「どこまで近づく?」


【ヴァンダ】「リペアボットのテレメトリによれば、ただ近づくだけではありません。村を通過し、建物も、生者であろうと……死者であろうと。」


デレクの胃が締め付けられた。


【デレク・スティール】「確かか? アリラともう一人、家のどこかに隠れてるかもしれない。」


【ヴァンダ】「はい、デレク。止まるか進路を変えない限り、村は壊滅します。……申し訳ありません。」


背後で何かが濡れた音を立てた。


振り返ると、ツンガ・ンカタがいつの間にか現れていた。


【ツンガ】「なぜ止まる?」


【デレク・スティール】「ゾンビバッファローが村に突っ込んでくる。全部潰される。……お前、何かできるか? 動物には通じるだろ。」


ツンガは首を横に振った。


【ツンガ】「生きてる奴だけ。植物の方が得意。」


デレクは顔をしかめる。


【デレク・スティール】「急ぐぞ。家に隠れてるなら、群れに潰される前に見つけなきゃ。」


【ツンガ】「エリアスもいる。罠かも。」


【デレク・スティール】「今の問題はエリアスじゃない。……死体で作ったあの怪物だ。マイクロミサイルで倒せたとは思えん。」


ツンガは眉をひそめる。


【ツンガ】「エリアスが《球体》持ってるなら、勝てん。」


デレクは大きく息を吐く。


【デレク・スティール】「……だろうな。」


勝てる手段がない。どれだけぶつけようが、あのアンデッド司祭は立ち上がってくる。

望みがあるとすれば、イザベルが奴を引き離してくれていることだけ。


【デレク・スティール】「ヴァンダ、《NOVA》の重量を軽減。リアクター出力を110%にして最短ルートを出せ。」


【ヴァンダ】「すぐに対応します、デレク。」


【デレク・スティール】「リペアボットに家をスキャンさせろ。赤外線で。アンデッドは体温を出さない。生きてる人間だけが映る。それでアリラたちを探す。見つけたらミニマップに緑のマーカー。」


【ヴァンダ】「了解しました。……デレク、第一列の家屋はすでに破壊されています。アリラたちがそこにいた場合、すでに――」


【デレク・スティール】「言うな。アリラは無事だ。」


彼はツンガを見て言う。


【デレク・スティール】「行くぞ。」


《NOVA》のシステムを新ルートに再設定する。


シャーマンはすでに木々の間を疾走していた。

黒い影のように、樹冠を滑り抜けた。


【デレク・スティール】「アリラは……無事だ。」


―――


マーカスは鍛冶場の扉をバタンと閉めた。


【マーカス】「今すぐ出るぞ!」


アリラの心臓が跳ねた。


【アリラ】「何が起きてるの?」


【マーカス】「さっきのアンデッドのせいで動物たちは逃げた。でも今は違う。奴らが戻ってきて、悪魔に取り憑かれたみたいに突っ込んできてる。もう何軒かの家は潰された。止まる気配はない。」


アリラの目が見開かれる。


【アリラ】「動物がそんな行動するなんて、おかしい……!」


【マーカス】「何かがおかしい。でも、ここにいたら俺たちも終わりだ。」


彼は床から鍛冶槌を拾い上げ、肩に担いだ。


【マーカス】「さあ行くぞ。急げ。」


アリラは彼の腕を掴んだ。


【アリラ】「どこに行くの?」


【マーカス】「《オルビサル》の神殿だ。エボンシェイドで一番大きくて丈夫な建物だ。あの群れでも、あれを倒すのは難しいはずだ。」


エリアスがそこにいるかもしれない。

何が潜んでいるかも分からない。

それはまるで、狼の巣に飛び込むようなものだった。


マーカスは彼女の目に浮かぶ不安に気づいたのか、表情を和らげてそっと肩に手を置いた。

その手は荒れていたが、意外なほど温かくて優しかった。


【マーカス】「大丈夫だ。俺がついてる。信じろ。」


彼の存在には、嵐の中でも揺るがない岩のような安定感があった。


アリラは唾を飲み込み、小さくうなずいた。


【アリラ】「……うん。」


彼女は子どもたちに向かって目線で合図を送った。


風が鍛冶場を唸るように通り抜ける。

そこに、湿った土と――腐敗の匂いが混じり始めていた。


マーカスを先頭に、彼らは嵐の中へと飛び出した。


―――


イザベルは神殿のベンチを蹴飛ばした。

腐った木材が砕け、床に無数の破片が散らばった。


【イザベル・ブラックウッド】「クソッ! どこに隠れてるのよ、あの間者! アリラに何かあったら……絶対に許さない!」


拳を握りしめ、今にももう一つ何かを殴りそうだった。


またあの間者に出し抜かれた。……最初から、そこになんていなかったのかもしれない。

真正面から戦うには狡猾すぎる相手だ。


今すぐ追いかけたかった。けど――


今はそれどころじゃない。


止めなきゃいけないのはエリアス。

アリラを助けるためには、デレクと協力しないと。

異端者の追跡は後回し。だがその日が来れば……《オルビサル》の加護すら、あの女には通用しない。


そのとき、甲高い声が彼女の思考を遮った。


【???】「怒りに身を任せれば、光から遠ざかるわよ、我が子よ。」


声は、祭壇の方――彼女が入ってきたのとは反対側からだった。


イザベルは鋭く振り返った。


そこにいたのはエリアスだった。

杖から放たれる緑の幽光が、崩れた顔を照らしている。


半分は腐り落ち、骨と筋が露出していた。

僧衣は裂け、目はどんよりと濁っている。


イザベルは目を細めた。幻か? それとも……本物?


【イザベル・ブラックウッド】「……あなた、本当にエリアス?」


彼は自分のぼろぼろの衣を見下ろした。


【エリアス・モルヴェイン】「酷い姿だろう……。暗き時代だ。だが、私だ。疑うな。何か用かね、娘よ。」


その語り口は、かつてのエリアスそのものだった。


……だが、シエレリスなら真似もできる。何度でも。


けれど、心臓が早鐘のように打っていた。

……これは、違う気がした。


もしかすると、この《オルビサル》の聖域そのものが、彼の意識に影響を与えているのでは……?


今がチャンス。

そう、直感が叫んでいた。


イザベルは浅く頭を下げた。


【イザベル・ブラックウッド】「申し訳ありません。間者の策略に惑わされ、取り乱しました。この聖域と、あなたへの無礼をお詫びいたします。」


エリアスは静かにうなずいた。


【エリアス・モルヴェイン】「人は誰しも、過ちを犯すものだ……。時に、心が残酷な罠を仕掛けてくる。」


その声には、痛みと自嘲が色濃くにじんでいた。

イザベルはそれを、はっきり感じ取った。


咳払いして、静かに口を開く。


【イザベル・ブラックウッド】「私は……自分のために来たのではありません。あなたを助けるために来たのです。」


司祭はじっと動かず、彼女の言葉を聞いていた。


【イザベル・ブラックウッド】「エボンシェイドで起きていることを……あなたは、理解していないのでは?」


【エリアス・モルヴェイン】「……私が狂っていると思っているのだな?」


かすれた声には、どこか悲しげな響きがあった。


イザベルは口ごもる。


【イザベル・ブラックウッド】「そんなつもりじゃ――」


【エリアス・モルヴェイン】「いい、説明はいらん。ワーデン、私は分かっている。」


彼はゆっくりと、壊れたベンチや散らばった蝋燭を見回した。


【エリアス・モルヴェイン】「エボンシェイドは崩壊している。そして、その責任は……私にある。」


【イザベル・ブラックウッド】「……あなた、自分に何が起きているか分かってるの?」


エリアスは骨ばった手をじっと見つめていた。


【エリアス・モルヴェイン】「私は死んでいる、ワーデン。そしてこの壊れた《球体》は……私を解放してくれない。立たせたまま、私を内側から喰らい続けている。」


どうしてこんなにも苦しみを抱えながら、あんな惨劇を起こしたのか――

もし正気を保っているのなら、なぜ?


エリアスは目を伏せ、ぽつりとつぶやいた。


【エリアス・モルヴェイン】「不思議に思うだろう。私がまだ自我を保っているのなら、なぜエボンシェイドをアンデッドで満たしたのか。なぜ、こんなにも多くの苦しみを――」


イザベルは無言でうなずいた。


彼は祭壇に手を置き、目を閉じる。


【エリアス・モルヴェイン】「……短い時間だけだが、私は正気を取り戻せる。そして、それはここ、《オルビサル》の聖なる壁の中だけだ。神の光だけが、わずかな人間性を呼び戻してくれる。」


【イザベル・ブラックウッド】「オルビサルに感謝を……」


そうつぶやいた彼女の声は、かすかに震えていた。


【イザベル・ブラックウッド】「でも、なぜ……」

言葉が続かない。


【エリアス・モルヴェイン】「なぜ、まだ理性があるうちに死を選ばなかったのか――そう思っているのだろう?」


イザベルは歯を食いしばり、もう一度うなずいた。

あの村の惨状を知っていたなら――迷わず剣を抜いていた。


【エリアス・モルヴェイン】「試みた。それが……私がアンデッドになった理由だ。自宅の梁に縄を掛け、自らを吊った。」


彼の声が一瞬、かすれる。


【イザベル・ブラックウッド】「それで……?」


司祭は杖を掲げた。

《球体》は神殿の陰にうごめきながら、病的な光を放っていた。


【エリアス・モルヴェイン】「《生命》の《球体》が、私を蘇らせた。

何度も試した。手段を変えて、何度も……。でも、死ねなかった。」


骸骨のような指が、窓の向こうを指す。


【エリアス・モルヴェイン】「あの《球体》を、ジャングルの奥深くに捨てたこともある。だが、その力は私を見つけ、再び立たせた。」


天井を仰ぎ、彼は言う。


【エリアス・モルヴェイン】「そのエネルギーは今、私の中に流れている。……もう、切り離すことはできない。」


イザベルは剣の柄を握りしめた。

信じたくなかった。


【イザベル・ブラックウッド】「そんなはずない……。ただの鉄等級の《球体》よ。そんな力、持ってるわけが――」


【エリアス・モルヴェイン】「私も同じ問いを抱いた。理由など、どこにもない。

……たぶん、これは私への罰なのだ。」


イザベルは、今や骸骨のように痩せ細った彼の姿を、黙って見つめた。

頭を垂れ、沈黙の中で耐えている。


けれど――

哀れみでは、この惨劇は止まらない。


そのとき、あの異端者の言葉が脳裏をよぎった。


『エボンシェイドを救いたいなら、残りの二つの《球体》を見つけなさい!』


もし、彼女の言っていたことが真実なら――

他に二つの《球体》がある。

そのうちの一つは、別の《生命》の《球体》。

あの教団が、死者を蘇らせるために使っていたものだ。


信じたくはなかった。

だが、時間がなさすぎる。


【イザベル・ブラックウッド】「エリアス……あなた、この事態の前に「死の教団」と接触していた?」


しばらく沈黙が続いた。


やがて彼はゆっくりと窓辺に歩み寄った。


【エリアス・モルヴェイン】「ああ。なぜ知っているのかは分からないが……《球体》が落ちる数日前、神殿で不穏な出来事があった。」


そして、静かに吐息を漏らした。


【エリアス・モルヴェイン】「時々思う。これは神罰なのかもしれない……。私は、ただの《オルビサル》の道具に過ぎないのかもしれない。」


【イザベル・ブラックウッド】「何があったのか、教えていただけますか?」


彼はわずかにうなずく。


【エリアス・モルヴェイン】「なぜ知りたがるのかは分からないが……隠す理由もない。

私は「禁じられた儀式」の存在を知っていた。あいつらは、毎年死者を蘇らせていた。」


【イザベル・ブラックウッド】「……知ってます。」


【エリアス・モルヴェイン】「私も知っていた。誰もが気づいていたが、証拠がなかった。

奴らは《オルビサル》の聖なる《球体》を使って、冒涜を働いていた。《生命》と《死》――両方の《球体》が必要だった。」


その手がわずかに震えていた。


もうはっきり分かる。

エリアスの身から漏れていた光は、杖のそれすら――どんどん弱まっている。


【エリアス・モルヴェイン】「ようやく奴らを現行犯で捕まえたのは、数週間前だった。

その場で突入し、《球体》二つを押収した。」


【イザベル・ブラックウッド】「本当に……押収したの?」


【エリアス・モルヴェイン】「使う資格などなかった。報告するつもりだった。」


【イザベル・ブラックウッド】「……でも、しなかった。」


【エリアス・モルヴェイン】「新たな《球体》が落ちたと聞き、急ぎ向かわなければならなかった。村を守るために。」


【イザベル・ブラックウッド】「じゃあ、その……教団の《球体》は?」


彼は静かに祭壇へ戻った。


【エリアス・モルヴェイン】「《生命》の《球体》は私が吸収した。

誰にも奪われぬようにするためだ。予言者が、私に必要な《オーリックレベル》があると確認してくれた。ぎりぎりではあったが、安全と判断された。」


イザベルは唾を飲み込む。喉はひどく乾いていた。


その力を吸収する適性があったというのなら――

なぜ、彼の心は崩壊したのか?


【イザベル・ブラックウッド】「それで……《死》の《球体》は?」


【エリアス・モルヴェイン】「ここに保管した。《砦》の学者に送るつもりだった。

だが……戻る前に、あの落ちた《球体》が私を蝕んだ。」


乾いた笑い声が神殿に響き渡り、壁に反射した。


イザベルは鋭く振り返る。


紫の霧が梁の上からゆっくりと降り、やがて人の形を取る――

シエレリスだった。笑っていた。


イザベルの顔が熱を帯びる。

気づけば剣を抜いていた。


【イザベル・ブラックウッド】「あんた……! また現れるなんて、いい度胸ね!」


魔導士は両手を軽く挙げる。


【シエレリス】「あら、ごめんなさい。聞き耳立てるつもりはなかったの。……でも、久々に面白い話だったから。」


【イザベル・ブラックウッド】「ふざけないで。もう幻影には付き合わないわ。」


【シエレリス】「はいはい……」

手をひらひらと振って、どうでもよさそうに流す。


【シエレリス】「そのセリフ、さっきも聞いたわね。……でも今は脅しの時間じゃない。ちゃんと聞きなさい。」


彼女は、ためらいもなくエリアスを指さした。


【シエレリス】「もし私の聞き違いじゃなければ、あの愚か者は「教団の《球体》」を、あの「聖なる土地」で吸収したってことでしょ? あの辺りって、《生命》のエネルギーが土地にまで染み込んでるのよ。作物にも、人間にも。」


【イザベル・ブラックウッド】「「今は時間がない」って言ったくせに、なんでそんな長話始めるのよ?」


【シエレリス】「我慢なさい。ちゃんと意味ある話だから、最後まで聞いて。」


彼女は指を弾くように小さく動かす。


【シエレリス】「エリアスは、自分の《オーリックレベル》を見誤ってたのよ。あの土地の《生命》エネルギーにずっと晒されてたせいで、吸収時点でギリギリだったの。で――」


イザベルの目が見開かれる。


【イザベル・ブラックウッド】「……そして、落下した《球体》に近づいたとき――」


【シエレリス】「――ぶっ壊れたのよ。」


その唇には冷たい笑み。


【シエレリス】「教会がもう少し他の教団を研究してれば、こんな事態にならずに済んだのにねぇ。」


イザベルの拳に力がこもる。

剣の柄を握る手が白くなる。


【イザベル・ブラックウッド】「黙れ、異端者。……また同じ手は通用しない。」


シエレリスが何かを返そうとした、その瞬間――


低く、濁った唸り声が祭壇から響いた。


エリアスが膝をつき、杖を握りしめている。

緑の光が、脈動するように激しく燃え上がっていく。


【イザベル・ブラックウッド】「エリアス! どうしたの!?」


二度目の唸り声はさらに重く、粗く、まるで石が石を引きずるような音だった。


イザベルは一歩下がり、剣を構える。

鼓動が速くなる。


エリアスはゆっくりと立ち上がった。

濁っていた目が、今は緑の灯火のようにぎらついている。


その顔に浮かぶのは――獣のような、歪んだ笑み。


シエレリスは息を呑み、即座に振り返ると、駆け出していた。


イザベルが反応する前に、異端者は神殿の扉の向こうへと消えた。


そして――

エリアスが口を開いた。


その声は深く、地響きのように響き渡る。

もはや人間のものではなかった。


【エリアス・モルヴェイン】「誰一人逃がさん。……我が聖なる群れに、加わるがよい!」


イザベルは息を詰める。


(何言ってるの……? 間者は出ていったばかりじゃない? それなのに「誰も」って――)


もしかして――本当に、もう正気じゃないのか。

完全に、力に飲まれたのか。


まるで彼女の思考を嘲笑うかのように――

シエレリスが再び神殿の中に姿を現した。


緑の靄の中からふらつくように戻り、額を押さえている。

新しい痣が浮かび上がっていた。


【イザベル・ブラックウッド】「な、なぜ戻ってきたの!? また幻術でも仕掛ける気!?」


【シエレリス】「違うわよ……望んで戻ってきたんじゃない。」


彼女は顔をしかめながら、コートの裾を払いのける。


【シエレリス】「外に……エネルギー障壁が張られてる。外には……誰も出られないわ。」


イザベルは言葉を失った。


【イザベル・ブラックウッド】「じゃあ……今度こそ、本当に「あんた自身」なの? 幻じゃなくて?」


【シエレリス】「そう。……驚いた? でも事実よ。

私たち、二人ともここに閉じ込められたの。……あの化け物と一緒に。」


エリアスの周囲に、不気味な緑の炎が燃え広がる。

ひび割れた石の床を這い、壁を舐めるように登っていく。

まるで意志を持っているかのように――


反射的に、二人の女はエリアスに向き直る。


イザベルは前に出る。剣を構え、全身の筋肉が緊張した。


静かに《オルビサル》への祈りをささやきながら、体内の《チャクラ》に力を流し込む。


雷光が四肢を駆け抜け、脚から背骨、そして剣へと集まっていく――


【イザベル・ブラックウッド】「《オルビサル》の御名において!」


シエレリスも横に並び、エリアスから目を離さない。


【シエレリス】「せめて、説教の半分くらいは戦えるといいけどね、ワーデン。」


【イザベル・ブラックウッド】「黙ってて。」


そして――力を解き放った。


稲妻が神殿を引き裂いた。


――視界が一瞬で真っ白に塗り潰された。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

エボンシェイドの運命は、ますます混迷を深めていきます。

次回もぜひお楽しみに!


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