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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
54/102

第54章: 芽生え(スプラウト)と刃の教室

ようこそ、読者の皆さん。

今日は少し静かな始まりです。だがその静けさの奥では、歯車が音もなく狂い始めています。

誰かが変わろうとしていて、誰かが壊れかけていて――そして、誰かが気づかれないうちに命を落とすかもしれない。


心して読んでください。デレクの決断は、想像以上に重い代償を伴います。

デレク・スティールは、ロスメアの《芽生え《スプラウト》》の門の前で立ち止まった。

こういう場所は――虫唾が走る。

若い頭を律儀な信者に仕立て上げる、聖なる洗脳施設ってやつだ。

……まあ、今はまだ、“必要な悪”ってやつだな。

アリラが、まだ“考える”ことを忘れてなければいいんだが。

入ってから、まだ数週間しか経ってないしな。

建物の高い石壁には、教会の紋章とオルビサルが《球体》を下賜する場面がご丁寧に刻まれていた。

歩み寄ると、金属の鎧に身を包んだ衛兵二人が前に出てきて、手を挙げて制止してきた。

デレクは、片方の口角だけを上げてにやりと笑った。

――わざとらしさ全開のやつだ。

「ある見習いに会いに来たんだが?」

一人、黒い髭に白髪が混じったベテランっぽい男が顔をしかめた。

「中に入れるのは教官か奉仕係だけだ。あんた、どっちにも見えん。」

ああ、完璧だな。

NOVAなしじゃ、当然誰も気づかないってわけか。

《砦》の中なら、今や誰でも顔を知ってるが――

ロスメアの人間の多くは、あの日の式典でしか彼を見ていない。

しかもそのとき、ほとんどヘルメットを脱いでいなかった。

NOVAをイサラと修理ボットたちに預けてアップグレード中に、

「ちょっと様子を見に行くか」と思いついた――

……が、いま思えばクソみたいな判断だったかもしれない。

まあ、たまには目立たずに行動できるのも悪くない。

彼は頭をぼりぼりかいた。

「ま、言ってることは正論だな。俺は教官にゃ向かねえし、掃除も嫌いだ。

でも中に入れねえなら、見習いの方をここに呼んでくれ。

ちょっと挨拶するだけ。5分で終わる。」

衛兵はデレクをじろじろ見てから、首を振った。

「無理だ。訓練中だからな。」

訓練?

祈りだの説教だのじゃなくて、筋トレか?

……まあ、身体を鍛えてる方が、マシかもな。

―――

【イザベル】「何事ですか?」

甲冑を纏ったイザベル・ブラックウッドが姿を現す。

ヘルメットを腕に抱え、金髪が肩から滝のように流れていた。

彼女の歩みには迷いがなかった。

衛兵たちは姿勢を正して、直立する。

髭の男が報告した。

「い、いえ、ブラックウッド隊長。この者が中に入ろうとしたので、今まさに制止を…」

【イザベル】「そう。……本当なの?」

デレクに視線を向ける。

【デレク】「……まぁな。」

(どうでもいいさ。今日はただの見学だ。別の日に来りゃいい。)

彼女は衛兵たちに向き直った。

声には冷たい鋼の芯があった。

【イザベル】「これが――カシュナールに対する、あなたたちの対応ですか?」

衛兵たちの顔から血の気が引いた。

デレクに視線が集まると、彼は手を振って愛想よく笑った。

【デレク】「やあ。」

「し、知らずに……まさか……そんな……」

衛兵たちは狼狽える。

【イザベル】「もういい。聞きたくない。道を開けなさい。」

彼女は重たい金属の取っ手に手をかけて、ぐっと押し開けた。

軋む音とともに、巨大な門が開いていく。

【デレク】「ナイス登場だな、ワーデン様。」

【イザベル】「……」

【デレク】「遅かったな。」

彼は彼女に追いつきながら、軽く肩をすくめて言った。

【イザベル】「……遅れました。ツンガ・ンカタが、またギャラス・ドレイヴンを殺しかけたのです。」

【デレク】「あの野蛮人に、“ここはジャングルじゃない”って何度言っても通じねえな。」

彼は顎をかきながら、ぼやくように言った。

「……でも気持ちはわかるよ。ギャラスの調査、思ったよりしつこい。

もう『ラプターに乗った部族の戦士を見た』なんて証言も出始めてる。

ちょっとした証拠一つあれば、ナキシ族を潰す理由になる。」

【イザベル】「ええ。

そして“報復”が始まるわ。しかも――

カシュナールへの襲撃が発覚した時点で、それは“戦争行為”と見なされる。」

彼女の声は冷静だが、その奥には緊張があった。

【イザベル】「そしてその矛先がジャングルに向けられれば……疑われるだけでも、

村は焼かれ、戦士だけでなく民までが殺される。

ナルカラ全域が、血に染まるでしょう。」

彼女は息をついた。

【イザベル】「私たちは、“ジャングルの民は無力で、従うだけの存在”だと思い込んでいた。

でも私は、彼らのシャーマンが現実を歪めるのをこの目で見た。

戦士たちは戦うために生まれてきたように動く。

教会があそこに軍を送ったら、ただの遠征じゃ済まない――

地獄よ。両陣営にとって。」

【デレク】「……同感だ。

間近で体験したからな。やつらの戦い方、想像以上だ。」

【イザベル】「これは“戦争”よ、デレク。

砦の高官たちが描くような、綺麗事の“聖戦”なんかじゃない。」

【デレク】(皮肉な笑みを浮かべながら)

「たとえば……ウリエラ。」

イザベルは周囲を見回し、声をひそめる。

【イザベル】「だからこそ、あの遺体は川に流したの。

流れが速かったから、なるべく遠くへ運ばれてるはず。」

【デレク】(動揺しながら)

「……それ、聞いてなかったぞ。

てっきり、アイツが自分で落ちたんだと……

目が覚めたときにはもう遅くて、戻ったら目立つだけだと思って――」

【イザベル】「あなたの判断は正しかったわ。」

彼女は真っ直ぐな目で頷いた。

「でも私たちは、先手を打たないといけないの。

一本の糸がほどければ、この地方全体が炎に包まれる。」

デレクは喉を鳴らして唾を飲んだ。

湿った空気なのに、喉はひりついた。

銀河中の遺跡を盗み歩いてきた男が、今ここで――

やけに窮屈な現実に押し潰されそうになっていた。

でも今回は違う。

隠しているのは、犯罪じゃない。

“死体”だ。

“殺し”だ。

しかも、やったのは――自分だ。

【イザベル】「ツンガが言ってたわ。カトのこと……

あなたが、どう思ってるか。」

【デレク】(言いかけるが、手で制される)

【イザベル】「待って。

もしあの時あなたが止めなかったら――

今ここにいるのは、私じゃなくて“遺体”だった。

今、私たちが“戦争を止めよう”としてるのも、あなたが止めたからよ。

あれで流れは変わった。」

【デレク】「……教会の誰かが、命令を出してたってことか?」

【イザベル】(小声で、目を伏せながら)

「……わからない。けど、可能性はある。」

【イザベル】(周囲を再確認して、少し近寄る)

「この話は、ここじゃできない。

あとで《砦》の天文台に来て。

私が、安全を確保しておく。」

中では、見習いたちが一列になり、

型のような動きを正確に、流れるように繰り返していた。

【デレク】(心の声)

……おいおい、なんだこの完成度。

本当に見習いか?あの動き、年季入ってるぞ。

一糸乱れぬ連携。無駄のない動き。

全員が、まるで一つの生命体のように動いていた。

……ただし、一人を除いて。

アリラだけは、明らかに浮いていた。

顔は真っ赤、動きもぎこちない。

他の子の動きをチラチラ見ながら、必死に真似しているが――

切り替えのたびに遅れてしまう。

【デレク】「何の訓練だ、これ?」

【イザベル】(淡々と)

「規律と集中の鍛錬です。精神と肉体のために。」

【デレク】「……軍隊みたいだな。」

【イザベル】「そうです。」

【デレク】(腕を組み、皮肉気に)

「てっきりここは修道院みたいなとこだと思ってたよ。

一日中祈って、本でも読ませて、目が潰れるまで神様崇める場所だと。

……まさか、戦争に送り出す気じゃねぇだろうな?」

【イザベル】(視線を向けて、首を傾げる)

「デレク、この世界に来て、どれくらい?」

【デレク】「長くねぇな。」(肩をすくめて)

【イザベル】「その間、何度命を狙われました?」

【デレク】「数えてねえ。」

【ヴァンダ】(耳元で)

「9回です。」

【デレク】「今じゃねえよ。」

【イザベル】(ため息交じりに)

「つまり、ここがどれだけ危険か分かってるということですね。」

【デレク】「違うな。宇宙が俺を嫌ってるだけだ。」

【イザベル】(空を見上げ、祈るように)

「オルビサルよ……どうかこの愚か者に御加護を。」

【イザベル】(顔を戻して)

「これは陰謀でも天罰でもないの。

あなたが《メサイア》みたいな格好でナルカラのジャングルを歩き回り、

教会を嫌う部族のど真ん中で、

人も動物も植物も――ありとあらゆるものを怒らせたからよ。」

(少し間を置いて、冷たく)

「驚いた?当然よね。」

【デレク】(咳払い)

「まあ、言われてみりゃ……でも最初に襲ってきたのは、あの蔓だったからな?」

【イザベル】「だからこそ、準備が必要なの。

この世界は危険だし、ここは特に危険な土地。

若者たちは、何が起きても対応できるように育てる必要があるの。

身体も心も鍛えて、《球体》の力をチャクラで受け止める準備を。」

【デレク】(生返事で)

「はいはい、ごもっとも。」

……でも、もう頭は話から離れていた。

――アリラが、転んだ。

複雑な動作の途中でバランスを崩し、尻もちをついた。

他の見習いたちは、何事もなかったかのように動きを続けた。

誰も笑わない。誰も助けない。

響いたのは、甲高い怒鳴り声だけだった。

「アリラ!立ちなさい!」

その声の主は、小柄で雪のように白い肌と銀髪を持つ女。

動かなければ美術品だが――声は、金属で耳を引っかくように鋭い。

気づけば、デレクの体は動いていた。

扉は後ろで閉まり、彼はもうアリラの隣で膝をついていた。

【デレク】(手を差し出しながら)

「立てるか?」

【アリラ】「は、はい。ありがとうございます……」

彼女は手をすぐ離し、目をそっと教官の方へ向けた。

「大丈夫でした……自分でできたのに。ありがとう。」

……数週間で、別人になってやがる。

こいつ、こんなに固かったか?

【デレク】(心の声)

軍隊ジョークだったはずが、マジでそうだったとはな。

これは……洗脳じゃねえか。

【???】「あなたは、誰ですか?」

教官の声が背中に突き刺さる。

【デレク】(無視)

たった二言で人をブチ切れさせる才能ってのがある。

たぶん、この女は《球体》から“嫌われスキル”でも貰ってるんだろう。

【教官】「お答えなさい。」

声がさらに尖る。

【デレク】(ニヤリと皮肉な笑み)

「はは、分かってるよ。

『この男、何様?勝手に入ってきて、見習い助けてんじゃねえ』って思ってんだろ?

“救世主”気取りか何かだとでも?」

【イザベル】(歩み寄りながら)

「この方は、カシュナールです。主任教官。

ご迷惑をおかけしました。すぐ退出します。」

少女たちが一斉にデレクを振り返り、口を開けたまま固まる。

【教官】「訓練を止めないで!」

教官の声が一喝する。

少女たちは慌てて動きを再開した。

アリラもその中に戻る――

だが、その表情には確かな“芯”が宿っていた。

【デレク】(心の声)

……そうだ。それでいい。

誰に何を言われようと、前を向いて続けろ。

彼の胸に、わずかな誇りの火が灯る。

【イザベル】(そっと彼の腕に触れて)

「行きましょう、デレク。

見学だけのつもりだったでしょう?邪魔になるわ。」

【デレク】「……ちょっと待て。」

【デレク】「おい、アリラ!」

(動きを止めない少女に向かって)

「よくやってるぞ。そのままいけば、すぐ一番だ。」

アリラは動きを止めず、前を向いたままだが――

ほんの一瞬、口元がふっと緩んだ。

それだけで、十分だった。

【デレク】(教官の方を振り返り、目をそらさずに)

「聞いとけよ。」

声のトーンは変えず、それでいて部屋中に響くように。

「アリラは、家族を全部――しかも最悪の形で――失った。

でもな。

もし、今あの子がこの世界に一人ぼっちだと思ってるなら……

お前は、大間違いだ。」

彼は教官の顔に目を凝らす。

同情?――皆無。微塵もなかった。

【イザベル】(そっと彼の腕に触れながら)

「大丈夫よ、デレク。

この教官は、規定どおりに指導してるだけ。

私も、同じように育てられたわ。ここでは、これが“普通”なの。」

【デレク】(鼻で笑いながら)

「それじゃ、こっちの世界がぶっ壊れてるのも納得だな。」

【教官】(声は冷静だが硬い)

「私は全ての生徒に責任を持っております。

ご心配は無用です。

カシュナール様には、もっと重大なお務めがあるはず。」

【デレク】(一歩も退かずに)

「いや、それは違うな。

俺にとっては――このことも、“重大事項”の一つだ。

……しっかり覚えとけ。」

教官は、ごくわずかに頷いた。

【デレク】(踵を返して歩き出すが、ふと止まる)

……ん?

訓練場の隅に、見覚えのある少年。

【デレク】「おい、トーマス?……なんでお前がここに?」

少年は真っ青になり、抱えていたタオルの束を落としかける。

【イザベル】(落ち着いて説明する)

「トーマスは、今《芽生え《スプラウト》》で奉仕活動中です。

例の件、聞いたでしょう?

少し“反省”させた方がいいと思いまして。」

【デレク】(眉をひそめ、半信半疑で)

「なるほどな…」

【イザベル】(きりっとした目で)

「何か不満でも?」

【デレク】(ニヤリと笑って)

「いや、大賛成だよ。

女の子ばっかのとこに放り込まれたら、

ある“ワーデン様”への淡い恋心も、すっかり冷めるだろうしな?」

トーマスは真っ赤になり、タオルを床にぶちまけた。

見習いたちの中から、クスクスと笑い声が漏れ始める。

数人が動作を崩してしまう。

【デレク】(満足げに)

「ほらな、ちゃんと笑えるじゃねえか。

……まだ“人間”らしさは残ってるってことだ。」

教官は歯を噛みしめたような表情をしていたが、何も言わなかった。

【イザベル】(デレクを睨んで)

「そろそろ行きましょう、カシュナール殿。

私たち、もうここでは邪魔でしかありません。」

【デレク】(芝居がかった調子で)

「御意に従います、ワーデン殿!」

彼は深々とお辞儀して、

顔を上げたタイミングでアリラにウィンク。

アリラは、はっきりと笑った。

【デレク】(心の声)

……うん、これでいい。

彼女は“まだ”戦ってる。

この世界に押し潰される前に、何かを守らなきゃならねぇ。

……ただし、その分、敵も増えたな。

あの教官は、今ごろウリエラかその取り巻きに――

この出来事を逐一報告してる頃だろう。

動くなら早い方がいい。

でなきゃ、背中にナイフが突き立つ日も遠くない。

イザベルは――

ナイフを背負ったまま、笑って戦う羽目になる。

―――

二人は中庭へ戻る。

滑らかな石壁と芝生、重たい扉。

両脇には、さっきの衛兵たち。

【イザベル】(小さくため息)

「……本当に、あれでよかったのですか?」

【デレク】「ああ?アリラが一人じゃないって見せつけたこと?

それとも、“勝手に扱える存在じゃない”って、釘を刺したことか?」

【イザベル】(冷静に)

「違います。

あなたが、彼女に対して“どれほど想っているか”を――

あそこまで、誰の目にも明らかにしたこと。」

【デレク】(目を細める)

「……彼女を守るためだ。」

【イザベル】(静かに、でもはっきりと)

「わかっています。でも、他の人も気づいたわ。

あなたがアリラを“大切にしている”って。

……つまり、あの子を傷つければ、あなたを傷つけられるということ。」

【デレク】(額に手を当てて)

「……クソ。俺はバカか。

誰かが、あの子を――」

【イザベル】(口を開きかけた、その瞬間)

石壁が――淡い青い光に、点滅する。

二人は同時にそちらを向いた。

模様のような光が、壁に浮かび上がっていく。

最初は、ただ濡れているような“滲み”だった。

だがそれは、輪郭を持ち始め――

奥行きが現れ、そして――

【デレク】(目を細めて)

「……あれは、後頭部?」

映っていたのは――誰かの後ろ姿。

しかも――見覚えがありすぎる。

巻き髪。

道具が床に落ちる、ガシャガシャという金属音。

【デレク】「おい、イサラ?」

【イザベル】「魔術的な投影です。

緊急用の通信――めったに使われないもの。」

【???】「誰!? 誰が呼んだの!?」

【デレク】(まばたきして)

「おいおい、連絡してきたの、お前だろ。……気づいてないのか?」

【デレク】「おーい、こっち。後ろだって!」

女性は飛び上がるように振り向き、

壁の向こうから、彼に目を見開いて叫ぶ。

【イサラ・ミレス】「あああっ!? もう、びっくりさせないでよ!!

ちょうど連絡しようとしてたの!連絡くれて、超ラッキー!」

【デレク】(頭をかきながら)

「いやいや、お前がかけてきたんだろ……って、もういい。

何があった?」

【イサラ・ミレス】(そわそわしながら、髪をわしゃわしゃとかく)

「ヴァンダのことよ、デレク……」

【デレク】(表情が凍る)

「……ヴァンダが、どうした?」

【イサラ・ミレス】(一瞬ためらい、そして一気に)

「ヴァンダ、たぶん……死んじゃったのよ!」

アリラはまだ戦っています。でも、もう“守られるだけ”の存在ではありません。

誰かの希望であるということは、同時に誰かの標的になるということ。

そしてその矢は、すでに弦にかかっているかもしれません。


――ですが、それ以上に深刻なのは、ヴァンダの異変。

次回、「彼女」は本当に……?


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続きは、第55章で。

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