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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第一章 廃墟から聖都ロスメアへ
42/102

第42章: 暴走する力、紫の幻影

【作者より】


今回の話では、デレクが自分の限界を超え、ついに「ブロンズ階級」のアップグレードを解放します。

しかし、その力の代償は……? そして、ユキの幻影の意味とは?


ますます加速する物語をお楽しみください。


ジャングルは、風と雨の容赦ない猛威に揺れていた。頭上では嵐が咆哮し、空そのものが怒りを吐き出しているようだった。


【デレク・スティール】「……」

プラズマキャノンを構えたまま、デレク・スティールはカインをにらみつけた。

その目は、見下すように冷ややかだ。対するカインは、信じられないといった顔で眉をひそめたままだった。


NOVAの内部では、警告音が嵐のように鳴り響いていた。

見えない何かがシステムを自動で修復しているのか、いくつかの警報は静まり、だがその一方でリアクターの出力は異常なまでに上昇し続け、赤色の警告が絶え間なく点滅していた。


(論理的に考えれば……こんなもん、とっくにバラバラになってるはずだ)

すべての理屈が、スーツの限界を叫んでいた。それでもNOVAは、壊れなかった。まだ、生きていた。


稲妻が空を引き裂いた。

その瞬間、プラズマエミッターを走るエネルギーの弧が、彼の視界を照らした。

心臓の鼓動が、嵐と完璧にシンクロする。


【デレク・スティール】「……いいだろ。どうせ吹っ飛ぶなら、一緒に逝ってもらうぞ、クソ野郎」

唸るように呟き、引き金を引いた。」


プラズマのボルトが、闇の中で赤黒く輝きながらカインに向かって飛ぶ。

そのエネルギーは、これまで見たこともない異質なものだった。


反動が彼の腕を激しく跳ね返す。アクチュエーターが悲鳴を上げる中、それでもNOVAは射撃を続ける。


カインは呆然としたまま、自身を包む青白いバリアにボルトが命中するのを見ていた。

亀裂が、まるで蜘蛛の巣のように一瞬で広がった。


【デレク・スティール】「……シールドが割れる音、いいな」


NOVAのコックピットにはオゾンの刺すような匂いが立ち込め、喉を焼く。

制御系はぎりぎりのところで踏みとどまり、体中の関節が痙攣を始めていた。


ビリビリッ――!

放電が装甲を這い回り、まるで発光する蜘蛛のように、動くたびに音を立てた。



《出力レベル:350%に到達》



(三百五十パーセント? 笑わせんな)


(普通なら、俺の肉体なんざ焦げた灰になってるだろ。グラウンド一面、クレーター追加だ)


そのとき――


【ヴァンダ】「デレク・スティール、警告です! 未知のエネルギー源がシステムを過負荷にしています!

アップグレード後のNOVAでも、保持可能時間は極めて短いと予測されます。

今すぐ、余剰エネルギーの強制放出を行ってください!」


【デレク・スティール】「ああ、知ってるさ」

吐き捨てるように言いながら、彼はニヤリと笑った。

【デレク・スティール】「だが、いい排出口を思いついたんでな」


再度、発射。

NOVA全体が揺れ、凄まじい反動で照準がずれる。

だが、彼はそのたびに即座に修正し、撃ち続けた。


シールドの亀裂は、確実に、確実に広がっていった。


【カイン】「なぜだ…お前の体は半分凍ってた…お前は…もう終わってたはずだ!」


【デレク・スティール】「なら教えてやるよ。俺は終わらねえタイプなんだよ」

歯を食いしばりながら声を吐く。

【デレク・スティール】「今すぐ消えろ。抑えてられる保証は、ない」


【カイン】「……逃げる? 貴様から?」

カインは鼻で笑い、剣を構えた。

【カイン】「これは幻術だろ。トリックにしちゃ悪くないが、俺を倒すには足りない」


カインは剣を振りかぶり、突撃する。


【デレク・スティール】「……なら、死ね」


即座にトリガーを引く。


カインの剣から放たれた霜の波動が、プラズマボルトの間をすり抜けてデレク・スティールの胸に直撃する。

しかし、寒気は瞬時に吸収された。



《アーマーによるダメージ吸収:100%》


《霜ダメージ:0%》



カインは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

バリアは明滅し、今にも砕けそうだった。


【ツンガ・ンカタ】「火の神よ……シャイタニが暴れてる……」

ツンガ・ンカタは杖を抱え、口元をわずかに動かしながら祈るように呟いた。」


(気持ち悪いな……)


一歩踏み出し、プラズマキャノンを収納する。


【デレク・スティール】「終わらせるか」


代わりに、NOVAの両腕から赤いプラズマブレードを展開。


ジュッ――ッ!

蒸発した雨が白い霧となって広がり、周囲を包む。


【デレク・スティール】「……なんだよ、これは」


【ヴァンダ】「解析中です! NOVAから膨大なデータが流れていますが、すべて未知のパターンです!」


【デレク・スティール】「聞くだけ無駄だったな」


彼は前へと走り、カインに突進した。


カインの剣が振り下ろされる。


【デレク・スティール】「はいはい、やっぱ来るよな」


デレク・スティールはブレードを交差させ、氷の一撃を正面で受け止めた。

ジィィィ――! 激しい音とともに霧が爆ぜ、プラズマと氷が火花を散らす。


(こっちは科学、向こうは魔法……か?)


(力比べなら、負けるつもりはねぇ)


彼は内部出力をアクチュエーターに再分配。

筋力を三倍に――通常なら焼き切れて当然の出力。


だが、NOVAは保った。


カインの剣に流れていた青白い光が消えかけ、色が濁っていく。

やがて、オレンジから――赤へ。


【デレク・スティール】「終わりだ、カス」


NOVAの刃が氷の剣を叩き切り、そのままカインの胸を焼き穿つ。


HPバーが赤に落ち――消えた。


【デレク・スティール】「……」


カインは光るブレードを見つめながら、言葉にならない声を漏らし、膝を崩す。


ブレードが消え、残ったのは二つの焦げ穴。

カインは泥の中に崩れ落ちた。



《オーリックレベルが上昇しました。》

《ブロンズ・レベル1に到達。使用可能なアップグレード:1》

《ブロンズ階級アップグレードが解除されました。》



【デレク・スティール】「……そうかよ。おめでとう、俺」


ドクン――ドクン――


心臓の鼓動が耳に響く。

リアクターが軋むように唸り、NOVAの内部が暴走の兆候を見せ始めた。



《リアクター状態:クリティカル》

《リアクター排出を推奨》

《封じ込め失敗の危険:極大》



【ヴァンダ】「デレク・スティール! リアクターが限界を超えます! 即時の対処が必要です!」


【デレク・スティール】「見りゃ分かる! だがどうしろってんだよ!」


【ヴァンダ】「スフィアを! 使ってください、早く!」


【デレク・スティール】「……正気かよ。ブチ込んだら爆発するだろ、こんなもん……!」


【ヴァンダ】「通知をご覧ください。今のあなたなら、耐えられる。安定化できるはずです!」


【デレク・スティール】「《はず》って時点で信頼度ゼロだっての……」


彼はスフィアを取り出し、まじまじと見つめた。

紫の光が揺らめき、まるで現実を歪める何かを孕んでいるようだった。


【デレク・スティール】「……これが何をするかも分かっちゃいねぇってのによ」


彼は目を閉じ、スフィアを胸部に押し当てた。



《ブロンズ階級強化:幻影アップグレード》

《クアドラコア・プラズマ・リアクターに適用しますか? Y/N》



【デレク・スティール】「……クソが」



《はい》を選択。



紫の奔流がスフィアからあふれ出し、NOVAの炉心に注ぎ込まれた。

高圧水流のような光が胸部ユニットを揺さぶり、デレク・スティールはそれを両手で必死に押さえた。


そして――


視界が、砕けた。


獣、人間、スフィア、塔、翼のある影、燃え盛る目。

断片的なビジョンが洪水のように流れ込む。


そして――そこに、ユキがいた。


【デレク・スティール】「……ユキ……?」

彼女は静かに、申し訳なさそうに笑っていた。

そして――うなずいた。」


視界がまた揺れ、光が急激に消え去る。


スフィアは冷たくなり、手の中で沈黙した。

ただの金属の球体に戻っていた。


遠くで雷が鳴り、雨は弱まっていった。



《ブロンズ階級強化を取得しました。》

《使用可能なアップグレード:0》



デレク・スティールはスフィアを地面に落とした。



《システム更新中》

《新機能を実装しています》

《お待ちください……》



【デレク・スティール】「《新機能》だ? 十秒後に自爆するパターンじゃねえだろうな?」


【ヴァンダ】「その可能性は極めて低いと思われます、デレク・スティール。……たぶん、成功です」


ディスプレイに表示されていた赤の警告灯が、一つずつ消えていった。


温度ゲージも、徐々にだが確実に下がっていく。


【デレク・スティール】「……まあ、爆発しないだけマシか」


彼は足元のカインの遺体に目を落とす。

胸には焼け焦げた穴。蒸気がまだ立ち上っていた。


膝をついてポケットを探る。

だが、役に立ちそうな物は何も見つからなかった。


【デレク・スティール】「……証拠もなし。依頼主がいるなら、もうちょい手がかり残しとけってんだ」


彼はNOVAの表面を見下ろした。

黒く輝き、まるで新品のように滑らかだった。


【デレク・スティール】「ヴァンダ、今の出来事――全部解析しておけ。次、またこれが起きたら……予備のスフィアなんて都合よく落ちちゃいない」


【ヴァンダ】「了解です。ただ、これは過負荷では説明がつきません。

前面装甲とサーボの修復が確認されています。まるでRepair Botが十体同時に作業したような挙動です」


【デレク・スティール】「……おい、Botは?」


【ヴァンダ】「すぐ後ろにいます」


【デレク・スティール】「は?」


振り返ると、そこには二機の浮遊ユニット。

表面には紫と青緑、琥珀の光が静かに流れていた。


その姿は、もはや以前のRepair Botではなかった。

金属筒のような本体に、多関節アームが幾重にも伸びている。

先端には、用途不明のツールが多数装着されていた。


【デレク・スティール】「……こいつら、もう《俺の》じゃねぇ気がするな」


彼はBotたちを睨んだ。


【デレク・スティール】「ヴァンダ、あの箱を探せ。スフィアを失った上にあれまでなくしたら、ユリエラが発狂するぞ」


【ヴァンダ】「了解しました。スキャンを開始します」


【デレク・スティール】「それと……ありがとうな」


【ヴァンダ】「感謝の必要はありません。でも……嬉しいです」


視線を落とすと、泥に沈むカインの背中からまだ蒸気が立っていた。


(……ここに来て、何人殺した? もう数える必要すらねぇのか?)


科学者だったはずの自分。

盗賊になり、そして――今は?


(殺し屋、か……)


だが、今回は違う。

誰かが――この男を、自分を殺すために送ったのだ。


(なら、そいつも同罪だ)


ギリッ――

拳を握りしめた瞬間、NOVAの関節が軋む音を立てた。


そのとき――

血まみれのツンガ・ンカタが、静かに立っていた。


【ツンガ・ンカタ】「……見た。シャイタニ。お前の中にいた」

声は低く、岩が割れるようだった。

【ツンガ・ンカタ】「あれは、世界を壊す。獣の精霊が、お前を……囁いた」


【デレク・スティール】「……何が起きたか、俺にも分からん」

【デレク・スティール】「装甲は死んでた。俺も凍ってた。中から凍ってく感覚まで、はっきり分かった。

でも……何かが起きた。あれが何かは……知らん」


【ツンガ・ンカタ】「お前の中のシャイタニ、強い」

【ツンガ・ンカタ】「お前を立たせた。お前を、生かした」


【デレク・スティール】「くだらねぇ」

手を払う。

【デレク・スティール】「ただの過負荷だ。それ以上でも以下でもない」


【ツンガ・ンカタ】「違う。あれは始まりだ。その力、これからもっと……強くなる」


【デレク・スティール】「それはありがたいな。ここに来てから、何度も殺されかけてるんでね」


【ツンガ・ンカタ】「お前、考え方が間違ってる。心が濁ってる」


【デレク・スティール】「ああ? で? お前は《澄んでる》ってか? ジャングルで霊と会話してるやつが俺に説教かよ?」


皮肉混じりに肩を叩く。


【デレク・スティール】「……だがまあ、助かったのは事実だ。お前が来なきゃ、俺は終わってた。だから、例の《殺し合いごっこ》の件も、これでチャラな」


【ツンガ・ンカタ】「……」

鼻を鳴らす。」


【デレク・スティール】「けどな、いくら助けてもらっても――お前の《猿の神》に祈る気はねぇ。

この星には、高度なテクノロジーが山ほど眠ってる。

お前らが《魔法》って呼んでるモノも、いずれ全部――」


【デレク・スティール】「科学で説明できる」


【ツンガ・ンカタ】「……お前、《見た》な?」


【デレク・スティール】「は? 何を?」


【ツンガ・ンカタ】「分かってるはずだ」


ドクン――

一瞬、鼓動が止まったように感じた。


ユキの幻。あの瞬間。あの微笑み。


(……違う。……違う……違う)

(あれは……幻覚。脳が焼き切れかけてただけだ)


【デレク・スティール】「……もういい。箱を拾って、ロスミアに戻るぞ。また誰かに狙われる前にな」


【ツンガ・ンカタ】「質問に……答えていない」


【デレク・スティール】「あーもう、面倒くせぇ!」


肩をバンと叩く。その一撃でツンガ・ンカタの杖がたわんだ。


【デレク・スティール】「答えなかったのはな、お前の質問が《意味不明》だからだよ、相棒!」


【ツンガ・ンカタ】「……子供みたいに笑うな。


でも、お前の中に……《シャイタニ》いる。それ、冗談じゃない」



(……ある意味、こいつは正しい。


ただ、それが《悪魔》ってやつじゃないだけだ)

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


デレクが限界を超え、新たなアップグレードを手に入れました。

彼に何が起きたのか、そして今後どんな影響をもたらすのか――

物語はさらに加速していきます。


この作品を気に入っていただけたら、ブックマーク登録をしておくと、更新を見逃しません。

次回もぜひお楽しみに。

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