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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
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第60章: 消えた少女アリラ、そして始まる決死の追跡

アリラが消えた。

デレクたちは、その痕跡を追い、禁じられた村へ向かう。

だが、そこは……呪術師すら近づくことを拒む〈死者の地〉だった。

今回は、彼らが地獄への一歩を踏み出す、緊迫の回です。

デレク・スティールは、オルビサル新米訓練施設の浴室の床をじっと見つめ、眉をひそめた。



アリラは数時間前まで、まさにここにいた。シャワーを浴び、部屋に戻っていった――何もかも普通だった。突然、そうでなくなるまでは。



小柄な訓練士、クローディン・ブリークモアは、彼の隣で固まっていた。彼女の動きは、まるで今にも空が落ちてきそうなほど、重くぎこちなかった。



アリラは他の新米たちと同様、クローディンの監視下にあった。その責任が、彼女を押し潰しかけていた。



デレクには、まだ誰が悪いのか分からなかった――が、それはどうでもよかった。今重要なのはただひとつ、アリラを見つけ出すこと。



他はすべて、後回しで構わない。



【イザベル】と【ギャラス】は発光する装置を手に、浴室内を調べていた。あれが何なのか、デレクにはさっぱり分からない。見た目はエンチャントされたハッピーミールのオモチャにしか見えなかった。



彼らの作業が何であれ、どうでもよかった。



この宇宙が自分をぶん殴るとき、デレクにはいつも頼るものがある。



――科学だ。



ヴァンダには、意味不明なセンサーも含めて全力スキャンを指示していた。ヴァンダは一言も文句を言わず、即座に動き始めた。



さすがだな、ヴァンダ。



その結果、NOVAのディスプレイは、まるでジャングルの蔦のようにグラフと読み取りで埋め尽くされた。



何を探しているのか、正直よく分かっていなかった。ただ――今は、何ひとつ除外する余裕がなかった。



問題はもし、これがこの魔法世界に固有の現象であれば、ヴァンダのセンサーが反応しない可能性が高いということだった。



そのとき、肩の装甲に「コン」と軽い打撃音が走った。



振り返ると、そこには――頭蓋骨。



空洞の眼窩がこちらをのぞいていた。



だがすぐに傾き、代わりに現れたのは、ツンガ・ンカタのしかめ面だった。



デレクは眉をひそめる。



【デレク】「なんだよ、呪術師。今忙しいんだが?」



【ツンガ】「床見てるだけか。」



【デレク】「領域スキャン中だ。……アリラを探してる。で、要件は?」



ツンガは床を一瞥し、それからデレクを見上げる。



【ツンガ】「アリラ、床にいない。」



【デレク】「おお、ありがとうよ! そりゃ大発見だな!」


彼は両手を広げ、皮肉をこめて叫んだ。


【デレク】「もう探す必要もないな。任務完了ってわけか。」



イザベルが横目でデレクを見たが、すぐに調査へと意識を戻した。



ツンガはぴくりとも動じなかった。



【ツンガ】「生きてる。」



デレクは唾を飲み込んだ。口の中が一瞬で乾いていく。



【デレク】「……なんで分かる?」



ツンガは、まるで世界一バカな質問を聞いたかのような顔をした。



【ツンガ】「死んでたら、声聞こえる。今、聞こえない。だから、生きてる。」



デレクは舌打ちしそうになったが、飲み込んだ。


今は、この手の話に付き合ってる場合じゃない。



彼はギャラスの方へ向き直った。



【デレク】「何か見つけたか?」



異端審問官は静かに首を横に振った。



【ギャラス】「いや。一度試したが、その時も反応はなかった。今も同じだ。……残念だが、残留魔力の痕跡はない。」



次にデレクはイザベルへ目を向けた。



彼女は一瞬、ためらったように見えた。



心臓が喉元まで跳ね上がった。デレクは一歩前に出る。



【デレク】「見つけたんだな。」



それは疑問ではなかった。確信だった。


彼女が何かを隠しているのは明らかだった。



監視官は静かに首を振った。



【イザベル】「私の石は反応していません。ギャラスのも同様です。」



デレクの胸が沈み、そのまま底なしの穴へ落ちていくような感覚に襲われた。



【デレク】「……ああ。ほんの一瞬でも、何かあると思ったのにな。」



イザベルは手の中の木製装置を見つめながら、静かにそれを回していた。



【イザベル】「「何もない」とは言っていません。」



デレクはまばたきをした。



【デレク】「それ、どういう意味だ?」



彼女は七つの宝石が嵌め込まれた装置を持ち上げ、デレクに見せた。イサラ・ミレスの試作品に似ていたが、それよりも遥かに洗練され、正確で、完璧に左右対称だった。



デレクは歯を食いしばって次の言葉を待った。



それが、アリラを見つける最後の糸口だと直感していた。



【イザベル】「この装置は、オルビサルから授かった七つの神聖魔法の痕跡を探知できます。昇華者アセンダント・オブ・オルビサル、またはその魔力に汚染された存在がこの場で力を使っていれば……反応があったはずです。」



【デレク】「なるほどな、面白い話だ。」


声に感情はなかった。


【デレク】「つまり、手がかりはゼロってことだ。痕跡なし。侵入経路も脱出手段も不明。」



イザベルの眉が、わずかに動いた。



【イザベル】「力を使わずに、そんなことが可能とは思えません。だから考えました。なぜ、まったく反応がないのか。――そこで、試しに弱い雷撃魔法を使ってみたんです。あそこに。」



彼女は壁に残る黒い焦げ跡を指さした。



イザベルは近づいて、装置を焦げ跡に押し当てた。だが――反応はなかった。



嵐のような灰色の瞳が、まっすぐデレクを見つめる。



デレクはそれを指さし、顔が熱くなるのを感じながら言った。



【デレク】「……つまり、壊れてるってことか? まさか、それで俺たちを一時間も立たせてたのか?」



ギャラスが焦げ跡の前に歩み寄った。



【ギャラス】「装置は正常だ。突然壊れるなんて、まずありえん。」



彼も自身の装置を同じ場所に押し当てた。結果は――やはり、何も反応しなかった。



【ギャラス】「それも、二つ同時に、となると……ほぼ不可能だ。」



デレクは顎を撫でた。



【デレク】「つまり、「正常に動いてる」ってことだな。」



クローディン・ブリークモアが不安げに身じろぎした。



【ブリークモア】「な……何を言ってるんですか?」


彼女はデレク、イザベル、ギャラスを交互に見つめた。



次の瞬間、ツンガが杖を「バンッ」と床に叩きつけた。


ブリークモアが肩を震わせて跳ね上がる。



【ツンガ】「目、だまされてる。」



デレクはうなずいた。



【デレク】「……そういうことだ。俺たちは今――幻術の中にいる。……また、だ。」



【イザベル】「……シエレリス。」



【デレク】「ああ。ロスメアをうろつく他の幻術使いなんて、そうそういないだろ。まず間違いなく――あいつだ。」



その名を口にした瞬間、胸の奥がトラックにぶつけられたように重く痛んだ。



シエレリスは狡猾だった。悪魔のように、ずる賢く、そして恐ろしく巧妙。



だが、こんなことまでやるとは思っていなかった。



そして、思い出す。


彼女を閉じ込めることに反対したのは―

―自分だった。



自分の判断ミス。そして、もう一つ。



シエレリスに、アリラのことがどれほど大切か……見せてしまった。



その結果が、今だ。



彼女は消えた。そして、アリラも――。



自分のあらゆる選択が裏目に出ていた。そして、その代償を払わされているのは、アリラだ。



誰かの手が肩に触れた。しっかりとした、だが落ち着いた力強さ。


NOVAのセンサーが、その接触を確認する。



振り返ると、イザベルの瞳があった。暗く、嵐のように激しく、怒りの炎を宿した灰色の瞳。



【イザベル】「アリラは――必ず見つけ出します。」



デレクは短くうなずいた。



【イザベル】「シエレリスは重大な過ちを犯しました。今回ばかりは、オルビサル様の御加護でも救えないでしょう。」



彼女はギャラスの方を向いた。ギャラスは静かにうなずき、軽く頭を下げる。



その瞬間、二人の意志はひとつになっていた。



シエレリスを捕らえる。償わせる。


そして、おそらく――殺す。



だが、デレクにとって復讐などどうでもよかった。



あの女は、父――コリガン・マルザールに洗脳されていただけかもしれない。



その可能性が消えない限り、何かを断じる気にはなれなかった。



言葉を挟む前に、イザベルはすでにドアへと歩き出していた。ギャラスはすぐに横に並び、ブリークモアも慌てて後を追う。



ツンガがデレクを見つめ、ため息をついた。



【デレク】「……なんだよ?」



【ツンガ】「ここ、ジャングルじゃないって言ってた。……でも、女――あまり変わらん。」



デレクは肩をすくめ、小さく吐き捨てる。



【デレク】「……お前の言う通りかもな、呪術師。怖いことに……今、お前が一番まともかもしれん。」



ツンガは目を回しながら他の者たちの後を追い、デレクもすぐにその背を追った。



外の庭では、イザベルとギャラスが装置を手に持ち、まるで魔法のコンパスのように動かしていた。


七つの宝石のうちひとつが、淡い紫色の光を脈打たせていた。


装置の向きを変えるたびに、光は弱まったり、強まったり。


輝きが増す方向へ、彼らは迷わず進んでいった。



気づけば校舎を抜け、街のメイン通りに出ていた。



ロスメアの目抜き通りは、昼前になると人と埃でいっぱいになる。


縞模様の天幕の下、商人たちが声を張り上げ、馬車の車輪が石畳を軋ませ、遠くでは鐘の音が風に溶けていた。



太陽の光が教会の多い街並みに差し込み、石の建物や鎧の表面、ステンドグラスに反射していた。


焼きたてのパンの香り、汗、香の匂いが入り混じって漂ってくる。



【デレク】「……で、どこに向かってる?」



【ヴァンダ】「北西方向です。この方向において、現在センサー反応は検出されておりません。」



【デレク】「……ってことは、シエレリスがアリラを連れて行った方向だな。」



【ヴァンダ】「動機について、仮説はありますか?」



【デレク】「俺を怒らせるためだな。」



【ヴァンダ】「少なくとも、冗談を言う余裕があるようで安心しました。」



【デレク】「冗談じゃない、ヴァンダ。……アリラは、まだ十三歳の少女だ。」



少し声が震えていた。



【デレク】「この世界に……あいつには、誰もいない。」



【ヴァンダ】「彼女には、あなたがいます。」



【デレク】「ああ、そうだな。俺がいる。イザベルもいる。……で、今その「俺たち」は、二人ともブチ切れてる。」



足を止めずに、彼は続けた。



【デレク】「でもな、シエレリスの本当の標的はイザベルじゃない。――俺だ。」



【ヴァンダ】「あなたの神経を逆撫でするため、ですか?」



【デレク】「ああ。あいつならやる。目的のためなら、何だってな。」



【ヴァンダ】「なぜ、そこまでしてあなたを苛立たせる必要があるのでしょう? 「メサイア」と呼ぶだけで、あなたは十分反応しています。」



【デレク】「……一本取られたな。」



乾いた笑いをこぼしたが、目は笑っていなかった。



【デレク】「でも、それが肝心なとこだ。シエレリスの任務は、カシュナールとの接触――あるいは、誘拐。だが俺に「オーラ」がないと気づいた瞬間、疑い始めたんだ。……俺が本当に「メサイア」なのかどうかを。」



【ヴァンダ】「しかし、なぜアリラをさらう必要が?」



【デレク】「あいつは――試そうとしてる。俺が、「本物」かどうかを。」



【ヴァンダ】「つまり、アリラはその「試験」の一部というわけですね。」



【デレク】「ああ、そうだ。……生きてるよ、まだ。」



小さく、しかし確信を持って言い切った。



【デレク】「でもな、それは同時に――とんでもなく危険な状況にいるってことでもある。」



彼の声が低く沈む。



【デレク】「あの状況から救い出せるのは……カシュナールぐらいだ。」



【ヴァンダ】「ですが、あなたはカシュナールではありません。」



【デレク】「……だな。」



ため息をついて、肩の装甲をポンと叩いた。



【デレク】「ありがとな、ヴァンダ。……今初めて、それを「言われた」気がする。しかも今が、「一番言ってほしくない時」だ。」



【ヴァンダ】「どういたしまして、デレク。」



【ヴァンダ】「つまり彼女は、アリラをわざと危機に晒すことで、あなたの力を引き出し、自身の仮説――あなたが「メサイア」であることを証明しようとしている、という理解でよろしいですか?」



【デレク】「そういうこと。……俺ならそうする。」



一瞬、口元が引きつる。



【デレク】「観察してれば、そのうち何か掴めたかもしれない。でもな、あいつは「待つ」タイプじゃない。ロスメア――いや、《砦》のど真ん中に乗り込んできた時点で、覚悟は見えてた。」



【ヴァンダ】「まるで、あなた自身の後継者のような話し方ですね。彼女もアリラのように「引き取る」つもりでしょうか?」



【デレク】「……は? 誰も引き取ってねぇよ。今までも、これからもな。」



【ヴァンダ】「……そういうことにしておきます、デレク。」



【デレク】「……とにかく。あの異端のスパイが何か狂った計画を動かす前に、こっちが見つけ出さなきゃならねぇ。」



【ヴァンダ】「リペアボットを索敵用途で展開しましょうか? 何かを検知できるかもしれません。」



【デレク】「やってくれ。あの狂女が痕跡を隠す手口なんて、山ほどある。ジャングルの隠れ家なら、それ以上にだ。……でも「空の目」が多い分には、損はない。」



数歩先、イザベル、ギャラス、ブリークモア、ツンガたちが立ち止まっていた。



デレクは眉をひそめて近づいた。



【デレク】「どうした? 痕跡、見失ったのか?」



【イザベル】「いいえ。今、痕跡はとても明瞭です。」



ギャラスの口元に、薄く鋭い笑みが浮かんだ。



【ギャラス】「これほど明瞭なら、捕らえて地下牢に放り込むのも容易い。……今回ばかりは、カシュナールの命令でも奴女は救えまい。」



そう言いながら、横目でデレクを一瞥する。



イザベルの眉がわずかにひそめられた。



【イザベル】「おかしいですね……まるで、自分から見つかろうとしているようにも見えます。」



もちろん。


それこそが、シエレリスの計画の一部なのだ。



だが――今は他に選択肢がない。ただ、痕跡を追うしかなかった。



【デレク】「じゃあ、なんで止まってる? なぜ追わない?」



イザベルは頷き、指差した。


その先には、丘を縫うように続く一本の土道があった。



【イザベル】「この道は、北西へと向かっています。」



ギャラスの表情から笑みが消えた。



【ギャラス】「あの先にあるのは、エボンシェイドだ。徒歩で三時間はかかる。」



ブリークモアが口元を押さえ、息を呑んだ。



デレクは眉を上げた。



【デレク】「エボンシェイド? 何だそれは?」



【イザベル】「村です。ジャングルからブラウンウッドや薬草、その他の物資をロスメアに供給しています。」



デレクはゆっくりうなずいた。だが、空気が変わった。重く、沈んだ不安が皆の顔に漂っていた。



胸の奥にざわつきが走る。



【デレク】「……で? 何か隠してるな?」



ツンガが杖を地に叩きつけた。



【ツンガ】「生命の《球体》、一月以上前にそこへ落ちた。獣の精霊が見せた。まだ「声」、届いてた時に。」



【デレク】「《生命の球体》……?」


視線をイザベルに向ける。



【デレク】「それって、イサラが俺を治療した時に使ったエネルギーと同じだよな? 危険には思えないけど……お前ら、死人でも見たみたいな顔してるぞ。」



ギャラスの顎がこわばる。



【ギャラス】「その《球体》が落ちた数日後、エボンシェイドとの連絡が途絶えた。信頼していた兵士を一人送ったが、戻らなかった。次に少数の精鋭部隊を派遣した。状況の確認と報告を命じてな。」



彼は言葉を一拍置いた。



【ギャラス】「だが……彼らも戻らなかった。」



デレクは喉に何かが詰まるような感覚を覚えた。



【デレク】「部隊ごと消えたのか? 訓練された兵士たちが?」



ギャラスは重くうなずく。



【デレク】「……で、その狂人――シエレリスが、アリラをそこに連れて行ったってのか?」



イザベルが小さく息を呑んだ。



【イザベル】「あなたの言う通りよ、デレク。急がなければ……まだ間に合うかもしれない――」



【デレク】「いや!」



デレクは鋭く言葉を遮った。



【デレク】「あそこまで三時間だろ? ってことは、もう着いてるか、途中で止まったとしてもすぐそこだ。俺たちが今から追っても、追いつけねぇ。しかも先回りされてたら……聖衛兵の精鋭部隊が「消えた」その何かと、真っ向からぶつかることになる。」



彼は震える手で口元を覆い、目を閉じた。



【デレク】「……もう遅いんだよ。たぶん、あの狂女はこう考えてる。「もし俺がメサイアなら、奇跡を起こしてアリラを救えるはずだ」――ってな。」



イザベルがそっと彼の肩に手を置いた。



【イザベル】「……それは、まだ確かじゃないわ。」



【ギャラス】「監視官の言う通りだ。奴女の狙いは、我々を誘き寄せることかもしれん。アリラを囮にして、別の場所へ誘導するために。」



【デレク】「……その理屈が通るのは、「アリラが本当の標的」だった場合だけだ。だが違う。あいつの狙いは――俺だ。」



デレクは拳を胸の装甲に強く押しつけた。



【デレク】「あいつの目的は、カシュナールの正体を暴くこと。標的は俺。そして、痕跡をわざと残したってことは……「俺に来い」って言ってるんだ。」



声が低く沈み、空気が張り詰める。



【デレク】「奴女は、そこにいる。アリラと一緒に。生きてるかどうかは分からない……でも、あそこにいることだけは確かだ。」



イザベルは手袋越しに拳を握りしめた。甲冑がきしむ音が、静寂を裂いた。



【イザベル】「誓うわ、デレク……あの魔女を見つけ出してやる。どんな幻でも、どんな影でも、どんな嘘でも――必ず壊す。奴女を光の中に引きずり出して、償わせる!」



ギャラスの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。



デレクは静かにヘルメットを外した。


熱気が、湿ったスカーフのように顔を包む。



【デレク】「……もし、お前が「どう罰するか」ばかり考えてるならな……お前、思ってたよりもアホだぞ、イザベル。」



わずかに目を細めた。



【デレク】「いや、正直……最初から「天才」だなんて思ったこともなかったけどな。」



イザベルの目に火花が走った。指の間で、雷光がバチッと音を立てる。



【イザベル】「まさか……奴女をかばうつもりなの?」



【デレク】「はあ……お前、本気で鈍いな。」



ため息混じりに言い放ち、冷たい目で彼女を見る。



【デレク】「シエレリスはただの駒だよ。お前も、そしてこの呪われた世界にいるほとんどの奴らもな。……たぶん、あいつは父親――コリガン・マルザールの命令に従って動いてるだけだ。」



イザベルの顎がピクリと動いた。感情を噛み殺すような硬直。



デレクは髪をかき上げ、深く息を吐いて彼女の前に立つ。



両肩をしっかりと掴み、彼女が目をそらすのを許さなかった。



【デレク】「いいか、イザベル。これは「救出任務」だ。」



声は低く、だが鋼のように強かった。



【デレク】「今、救うべき少女は二人いる。……分かったか?」



彼女はわずかに体を震わせ、数秒の沈黙ののち、ようやく応えた。



【イザベル】「……承知しました、カシュナール。」



ギャラスが咳払いを一つ。



【ギャラス】「理由が何であれ……これは容易な任務ではない。」



【デレク】「あの村で――何が起きた?」



ギャラスは顔をしかめ、重い口を開いた。



【ギャラス】「分からん。《球体》は鉄ランク。現地にはエリアス・モルヴェイン神父がいた。あいつ一人でも問題ないはずだった。あの地域で《球体》が落ちたのは初めてじゃないし、送った部隊も精鋭中の精鋭だった。……通常なら、対処できたはずだ。」



ツンガの杖が、地を「ドン」と叩いた。



【ツンガ】「死者だ。腐った匂い。魂、壊れてる。……歩くべきでないものが、歩いてる。」



空気が、音を失ったように静まる。



【デレク】「……なんだって?」



ツンガの声は低く、荒れていた。



【ツンガ】「生命の《球体》が墓に落ちたら、死者が蘇る。最初は、生きてた頃みたいに喋る。……でも不安定。止めなければ、獣になる。生きてる者を襲う。」



【デレク】「それが、あそこで起きたって……どうして分かる?」



【ツンガ】「獣の精霊が見せた。すべての呪術師に。そこには行くな、と警告した。」



【デレク】「……お前ら、そういうのを止めるために精霊と繋がってるんじゃなかったのか?」



ツンガはゆっくりと、重くうなずいた。



【ツンガ】「普段なら、そうだ。……でも今回は違う。」



ギャラスが顎を撫でた。



【ギャラス】「……あり得る話だ。だが、たとえアンデッドの群れが村を襲っていたとしても、あの部隊なら対応できたはずだ。」



【ツンガ】「いや……命と死が、あそこでは狂ってる。精霊たちが騒いでる。……大きな危険だ。」



誰もが黙り込み、ツンガの険しい表情を見つめた。



その額には深い皺が刻まれ、まるで嵐に荒れ狂う海のようだった。



そこが――シエレリスがアリラを連れて行った場所。



誘拐の末に、あえて選ばれた地。



呪術師ですら足を踏み入れることを禁じられた、禁忌の土地。



獣の精霊ですら恐れる、忌まわしき地。



背筋に冷たいものが走った。だが、デレクはそれを噛み殺す。



顔が熱を帯び、怒りの繭が彼を包み込む。



――負けてたまるか、この宇宙に。



今度は違う。



今度こそ、自分の目で確かめる。



あの村で、何が起きたのか。



そして――アリラを救い出すまで、絶対に諦めない。



【デレク】「……じゃあ、決まりだな。」



イザベルは彼を見つめ、剣の柄をぎゅっと握りしめる。



ツンガは杖を地に打ちつけ、口元に獰猛な笑みを浮かべた。



デレクは仲間たちの目を一人ひとり見回し、静かにうなずいた。



【デレク】「エボンシェイドへ行く。」

ご覧いただきありがとうございます!

おかげさまで「注目度ランキング(連載中)」で第75位にランクインしました!読者の皆様に心から感謝いたします。

幻術と呪術、そして蘇る死者――アリラ奪還の行方は、ますます不穏な方向へ…。

次回、「エボンシェイド」突入編、始まります。

デレクたちは何を目にするのか? どうかお楽しみに!

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