表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
70/102

第70章: 双子の死者と閉ざされた納骨堂

今回の舞台はちょっと薄暗〜い納骨堂。

ちょっと怖いかもですが、まあまあ……最後まで読めば大丈夫(?)です!

それでは、本編どうぞ!

アリラは立ちすくんでいた。口をわずかに開け、《地下納骨堂》の冷たい空気が喉を滑り落ちる――湿っていて、土と死の臭いが混じっていた。


本当に……あれ、聞こえたの? それとも、ただの幻……?


シエレリスは、氷のような無表情で階段を見下ろしていた。


まるで顔全体が凍りついたみたいに。


彼女がいなければ、アリラはあれが幻聴だったと信じていたかもしれない。


でも――違った。あの階下に眠っている《双子の死者》が……話しかけてきたんだ。


言葉は聞き取れなかった。ただ、風に乗った囁きのように、意味も曖昧で……でも声の調子だけは覚えていた。


あまりにも――楽しげで、無邪気で。


自分たちが死んでいることに、気づいていないような声だった。


アリラは、あの《地下納骨堂》に潜む「何か」に出会いたくなかった。


息が浅く早くなり、震える吐息が空気を曇らせる。


彼女は扉の金属の取っ手に手を伸ばした。


その瞬間――何かに腕を掴まれ、ぐいっと引き戻された。


凍った自分の腕を見下ろす。なにこれ? どうして……?


【シエレリス】「もう一歩でも進んだら、気絶させるわよ」


彼女の手はアリラの腕をがっちりと掴んでいた。


【シエレリス】「限界なのよ、アリラ。今度こそ――台無しにされるわけにはいかないの」


【シエレリス】「外には腹ペコのゾンビがうろついてる。気づかれたら、あっという間におしまい。出るなんて無理」


【シエレリス】「扉? 開けさせないから」


アリラは固まったまま、扉を見つめた。


開けることは、ひとつの悪夢から逃げて、別の地獄に飛び込むこと。


異端者の言うとおりだった。でも……この下には、何がいるの?


喉が乾きすぎて、何かで塞がれているみたい。


【アリラ】「納骨堂の中に……」と震える声で囁き、下を指差した。


【シエレリス】「聞こえてるわよ。耳は飾りじゃないの」


【シエレリス】「しかもあれ、ただの女の子たちだったわ。あれくらい、私たちで片づけられる」


【シエレリス】「でも外は違う。だから、扉なんて絶対に開けないで」


しぶしぶ手を下ろし、アリラは階段を見やった。


【アリラ】「……こわいよ」涙が頬を伝う。


シエレリスの目元が、ほんの少しだけやわらいだ。


【シエレリス】「そりゃそうでしょ。でも、オルビサルに仕えたいんでしょう?」


【シエレリス】「イザベルみたいな《ウォーデン》になりたいなら――もっと怖いものにも立ち向かえるようにならなきゃ」


アリラは鼻をすすり、小さく頷いた。


そうだ。彼女の言うことは正しい。


訓練も頑張ってきたし……ずっと夢見てた。イザベルと一緒に戦う日を――パートナーとして。


そして《デレク・スティール》と三人で、《ナルカラ》を《魔物》から守る日を。


あんな夢を本気で叶えたいなら……たったふたりの子に怯えているようじゃ、そんな夢なんて到底叶えられない。


アリラは、今度ははっきりと頷いた。深呼吸して、拳を握り、顔を上げた。


シエレリスは一瞬彼女を見て、くっと頷いた。


【シエレリス】「よし。それでいい。準備して」


彼女の手に、黒い刃の短剣が現れた。


アリラはそれを初めて見た。


この世界のものとは思えない、不吉な気配が漂っていた。


【シエレリス】「《死の結晶》が仕込まれてるの。長くは持たないけど、数発なら効く。あの子たち相手なら十分」


【アリラ】「でもそれ……禁止されてる《魔法》じゃ……」


【シエレリス】「私たちには関係ないわ」


【シエレリス】「父の言葉を借りるなら――「死は世界の一部よ。命も火も、オルビサルの《球体》たちも、全部等しく空から落ちてくる」。死だけを禁じるのは、オルビサルに「間違いがあった」って言うようなもの」


アリラは顔をしかめた。


異端の考え方……でも、教えられてきたほど狂ってもいないし、冒涜的でもない気がする。


【アリラ】(……おかしくない。むしろ、すごく……納得できる)


シエレリスは短く息を吸い、階段へと一歩踏み出した。


短剣を構え、もう片方の手には小さな紫の《球体》がふわりと浮かんでいる。


【アリラ】(呪文の準備……?)


そのとき――


???「あら……いい子たちね!仲直りできたの?じゃあ、みんなで遊びましょう!」


シエレリスはピタリと止まった。


アリラもすぐ背後で、拳を構えたまま構える。アンデッドに効果があるかどうかも分からないけど、それしか知らないから。


そして――ふたりの声が、まるで歌うように、無邪気に響き始めた。



あそぼ よるがきた

ほしがひかる うんめいよ

おもちゃもって てをつなご

ねむるくにで ゆめをみよう


しずかにね なかないで

ひとりじゃ つまらないの

さいごまで いなかったら……

それでも みつけちゃう かわいいおともだち



階段の上に、ふたりの白い影が姿を現した。手をつないでいる。


小さな裸足が、石の階段を軽く叩く。その音が、静かな空間に響いた。


アリラは息をのんだ。水晶の淡い青い光が、ふたりの姿を照らしていた。


まったく同じ顔、同じ服。忘れ去られた人形のように、じっと動かない。


着ているのは、色あせたワンピース。泥だらけで、赤と青の花模様が、かつて誰かに愛されていた証のようだった。


足は汚れ、髪は濡れて絡まっている。


微笑みを浮かべている。でも――その笑顔は、目に届いていなかった。


光を映さない、くすんだ瞳孔。空っぽの目。


まるで、自分たちが死んでいることを……知らないか、忘れてしまったみたい。


ふたり「こんにちは」


ふたり「おもちゃ、持ってきてくれた?」


アリラはシエレリスを見た。彼女は目を見開きながら、じっと双子を見返していた。


【アリラ】「な、ないです……ご、ごめんなさい……」

気づいたら、拳をまだ握っていた。そっと下ろす。


でも、双子は気にしていない様子だった。笑顔が消え、片方が唇をとがらせた。


???「みんな、プレゼントくれるのに」


【シエレリス】(声のトーン少しやわらげ)「ふふ……じゃあ、これはどう?」


彼女は片手を振って、小さなビーズのブレスレットをふたつ出した。どこか不自然に明るい声で。


双子は嬉しそうに跳ねるように近づき、手を伸ばした。


シエレリスは、それをそっと彼女たちの骨ばった掌に落とした。


ギギ……カタ……ッ


喜びの声が上がった。でも、それは子供のような笑い声ではなかった。


古びたオルゴールが壊れかけで鳴るような、かすれた音色。


【アリラ】(ぞっとする……)


ブレスレットが骨の手首に緩く滑り落ち、肉のない皮膚が垂れていた。


シエレリスの判断は正しかった。《幻術》で誤魔化した。冷静さもすごい。自分だったら叫び出していたかもしれないのに。


【アリラ】(どうか気づかないで……それが幻だって)


ふたりがアクセサリーに夢中になっているあいだ、シエレリスはゆっくりとアリラの隣へ移動してきた。目は固く張りつめている。


【アリラ】(小声)「……なにか、おかしい?」


【シエレリス】「来たときから起きてたの。声を出さなかったのは、怯えてたから。でも、いつからああなってたのかは――わからない」


【アリラ】「だから、なに……?」


【シエレリス】「《目覚めの儀式》は長く持たないの。時間が経てば……戻れなくなる」


【アリラ】「……なんで?」

(すでに、聞きたくない予感があった)


【シエレリス】「戻ってきたときはまだ大丈夫。でも長く現世にとどまれば、魔力が身体を壊し始めるの」


【シエレリス】「《密林の魔獣》もそう。限界を超えて力を使おうとする人も同じ。自我が崩れて、化け物になるのよ」


アリラはふたりの少女を見た。


まだブレスレットを眺めながら、嬉しそうにしている。


でも――その仕草はどこかおかしい。ポーズは不自然で、動きはねじれていた。


【アリラ】(……どれくらい前から起きてたんだろう。あとどれだけで……)


【シエレリス】「そう。今、あんたの顔見れば分かる。もう気づいてるんでしょ? 私たちの「問題」に」


【アリラ】「……じゃあ、どうするの?」


シエレリスは短剣を構えたまま、揺れる緑の瞳でアリラを真っすぐ見つめた。


【アリラ】「嘘……でしょ? 本気なの? 見てよ。あの子たち……ブレスレットで遊んでるだけ。誰も――誰も傷つけようなんて思ってないよ!」


【シエレリス】「アリラ。あの子たちは――もう死んでる」


【シエレリス】「そして私たちも、動かなければすぐに――同じようになる」


シエレリスの視線の先で、少女たちは無邪気な笑みを浮かべていた。まるで、自分の身体が朽ち果てていることに気づいていないみたいに。


【アリラ】(もしかしたら、あの子たちの家族も……最初は「戻ってきた」って思ったのかもしれない)


【アリラ】(でも……どうして気づかなかったの? この恐ろしさに。悲しみって、そこまで目を曇らせるの?)


【シエレリス】「ただ、眠らせてあげるだけよ。元の眠りに――ね」


アリラは汗ばんだ額を拭った。


正しい。シエレリスの言ってることは全部、正しい。


でも――どうしても、ただの子供に見えてしまう。


何もかもを奪われて……それでも笑ってる子たちに。


【アリラ】(殴れって……いうの?)


胃がきりきりと痛み、酸が喉までせり上がる。


シエレリスはアリラの肩に手を置き、まっすぐに見つめた。


【シエレリス】(低く、優しく)「……いい? 私のこと、「異端」だとか、「化け物」だとか思ってるんでしょうけど……それでも、これはやらなきゃいけないの」


【シエレリス】「もし相手が一人だけなら、私がやる。でも、ふたりいる。だから……あんたに片方を抑えてほしい」


アリラの鼓動が耳を打つ。細胞ひとつひとつが、逃げろと叫んでいた。


【アリラ】「抑えるって……どういう意味? ひとりを押さえてる間に……もうひとりが、姉妹が殺されるのを見るの? それをやれって言うの!?」


【シエレリス】「……簡単じゃないわよ。あの子たち、本物の「子供」じゃない。こちらの動きに気づけば、反撃してくる」


【シエレリス】「あんた、「芽生え」でちゃんと訓練受けたんでしょ?」


アリラは唇を噛み、コクリと頷いた。


シエレリスはしばし彼女を見て、唇を引き結んだ後、短く頷いた。


【シエレリス】「いいわ。じゃあ――」


彼女が振り向いた、その瞬間。


【アリラ】「……いない」


姿が、なかった。


一切の音もなく、消えていた。


【アリラ】「ど、どこに……?」


シエレリスは、階段へとにじり寄る。


【シエレリス】「下に戻ったのね。他に隠れる場所なんてないし」


【アリラ】「うん……行かないと。壊れる前に……終わらせなきゃ」


そして――


???「ブレスレット……ただの幻だったのね。騙したのね」


その声に、シエレリスの目が見開かれる。


彼女は短剣を素早く構え、階段に向けた。


【シエレリス】「アリラ、下がって。来るわよ」


???「アウレリア、すごく悲しんでるの……」


【シエレリス】「ごめんなさい、マリン。次はちゃんとしたのを持ってくる。約束するわ」


アリラはすぐ脇へと移動した。横から狙うつもりだった……でも、そんな勇気が自分にあるのかは分からなかった。


???「だめええ!! お姉ちゃん泣いたもん……! だから、もうここからは出られないよ!!」


アリラは訓練通りに身構えた。


全身の筋肉が引き絞られ、弓のように固くなる。


汗が髪を伝い、濡れた服に染み込む。心臓の鼓動が、耳の奥で大砲のように響く。


――そして。


影が走った。


それに続くのは――人のものとは思えない、裂けたような叫び。


まるで、地獄から這い出てきた《捕食者》。


一瞬前まで短剣を構えていたシエレリスが――次の瞬間には床に叩きつけられ、《それ》の重みに押し潰されていた。


アリラには、何が起こったのか理解できなかった。


少女――もう「少女」とすら呼べない《もの》が、鉤爪でシエレリスを引き裂こうとしていた。


【アリラ】「――っ!」


彼女が一歩踏み出したその時、背後から二つ目の叫びが――


アウレリアの虚ろな目が、目の前に迫っていた。


砕けた歯をむき出しにし、獣のような唸り声。


そして、胸に鈍い衝撃が走った。


肺から空気が一気に抜けて。


意識がぐらつく。


背中に石床の硬さが叩きつけられる。


アウレリアが、上にいた。


喉元へと伸びる口。


必死に押し返す。


【アリラ】(だめ、強すぎる……!)


『油断しないで』――シエレリスの声が、頭の奥で響く。


アリラは脚を引き寄せ、膝を《それ》の腹に叩き込んだ。


アウレリアは吹き飛ばされたが、すぐに四つん這いで着地し――獣のような声で、再び跳びかかる。


アリラはその顔面に拳を叩き込んだ。


全力で。


――バキィ!


骨が砕ける感触。


アウレリアは揺らいだ。


でも、倒れない。


戻ってくる。


アリラはもう一度。さらにもう一発。


拳が骨を砕く感触。皮膚は紙のように薄く、冷たく、肉体は壊れかけていた。


でも――それでも。


《それ》は――止まらない。


技術なんてない。ただ、狂ったような怒りの塊――まるで獣だった。


あるのは狂気と怒りだけだった。


そして、なにより恐ろしいのは――


止まらないということ。


アリラは、もう疲れていた。拳に力が入らなくなってきていた。


力が足りない。


視界の隅に、地面でもがくシエレリスの姿が映った。


負ける……!


【アリラ】(私は《ウォーデン》じゃない……)


【アリラ】(私は、ただの芽生え(スプラウト)……!)


ここで死ぬ……

いや、それよりも恐ろしいのは――


ここで《それ》になってしまうことだ。


……永遠に、閉じ込められる。


アリラの頬を、涙が伝った。


――そしてその瞬間。


轟音が鳴り響いた。


何かが、《納骨堂》の扉に叩きつけられた――

ここまで読んでくださってありがとうございます!

もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ