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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
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第74章: 死者の群れと三つの球体

今回はちょっと長めで盛りだくさん!

デレク側では死者の群れが登場し、イザベル側ではついにシエレリスと対峙します。

物語の核心に近づいてきた感じが出せれば嬉しいです。

地面がデレク・スティールの足元で、刻一刻と激しく揺れた。嵐に煽られていた木々は、今や小刻みに震えていた。


空になった家畜囲いの門が、錆びた蝶番でガタガタと鳴り、まるで怯えたガチョウの悲鳴のように響いた。


ツンガ・ンカタはしゃがみ込み、泥まみれの地面に手を突っ込むと、目を閉じた。


デレクは周囲を見渡し、発生源を探った。


【デレク】「ヴァンダ、なんだこれは」


【ヴァンダ】「……質量の接近を検知しています」


【デレク】「「質量」? その言い方、だいぶざっくりしてるな」


【ヴァンダ】「申し訳ありません。明確なデータは取得できません。ただ、こちらに向かってきています」


【デレク】「ヴァンダ、この世に質量のないものなんてねえだろ。具体的に言えよ、どんな質量なんだ? 押し潰されるかどうかぐらい教えてくれ」


ツンガが素早く立ち上がった。


【ツンガ】「死者だ。鎧の女、正しい。今、行くぞ」


デレクは息をひとつ吐いた。


【デレク】「ヴァンダ、あの質量からできるだけ離れるルートを表示しろ。退避中に潰されたら笑えない」


NOVAのHUDに青いラインが浮かび上がり、ウォーデンから離れ、密林の奥へと向かっていた。


【デレク】(……クソッ)


【デレク】「ヴァンダ、このルート、ロスメアから外れてる。もしエリアスがイザベルを狙ったら、俺じゃ間に合わないぞ」


【ヴァンダ】「《死者》は内陸部へ進行中です。蹂躙を避けるには、速やかな退避が最優先と判断されます」


【ツンガ】「ウォーデン、神殿で安全。我ら、ここで死ぬ」


遠くに見える石造りの神殿をデレクは見つめた。ツンガの言う通りかもしれない。もしエリアスが《死者》を操っているなら、自分の拠点を攻撃させるはずがない。イザベルは安全だ――


少なくとも、今のところは。


だが彼女は――あの神殿で一人きりだった。


死者を蘇らせた司祭と、二人きりで。


それも、俺が――


【デレク】(俺があそこに送ったんだ)


彼女は行った。なぜなら――俺を信じていたからだ。


《カシュナール》を信じていた。


……だというのに、今、俺は彼女を見捨てようとしてる。


そのとき、何かが肩を掴んだ。圧力はNOVAの神経接続を通じて、現実と区別がつかないほどだった。


振り返ると、ツンガがこちらを真っすぐ見据えていた。その目がすべてを物語っていた。


ツンガは顎をしゃくって、密林の方を示した。


【ツンガ】「行くぞ、悪魔よ」


デレクは唇を噛み、うなずいた。ここで死んでも、何も変わらない。状況が落ち着いたら、戻ってくればいい。


近くの茂みが爆ぜるように吹き飛び、葉と泥が舞い上がった。その中から、巨大な角を持つ頭部が突き出された。直後、同じような獣が何十頭も続いた。


それらは、異様に肥大した水牛のようだった。命を冒涜するかのような醜悪な姿。角は割れてねじれ、いくつかは根元から折れている。毛皮はぼろぼろに剥がれ、乾いた泥と血にまみれた皮膚に貼り付いていた。首には錆びた馬具がかろうじて残り、壊れたくびきが身体から垂れ下がっている。生前は家畜だった証だ。一部は今もカウベルをぶら下げていて、歩くたびに鳴るその音が、不気味な静寂を破った。


白く濁った目は、命の光を持たず、ひたすら前方を見据えていた。蹄が泥を踏むたび、発光する泡立った足跡が残る。


うなり声も、叫びもない。ただ、沈黙のまま突進してきた。


圧倒的な死の肉塊が、一糸乱れぬ動きで押し寄せてくる。


【デレク】(……あの犬と同じか)


最初に襲ってきた、あの死んだ犬と同じだった。動き、集中力――すべてが一致している。


あれと同じように、こいつらも《エボンシェイド》の動物だったのだろう。死者に襲われたとき、小屋に閉じ込められ、死体に囲まれたまま――。


逃げ道など、なかった。


そして今、彼らは別のものになっていた。


蘇った群れ。


エリアスの軍勢に加わった、もう一つの兵器。


彼らは、一つの塊として進んでいた。


大地を叩く黒い矢のように、完全な調和でこちらへ向かって突き進んでくる。


――まるで、何かに導かれているかのように。


今は、逃げるしかない。


ツンガが空に手をかざすと、木々の上から蔓が垂れてきた。それをつかみ、一瞬で姿を樹冠へと消した。


デレクは脚部アクチュエーターを最大出力で起動させた。NOVAは黒い弾丸のように加速し、ヴァンダが示したルートを突き進む。


密林の奥へ。


ロスメアから――


そして、イザベルから――離れていく。


―――


イザベル・ブラックウッドは、ゆっくりと金属製の扉を閉めた。古びた蝶番がきしみ、その音が《オルビサル》の神殿全体に反響した。


空気には、古い香の匂い、カビの湿気、そして焦げた蝋の残り香が混ざっていた。


中は荒れ果てていた。


ロスメアにある荘厳な神殿とは違い、ここは質素な造りだった。円形の配置に粗削りな石柱、そして煤けた梁でできた傾斜天井。


信者席は散乱し、いくつかは倒れたまま、いくつかは祭壇の近くに乱雑に積み上げられていた。石壁には聖印が刻まれていたが、その輪郭は時と風化に削られていた。


イザベルは慎重に足を運んだ。床は歪み、足音が微かに響く。その上を屋根を叩く雨音が覆っていた。


あの方は、私をここに送ってくださった。


エリアスの目を欺き、《アリラ》と《シエレリス》を守るために。


でも最初から、成功しないと分かっていた。偽りは、あの方や《シエレリス》の領分。私の道ではない。


――私は、話しに来た。


今は狂気に支配されていても、あの人の奥には、かつて《エボンシェイド》を守った司祭がいるはず。


彼の心も、この神殿のようなものかもしれない。荒れ果ててはいるが、まだ再建できる。


イザベルは、狭い窓から外を見た。雨が打ちつける無人の通りを。


私は剣のほうが得意だ。語るよりも、《オルビサル》の雷を振るう方が。


それでも今は、言葉を尽くすと決めた。アリラのために、誰かのために。


そして、できるなら――


エリアスの苦しみにも、終わりを。


背後で金属音が響いた。蝶番がまたきしんだ。


イザベルは反射的に振り返った。


扉の向こうには、長いローブをまとった痩せた人影が立っていた。静かに扉を閉め、じっとその場に立っている。


【イザベル】「……エリアス?」


ゆっくりと一歩前へ出る。腕を下げ、体の力を抜き、揺れる灯りの中ではっきり姿を見せた。


これは待ち伏せではない。ここで、正面から待っていた――その覚悟を示すため。


【???】「ウォーデン……か」


甲高く、かすれた声。


その人物は首を左右に動かしたあと、イザベルの目を捉えた。


【???】「《カシュナール》はどこだ?」


イザベルは深く息を吸い、心を落ち着かせた。


【イザベル】「話をしに来たの。彼はここにいないわ」


相手は黙ったまま、そこに立ち続けていた。


だが、攻撃してこない。


【イザベル】「あなたの信仰に、訴えに来たのよ。エリアス」


沈黙が続く。


それでも去らない。


聞いている。


【イザベル】「民は苦しんでいるわ。あなたの力――《オルビサル》が《エボンシェイド》を守るために授けたその賜物が、今は歪んでしまっているの」


動きはない。


だが、そこにいる。


【イザベル】「心が曇っているのは分かってる。でも、ロスメアに来てくれれば、私たちが助けられる。あなた自身を取り戻せるはずよ。ここで何が起きたのか、その真実も――」


その静寂を破ったのは、高く澄んだ、音楽のような笑い声だった。


かすれていない。


エリアスではない。


イザベルの体が凍りついた。


ローブの人物が一歩前に出ると、紫の煙が体を包んだ。


イザベルは剣の柄に手を伸ばした。


【イザベル】「……オルビサルの御名において、これは――」


煙が晴れる。


そこに立っていたのは、シエレリスだった。唇には、ぞっとするほど自信に満ちた笑み。


【シエレリス】「お願い、わたしだって分かってて演技してたって言ってよ」


イザベルは剣を抜いた。


【イザベル】「ここで何をしている、異端者」


【シエレリス】「本気で「あれ」が本物のエリアスだと思ってたの? 説教でもして、ロスメアまで同行させるつもりだったの? ほんとに? 《スプラウト》で教えること、変わったのかしら。……アリラよりも、あんたのほうがよっぽど救いがないわね」


名前を聞いた瞬間、イザベルの血が沸騰した。


【イザベル】「……アリラに何をした、卑劣なスパイめ!」


【シエレリス】「落ち着きなさいってば。アリラは無事。鍛冶場で、マーカスと子どもたちと一緒に隠れてる。もう何日も経ってるけど、あと数時間は持つはずよ」


【イザベル】「異端者の言葉を信じるほど、私は甘くない」


【シエレリス】「信じなくてもいいし、斬ってもいい。お好きにどうぞ」


イザベルは顎を引き、剣に雷を流した。刃の上で、細く不安定な火花が踊る。


【イザベル】「スパイで誘拐犯なら――斬って当然ね」


【シエレリス】「……情報があるの。「この騒ぎ」の本当の理由」


イザベルの足が止まった。


【イザベル】「また戯れ言か。聞くだけ時間の無駄よ」


【シエレリス】「村の人たちは何も分かってない。でも、私は気づいたの。全部、エリアスと「あの教団」のせい」


【シエレリス】「死者を蘇らせるには《生命の球体》が必要。そして、死者を還すには《死の球体》。教団はずっと、それを道具にしてきたのよ」


シエレリスは手で空中に円を描いた。


その瞬間、数十体の分身が紫煙とともに現れ、神殿内を取り囲んだ。


イザベルは目を細めて、本物を見極めた。


【イザベル】「その幻術……命取りだったわね」


彼女は剣に雷を集めた。


【イザベル】「これが最後の警告よ。幻を解いて、投降しなさい」


シエレリスはまったく動じていなかった。口を開くと、その声はすべての分身に反響し、不気味なハーモニーを生んだ。


【シエレリス】「この暴走している魔力……三つの《球体》が関係してるの。一つは空から落ちてきたもので、あとの二つは教団が隠してたやつ」


イザベルは即座に動いた。剣を振りかざし、雷の奔流を放つ。


電撃は次々と幻を貫き、ひとつずつ紫の煙となって消えていった。空気はオゾンと、焦げた香の匂いに満ちた。


最後に残ったのは、神殿の壁という壁から反響する一つの声。


【シエレリス】「エボンシェイドを救いたいなら……残り二つの《球体》を探すのよ」


シエレリスの最後の姿が揺らめき――


そして、消えた。


イザベルは再び、神殿にひとり取り残された。



最後までお付き合いありがとうございます!

デレクたちとイザベル、それぞれの場面がますます緊迫してきました。

次回はもう少し意外な展開が待っていますので、ぜひ続きも読んでくださいね。

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