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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第一章 廃墟から聖都ロスメアへ
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第46章: 幻術使いとの対峙

読んでくださりありがとうございます!

今回の第46話では、デレクがついに幻術使いと対峙します。

彼が「ただの男」か、それとも「救世主」なのか――真実は煙のように揺らいでいます。

イザベルとのすれ違い、シエレリスとの心理戦…読後にモヤモヤしてくれたら、狙い通りです(笑)。


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デレクとイザベルが客室に近づくと、警備兵が背筋を伸ばした。イザベルに鋭く一礼したが、体は微動だにしない。腰にはウォーハンマー、制服にはオルビサルの紋章。鋭い目がデレクをとらえ、太い眉がひとつ跳ねた。


イザベルは無言で一歩近づき、兵士の耳元にそっと囁いた。


兵士は即座にうなずき、扉の前からどいた。「中にいます。今のところは静かです。」


イザベルがうなずく。デレクは彼女を横目で見る。


【イザベル】「中の女、幻術使いよ。ロスメアに仲間が潜んでいる可能性もある。だから念のため、私とこの兵士だけが知る合言葉を設定したわ。私たちになりすまして彼女を助けに来たとしても、すぐ分かるように。」


【デレク】「賢いな。お前を敵に回すのはやめておくよ。」


皮肉のこもった笑みを浮かべながら、彼は軽く頭を傾ける。


――自分は盗人で、彼女はこの街で最も「秩序」に近い存在。

笑えるくらい、正反対だった。


イザベルは軽く会釈し、先に中へ入った。デレクが続く。


部屋の中は冷え冷えとしていて、古びた石と乾いた薬草の匂いが微かに漂っていた。重たい扉が音を立てて閉まる。


室内は質素だった。石の壁、簡易ベッド、机と椅子。高い位置にある窓の格子から、わずかな光が差し込んでいる。鎖も拘束具もなし。冷たく、必要最低限の空間。


そして、部屋の奥。ベッドの隣のベンチに、少女がいた。


シエレリス・マルザー。


彼女は立ち上がりもせず、ただ背筋をまっすぐにして座っていた。膝の上で両手を組み、冷静な視線を二人に向けている。怯えも反抗もない。まるで、ただ順番を待っているかのように。


シャープな輪郭に、しなやかな体つき。力ではなく、機敏さを感じさせた。あの緑の瞳は、間違いなくコリガンのものだった。

深い青と灰色の質素だが仕立ての良いチュニック。髪はきっちりと編まれ、飾り気はない。派手さもなければ、抜かりもない。――完璧なスパイの装い。


【シエレリス】「カシュナール。そして…ナーカラのウォーデン。」


声は静かで安定していた。わずかに皮肉が滲んでいる気もした。


イザベルは腕を組み、鋭い視線を向けたまま立ち止まる。


デレクは椅子にどかりと腰を下ろした。椅子が苦しげにきしんだ。


【デレク】「「デレク」でいい。」


【シエレリス】「かしこまりました、デレク。私のことはシエレリスとお呼びください。」


【デレク】「コリガンの娘だそうだな。」


彼女は静かにうなずく。


【イザベル】「あなたをここへ一人で送り込んだこと。正体を明かしたこと。その両方が、あなたの父にとって極めて愚かな判断です。私たちは、あなたを人質にして、あなたの釈放と引き換えに父を屈服させることだってできる。」


シエレリスはわずかに顎を上げる。視線はまっすぐだ。


【シエレリス】「それが…あなた方の意図ですか?」


デレクは椅子に深く腰を沈め、肩をすくめる。


【デレク】「いや、俺はこの世界の人間じゃない。宗教抗争には興味ない。けど…あんたらが「空から落ちてきた救世主」なんて呼び出したせいで、やたら面倒な立場になったってわけだ。」


彼はイザベルにちらりと目をやる。


【デレク】「だからこそ確かめたい。実際に何が起きてるのか。誰も首を切られずに済ませたい。それが終わったら、俺は俺の仕事に戻る。まだやり残しがあるんでね。」


【シエレリス】「…理解しました。カシュナールが私などに時間を割いている場合ではないでしょう。」


彼女は一瞬だけ視線を逸らしてから、落ち着いた声で続けた。


【シエレリス】「ですが、私をここに送ったのは父ではありません。私は《目覚めの鎖》の一員として、自らの意思で動いています。」


【デレク】「目覚めの鎖、ね。初耳だ。」


【イザベル】「異端者たちが自称している名称です。三角の中に目。その周りに壊れた鎖。それが彼らの象徴。」


シエレリスが少し身を乗り出し、瞳に光が宿る。


【シエレリス】「私たちは「目覚め」こそが真の力と信じています。自由な思考。盲信ではありません。」


【デレク】「宗教ってのはな、どこも出だしは立派な理屈を掲げる。でも、結局欲しがるのは「権力」だ。教会の束縛から解放されたい?結構。でも次にその場所に、自分たちの鎖を巻くだけだろ。」


イザベルがわずかに口角を上げる。


シエレリスは唇を引き結び、顔をわずかに赤らめるが、黙って耐えた。


――彼が本当に救世主じゃなかったら、飛びかかって来たかもしれない。


【デレク】「どっちの側にもつく気はない。けど、今日の計画が何だったのかは知りたい。俺に話しに来ただけじゃないだろ。だったらもっと穏便な方法があったはずだ。」


【シエレリス】「…父は、演出が好きな人です。あなたの話は、ウリエラが教会の影響力を高め、私たちを貶めるために作った捏造だと信じていました。だから、「偽預言者」を晒そうとした。」


イザベルをちらりと見る。


【シエレリス】「けれど、あなたが想定外だった。偽物ではなかった。そして私は――「ナーカラのウォーデン」に捕らえられた。」


最後の一言には、乾いた毒がにじんでいた。


【デレク】「見切るの早すぎないか?ウリエラとつるんでないってだけで、「ああ、本物だ」って?あの女は策士だぞ。これだって、全部仕組まれた茶番かもしれないだろ。」


シエレリスは静かに首を振る。

【シエレリス】「私は…幻術だけでなく、人の「気」を感じ取れます。あなたの中には、言葉では表せない何かが…確かにありました。」


【デレク】「ブロンズ級の幻影スフィアを吸収してる。それか?」


【シエレリス】「それも感じました。けど…それだけではない。もっと大きなもの。深くて、揺らいでいて、眠ってるけど…動き出しそうな力。私はそれを感じて、すぐに精神リンクで父に報告しました。そこで彼の判断が変わったんです。」


デレクはイザベルをちらりと見たが、彼女は眉をひそめて首を横に振った。


【デレク】「シエレリス、ウリエラの預言者も俺を調べたが、そんな話はなかったぞ。思い違いって可能性は?」


シエレリスは即座に立ち上がる。

【シエレリス】「絶対に違います!あれは…誰にも間違えられるようなものではない。あの「存在」に触れたとき、体の力が抜けて…倒れかけて、父の幻術まで崩れそうになったんです。」


デレクはゆっくりうなずく。

《精神リンク》と呼ばれる通信手段で、彼女は父親に感覚を伝え、投影のように姿を出せた。

そして今、NOVAは幻術スフィアを内蔵している。自分はまだ、その力の真価を試していない。


だが、彼女の言葉が気にかかる。

「内に眠る、大きくて不安定な力」。


もしかして、あの古代のコラール・ノードのエネルギーを感じ取ったのか?


デレクは一歩前に出た。

【デレク】「今、もう一度やれ。」


シエレリスは眉をひそめて身を引いた。

【シエレリス】「な、何を…?」


【デレク】「「オーラを見る」ってやつだ。今すぐだ。」


【イザベル】「だめよ、デレク!」

彼女が前に出る。

【イザベル】「彼女にそんなことをさせたら危険すぎる。何の魔法を隠してるか分からないのよ!」


デレクは片手で静かに制した。

【デレク】「これは実験だ。そして俺は、実験中に口を挟まれるのが一番嫌いなんだ。」


イザベルは言葉を飲み込み、顔を赤らめながらその場に踏みとどまった。


デレクはシエレリスに向き直る。

【デレク】「頼む。やってくれ。」


【シエレリス】「で、でも…もうやったし、結果も分かってる。それに…気分の良いものじゃない。」


【デレク】「カシュナールを信じろ。そしてもう一度――頼む。」


彼女は戸惑いながら手を差し出し、目を閉じた。


何も感じない。

ただ、彼女の目と口がぱっと開き、喉で息を呑む音がした。


そして――幽霊でも見たかのような目で彼を見つめた。


【シエレリス】「な…なんで…こんな……あなた……」


言葉にならず、ただ彼を指差したまま固まる。


【デレク】「ああ。君の力は本物だ。オーラを読むことができる。で、今やっと気づいたんだろ?俺には、「中身」がないってことに。救世主?カシュナール?笑わせんな。俺はただの男だ。」


シエレリスは口を開けたまま、かすかにうなずく。

【シエレリス】「そんな…私は…確かにあれを感じたのに…。じゃあ…全部幻だったの?あなたは…救世主じゃ…」


イザベルがわずかに動く。


デレクは寂しげな笑みを浮かべた。

力なんて、ずっとアーマーの中にしかなかった。NOVAを脱げば、ただの男。

でも――誰にもバレない。今のところは。


それは使える。


【デレク】「答えは言わないよ。あのとき感じたものが幻で、今の俺が真実かもしれない。ただの男だ。…あるいは、広場で感じたものが本物で、今の俺が君をからかってるだけかもしれない。」


彼は意地の悪い笑みを浮かべる。

【デレク】「さて、どっちだと思う?」


【シエレリス】「わ、分からない…もう、何が本当か……」


【デレク】「それでいい。」


彼は椅子から立ち上がり、イザベルに向き直った。

【デレク】「もう充分だ。行くぞ。」


そして一瞥だけ残して、

【デレク】「楽しかったよ、シエレリス。」


彼女はまだ、ぽかんと口を開けたままだった。


デレクがドアへ向かう。イザベルがすぐに続く。

ドアが閉まった瞬間、彼女が腕をつかみ、振り向かせた。


その顔は真っ赤に染まり、瞳が怒りで閃いていた。


【イザベル】「一体、何を考えていたの!?」


【デレク】「何の話だ?」


イザベルは怒気を押し殺しながら、冷たい声で答えた。

【イザベル】「何の話って…?ノヴァも着けずに現れて、完全に無防備で、あのスパイに自分を好きに「分析」させたことよ!彼女が本気だったら、指一本であなたを殺せたのよ!」


彼女は一歩踏み出し、拳を握る。

【イザベル】「それに、自分の力がアーマー由来だって口にした。…そんなの、敵に「どうぞ攻めてください」って言ってるのと同じじゃない!あなたはもっと…慎重な人だと思ってた。」


デレクは片眉を上げた。

【デレク】「「敵」?あいつが?そう決めつける理由は?」


【イザベル】「彼女は異端者です。そして、ただの異端者じゃない。あのコリガン・マルザーの娘よ。教会を打ち壊すことが奴らの目的。それに対してあなたは――あなたは今や、オルビサル教会の象徴…なのよ。」


【デレク】「違うな。」


イザベルは鋭く睨む。

【イザベル】「…「違う」?何が「違う」の?」


デレクは深く息を吸い、ゆっくり言った。

【デレク】「まず、「俺は象徴になりたいわけじゃない」。それから、「彼女が俺を敵と見ていたようには思えない」。そして一番重要なのは、「俺が弱点を明かした」とは思っていない。むしろ逆だ。」


彼はドアの向こうを顎で示す。


【デレク】「今ごろ、彼女は頭を抱えてる。「こいつは何者なんだ?」ってな。さっき感じた力と、今の俺が一致しない。混乱してるはずだ。…混乱してる人間は、動く。」


【イザベル】「動く…?」


【デレク】「ああ。そもそも、なぜロスメアに来たのかも分かってない。だが今、俺が仕掛けたことで、次の手を打つはずだ。」


【イザベル】「オルビサルよ…お願いだから、あなたの読みが当たってて…。でも彼女が今「混乱してる」ってことは、逆に何をするか読めなくなるってことでもあるわ。」


【デレク】「その点については、俺も同意だ。」


彼は肩をすくめる。


【デレク】「これから数時間、あいつを監視しといてくれ。何かしら仕掛けてくるはずだ。彼女の任務の一部は「救世主を見つけること」だった。…でも今、彼女自身、それが達成できたのかも分からなくなってる。」


【イザベル】「それで…牢じゃなく、部屋に?わざと動ける余地を与えて?」


【デレク】「そう。というか…「揺さぶる」ってのが目的だった。今、あいつは混乱してる。俺を信じていいのか分からない。「救世主」かどうかも分からない。何もかも、分からない状態にしてやった。そして――任務は瓦解した。」


彼は唇の端を吊り上げる。

【デレク】「そうなれば、人は何かせずにはいられなくなる。…賭けてみる価値はあるだろ?」


イザベルは深く息を吐いた。

【イザベル】「NOVAはすぐに装備できるようにしておいて。今のあなた、命を投げ出す気なんじゃないかって…本気で心配になる。」


デレクは少し驚いたように眉を寄せる。

【デレク】「君が?」


【イザベル】「私は、カシュナールを護る役目です。オルビサルの意思により、そして大神官ウリエラ・ヴァレンの命によって。あなたがロスメアで何かあれば、責めを負うのは私。私は、「救世主を死なせたウォーデン」として、ずっと語られることになるのよ。」


彼女は悲しげな笑みを浮かべた。


デレクの喉が一瞬、詰まった。


――このクソみたいな宇宙だ。誰かに近づけば、決まってその人を危険にさらすことになる。

自分が死ぬことなんて、もうどうでもよかった。

だが、イザベルを巻き込むのは、別の話だ。


【デレク】「…分かった。気をつけるよ。」


イザベルは首を振る。

【イザベル】「あまり期待してないけどね。さあ、今夜は休みなさい。明日は評議会との面会。彼らは、あなたが外で何をしたのか――そして、カシュナールが今後どう動くのかを知りたがってる。」


デレクは肩を落として笑った。


科学者、盗賊、戦士、救世主――そして今度は、教会の精神的リーダー。


どこまで行くんだ、俺の履歴書は。


次は……神か?


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

第46話をもって、第一章『廃墟から聖都ロスメアへ』――閉幕です。


少女は幻を操り、

男は自らの空虚さを武器に賭けへと出た。

揺らぐのは、敵の心か、それとも…


だが、これはまだ幕開けにすぎない。


次回、第二章『聖都の影と覚醒の機構』、始動。

“神”と“科学”、交わるはずのないものが、今――


ここまで読んでくださった皆さんへ、心より感謝を込めて。


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