第67章: 鋼の審判
※今回の話には、ややショッキングな描写や感情的な展開が含まれます。
アリラ、シエレリス、そしてデレク――それぞれの「選択」が、運命を大きく動かします。
物語は、ついに《鋼の審判》へ。
最後まで読んでいただければ幸いです!
デレクは凍りついた。女の子のような叫び声が、脳を針で突くように刺さってきた。
彼はいまだに空中にぶら下がっていた。ゾンビの木のねじれた枝に絡まり、糸で吊られた人形のようにじたばたしていた。
アリラの姿は消えていた。イザベルは攻撃を受けている。ツンガはどこかの密林で行方不明だ。
……いつまでも突っ立っている場合じゃない。
けれど――
木が、叫んでる? しかも少女の声で?
【デレク】「なんだよ、これ……?」と彼はぼそりと呟いた。
その混乱を、ヴァンダの声が冷静に切り裂いた。穏やかだが、緊張感に満ちていた。
【ヴァンダ】「デレク。先ほどの声は、アリラの声紋と一致します。彼女は近くにいるはずです」
デレクはまばたきした。目が見開かれる。
――木が叫んでたわけじゃない……?
アリラ……あいつ、近くにいる。
必死に視線を走らせる。
ゾンビの木の上。浮かぶラベル:
ブロンズレベル4
……手強い。だが、過去にはこれ以上の化け物とも渡り合った。
相変わらず、レベルの下にヘルスバーはない。どうやらアンデッド共通の特徴らしい。
地上では、イザベルが剣を掲げて雷撃を放っていた。枝を焼き払っているが、虫の群れがじわじわ迫ってきていた。まだ取りつかれてはいないが、表情には疲労の色が浮かんでいた。
ツンガは……いったいどこに?
デレクは木の上を見上げる。
いた。ツンガは蔦に絡まりながら宙づりになっていた。生きた木がゾンビの木に絡みつき、彼はその中心でボロ人形のように揺れていた。そして――
【ツンガ】「グォォォッ! シャイタニ……くそ木ッ!」
どこかの部族語で怒鳴っていた。
……駄目だ。あいつは、まだしばらく抜け出せそうにない。
急がなきゃ。
デレクはプラズマブレードを起動し、自分の脚を押さえていた枝を切断した。
重力が襲いかかる。
葉と枝がNOVAの装甲を叩きつけ、ヘルメットが顔面を守ってくれた。落下の直前に、マイクロスラスターを作動させて、衝撃を軽減した。
頭上から、鉤爪のように曲がった二本の枝が襲ってくる。
戦術データリンクが作動し、HUDに迎撃軌道が投影される。
躊躇はなかった。両方、切り落とした。
枝が接触する寸前に。
切られた枝は、蛇のように地面でのたうち回った。
デレクは四百キロのNOVAで、それを踏み潰した。
パン、という乾いた破裂音。
プラズマブレードを収納し、プラズマキャノンを展開。思考で焼夷モードに切り替える。HUDにアイコンが点灯し、即応モードへ。
【ヴァンダ】「デレク。この攻撃は、ジャングルの半分を燃やすリスクがあります」
【デレク】「ツンガの火球、葉っぱ一枚も焼けてなかった。……たぶん魔法の火は、現実の火とは別物だろ」
……あるいは、同じかもしれない。
だが、議論の余地はなかった。
考える間もなく――デレクは倒れたゾンビの幹を狙った。
樹皮の裂け目から、ねじくれた二本の枝が突き出し、骨のような鉤爪をパチンと開閉させながら襲ってくる。
――上等だ。
デレクは撃った。
二発の黄色いプラズマ弾が、矢のように飛び出す。腐った木を貫き、着弾点に光が灯る。
そして――
轟音とともに爆炎が炸裂した。
幹全体が、火に包まれる。
ツンガを絡めていた枝も、イザベルに迫っていた枝も、のたうち始めた。火を振り払おうと、幹ごと暴れ回っている。
ツンガは、生きた木の蔦に包まれながら、地面に静かに降り立った。
彼の顔には、苦痛でも恐怖でもない――戦士特有の研ぎ澄まされた眼差しが宿っていた。
一方――
イザベルは、足元に虫の群れが迫る寸前で、鋭く動いた。
【イザベル】「神よ……導き給え!」
叫びながら、剣を地面に突き立てる。
眩い雷撃が、波紋のように四方へと広がった。
虫たちの動きが止まる。
ぐるぐると体を丸め、回転し始め――
やがて、一匹ずつ――パチンッと弾けて、透明な体液を撒き散らした。
ツンガが杖を振り上げ、火の玉をゾンビの木に叩きつける。炎が勢いよく広がり、燃えさかる幹をさらに包み込む。
【ツンガ】「焼けろ……シャイタニ!」
イザベルもすかさず応じる。剣の先端から雷撃が網のように放たれ、幹を電気の繭で包み込んだ。
火花が飛び散り、ホタルのように空を舞う。
……だが、奇妙なことに、炎は他の木に燃え移らなかった。
あたりの音はすべて、燃える枝のきしみと炎の唸りにかき消されていた。
ゾンビの木は、己の燃える幹を叩いて火を消そうとしていた。
――無駄な努力だ。
終わったか?
だがその時――
また、あの少女の悲鳴が響いた。
今度は、はっきりと方向がわかる。
【デレク】「待ってろ、アリラ!」
彼は振り返り、イザベルの方を向く。
【イザベル】「行きなさい。ここは私とツンガでなんとかするわ」
デレクは短くうなずいた。
【デレク】「ヴァンダ、脚部アクチュエーターに全電力。装甲重量を最小限に。アリラへの最速ルートで飛ぶ」
【ヴァンダ】「了解しました、デレク」
数秒後、デレクはゾンビの木を跳び越え、鋼の弾丸のようにジャングルを突き抜けていった。
【デレク】「待ってろ、アリラ……」
歯を食いしばり、つぶやいた。
――今度こそ、間に合う。
アリラは、シエレリスの背後に身を潜めていた。
幻術師はじっと動かず、見開いた目で密林の奥を見つめている。呼吸は荒いが――それは疲労からではなかった。
アリラはごくりと唾を飲み込んだ。
【アリラ】「なに――」
【シエレリス】「シッ!」
彼女は素早く唇に指を当て、小声で囁いた。
【シエレリス】「まだ見つかってないかも。誘い出そうとしてるだけ。古典的な手口よ」
アリラはこくりとうなずいた。
【アリラ】「でも……誰?」
【シエレリス】「知らないわ。今までのは全部ただの脳なしアンデッド。でもこれは……ウリエラが誰かを送ってきたのかもね」
アリラの心臓が跳ねた。
――ウリエラ?
大司祭が、自分を探して来るなんて――ない。そんなはずない。
本当の狙いは、シエレリス?
でも、この姿を見られたら……
果物食べながら、異端者と談笑してるとこ見られたら……どうなる?
「誘拐された」って話、信じてもらえるの?
……それとも、最初からグルだったって思われる?
……くそ。何もかも、シエレリスのせいだ。なんで巻き込んできたのよ!
鋭い声が空気を裂いた。嘲笑を含んだ、冷たい声。
???「何をコソコソ話してるんだ? 聞こえてないとでも?」
アリラの心臓が止まりそうになった。
一歩、下がる。
逃げ道を探して周囲を見回す。だが、もう遅い。完全に見つかってる。
……学院に戻りたいなら、ここは――協力するしかない。
彼女はシエレリスの背後から出て、両手を上げた。
【アリラ】「あのっ! 私、ここにいます!」
【シエレリス】「はあ? ちょっと、なにやってんのよ!?」
彼女が袖を掴み、小声で怒鳴った。
【シエレリス】「頭おかしいの? それともただのバカ?」
アリラは振り払った。
無視。もう無理。こんなスパイの命令なんか、聞いてられない。
【アリラ】「私、オルビサルの《芽生え》学院にいたんです! この人に、誘拐されたんです!」
叫びながら、シエレリスを指さす。視線は木々の奥――
助けに来てくれたはずの「誰か」を探した。
【アリラ】「オルビサルに感謝します! 見つけてくれて! そこにいるなら、出てきてください!」
返ってきたのは、落ち着いていて冷たい――そして、見透かすような声。
???「つまり君は、異端者のスパイに囚われた、無垢な少女……というわけだな?」
???「奇妙だな。君はずいぶんリラックスしていた。食事を共にし、自由に話し、拘束もされていなかった」
アリラの心が凍りついた。
――見られてた。
話していたところも、食事も、縄も何もなかったことも。全部。
膝に手をぎゅっと握りしめる。
……どうすれば、信じてもらえる?
視界が歪む。涙が、止まらない。
【アリラ】「ほんとに……ほんとなんです……」
か細い声。
通じないと分かっていても、それしか言えなかった。
【シエレリス】「やっぱりね」
冷ややかな視線を落としながら言う。
【シエレリス】「あなた、まだ子供だわ」
アリラは涙をぬぐい、鼻をすすった。
【アリラ】「黙ってて……全部あんたのせいじゃない!」
【シエレリス】「いいえ、違うわよ」
その声は、さっきまでの鋭さとは打って変わって、妙に優しい囁きだった。
――だが、近い。あまりにも近い。
枝がざわめいた。
白く細い手が、茂みをかき分けながら現れる。
葉を押しのけ、姿を見せたのは――
痩せこけた長身の男。牧杖を握り、頭には緑色に輝く《球体》。
【???】「……君が見つかってしまったのは、自業自得だ。スパイには沈黙が求められる。君は――うるさすぎた」
その男の顔は、灰色にたるみ、皮膚が垂れ下がっていた。
頭蓋骨の輪郭が露出し、歯は黄色く欠けている。
口元は、ニヤリと歪んで笑っていた。
……そして、頬の穴からは、ぐにゅりと白いウジ虫が這い出してきた。
だが――本人は気づいていないようだった。
アリラの心臓が一気に収縮した。
生きてるはずがないのに……しゃべってる……!
頭で理解するより早く、膝が崩れた。
体が、本能で危機を察知していた。
学院のことも、逃げる理由も、もうどうでもよかった。
殺される。
こいつに殺されて――魂の抜けた死体にされる。
このジャングルを永遠に彷徨う、腐った肉の塊として。
アリラは大きく息を吸った。肺が裂けそうなほど吸い込んで――
目を閉じ、叫んだ。
――その瞬間、頬に鋭い痛みが走った。
目の前に立っていたのは――シエレリスだった。
その目は怒りに燃え、まだ伸ばしたままの腕が震えていた。
叩かれた――?
アリラは頬を押さえ、まばたきする。
【アリラ】「な、なんで……?」
【シエレリス】「しっかりしなさい!」
容赦ない口調で怒鳴る。
【シエレリス】「オルビサルの《芽生え》ってのは、最初のトラブルで泣き叫ぶよう訓練されてるの? 階級、「おむつ係」かしら?」
【アリラ】「私は……まだ《芽生え》です……」
小さく答えるアリラに、シエレリスは眉をひそめる。
【シエレリス】「やっぱりね。なら、もう黙ってて。ジャングル中のモンスターに自分の居場所知らせたとこでしょ。ここは任せなさい。あの腐ったクズは、私がやる」
そのとき――
アンデッドの男は空をぼんやりと見上げていた。
そして、甲高く中性的な声で宣言した。
【???】「私はエリアス・モルヴェイン。この地に仕える、謙遜なる司祭である」
【シエレリス】「へえ。アンデッドでありながら、オルビサルの司祭ね。……いいわ、理由が二つになった。殺すには十分すぎる」
その言葉に、アリラは岩陰に身を隠すように身を縮めた。消えてしまいたかった。
――でも、目を閉じることはできなかった。
これはただの屍じゃない。
しゃべっている。思考がある。自分を「司祭」だと名乗っている。
しかも……強い。明らかに、今までのアンデッドとは格が違う。
杖の上に輝く《球体》も、異様だった。毒のようなオーラを放ち、脈動している。
エリアスは、シエレリスに向けて淡々と言った。
【エリアス】「お前は、私の庭に芽吹いた雑草だ。共同体を守るためには、根から引き抜くしかない」
杖の《球体》が脈動する。表面に走るひび割れから、緑色の光が漏れ出し、蛇の舌のようにうねりを描く。
だが、シエレリスは一歩も退かなかった。
腰に手を当て、挑発するような笑みを浮かべる。
【シエレリス】「来なさい、腐れ死体。最初の一撃は譲ってあげる」
アリラは息を飲んだ。喉がカラカラだ。
……なに考えてるの、この人。
その瞬間――
誰かの手が、アリラの口を覆った。
反射的に叫ぼうとした。だが声が出ない。
――アンデッドに捕まった!?
殺される!
必死に目を動かして確認して――凍りついた。
シエレリス。
また別の、シエレリスだった。
指を唇に当て、静かにという合図。
アリラは瞬きをして、小さくうなずいた。心臓の鼓動が、少しだけ落ち着く。
でも、どういうこと? 目の前にいたはずの彼女が、ここに……?
シエレリスはゆっくりと手を離し、アリラを解放した。
彼女はすぐに岩陰からのぞき見た。
もう一人のシエレリスが、まだエリアスと対峙している――。
【シエレリス】「行くわよ」
隣の彼女が、低くささやく。
【シエレリス】「ほんの数秒は稼げた。あれが幻だって気づくのは時間の問題。今すぐ動くわよ」
アリラは一瞬ためらうが、こくりとうなずいた。
二人は静かにその場を離れた。ほんの数歩進んだそのとき――
茂みがざわめいた。
現れた。次から次へと。
静かで青白い死体たちが、音もなくジャングルから姿を現した。
アリラはその場に立ち止まる。
シエレリスもぴたりと動きを止めた。
鋭く冷たい声が、ジャングルに響き渡った。
【エリアス】「愚かな娘だな。オルビサルの司祭が、そんな安っぽい幻に騙されると思ったか?」
アリラは振り返った。
汗が目に流れ込み、視界が歪む。
あたり一面、アンデッドだらけだった。
腐敗した痩せた身体が、あらゆる方向からこちらを睨んでいた。
あまりにも多くて、まるで木々の代わりに死者が立ち並んでいるかのよう。
……完全に、逃げ道はなかった。
エリアスの姿がふわりと現れた。
まるで霧が形を成したかのように。ローブの裾が地面をなで、枯葉や枝をかき分けていた。
アリラは拳をぎゅっと握った。
……泣きたい。逃げたい。
でも、それで何か変わる?
シエレリスが何か仕掛けるなら――ちゃんと見届けなきゃ。
【エリアス】「若い君には、特別に慈悲を与えよう」
甲高く、空虚な声が響く。
彼は枯れ枝のような腕を、アンデッドの群れへ向けて掲げた。
【エリアス】「君も、我らの教団の一員となるのだ。そして、オルビサルの永遠の光のもとで――贖われる」
【シエレリス】「来ないでっ!」
その声は震えていた。
さっきまでの自信は、そこになかった。
エリアスはゆっくりと杖を掲げる。先端の《球体》が、さらに強く輝き始めた。
【エリアス】「いい子だから、ちょっとだけその場でおとなしくしてなさい。すぐ終わるから」
まるで親が子どもの足からトゲを抜くかのような口ぶりだった。
……だが、その目に優しさはなかった。
虚ろだった。
魂のない目――
【エリアス】「すべては終わり、そして再び始まる。オルビサルの光のもとで」
緑の光が脈動し――
さらに明るく。
さらに強く。
――終わりが来る。
アリラは息を吸おうとした。
……吸えない。胸が締めつけられ、苦しい。
――死ぬ。
もう一度吸い込んだ。今度は、過剰だった。
彼女は叫んだ。
それしか、残されていなかった。
叫ぶこと。泣くこと。
――なにか。なんでも。
シエレリスはもう止めなかった。
彼女の目にも、涙が浮かんでいた。
【シエレリス】「……ごめんね、お父さん……」
すすり泣きながら、頭を下げた。
エリアスが杖を差し出す。
《球体》から、蛇のような緑のエネルギーが伸び――アリラへと、ゆっくり近づいていった。
【エリアス】「いい子だ。じっとしてなさい」
彼はささやいた。
その時――ジャングルが震えた。
重く、繰り返すような音。
まるで巨人が太鼓を叩くような、戦いの鼓動。
アリラは後ろを振り返った。
……今度はなに?
また新しい怪物?
闇の奥から這い出す、新たな悪夢?
音がどんどん大きくなる。耳をつんざくほどに。
何か――巨大な何かが、近づいていた。
エリアスも反応した。
しなびた首が、そちらにピクリと向く。
――次の瞬間。
ジャングルが、爆ぜた。
茂みが吹き飛び、葉が舞い、木片が空を飛ぶ。
アリラは、見上げた。
そこに、「彼」がいた。
黒いアーマー。血を吸った黒曜石のように、暗く光り――
バイザーの奥の双眼が、地獄の炎のように燃えていた。
橙色に燃えるプラズマブレードが、霧を焼き裂く。――まるで天から鎖で引きずり落とされた堕天使の翼だった。
ほんの一瞬。
光がすべてを飲み込む、その刹那――
彼は、宙に浮かんでいた。
鋼の神。
天使か?
悪魔か?
……どっちでもよかった。
エリアスは口を半開きにして呆然と見つめ――
唇が、祈りのように震えた。
――そして、裁きが下った。
デレク・スティールが落ちた。
あたかも死に絶えた星の怒りが姿を取ったかのように。
NOVAの両脚が、司祭の脆い身体に全力で叩き込まれる。
四百キロの鋼鉄、怒り、そして科学が一点に集中した。
それはもはや「衝撃」ではなかった。
――処刑だった。
骨が銃声のように砕け、ジャングルが揺れる。
エリアスの身体は、乾いた木のように粉々に砕けた。
抵抗など、一切なかった。
ただ、「パキッ」という音。
アンデッドたちが、痙攣する。
まるで電流が体中を貫いたかのように。
関節が軋み、内側から崩壊していく。
そして――動いた。
一斉に。
腕を伸ばし、彼に向かって押し寄せる。
だが、デレクは迷わなかった。
突撃した。
ブレードが空を裂き、軌跡を描く。
腕。脚。頭。
次々と切断され、地面に落ちるたび、濡れた鈍い音が響いた。
叫び声はない。
呻きも、痛みによる声も、ない。
アンデッドたちは、ただ鋼の幽霊に向かって手を伸ばし続ける――
その指は、骨の鉤爪。
だが、デレクは――速すぎた。
伸ばされた腕は、次々と切断され、プラズマの熱で焼き払われていく。
その時――
アリラが一歩、踏み出そうとした瞬間。
誰かの手が、肩に触れた。
ビクッとして振り返ると――シエレリスだった。
彼女はアリラを引き寄せ、低く言った。
【シエレリス】「今のうちよ。あいつが相手してる間に、逃げるわよ」
アリラは、デレクの方を見た。
彼は……どうなるの?
自分に、何ができる?
何十体ものアンデッドが、彼に殺到していた。
【アリラ】「デレクッ!」
残されたすべての空気で、叫ぶ。
【デレク】「とっとと逃げろ!」
怒鳴り返す声が響く。
【デレク】「じゃなきゃ、手加減できなくなる!」
シエレリスが「早く!」と手を振る。
あのスパイに従うのは嫌だった。
でも……他に選択肢はなかった。
そして――デレクは、はっきり言った。
「逃げろ」と。
彼は――助けに来てくれた。
ここにいる。自分のために。
もう、ひとりじゃない――そう、はっきりと感じた。
アリラは、最後にもう一度だけ、その背中を見た。
そして、走り出した。
シエレリスとともに。
ジャングルを突っ切って――
蔦を跳ね除け、茂みを越え、必死に走る。
走りながら、アリラは――
微笑んでいた。
頬を伝った涙は、もはや恐怖の涙ではなかった。
―――
雨が降り始めた。
大粒の雫が、葉を打ちつける。
速く。
強く。
やがて、それは激しい土砂降りとなった。
そのとき――爆発音が響く。
一発ごとに大きくなり、ジャングル全体を震わせていく。
まるで――世界の終わりのように。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
デレクの《審判》、いかがでしたでしょうか?
アリラの想い、シエレリスの決意――そして、迫りくる運命。
今後の展開もぜひお楽しみに!
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価をしていただけると励みになります!




