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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
67/102

第67章: 鋼の審判

※今回の話には、ややショッキングな描写や感情的な展開が含まれます。

アリラ、シエレリス、そしてデレク――それぞれの「選択」が、運命を大きく動かします。


物語は、ついに《鋼の審判》へ。


最後まで読んでいただければ幸いです!

デレクは凍りついた。女の子のような叫び声が、脳を針で突くように刺さってきた。


彼はいまだに空中にぶら下がっていた。ゾンビの木のねじれた枝に絡まり、糸で吊られた人形のようにじたばたしていた。


アリラの姿は消えていた。イザベルは攻撃を受けている。ツンガはどこかの密林で行方不明だ。

……いつまでも突っ立っている場合じゃない。


けれど――


木が、叫んでる? しかも少女の声で?


【デレク】「なんだよ、これ……?」と彼はぼそりと呟いた。


その混乱を、ヴァンダの声が冷静に切り裂いた。穏やかだが、緊張感に満ちていた。


【ヴァンダ】「デレク。先ほどの声は、アリラの声紋と一致します。彼女は近くにいるはずです」


デレクはまばたきした。目が見開かれる。


――木が叫んでたわけじゃない……?


アリラ……あいつ、近くにいる。


必死に視線を走らせる。


ゾンビの木の上。浮かぶラベル:


ブロンズレベル4


……手強い。だが、過去にはこれ以上の化け物とも渡り合った。


相変わらず、レベルの下にヘルスバーはない。どうやらアンデッド共通の特徴らしい。


地上では、イザベルが剣を掲げて雷撃を放っていた。枝を焼き払っているが、虫の群れがじわじわ迫ってきていた。まだ取りつかれてはいないが、表情には疲労の色が浮かんでいた。


ツンガは……いったいどこに?


デレクは木の上を見上げる。


いた。ツンガは蔦に絡まりながら宙づりになっていた。生きた木がゾンビの木に絡みつき、彼はその中心でボロ人形のように揺れていた。そして――


【ツンガ】「グォォォッ! シャイタニ……くそ木ッ!」

どこかの部族語で怒鳴っていた。


……駄目だ。あいつは、まだしばらく抜け出せそうにない。


急がなきゃ。


デレクはプラズマブレードを起動し、自分の脚を押さえていた枝を切断した。


重力が襲いかかる。


葉と枝がNOVAの装甲を叩きつけ、ヘルメットが顔面を守ってくれた。落下の直前に、マイクロスラスターを作動させて、衝撃を軽減した。


頭上から、鉤爪のように曲がった二本の枝が襲ってくる。


戦術データリンクが作動し、HUDに迎撃軌道が投影される。


躊躇はなかった。両方、切り落とした。


枝が接触する寸前に。


切られた枝は、蛇のように地面でのたうち回った。


デレクは四百キロのNOVAで、それを踏み潰した。


パン、という乾いた破裂音。


プラズマブレードを収納し、プラズマキャノンを展開。思考で焼夷モードに切り替える。HUDにアイコンが点灯し、即応モードへ。


【ヴァンダ】「デレク。この攻撃は、ジャングルの半分を燃やすリスクがあります」


【デレク】「ツンガの火球、葉っぱ一枚も焼けてなかった。……たぶん魔法の火は、現実の火とは別物だろ」


……あるいは、同じかもしれない。


だが、議論の余地はなかった。


考える間もなく――デレクは倒れたゾンビの幹を狙った。


樹皮の裂け目から、ねじくれた二本の枝が突き出し、骨のような鉤爪をパチンと開閉させながら襲ってくる。


――上等だ。


デレクは撃った。


二発の黄色いプラズマ弾が、矢のように飛び出す。腐った木を貫き、着弾点に光が灯る。


そして――


轟音とともに爆炎が炸裂した。


幹全体が、火に包まれる。


ツンガを絡めていた枝も、イザベルに迫っていた枝も、のたうち始めた。火を振り払おうと、幹ごと暴れ回っている。


ツンガは、生きた木の蔦に包まれながら、地面に静かに降り立った。


彼の顔には、苦痛でも恐怖でもない――戦士特有の研ぎ澄まされた眼差しが宿っていた。


一方――


イザベルは、足元に虫の群れが迫る寸前で、鋭く動いた。


【イザベル】「神よ……導き給え!」


叫びながら、剣を地面に突き立てる。


眩い雷撃が、波紋のように四方へと広がった。


虫たちの動きが止まる。


ぐるぐると体を丸め、回転し始め――


やがて、一匹ずつ――パチンッと弾けて、透明な体液を撒き散らした。


ツンガが杖を振り上げ、火の玉をゾンビの木に叩きつける。炎が勢いよく広がり、燃えさかる幹をさらに包み込む。


【ツンガ】「焼けろ……シャイタニ!」


イザベルもすかさず応じる。剣の先端から雷撃が網のように放たれ、幹を電気の繭で包み込んだ。


火花が飛び散り、ホタルのように空を舞う。


……だが、奇妙なことに、炎は他の木に燃え移らなかった。


あたりの音はすべて、燃える枝のきしみと炎の唸りにかき消されていた。


ゾンビの木は、己の燃える幹を叩いて火を消そうとしていた。


――無駄な努力だ。


終わったか?


だがその時――


また、あの少女の悲鳴が響いた。


今度は、はっきりと方向がわかる。


【デレク】「待ってろ、アリラ!」


彼は振り返り、イザベルの方を向く。


【イザベル】「行きなさい。ここは私とツンガでなんとかするわ」


デレクは短くうなずいた。


【デレク】「ヴァンダ、脚部アクチュエーターに全電力。装甲重量を最小限に。アリラへの最速ルートで飛ぶ」


【ヴァンダ】「了解しました、デレク」


数秒後、デレクはゾンビの木を跳び越え、鋼の弾丸のようにジャングルを突き抜けていった。


【デレク】「待ってろ、アリラ……」


歯を食いしばり、つぶやいた。


――今度こそ、間に合う。


アリラは、シエレリスの背後に身を潜めていた。


幻術師はじっと動かず、見開いた目で密林の奥を見つめている。呼吸は荒いが――それは疲労からではなかった。


アリラはごくりと唾を飲み込んだ。


【アリラ】「なに――」


【シエレリス】「シッ!」

彼女は素早く唇に指を当て、小声で囁いた。


【シエレリス】「まだ見つかってないかも。誘い出そうとしてるだけ。古典的な手口よ」


アリラはこくりとうなずいた。


【アリラ】「でも……誰?」


【シエレリス】「知らないわ。今までのは全部ただの脳なしアンデッド。でもこれは……ウリエラが誰かを送ってきたのかもね」


アリラの心臓が跳ねた。


――ウリエラ?


大司祭が、自分を探して来るなんて――ない。そんなはずない。


本当の狙いは、シエレリス?


でも、この姿を見られたら……

果物食べながら、異端者と談笑してるとこ見られたら……どうなる?


「誘拐された」って話、信じてもらえるの?


……それとも、最初からグルだったって思われる?


……くそ。何もかも、シエレリスのせいだ。なんで巻き込んできたのよ!


鋭い声が空気を裂いた。嘲笑を含んだ、冷たい声。


???「何をコソコソ話してるんだ? 聞こえてないとでも?」


アリラの心臓が止まりそうになった。


一歩、下がる。


逃げ道を探して周囲を見回す。だが、もう遅い。完全に見つかってる。


……学院に戻りたいなら、ここは――協力するしかない。


彼女はシエレリスの背後から出て、両手を上げた。


【アリラ】「あのっ! 私、ここにいます!」


【シエレリス】「はあ? ちょっと、なにやってんのよ!?」

彼女が袖を掴み、小声で怒鳴った。


【シエレリス】「頭おかしいの? それともただのバカ?」


アリラは振り払った。


無視。もう無理。こんなスパイの命令なんか、聞いてられない。


【アリラ】「私、オルビサルの《芽生え》学院にいたんです! この人に、誘拐されたんです!」


叫びながら、シエレリスを指さす。視線は木々の奥――

助けに来てくれたはずの「誰か」を探した。


【アリラ】「オルビサルに感謝します! 見つけてくれて! そこにいるなら、出てきてください!」


返ってきたのは、落ち着いていて冷たい――そして、見透かすような声。


???「つまり君は、異端者のスパイに囚われた、無垢な少女……というわけだな?」


???「奇妙だな。君はずいぶんリラックスしていた。食事を共にし、自由に話し、拘束もされていなかった」


アリラの心が凍りついた。


――見られてた。


話していたところも、食事も、縄も何もなかったことも。全部。


膝に手をぎゅっと握りしめる。


……どうすれば、信じてもらえる?


視界が歪む。涙が、止まらない。


【アリラ】「ほんとに……ほんとなんです……」


か細い声。


通じないと分かっていても、それしか言えなかった。


【シエレリス】「やっぱりね」

冷ややかな視線を落としながら言う。


【シエレリス】「あなた、まだ子供だわ」


アリラは涙をぬぐい、鼻をすすった。


【アリラ】「黙ってて……全部あんたのせいじゃない!」


【シエレリス】「いいえ、違うわよ」


その声は、さっきまでの鋭さとは打って変わって、妙に優しい囁きだった。


――だが、近い。あまりにも近い。


枝がざわめいた。


白く細い手が、茂みをかき分けながら現れる。


葉を押しのけ、姿を見せたのは――

痩せこけた長身の男。牧杖を握り、頭には緑色に輝く《球体》。


【???】「……君が見つかってしまったのは、自業自得だ。スパイには沈黙が求められる。君は――うるさすぎた」


その男の顔は、灰色にたるみ、皮膚が垂れ下がっていた。


頭蓋骨の輪郭が露出し、歯は黄色く欠けている。


口元は、ニヤリと歪んで笑っていた。


……そして、頬の穴からは、ぐにゅりと白いウジ虫が這い出してきた。


だが――本人は気づいていないようだった。


アリラの心臓が一気に収縮した。


生きてるはずがないのに……しゃべってる……!


頭で理解するより早く、膝が崩れた。


体が、本能で危機を察知していた。


学院のことも、逃げる理由も、もうどうでもよかった。


殺される。


こいつに殺されて――魂の抜けた死体にされる。


このジャングルを永遠に彷徨う、腐った肉の塊として。


アリラは大きく息を吸った。肺が裂けそうなほど吸い込んで――


目を閉じ、叫んだ。


――その瞬間、頬に鋭い痛みが走った。


目の前に立っていたのは――シエレリスだった。


その目は怒りに燃え、まだ伸ばしたままの腕が震えていた。


叩かれた――?


アリラは頬を押さえ、まばたきする。


【アリラ】「な、なんで……?」


【シエレリス】「しっかりしなさい!」

容赦ない口調で怒鳴る。


【シエレリス】「オルビサルの《芽生え》ってのは、最初のトラブルで泣き叫ぶよう訓練されてるの? 階級、「おむつ係」かしら?」


【アリラ】「私は……まだ《芽生え》です……」


小さく答えるアリラに、シエレリスは眉をひそめる。


【シエレリス】「やっぱりね。なら、もう黙ってて。ジャングル中のモンスターに自分の居場所知らせたとこでしょ。ここは任せなさい。あの腐ったクズは、私がやる」


そのとき――


アンデッドの男は空をぼんやりと見上げていた。


そして、甲高く中性的な声で宣言した。


【???】「私はエリアス・モルヴェイン。この地に仕える、謙遜なる司祭である」


【シエレリス】「へえ。アンデッドでありながら、オルビサルの司祭ね。……いいわ、理由が二つになった。殺すには十分すぎる」


その言葉に、アリラは岩陰に身を隠すように身を縮めた。消えてしまいたかった。


――でも、目を閉じることはできなかった。


これはただの屍じゃない。

しゃべっている。思考がある。自分を「司祭」だと名乗っている。


しかも……強い。明らかに、今までのアンデッドとは格が違う。


杖の上に輝く《球体》も、異様だった。毒のようなオーラを放ち、脈動している。


エリアスは、シエレリスに向けて淡々と言った。


【エリアス】「お前は、私の庭に芽吹いた雑草だ。共同体を守るためには、根から引き抜くしかない」


杖の《球体》が脈動する。表面に走るひび割れから、緑色の光が漏れ出し、蛇の舌のようにうねりを描く。


だが、シエレリスは一歩も退かなかった。


腰に手を当て、挑発するような笑みを浮かべる。


【シエレリス】「来なさい、腐れ死体。最初の一撃は譲ってあげる」


アリラは息を飲んだ。喉がカラカラだ。


……なに考えてるの、この人。


その瞬間――


誰かの手が、アリラの口を覆った。


反射的に叫ぼうとした。だが声が出ない。


――アンデッドに捕まった!?


殺される!


必死に目を動かして確認して――凍りついた。


シエレリス。


また別の、シエレリスだった。


指を唇に当て、静かにという合図。


アリラは瞬きをして、小さくうなずいた。心臓の鼓動が、少しだけ落ち着く。


でも、どういうこと? 目の前にいたはずの彼女が、ここに……?


シエレリスはゆっくりと手を離し、アリラを解放した。


彼女はすぐに岩陰からのぞき見た。


もう一人のシエレリスが、まだエリアスと対峙している――。


【シエレリス】「行くわよ」

隣の彼女が、低くささやく。


【シエレリス】「ほんの数秒は稼げた。あれが幻だって気づくのは時間の問題。今すぐ動くわよ」


アリラは一瞬ためらうが、こくりとうなずいた。


二人は静かにその場を離れた。ほんの数歩進んだそのとき――


茂みがざわめいた。


現れた。次から次へと。


静かで青白い死体たちが、音もなくジャングルから姿を現した。


アリラはその場に立ち止まる。


シエレリスもぴたりと動きを止めた。


鋭く冷たい声が、ジャングルに響き渡った。


【エリアス】「愚かな娘だな。オルビサルの司祭が、そんな安っぽい幻に騙されると思ったか?」


アリラは振り返った。


汗が目に流れ込み、視界が歪む。


あたり一面、アンデッドだらけだった。


腐敗した痩せた身体が、あらゆる方向からこちらを睨んでいた。


あまりにも多くて、まるで木々の代わりに死者が立ち並んでいるかのよう。


……完全に、逃げ道はなかった。


エリアスの姿がふわりと現れた。


まるで霧が形を成したかのように。ローブの裾が地面をなで、枯葉や枝をかき分けていた。


アリラは拳をぎゅっと握った。


……泣きたい。逃げたい。


でも、それで何か変わる?


シエレリスが何か仕掛けるなら――ちゃんと見届けなきゃ。


【エリアス】「若い君には、特別に慈悲を与えよう」


甲高く、空虚な声が響く。


彼は枯れ枝のような腕を、アンデッドの群れへ向けて掲げた。


【エリアス】「君も、我らの教団の一員となるのだ。そして、オルビサルの永遠の光のもとで――贖われる」


【シエレリス】「来ないでっ!」


その声は震えていた。


さっきまでの自信は、そこになかった。


エリアスはゆっくりと杖を掲げる。先端の《球体》が、さらに強く輝き始めた。


【エリアス】「いい子だから、ちょっとだけその場でおとなしくしてなさい。すぐ終わるから」


まるで親が子どもの足からトゲを抜くかのような口ぶりだった。


……だが、その目に優しさはなかった。


虚ろだった。


魂のない目――


【エリアス】「すべては終わり、そして再び始まる。オルビサルの光のもとで」


緑の光が脈動し――


さらに明るく。


さらに強く。


――終わりが来る。


アリラは息を吸おうとした。


……吸えない。胸が締めつけられ、苦しい。


――死ぬ。


もう一度吸い込んだ。今度は、過剰だった。


彼女は叫んだ。


それしか、残されていなかった。


叫ぶこと。泣くこと。


――なにか。なんでも。


シエレリスはもう止めなかった。


彼女の目にも、涙が浮かんでいた。


【シエレリス】「……ごめんね、お父さん……」


すすり泣きながら、頭を下げた。


エリアスが杖を差し出す。


《球体》から、蛇のような緑のエネルギーが伸び――アリラへと、ゆっくり近づいていった。


【エリアス】「いい子だ。じっとしてなさい」


彼はささやいた。


その時――ジャングルが震えた。


重く、繰り返すような音。


まるで巨人が太鼓を叩くような、戦いの鼓動。


アリラは後ろを振り返った。


……今度はなに?


また新しい怪物?


闇の奥から這い出す、新たな悪夢?


音がどんどん大きくなる。耳をつんざくほどに。


何か――巨大な何かが、近づいていた。


エリアスも反応した。


しなびた首が、そちらにピクリと向く。


――次の瞬間。


ジャングルが、爆ぜた。


茂みが吹き飛び、葉が舞い、木片が空を飛ぶ。


アリラは、見上げた。


そこに、「彼」がいた。


黒いアーマー。血を吸った黒曜石のように、暗く光り――


バイザーの奥の双眼が、地獄の炎のように燃えていた。


橙色に燃えるプラズマブレードが、霧を焼き裂く。――まるで天から鎖で引きずり落とされた堕天使の翼だった。


ほんの一瞬。


光がすべてを飲み込む、その刹那――


彼は、宙に浮かんでいた。


鋼の神。


天使か?


悪魔か?


……どっちでもよかった。


エリアスは口を半開きにして呆然と見つめ――

唇が、祈りのように震えた。


――そして、裁きが下った。


デレク・スティールが落ちた。


あたかも死に絶えた星の怒りが姿を取ったかのように。


NOVAの両脚が、司祭の脆い身体に全力で叩き込まれる。


四百キロの鋼鉄、怒り、そして科学が一点に集中した。


それはもはや「衝撃」ではなかった。


――処刑だった。


骨が銃声のように砕け、ジャングルが揺れる。


エリアスの身体は、乾いた木のように粉々に砕けた。


抵抗など、一切なかった。


ただ、「パキッ」という音。


アンデッドたちが、痙攣する。


まるで電流が体中を貫いたかのように。


関節が軋み、内側から崩壊していく。


そして――動いた。


一斉に。


腕を伸ばし、彼に向かって押し寄せる。


だが、デレクは迷わなかった。


突撃した。


ブレードが空を裂き、軌跡を描く。


腕。脚。頭。


次々と切断され、地面に落ちるたび、濡れた鈍い音が響いた。


叫び声はない。


呻きも、痛みによる声も、ない。


アンデッドたちは、ただ鋼の幽霊に向かって手を伸ばし続ける――


その指は、骨の鉤爪。


だが、デレクは――速すぎた。


伸ばされた腕は、次々と切断され、プラズマの熱で焼き払われていく。


その時――


アリラが一歩、踏み出そうとした瞬間。


誰かの手が、肩に触れた。


ビクッとして振り返ると――シエレリスだった。


彼女はアリラを引き寄せ、低く言った。


【シエレリス】「今のうちよ。あいつが相手してる間に、逃げるわよ」


アリラは、デレクの方を見た。


彼は……どうなるの?


自分に、何ができる?


何十体ものアンデッドが、彼に殺到していた。


【アリラ】「デレクッ!」


残されたすべての空気で、叫ぶ。


【デレク】「とっとと逃げろ!」


怒鳴り返す声が響く。


【デレク】「じゃなきゃ、手加減できなくなる!」


シエレリスが「早く!」と手を振る。


あのスパイに従うのは嫌だった。


でも……他に選択肢はなかった。


そして――デレクは、はっきり言った。


「逃げろ」と。


彼は――助けに来てくれた。


ここにいる。自分のために。


もう、ひとりじゃない――そう、はっきりと感じた。


アリラは、最後にもう一度だけ、その背中を見た。


そして、走り出した。


シエレリスとともに。


ジャングルを突っ切って――


蔦を跳ね除け、茂みを越え、必死に走る。


走りながら、アリラは――


微笑んでいた。


頬を伝った涙は、もはや恐怖の涙ではなかった。


―――


雨が降り始めた。


大粒の雫が、葉を打ちつける。


速く。


強く。


やがて、それは激しい土砂降りとなった。


そのとき――爆発音が響く。


一発ごとに大きくなり、ジャングル全体を震わせていく。


まるで――世界の終わりのように。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


デレクの《審判》、いかがでしたでしょうか?

アリラの想い、シエレリスの決意――そして、迫りくる運命。


今後の展開もぜひお楽しみに!


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