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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
50/102

第50章: 狂気の学士と生命の石

第50話、いきます!


本日のメニュー:

・デレク、目を覚ます。

・実は死んでなかった(びっくり)。

・そして──イサラと出会う。


イサラって誰?

一言で言うなら、爆発寸前の実験室が人間の形を取ったような存在。

頭はキレるけど、安定はしてない。

さっきまで死にかけだった男を治療中に、AIとケンカ始めるタイプです。


で、ラストには──

笑顔ゼロ、空気ゼロ、圧だけMAXのあの男も登場。


お楽しみに!

静かな唸り。かすかな光。ぬくもりが彼を包み込み、痛みをやわらげ、感覚を鈍らせた。それはまるで、苦痛が遥か彼方の出来事のように思えるほどだった。抗う理由など、なかった。手放す方が楽だったし、安全だった。


記憶が、浮かび上がってくる。壊れた断片が、ゆっくりと元の場所に戻っていく。


――ユキ。


あの事故の夜。


コラール・ノードが、彼女を奪った。


彼は、理由を知る必要があった。何が間違っていたのか、理解しなければならなかった。


致命的なミスを犯したのは、誰だったのか。


自分なのか?


……自分が彼女を、殺したのか?


答えは、別のコラール・ノードにしかなかった。


それを研究することでしか、真実には辿り着けなかった。


――そして、ピラミッドが現れた。


遺物は、すぐ目の前にあった。あと少しで、手が届くところだった。


……だが、何かが彼を引き裂き、


異国の世界へと、放り込んだ。


目標から遠く離れ、


理屈からも遠く離れ、


これまで理解していた全ての常識から、遠く離れていた。


なぜだ。


なぜ、必死に抗えば抗うほど、


大切なものが、指の隙間からこぼれ落ちていくのか。


――不公平だ。


―――


それでも――


彼は、イザベルに出会った。


強く、真っ直ぐで、揺るがぬ信仰を持つ女。


ツンガにも出会った。


奇妙で、野蛮で、だがどこか自然の知恵を纏った男。


そして――


……何が、起きた?


カト。


猛禽にしがみつきながら空から落ちていく、野人の姿。


必死に翼を戻そうとしていた。


ツンガの、涙。


――耳元で、かすかな魔力の唸りが聞こえた。


すぐ脇で、淡い光が脈打っていた。何かの発光装置が、彼のそばに置かれており、緑の光を一定に放っていた。

【デレク】「……ッ!」


デレクは突然、息を吸い込み――上半身を起こした。


胃に鋭い痛みが走った。まるで刃物で刺されたかのようだった。

【デレク】「……チッ」


腹部を押さえる。肌は滑らかで、傷ひとつなかった。まるで、そもそも切られていなかったかのように。だがその奥では、まだ焼けるような痛みが渦巻いていた。


彼はまばたきし、視線をめぐらせる。


数メートル先に、巻き毛の女が立っていた。背中を向けていて、前には奇妙な形の物体でいっぱいのテーブル。不可解な記号が刻まれた器具をいじりながら、彼の気配には気づいていないようだった。


彼は周囲を確認する。


自分はベッドの上。縛られていない。


部屋は灰色の石壁で囲まれ、片方の壁には厚いカーテン。反対側には細長い窓――矢狭間のような形。天井には高い位置に天窓があり、そこから光が差し込んでいた。エネルギー障壁のようなものを通して。


――この場所は、ひどく散らかっていた。


正体不明の装置があちこちに転がり、その用途はまったく想像できなかった。医務室には見えない。むしろ、研究所と廃品置き場の異種交配体――ハイブリッド。


床を見ると、ベッドのすぐ横に、大きな緑の石が置かれていた。うっすらと光を放ち、心地よいぬくもりが脈打っている。

【イサラ】「それは、生命エネルギーを注入された石よ」


女がぽつりと言った。

【イサラ】「皮膚を直すのは簡単だったわ。でも、問題は中身。あなたを刺した短剣には「黒の死のスフィア」が込められてたの。だからこの「生命の石」で残留エネルギーを引き抜かないと、治せなかったのよね」


彼女は近づいてきて、上から下までデレクをざっと見渡す。同年代くらいか。赤茶けた髪はボサボサで長く、灰青色の瞳は子どものような好奇心でキラキラと輝いていた。鼻の上にはちっちゃくて曲がったメガネがひっかかっており、身を乗り出して彼のわき腹を覗き込む様子は、どこか滑稽ですらあった。


着ているのは、もともと白だったらしいローブ。今はインクの染み、焼け焦げ、粉っぽい何かで台無しになっている。ポケットは不自然な角度で膨らんでいて、巻物、小瓶、食べかけのスナックみたいなものが詰め込まれていた。


片方の袖は肘までまくり上げられ、もう片方はくしゃっと手首に引っかかっている。腕には木炭で書かれたルーンと、淡く光る魔力の痕跡。


首からは紐がいくつもぶら下がっており、護符や小さな装飾品が揺れるたびにカチャカチャと音を立てる。髪の中には金属製の装置――多分、拡大レンズ――が絡まっていたが、どうやらそのまま放置されたままらしかった。


デレクは自分の体を見下ろす。下着しか身につけていなかった。耳の通信機だけが、まだ装着されたまま。心臓が跳ね上がる。


……くそ、誘拐か? 拷問の前段か?

【デレク】「……NOVAはどこだ? どうやってアーマーを脱がせた?」


女は眉をひそめた。

【イサラ】「……何の話?」


……脅しの気配はない。ただ困惑しているだけ。


拘束も、監視も、尋問具もない。癒やされている。ベッドまで与えられている。

【デレク】(――おかしい。絶対、何か見落としてる)

【デレク】「俺のアーマーだ、クソッ。あれに何が起きた?」

【イサラ】「ああ、それねー」


彼女はうなずいた。

【イサラ】「外せなかったせいで、あなた死にかけてたのよ? 本当にギリギリだったの。でね、信じないと思うけど。それに……あなたのアーマーなんだから、知ってるかも?」


彼女はまるで天気の話でもするかのように、軽く肩をすくめた。

【デレク】「は?」


旧友みたいな馴れ馴れしい口調。だが記憶にない。……ないはず。


彼女は机に戻り、ごちゃごちゃした山をかき分けながら、何かをガッとつかんで、ローブの裾を踏みかけながらフラフラと歩き出す。護符たちが嵐の風鈴みたいにカチャカチャ鳴る。


早すぎる。なんでこの魔法まみれのゴミ部屋で、そんなに素早く動ける?


物を拾えば何かを倒し、倒れたものがさらに別の山を崩す。目まぐるしい。


……こいつ、完全に災厄だ。


これが……治療係?

【デレク】「それで…その後どうなった?」

【イサラ】「えっ、何が?」


……もう忘れてるのかよ。

【デレク】「さっき、お前が「外せなかった」って言ってただろ? で、「何か起きた」って」


その瞬間、彼女の目がキラキラと輝いた。まるで新しいおもちゃを渡された子ども。

【イサラ】「あー、それ! すごかったのよ! あなたのアーマー、喋り始めたの!」


心の底から楽しそうに微笑み、目を輝かせながら語る。

【イサラ】「あんな魔法、初めて見たわ。中に誰かが入ってるんじゃないかって思ったくらい。でも、空っぽだったのよ。不思議よね〜!」

【デレク】(……ヴァンダか。通信を通して話したな)

【デレク】「アーマーの中のAIと話したんだな」

【イサラ】「えっ、AI? そういう種類の魔法なの? うわー、面白い! あとで詳しく教えてねっ!」

【デレク】「で、そのあと?」

【イサラ】「うーん、口論になった。まあ、当然よね」

【デレク】「……俺が死にかけてる最中に口論か?」


彼女は腕を組み、うなずいた。

【イサラ】「そうなの。あの子、あなたをそのバカでかいアーマーに入れたままにしようとしてたのよ? 「守るためのものだから外すな」って。でも、治療のことを全然考えてないの。アーマーは鎧でしょ? 回復のためのもんじゃないわ。神の名にかけて、子どもでもわかる話よ!」

【デレク】(……もしかして本当に、オルビサルって存在するのかもな)

【デレク】「で、どうやって外した?」


彼女はドヤ顔で腕組み継続。

【イサラ】「「あんたを殺してる原因の治療法、私が知ってる!」って言ったら、「その変な魔法受けたって知ったらショックでアンインストールされる!」とか言ってきたの。意味わかんないよね?」


ため息と共に目を回す。

【イサラ】「で、「勝手にしな」って言って出てこうとしたら、呼び止められて……じゃーん! アーマー、勝手に外れてたの!」

【イサラ】「狂ってるよね!? でもあなたのアーマーなら、まあ…当然?」

【デレク】(……今ので「あなたのアーマーだから」って言われたの、二度目だな)

【デレク】「それで俺を脱がせてここまで運んだ? その石のすぐそばに?」

【イサラ】「当然でしょー!」


満面の笑み。

【イサラ】「黒のスフィアでやられたなら、回復にはちゃんとした生命魔法が必要。これ、ナルカラ地方で最も純粋な「生命の石」なのよ?」


部屋全体をぐるりと指差す。

【イサラ】「ここ《砦》では、魔法素材は最高のものしか使わないんだから!」


デレクは足を床につけた。冷たい石の感触が背筋を這い上がる。まるで濡れた墓穴に足を踏み入れたかのようだった。

【デレク】「なるほどな……でかくて光る石ってのも、意外とやるもんだな」


ゆっくりと身体を伸ばし、手足の動作を確認する。

【デレク】「……まあ、実際に仕事したのは、パワーアーマーのライフサポートに組み込んだ医療ナノマシンだと思うけど。悪いな、おたくの鉱石ミラクルには」


彼女の目が細くなる。

【イサラ】「ナノマ……シン? それ、なに?」

【デレク】「小型のゴーレムみたいなもんだ。肉眼じゃ見えないサイズで、組織の修復を自動でやってくれる。戦闘中でも使えるし、ある程度なら毒の中和もできる。知識ベースに登録されてる物質に限るけどな」

【イサラ】「……なるほどぉ……」


彼女は自分に言い聞かせるように呟いたあと、目を輝かせる。

【イサラ】「じゃあ今アーマーの外で飛び回って修理してるあの子たちも、それ系? 似た仕組み?」

【デレク】(リペアボットか……なら問題ない。NOVAは修理中ってことだ)

【デレク】「ああ、そうだな。外装はリペアボットが直してて、内部はナノマシンが面倒見てる。だいたい同じもんだ」


彼女はローブの袖をたくし上げ、ノートを取り出して猛烈な勢いで書き始める。ページを破るんじゃないかってほどの勢いだ。

【デレク】「おい、痛み止めとかあるか?」

【イサラ】「あー、ちょっと待って! 今書かないと絶対忘れるの! ほんの数秒だけ!」

【デレク】「……お前、絶対医者じゃねえだろ」

【イサラ】「え? 違うけど?」


顔も上げずに即答。文字を書きながら続ける。

【イサラ】「今のはナノマシンについてのアイデアよ。もしその能力が本物なら、この石の魔力でさらに強化できる可能性があるの。組織再生の奇跡――いや、再生超越かも!」

【デレク】「その奇跡とやら、もう十分すぎるくらいやってんだ。あんたの魔法もどきはいらん」


イサラは手を止め、ぴしゃりと彼を睨む。

【イサラ】「魔法もどき? あなたのアーマーと、そのちっこい飛行ゴーレム、見たわよ? 未処理のクリスタル突っ込んでたじゃない。どう見ても、危なっかしい「なんちゃって技術」の塊よ!」

【デレク】(……まあ、事実ではある。洞窟で拾ってきたのを、そのまま突っ込んだし。リペアボットの独断で)

【デレク】(だが――今は《砦》にいる。何かが掴めるかもしれない)

【デレク】「質問していいか?」

【イサラ】「んー、手動きながらでもいいならどうぞー!」


手は止まらず、別の金属ツールをつかむ。何の道具か見当もつかない。

【デレク】「俺がアーマー着てたとき、何か変だとは思わなかったか?」


彼女は顔を上げ、少し首をかしげた。

【イサラ】「……何言ってるの? もう言ったじゃない……あ、もしかして頭ぶつけた!?」

【デレク】「いや、そうじゃねえ。俺の姿を見て、「あれに似てる」って思わなかったかってことだ」

【イサラ】「あ〜、それね! 似てたわよ。《ロスメア広場》の《カシュナール》像に、そっくり!」


手をぶんぶん振りながら話す。

【イサラ】「ぶっちゃけ、街のことはあんま興味ないの。実験ばっかしてるから。でも、ユリエラの新しい宗教パフォーマンスってやつ? それとも何か弱み握られて協力してるとか? あ、自発的だったらごめんね?」

【デレク】(……こいつ、そそっかしいだけじゃない。現実からもズレてやがる)

【デレク】「ユリエラの部下じゃない。むしろ、今のあいつは俺を殺したがってるだろうな。議会堂ぶち壊して面目潰してやったからな」


彼女は一瞬ぽかんとした後――爆笑した。


声を上げて笑い、肩を揺らし、鼻を鳴らして前かがみになる。

【デレク】(……なんなんだ、この女は)

【イサラ】「うっそでしょ!? 議会室ぶっ壊したって!? 建物ごと!?」

【デレク】「いや、天井突き破って飛び込んだだけだ。パワーアーマーのままでな。で、そのガラスがユリエラの頭の上にバラバラと……」

【イサラ】「あはははははは!! 最高っ!! それ、見たかった〜〜〜!」


彼女は涙をぬぐいながら、震える手で彼の肩をぽんぽんと叩いた。

【イサラ】「あなた、本当に救世主なんじゃないの?」

【デレク】「……ところで、まだ名前聞いてなかったな」

【イサラ】「あ、そっか! 私、イサラ・ミレス。上級学士よ」

【デレク】「ありがとな、イサラ・ミレス。治療、感謝する。俺はデレク・スティールだ」

【イサラ】「知ってるわ。アーマーの中の「なにか」が教えてくれたもの」

【デレク】「……ヴァンダか。あれは囚われてるわけじゃない。NOVAのAIだ。どのスーツにもAIはあるが、俺のはちょっと特殊でな。いい意味でも悪い意味でも、だ」


【イサラ】「あなたのアーマー、どうなってるのか本気で知りたいわ。あんなの触ったの初めて。エネルギーの流れはチャクラの配置を思わせるのに、全然違う…完全に未知の代物。ゴーレムみたいだけど、生きてるみたいで…もう、信じられない!」


彼女の瞳孔はぱっちりと開き、呼吸が荒くなっていく。首筋がうっすら紅潮し、目はキラキラと輝いていた。今にもハァハァ言い出しそうな勢いで、次の瞬間には「結婚して」とか言い出すんじゃないかというレベル。


デレクは瞬きをした。

(マジかよ…この女、俺のアーマーにここまで発情してんのか? 作った本人の俺ですら、そこまでは…)


口元に、自然と笑みが浮かぶ。

【デレク】「イサラ。俺と組む気はあるか? 君が興味を持ちそうなプロジェクトが、いくつかある。NOVAをこの狂った星の魔法で強化する方法とか、構造とか、制御系とか――全部見せてもいい」


差し出された手に、広い笑み。

【デレク】「どうだ?」


彼女は一瞬、信じられないという顔で見つめ――

【イサラ】「……本気?」

【デレク】「本気だ。魔法に関しては、俺は素人同然だ。NOVAを完成させるには、俺たち二人の技術が必要になる。君は――適任かもしれない」


(……ただし、勝手に触るなよ)

【イサラ】「もちろんよ! 大歓迎! いつから始める!?」


その瞬間、デレクの腹に激痛が走り、視界がぐるぐると回り――


気づけば、彼は床に仰向けになっていた。

【デレク】「……たぶん、まずは回復してから……な?」


厚いカーテンが揺れ、イザベルが診療所へと入ってきた。彼女は微笑みながら、デレクを見下ろす。

【イザベル】「具合はどう? それと……なんで床に寝てるの?」

【デレク】「ピカピカだ」


顔をしかめつつも、親指を立てる。

【デレク】「イサラが、ほぼ新品に組み直してくれた」

【イザベル】「イサラ? もう挨拶は済んだのね」


彼女はちらりとイサラに目をやる。イサラはノートに夢中で、今にも燃え出しそうな勢いで書き殴っていた。

【デレク】「ああ」


彼はイザベルの手を借り、なんとかベッドに戻る。

【デレク】「今ちょうど、協力関係の話をしてたところでな」

【イザベル】「本気で?」


彼女は片眉を上げ、声を潜めた。

【イザベル】「その人が誰なのか、あなた知らないでしょ?」

【デレク】「十分だ。別に結婚するわけじゃない」


手をひらひらと振る。

【デレク】「ただ、魔法の知識を借りて、NOVAの状態と強化方法を探るだけだ。見てみろよ。あのモード入ってるときのイサラは、横でプラズマ手榴弾が爆発しても気づかねえ」


イザベルは一度、イサラを見て――次にデレクへ視線を移し、こめかみに手を当てて小さくため息をついた。

【イザベル】「……せめて、その人と一緒に何をするつもりか教えて」

【デレク】「もちろんだ」


うなずきながら答える。

【デレク】「俺はまだ、NOVAの全力を引き出せてない。スフィアの力を使えば、さらに上を目指せるはずだ。それに――あのクリスタルたち…」


彼の視線が、ベッド脇で脈打つ石へと落ちる。

【デレク】「正直、あれが何なのかすらわからない」

【イザベル】「……わかった。今までよりは、まだマシな発想ね」


腕を組みながら言った。

【イザベル】「ただし、《砦》まで吹き飛ばすような真似はやめて。議会堂のときみたいにね」

【デレク】「了解。《砦》はだいぶ頑丈そうだしな。たぶん」

【イザベル】「……」


その瞬間、廊下から重く、規則的な足音が響いてきた。


反射的に、デレクはカーテンへと視線を向ける。重装備の金属音。ひとつひとつの足取りが、床を叩いていた。

【デレク】「誰か来るのか?」

【イサラ】「私じゃないわよー」


ノートから一度も目を上げずに返す。

【イサラ】「「静かにして」って言っておいたし。普通は誰も近づかないんだけどね?」

【デレク】「ってことは……よほど無神経なやつか、邪魔が趣味のやつってことか」


カーテンが開く。


黒いチュニックの上に鎖帷子。刈り込まれた黒髪には白が混じり、頬から顎へ走る長い傷。腰には、淡く光るルーン付きのウォーハンマー。


その男の瞳は、瞬きひとつしない。


――戦争を知る者の眼だった。


空気が変わる。


まるで《砦》そのものが、この男の気配を認識したかのように。

【イサラ】「……ガラス? 怪我でもした?」

【ガラス】「異端審問官、ガラス・ドレイヴンだ」


淡々と訂正する。そしてデレクに鋭い視線を向けた。

【ガラス】「《カシュナール》。いくつか、質問がある」

【イサラ】「彼はまだ安静が必要なの。重傷で、回復途中なのよ」


無視。


目も、姿勢も、一切揺るがない。

【デレク】「……だが断る」


はっきりと言い放つ。

【デレク】「あんたみたいな威圧系、昔から嫌いなんでな」

【ガラス】「断る?」


ほんのわずか、首をかしげる。

【ガラス】「協力を拒む理由は? 橋での襲撃――最も狙われたのはお前だ。その犯人の正体を知りたいとは思わないのか?」


目が細まる。

【ガラス】「それとも……すでに知っている、ということか?」

【デレク】「知るかよ。俺を殺したいやつなんて、数え切れねえ」


吐き捨てるように言った。

【ガラス】「……なるほど。《カシュナール》たる者、信仰なき外来者が救世主として讃えられることを、快く思わない者も多い」


ベッドの上で体勢を変えながら、デレクは彼を睨む。

【デレク】「無礼だってか? 顔も知らねえが?」

【ガラス】「初対面だ。だが、街中が知っている。お前が議会堂をどう壊し、ユリエラ上級祭司にどれほどの不敬を働いたか」

【デレク】「つまり、「勝手に救世主扱いしたけど、期待と違ったからムカついてる」ってわけだな。で、橋で俺を襲ったのは、そっちの誰かか?」


親指で出口を指す。

【デレク】「仲間にでも聞いてみろ。誰かが何か知ってるかもな?」


ガラスの表情は、変わらない。

【ガラス】「目撃証言によると――お前は空飛ぶ猛禽の上で、襲撃者と交戦していた」

【デレク】「いや、違う。鳥の上にいたのは俺。そいつは下腹にしがみついてた。顔は見えねえ。見たのは短剣の刃だけだ。俺の腹に突き立つ、直前にな」

【ガラス】「つまり、至近距離で交戦しながら、言葉は交わさず、相手の特徴も覚えていない――と?」

【デレク】「一つだけ言える。そいつは死んだ。鳥ごと数百メートル落ちた。たぶん魚のエサだ」


……そうであってくれ。死体が見つかったら、ツンガの部族が関わってるってバレる。


それは――戦争を意味する。


ガラスが一歩、近づく。


イザベルがピクリと反応し、片手を剣の柄にかけた。

【イザベル】「《カシュナール》の言葉は聞こえたでしょう、異端審問官殿」


その声は冷静だが、明確な圧があった。

【イザベル】「今日は質問は受け付けないと彼は申しました。本人の意思も、治療者の助言も、あなたは無視されました」


ガラスは微笑む。

【ガラス】「安心しなさい、ワーデン。無理強いはしない」


視線をデレクに戻す。

【ガラス】「だが、誰に狙われ、なぜ狙われたのか。それが不明のままでは――また同じことが起きるかもしれない。私はあなたの安全を案じている。《砦》という場所は……予測不能だからな」

【デレク】「確実にまた起きるさ。動物も人間も、俺を殺そうとしてくる。でも、俺はまだ生きてる」

【ガラス】「それは何よりだ。せっかくの《救世主》を、ここで失っては――もったいないからな」

【デレク】「そのとおりだな」


あくびを噛み殺しながら言った。

【デレク】「だから、出て行ってくれ。俺の我慢も、長くは保たない」


ガラスは軽く一礼し、出口へと向かう。


だが敷居で、ふと立ち止まり――振り返った。

【ガラス】「目撃者の一人が言っていた。「ジャングルの野蛮人」のような格好の者が、襲撃を率いていたと。それに――心当たりは?」


……くそっ。

【デレク】「知らんな。ジャングルの民が、わざわざロスメアに来て俺を殺そうなんて……それこそ自殺行為だ。そんなことすりゃ、宗教戦争だ。村ごと地図から消えるだろ」


視線をイザベルに送る。彼女は目を合わせ、静かにうなずいた。

【ガラス】「……確かに。無謀な行動だ」


そしてほんの一瞬、彼の視線が――デレクの顔に、長くとどまる。

【デレク】(……危険な男だ。こいつとやり合うときは、一歩ずつ慎重に進まねぇと)

【デレク】「すまんな、異端審問官殿。今日は長い一日だった。「救世主」の社会的・宗教的インパクトについて語るのは、また今度にしてくれ」


ガラスはもう一度、浅く礼をした。

【ガラス】「もちろん。すぐにまた話そう」


そして、彼は静かに去っていった。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

イサラ、どうでした?

あれでも一応“治療”してます。多分。たぶんね。

デレクの命を救い、アーマーに異常な興奮を見せ、勢いでチーム入りしました。

(速いな!?)

そして最後に登場したのは、例のガラスさん。

しゃべりは静か、圧は重め。笑顔は絶滅危惧種。

デレク vs 教会陣営、いよいよ火花が飛び始めます。

ご感想・レビューなど、どしどしどうぞ!

次回もよろしくお願いします!

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