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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
47/102

第47章: 嘘と信仰の審問会

ここから第二章に突入します。

今回の舞台は、ロスメアの権力中枢。

救世主ごっこはもう引き返せない段階に――

偽物と本物、信仰と策略が交差する評議会で、

デレクはまたしても「やらかします」。

どうぞお楽しみください。

デレクは、ぎらつく宗教紋様が彫られた重厚な木の扉の前で足を止めた。




「随分と気合入ったドアだな…」




思わず口をつく皮肉に、両脇の衛兵が無言で一礼した。




そのうちの一人が金属の取っ手をがしっと握り、力強く押し下げた。




ギィィィィ――




耳障りな金属音が廊下に響き渡り、重たい扉が軋んで開いていく。




衛兵は一切表情を動かさず、正面を見据えたまま言った。




「どうぞ。《球》の大神官評議会が、お待ちしております。」




【デレク】「そりゃ光栄だな。」デレクは、肩をすくめつつ部屋へ踏み入れた。




革のブーツが磨かれた木の床に控えめな音を立てる。




この場に鎧姿で現れなかったのは、正解だった。




NOVAの強化ブーツだったら、床にクレーターでも掘ってたかもしれない。




中は涼しくてしっとりとした空気――外の灼熱とは真逆だった。




厚い石壁と高い天井、それに加えて、どう考えても氷属性の魔法が仕込まれている気配。




デレクは薄暗い前室を抜け、短い廊下を進んだ。




先に見えるのは、またしても主張の激しい扉。聖紋びっしり。




その上には、七色に輝く宝石が円形に並べられていた。




【デレク】「……なるほど。いかにも「偉い人」たちの部屋って感じだな。」




自分の格好を見下ろすと、ようやくその「場違い感」に気づいた。




もともと用意されたのは、ギラギラのスパンコールだらけの衣装。悪趣味極まっていた。




即座に却下し、代案も片っ端から拒否し続けた結果――




今着ているのは、控えめだが質の良い濃色のチュニック。




金属繊維がさりげなく織り込まれており、動けば微かに光る。




下はタイトな黒のパンツに強化ブーツ。




唯一の装飾は、肩口に刺繍された「カシュナール」の称号だけ。




……まぁ、場にそぐわないのは分かってる。だが、それでいい。




救世主ごっこなんざ、まともに受け取ってもらっちゃ困る。




デレクは取っ手を静かに下ろし、音も立てずに扉を開いた。




ロスメア大神官評議会の中心――その中枢へと、足を踏み入れた。




ウリエラは、氷のように輝く青石で彫られた円卓の中央に座っていた。




椅子ごと彼女が発光しているような、そんな威圧感。




白銀の儀式ローブに、金糸でオルビサルの聖紋がこれでもかと刻まれている。




その周囲には、七人の司祭。




誰もが色とりどりの儀礼衣装に身を包み、仰々しく静かに彼を見つめていた。




彼らがいるのは、聖域の真ん中。




天井の巨大なガラスドームから差し込む朝日が、床の大理石を七色に染めていた。




――そして、そこに「アレ」が置いてある。




円卓の中心。赤いサテンの布の上に乗せられたのは――




デレクが青銅スフィアを封印するのに使った、あの忌々しい《箱》。




デレクは顎をきゅっと引き締めた。




もう開けられたのか?




いずれは調べられるとは思っていたが、こうして聖遺物よろしく晒されてるとは。




まさかの見世物スタイル。……何のつもりだ、これ? 威嚇か?




一瞬だけ箱に目をやり、すぐ逸らす。




――疑いも、弱さも、絶対に見せるな。




彼の視線は、正面の高司祭――ウリエラに向けられた。




彼女は音もなく椅子を押して立ち上がる。




七人の司祭たちも、無言で立ち上がった。




最後に腰を上げたのは――




赤毛の男。華奢な肩、手入れの行き届いた顎髭。




動作のぎこちなさは、隠しようもなかった。




【ウリエラ】「私はあなたのそばにいますよ」




ヴァンダの声が、静かにイヤーピースから届く。




やつらは天の神オルビサルに守られていると思ってるらしい。




だが、デレクにはもっと確実な守りがある。




NOVA――今はドローン形態となったアーマーが、天井近くで静かにホバリングしていた。




センサーは、部屋中の脅威を漏れなくスキャンしている。




【デレク】「聖なるカシュナールよ。」




ウリエラは冷たく整った所作で一礼した。温かみは、皆無。




他の司祭たちも、無言で頭を下げる。




【デレク】「完璧な機械仕掛けみたいな動作だな…」




デレクは内心でぼやいた。演技下手な女が、必死に「儀礼」をこなしてる感がすごい。




またしても最後に頭を下げたのは赤毛の男。




お辞儀はほとんど形だけ、眉間には露骨な皺、唇はへの字。




態度に滲む「納得してません」感は天井より高かった。




【デレク】「……最悪だな、ほんと。」




デレクはため息をついた。こういう「格式張った場」にはもう何年も顔を出してない。




最後にこんな場にいたのは、まだ盗賊だった頃。




だが懐かしさなんて皆無だった。




堅苦しいドレスコードに、貼りつけた笑顔に、無駄なルール三昧。




ああ、こういう場所――昔は「喜んでぶち壊してた」っけな。




くそ、なんで俺、今こんな立場なんだよ?




――いや、今は考える時間じゃない。まずは様子見だ。




デレクは片手を振った。




「おいおい、堅苦しい儀式はもういいだろ。こっちは「空から降ってきた救世主ごっこ」なんてやる気ないんだ。




――で、本題だ。俺をここに呼び出した理由は? っていうか、そもそもここはどこだよ。」




ウリエラは顎を上げ、声音を整えて答えた。




「ここはナルカラ地方の《球》を司る大神官評議会です。私はその長にして高司祭。




この地の統治と民の保護を担う者です……《カシュナール》様。」




「《カシュナール》様」――その響きには、よく磨かれた刃のような皮肉が込められていた。




デレクは苦笑した。




(なるほどな……言い回しが滑らかすぎる。何度も練習したんだろうさ。残念ながら、俺はそんな芝居には付き合わねえよ。)




【デレク】「つまり、信者の話だな? オルビサルの。」




口調は軽く、視線は鋭く。




その瞬間、例の赤毛――セオドリックが、甲高い声で割って入った。




「オルビサルの教義こそが、この地の正統なる信仰です!




住民の大多数はその教えに従っており、あなたはその頂点に立つ存在なのです、《カシュナール》様!」




……うるせぇな。




【セオドリック】「また「様」付けかよ。お前ら、ほんとその呼び名好きだな。




でも俺にとっちゃ、その度に胃がひっくり返る。




「救世主」なんて名前、聞くだけで腹が痛くなるんだ。」




デレクは手を挙げてピシャリと遮る。




「デレクでいい。姓はスティール。ミスターもいらねぇよ。」




ウリエラは軽く咳払いしながらも、崩れない声で答える。




「分かりました、デレク。




……神の意思により、あなたはこの評議会において最高権限を持っています。




あなたの地位は、我が教団の最高位――オルビサルの神聖宰相、ルシエン・オスランに匹敵します。」




【デレク】「訳:俺、教皇クラスってことか?」




デレクは心の中でそう呟いた。




【デレク】「そうよ」ヴァンダがイヤーピースで補足する。「ウリエラよりヤバいわね。




「怒らせるなリスト」に追加ね、デレク。」




【デレク】「了解。上書き保存しとくよ。」




デレクは評議会に向き直り、ストレートに言い放った。




「それで? やっと俺のこと「本物」って認めたのか? それとも、まだ疑ってんの?」




視線は、まっすぐセオドリックへ。




男はぎくりと肩を揺らし、顔を赤く染めたが口を開かなかった。




代わりにウリエラが答える。




「オルビサルは青銅級スフィアという「印」を授けられました。




この地ではかつてない神聖な現象であり、それにより、あなたが本当に《カシュナール》であるかを見極めるための、明確な証でした。




あなたは一人でその地に赴き、無事に戻られただけでなく、球を《カスケット》に封じて持ち帰りました。




すべて……オルビサルの御意のままに。」




言葉選びがやけに丁寧すぎて、逆に罠くさく聞こえる。




「そのまま」とか「御意のままに」とか、どこまでが嫌味なんだ?




セオドリックが鼻を鳴らすように言う。




「実に驚くべきことだな。――「《カシュナール》様」にしては。」




【セオドリック】「……いいぞいいぞ、どんどん煽ってくれよ。」




デレクは心の中で笑う。




【セオドリック】「期待以上だったみたいだな。」




皮肉たっぷりに手を広げ、浅くお辞儀した。




その瞬間――ウリエラの声が鋭く跳ねた。




【ウリエラ】「「期待」?」




声は冷たく、唇には意味深な笑み。




【ウリエラ】「そう。私たちの「期待」は――間違いなく、超えていましたわ。」




【ウリエラ】「……あー、来たな」とヴァンダがぼそり。




【ウリエラ】「うん。動いたな、「魔女」が。」




デレクは眉をひそめる。




ウリエラが静かに指を振った。




次の瞬間――




目の前の箱が、カチリと音を立てて開いた。




評議員たちがざわめき、一部は驚いて椅子ごと倒れた。




【ウリエラ】「皆様、落ち着いてください。」




ウリエラは手を上げ、静かに語る。




「この場で危険なスフィアを晒すような真似はしません。




事前に、我が先見者たちにより調査を済ませております。脅威はありません。」




鷲鼻の老神官が身を乗り出して覗き込み、かすれた声で叫んだ。




「おお……球は無事だ! まさに二重の奇跡じゃ! オルビサル万歳!」




【ウリエラ】「いいえ、三重の奇跡ですわ。」




ウリエラが流れるように続ける。




「このスフィア――何か、お気づきになりませんか?」




セオドリックが目を細めて見つめた瞬間、彼の眉がぴくりと跳ね上がる。




【セオドリック】「オルビサルよ……これは、力を持たない! 完全に――枯渇している!」




その場にざわめきが走り、評議員たちは次々に席を立ち、球を覗き込む。




まるで「穢された聖具」を見るかのような反応。




【セオドリック】「さてと……始まったな。」




デレクはため息をついた。




セオドリックがデレクを鋭く睨みつけた。




「これは一体、どんな邪術だ! 我々全員が、天より降るスフィアの力を目撃したはず!




この男は、どこかで魔力の抜けた偽物を拾ってきて、それを「本物」として持ち込んだにすぎん!」




年老いた神官が目を細めて言う。




「だから無傷で戻ってこられたのだな… 真の球など、最初から取りに行ってなどいない!」




セオドリックの顔がさらに赤くなり、怒声が響き渡る。




「ならば、本物のスフィアはまだこの地にある! 魔力を垂れ流したまま、どこかに潜んでいる!




我々全員が危険にさらされているのだ!」




ウリエラが一歩前に出て、冷静な声で遮った。




「諸君、落ち着いてください。すべては私の掌中にあります。




これは試練――その結果としての失敗も、想定の範囲内です。




そのため、私は自らの配下を現地に送り込み、脅威の残存を調査させました。」




【ウリエラ】「……それで?」セオドリックが食い下がる。




【ウリエラ】「問題ありません。」ウリエラは断言する。




「現地には、球の痕跡も、魔力の残滓も一切ありません。




――安全は、確保されています。」




場には再び静寂が戻る。




評議員たちはしばし無言のまま視線を交わし、やがて一人、また一人と席に戻っていった。




イザベルの忠告が脳裏をよぎる。




「空のスフィアなんて、あいつらが冷静に受け止めるはずない」




【イザベル】「デレク」




ヴァンダの声がイヤーピースから静かに届く。




「今の「空のスフィア」、おそらく誰も信じてない。




お願い、これも作戦のうちだったって言って――そして、次に何を言うか、ちゃんと考えてるわよね?」




デレクは咳払いしながら、手で口元を隠して小声で呟いた。




「ヴァンダ。プロトコル3、起動。」




【デレク】「プロトコル3? 正気なの?」




ヴァンダの声が一瞬だけ感情的になる。




「状況が悪化するって分かってて、それでも行くのね…」




【デレク】「物事ってのはな」




デレクはゆっくりと前を見据えて言った。




「悪くなってからじゃないと、良くならねぇんだよ。」




ウリエラが眉をひそめた。「なんですって?」




【ウリエラ】「独り言だ。気にすんな。」




そしてセオドリックに鋭い視線を向ける。




「お前の名前、何だっけ?」




【ウリエラ】「セオドリック・ブレイデン。神聖尋問官だ。」




「尋問官」という単語に、これでもかという圧を込めてきた。




【ウリエラ】「うん、やっぱりクソだった。」




デレクは天井のステンドグラスに目をやる。




七体の異形に囲まれた男が、光る球を掲げて立つ――




まるで今の状況を皮肉ったかのような構図だった。




そして口を開く。




「そうだよ。箱の中の球は、本物の《青銅級スフィア》じゃない。」




【デレク】「やはりなっ!」




セオドリックが机を叩いて立ち上がる。




【デレク】「だが」




デレクはすかさずかぶせる。




「オルビサルが俺に言ったのは、「球を手に入れろ」ってだけだった。「箱に収めろ」なんて、聞いてねぇ。」




評議員たちが、ざわめきと共に顔を見合わせる。




【デレク】「球なら持ってる。…ただ、今ここにあるとは限らないがな。」




セオドリックが怒りに震えながら叫ぶ。




「そんな馬鹿げた嘘、誰が信じるか!」




【セオドリック】「うーん……お前らって、普段からわりと非現実的なもん信じてるじゃん?




だからちょっとは期待してたんだけどな。」




【セオドリック】「貴様ァァァ!」




セオドリックが怒声を上げ、顔面は真紅、こめかみの血管が浮き上がる。




ウリエラは再び手を上げた。静かに、そして冷ややかに語る。




「この者に欺かれていたことは、まことに遺憾です。もっと早く見抜けていれば…




だが、安心なさい。相応の罰を与えましょう。」




【ウリエラ】「当然だ!」セオドリックが机を叩く。




その瞬間――




ヴァンダの声が落ち着いた調子で響く。




「プロトコル3、実行中。接触まで……3、2…」




――ドオォォンッ




天井のステンドグラスが爆音と共に内側に向かって砕け散る。




色とりどりの破片が、空中で光を屈折させ、万華鏡のような閃光を室内に撒き散らす。




評議員たちの周囲に防御結界が次々と展開され、破片を弾き返す。




デレクは一歩退き、片腕で顔を覆う。




冷静さは、演出の一部。




振動。




熱風。




金属音。




――ドローンが着地する。




着地と同時に、機体が変形を始める。




パーツが組み替わり、装着され、ひとつの姿へと収束していく。




――NOVA、完全展開。




金属がデレクの体に吸い付くように装着され、視界が一瞬でAR表示に切り替わる。




最後のガラス片が、カラン、と音を立てて落ちる。




騒音が収まり――広間には、耳が痛くなるほどの沈黙だけが残った。




評議会の面々は、目を見開き、言葉を失ったまま、NOVAを凝視している。




装甲の手がゆっくりと前に差し出される。




その掌の上に――脈動する《青銅級スフィア》が浮かんでいた。




デレクが、軽く咳払いをして言った。




【デレク】「天窓は……すまなかったな。




あれしか着陸手段がなかったんでね。」




側面の扉が開き、二人の衛兵が戦鎚を手に駆け込んできた。




その視線はNOVAの装甲に、そして掌に浮かぶ球に釘付けになる。




セオドリックはまるで呪われた宝石でも見たかのように、球を凝視していた。




【セオドリック】「これは……本物なのか? まさか、本当に持っていたと? では、なぜ最初からカスケットに納めなかった!?」




デレクは肩をすくめる。




「昨日、異端者のスパイがあの箱を狙ってきただろ? それ見て思ったんだよ――「これはマズいな」ってな。




聖遺物ってのは、ただ置いとくもんじゃないだろ。




ましてや「誰でも手が届くとこ」にポンと置くとか……盗んでくださいって言ってるようなもんだ。」




彼の掌に浮かぶスフィアは、吸収した《幻影スフィア》の力と、NOVAに内蔵されたホログラム投影装置による「完璧な偽物」だ。




どこからどう見ても、魔力を帯びた本物のスフィアにしか見えない。




問題は、こいつらがそれを「本物だ」と――信じるかどうか、だ。




ウリエラが僅かに咳払いをして、冷静を装ったまま言う。




「……それは、非常に賢明な判断でしたわ。」




頷きながら続ける。「では、その球が本物であるかどうか。私の先見者に鑑定させていただいても?」




【ウリエラ】「……ねぇデレク」




ヴァンダがイヤーピースで呟いた。




「この女、ホントにあんたのこと気に入ってないね。




なんでだろうねぇ? あんなに礼儀正しく丁寧に対応してきたのに。」




【ウリエラ】「もちろん、構わない。」




デレクは平然と答えた。「鑑定、どうぞ。」




ウリエラが一歩前に出て、手を差し出す。




「では、こちらに渡していただけますか。鑑定の過程は、私が責任を持って監督いたします。」




ああ、そう来たか。




「渡した瞬間に回収」ってパターン、まるわかりなんだよ。




デレクは首を振る。




「そのご厚意には感謝する。だが……あんた以外にも幻術を操るやつが紛れてたよな?




つまり、他にもいるかもしれない。




今のところ、俺が信用できるのは――俺だけだ。




球はこのまま持ったままで、鑑定してもらおう。」




背中を一筋の冷や汗が伝った。




今の言葉も、仕草も、声色ひとつ間違えば――アウトだ。




これが最後の賭け。負ければ、終わり。




ウリエラは、しばし黙考した後、静かに頷いた。




「……分かりました。先見者を呼びましょう。」




彼女は衛兵の一人に軽く目配せをし、男は一礼して退室する。




デレクはここで畳みかけた。




「ところで、あんた前に「シタデルへの立ち入り」を許可するって言ってたよな?」




ウリエラは儀礼的に頭を下げる。




「カシュナールがシタデルを訪れることは、我々にとっても大いなる名誉……」




顔を上げて彼と視線を合わせる。




「……本物であることが確認されれば、の話ですが。」




ああ、ありがたいな、その「公開確認」。




全部評議会の前で言ってくれたってのが、最高だ。




彼の視線は掌に浮かぶスフィアへ――そして、ほんの一瞬だけ、その下に埋め込まれたNOVAの投影装置に。




ここまで「本物っぽく」見せられるとは、自分でも想定外だった。




だが――見た目は騙せても、「本物の魔力」までは真似できない。




その一点だけが、最大の弱点だった。




扉が開く。




現れたのは、亜麻色のローブをまとった女性。




無染色の布を巻いただけの、簡素で清らかな姿。




足は裸足、歩くたびに微かな足音すら立てない。




首からは、木彫りの球形ペンダントが揺れていた。




空気ごと、彼女の気配が消えるような、異質な存在感。




――これが、先見者。




【ウリエラ】「先見者よ。」




ウリエラは彼女を一瞥もせず、命じた。




「この男が持つ球が本物かどうか。判定してください。」




女性は焦点の合わない目を向けたまま、微動だにせず言った。




【ウリエラ】「……はい。」




ウリエラが眉をひそめる。「……つまり?」




【ウリエラ】「はい。」




彼女は繰り返す。




「ここからでも分かります。これは《幻影》属性の青銅級スフィア。――本物です。」




静寂。




ウリエラの口が、わずかに開いた。




片目が、ピクリと震える。




デレクは、喉奥でこっそり息を吐いた。




鼓動が、ほんの少しだけ静まる。




(……マジか。通ったのか、これ。)




そう――NOVAが放つ魔力の微細な振動を、先見者が「球からのもの」と誤認した。




ここまで完璧に騙せるとは、自分でも驚きだった。




評議員たちは困惑しきった顔で目を見交わし、ステンドグラスの破片をバリバリと踏みしめながら身じろぎしていた。




セオドリックがウリエラに詰め寄る。




ウリエラは、ほんのわずかに首を横に振った。




セオドリックは、それ以上言葉を発さず、視線を落とす。




そして――




ウリエラが手を上げた。




「……皆様。これが証です。




救世主カシュナールは、我らのもとに――おられます。」




誰一人、異を唱える者はいなかった。




全員、静かにうつむいたまま。




ウリエラは小さく息を吐くと、言葉を続ける。




「それでは、本日の会議はここで終了といたします。




この神聖なる空間は、今や……相応しい形ではなくなりましたので。」




一人、また一人と、評議員たちは無言で退出していく。




先見者も一礼し、何も言わずにその場を去った。




全てが、あまりに「順調すぎた」。




(……うますぎる。逆に、怖い。)




彼女――本当に騙されたのか?




あの「幻影スフィア」の力だけで、ここまであっさりと?




違和感は残った。




が、それはウリエラの仕業とは思えなかった。




むしろ彼女こそ、一番驚いていたように見えた。




今、この場には――彼とウリエラ、二人だけ。




ウリエラは足元のステンドグラスの破片を見つめていた。




その目は、失敗に砕かれた「計画」を見ているようだった。




デレクはヘルメットのロックを解除し、面を外した。




【デレク】「……まだ俺のこと、救世主だとは思ってねぇんだろ?」




質問じゃない。確認だ。




ウリエラは静かに顔を上げ、冷たい沈黙でそれに答えた。




【ウリエラ】「……それでいいさ。」




デレクは肩をすくめ、皮肉っぽく笑った。




「俺だって、あの肩書きにはうんざりしてる。




だからさ――戦争ごっこはやめにしないか?」




【ウリエラ】「俺は、「神の使い」なんて称号が欲しくてここに来たわけじゃない。




「偉ぶった連中の聖なるクラブ」を乗っ取りたいわけでもない。




シタデルで研究させてくれりゃ、それで十分だ。」




【ウリエラ】「俺は俺の目的のために動く。お前らとは、無関係だ。




知りたいことが分かったら、さっさと立ち去る。」




にやりと笑い――手を差し出す。




「俺が消えた後でなら、好きなだけ悪口を言ってくれて構わない。どうだ? フェアだろ?」




ウリエラは、その手を見つめ――顔を上げる。




その目には、氷よりも冷たい敵意が宿っていた。




【ウリエラ】「……認めましょう。」




声は冷ややかで、唇の端には軽い震えすら走っていた。




「あなたがどうやって先見者を欺いたのか。




本物の球をどこに隠したのか。私には分かりません。」




【ウリエラ】「ですが――ひとつだけ、確信を持って言えます。」




【ウリエラ】「あなたのような人間が、我らの《敬愛するカシュナール》であるなどと――




私は、これからも一瞬たりとも信じることはありません。」




その言葉には、毒の棘と、信仰を踏みにじられた怒りが込められていた。




デレクは手を下ろし、その場に立ち尽くす。




ウリエラはくるりと踵を返し――




重たい扉を、勢いよく閉めて去っていった。




バタン。




ただ、それだけが残った。

いかがでしたか?

大爆発、嘘のスフィア、冷え冷えのウリエラ――

デレクの命綱は、機転とハッタリ。

でも、敵も甘くない。

次回は、さらなる心理戦と、まさかの再会が?

お楽しみに!


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