表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第一章 廃墟から聖都ロスメアへ
40/102

第40章: 幻影を斬る

【第40話】では、幻影と現実の狭間で揺れる戦いが描かれます。

命を奪うたびにレベルアップする世界。

それでも「ただの殺し」で終わらせたくないというデレクの想いが、最後に一筋の光を見せてくれるかもしれません。


読んでいただければ嬉しいです!

ジャングルには湿ったマントのような重たい空気がまとわりつき、デレクの喉を無理やりこじ開けようとしていた。


木々の梢が、鉛色の空の下で不穏に揺れていた。

嵐が迫っている。


足元の地面がドンと揺れた。

地中に潜む巨大な獣が咆哮したような轟音とともに、地面が裂け、ドバァッと土と葉が噴き上がる。


ズドン! ズドン! ズドン!


木の幹ほどもある黒く滑らかな柱が、十数本も突き出して、ジャングルの樹冠を突き抜けてそびえ立った。

表面にはパチパチと紫のエネルギーが走り、音を立てて跳ね回る。


そして、霧の中に響く斧狂いの声。木々の間で反響する、不快な音。


…いや、あれは人間の声じゃない。


悲鳴というより、苦痛で引き裂かれる幽霊の叫びに近い。


だが、姿はどこにも見えなかった。センサーはバチバチとノイズを吐き、ミニマップも空っぽ。


NOVAの腹部装甲は裂け、胸部には深くえぐれた溝。複数のアクチュエーターが過負荷を訴えている。


【デレク】「…チッ。また幻かよ」


何が現実か、もはや分からない。

石柱も、センサーも、表示も、全部ウソかもしれない。NOVAの故障を演出して、逃げさせようとするトリックってわけか。


…いや、それよりもヤバいのは。


俺があの男を、もう憎めなくなってることだ。


アイツはただの木こりだった。運が悪かっただけだ。

ブロンズ級スフィアのエネルギーに当たって、理性を失った。それだけだ。

魔力が脳味噌に根を張って、もう離さねぇ。


あのままじゃ、出会った奴全員を殺し続ける。そして殺すたびに、レベルアップしていく。

…このクソ世界のレベル制のせいでな。


まったく、止まらない宇宙規模のスコアボードかよ。


しかも、あのスフィアはまだ地中にある。周囲に力を撒き散らして、次の犠牲者を探してるってわけだ。


拳を握りしめる。


さっきの狂笑がまた響いた。どこか、泣いているようなニュアンスが混じっていた。


…あの中に、かつての本人が少しでも残っていたとしたら?


俺が見た一瞬の正気――――あれが本物だったとしたら?


…でも、それすら幻かもしれない。


どこまで考えても、最後はここに行き着く。


――――信じられる情報が、一つもない。


【デレク】「ヴァンダ、現実と幻を見分ける手段が要る。何でもいい、今までのデータを全部洗い直せ」


【ヴァンダ】「承知しました、デレク。ただ今処理を開始します。その間、ホログラムを再起動しますか?」


【デレク】「いや、運が良かっただけだ。次は俺の頭が割られてたかもしれねぇ。もっと手の込んだやつで行く」


【ヴァンダ】「NOVAの状態は良好とは言えません。次の行動は早急にお願いします。ロスメアに戻るまでに、サブシステムが完全に停止する可能性もあります」


―――


喉を鳴らして飲み込む。

…ユリエラのありがた〜いお導きのおかげで、俺は今このジャングルで完全に独りだ。


もしまたNOVAが止まったら?


…誰も来ねぇ。今回は、本当に。


幻影と戦うのは、自分の五感と戦ってるようなもんだった。


深く息を吸い、肩を下ろす。


幻術は強力だが、現実を変える力はない。

あの男は、どこかに本当にいる。血と肉の存在として。


そして、本物を見つけ出せれば――――殺せる。


あの斧も、たとえ魔力で強化されてても、材質は木と金属だ。


金属。


【デレク】「ヴァンダ!」


【ヴァンダ】「はい、デレク?」


【デレク】「半径100メートルに、低出力のEMフィールドを展開できるか?」


【ヴァンダ】「必要電力は約2メガワットです。可能です。ただ、何のために――――」


【デレク】「時間ねぇ、やれ。センサーも磁場の歪み検知に切り替えろ」


【ヴァンダ】「了解しました。つまり大型の金属探知機を…ああ。なるほど」


【デレク】「コレまで干渉されてたら終わりだがな。…うまくいけば、斧の金属反応を特定できるはずだ」


【ヴァンダ】「フィールド展開完了。現在、磁界の変動をモニタリング中。石柱の放電とは干渉していません。…不自然です」


【デレク】「アイツらが幻だからだ。無視していい」


【ヴァンダ】「了解。異常反応があれば地図にマークします。ただし…それも幻でないことを祈ります」


デレクはミニマップから目を離さなかった。

見えるものはすべて嘘だ。信じられるのは、データだけ。


【???】「貴様かァァァァアアアッ!!」


背後から、獣の咆哮のような怒声が飛んできた。


バチバチバチッ!!


紫の稲妻が柱から柱へと飛び交い、空気を焼く音が響く。


【???】「その力は、この世界のモノじゃないッ!貴様自身、この世界の存在じゃないッ!」


デレクは即座に振り向く。だが、霧の中に人影は見えない。

柱、木々、風に揺れる茂み――――それだけ。


【デレク】「…誰に話してんだよ」


この世界で、俺の出自を知ってるのはユリエラ、イザベル、ツンガだけ。

まさかこいつが――――


空で稲妻が走り、雷鳴が大地を揺らす。鼓動と重なって、全身が震える。


ミニマップは真っ白。ノイズの海。


【デレク】「お前…何者だ?なぜ俺のことを知ってる?」


【???】「俺が誰か?フフフ…俺は神・オルビサルか?それとも、獣の精霊かァ〜?」


笑い声は風に溶け、乾いた土を震わせる。

まるで、本人じゃない「何か」が喋ってるかのようだった。


【デレク】「ヴァンダ、何か映ったか?」


【ヴァンダ】「いいえ、まだです。嵐の静電気がバックグラウンドノイズを生み出しており、干渉が強いです。

もっと接近する必要があります」


【デレク】「……チッ。じゃあ、こっちから出させてやるよ」


【デレク】「俺が怖いってか? だったら出てこい、「本物」でな」


【???】「望みどおりにしてやろう……」


ポン、ポン、ポン……


デレクの周囲に七体の同じ男が出現した。

全員、同じ顔。同じ斧。同じ眼光。


【デレク】「……マジでホログラム真似してきたのかよ。冗談だろ」


【???】「さっきの小細工、気に入ったよ。俺なりに、アレンジしてみた。

もっと上手く、なァ!」


デレクはゆっくりと身体を回しながら、各クローンの位置を確認する。


【デレク】「ヴァンダ。10メートル以内に実体は?」


【ヴァンダ】「検知なし。フィールドに歪みもありません」


【デレク】(小声)「チッ……時間を稼ぐしかねぇ」


【デレク】「なぜ俺がこの世界のモンじゃねぇって分かった?」


【???】「弱いからだよ。

金属の玩具に頼らなきゃ何もできない。

この世界の力は……お前には理解できない」


【デレク】「ふぅん。だったら試してみろよ。俺がどこまで理解できるか」


ブウウン……


プラズマブレードが起動し、青白い熱が闇を裂く。

重たいブーツが地面に沈む。構えは完璧だ。


ピッ。


ミニマップが一瞬、点滅した。


何かが動いた?


錯覚か?


その時、男の顔が怒りに歪んだ。


【???】「貴様の存在はこの世界の汚点ッ!今ここで消すッ!」


分身が突撃してくる。七体、十四体――――倍々に増え、数えきれなくなった。


だが、デレクはミニマップだけを見ていた。

現実の視界など、信じる価値はない。


【デレク】「……頼むぞ、ヴァンダ……」


ピッ!


左側に、ほんの一瞬だけ点が現れた。

すぐ近く――――そして、消えた。


だがそれで十分。


【デレク】「そこだッ!!」


左へブレードを横薙ぎに振り抜く!


ジュウゥゥ……


斬撃が「何か」を捕らえ、肉が焼ける音と匂いがあたりを満たす。


【???】「グオオオオオオッ!!」


男の悲鳴が響き渡り、無数の幻影が霧のように溶けていった。


斧を持った「本物」が露わになる。

首と肩の間にブレードが突き刺さり、焦げた肉が泡立ち、剥がれていく。


しかし男は叫ばず、燃えるような目で睨み返してきた。


手首を握るその手は、鋼のような握力。

サーボが軋み、NOVAが悲鳴を上げる。


肉は焼けて剥がれ、だが蠢き、再び繋がっていく。


【???】「貴様の「異界の力」など、役に立たぬッ!!」


【デレク】「そいつはどうかな」


右腕からプラズマキャノンを引き抜き、ヤツの腹に突きつけた。


【デレク】「爆ぜろよ」


ズドォン!!


蒸気と肉片が背中から噴き出し、内部で爆発が起きた。

圧縮された空気が壁のように炸裂し、NOVAごと吹き飛ばす。


ドゴッ!!


背中から地面に叩きつけられ、赤いアラートが一斉に点滅。


だが、デレクは即座に立ち上がった。両腕の武器はまだ生きている。


【デレク】「……チャクラでもぶち抜いたか?」


ヤツは土の上で転がり、腹には直径30センチの穴。脚が痙攣し、手が地面を引っかいていた。


まだ、生きていた。


しかも、回復が始まっていた。


【デレク】「……ふざけんなよ」


【デレク】「寝てろって言ってんだろ、クソが」


セカンドキャノンを起動、連射。


バン! ババババッ!!


黄色い光が肉体を貫き、血と泥が飛び散る。


【デレク】「ヴァンダ、今回は本物だと言ってくれ……!」


【ヴァンダ】「はい、デレク。彼の斧から金属反応を検知しました。今回こそ、現実です」


男の身体はようやく動かなくなり、柱も裂け目もすべて消えた。


残ったのは、遠くで鳴る雷の音だけ。


―――


【デレク】「……終わった、か」


キャノンを収め、デレクは焼け焦げた死体へと歩み寄った。


その体には焦げ跡、穴、裂傷――――生々しい戦闘の証が刻まれていた。


画面に通知が表示される。


オーリックレベル上昇:アイアン7 到達


男の目は、驚愕のまま凍りついていた。紫の光は、もうなかった。


【デレク】「……また一人、殺しちまった」


【デレク】「違う手段があれば……でもよ。どうせ誰かが、またスフィア落とすんだろ。

その度に、誰かが狂って、誰かが死ぬ。そういう世界だ」


ズガァァン!!


雷がすぐ近くに落ちた。


【ヴァンダ】「デレク……大丈夫、ですか?」


【デレク】「……まあな。俺も、こいつもな」


【ヴァンダ】「……あなたは正しい選択をしました」


【デレク】「そう見えねぇんだよな、俺からは」


【ヴァンダ】「ですが、スフィアの汚染を止めることができます。多くの命を救いました、デレク」


……拳を握る。そうだ、まだ終わっていない。


ミニマップのマーカーを確認。スフィアは、まだそこにある。


―――


デレクはミニマップのマーカーに向かって走り出した。脚部アクチュエーターが唸り、ぬかるんだ地面を力強く蹴る。


ズザッ、ズザザッ!!


視界の端をジャングルの緑が流れ、風が装甲を叩きつける。


NOVAの損傷は腕部に集中していたが、脚はまだ問題なかった。

ディスプレイには赤いアラートとエラーメッセージが点滅し続けている。


【デレク】「今度は…スムーズにいってくれよ」


今回はギリギリだった。次はない。


―――


開けた地形が見えたと思った瞬間、その先にぽっかりと大穴が空いていた。


巨大なクレーター。地面は黒く焼け焦げ、中心からは白い煙がゆらゆらと立ち上る。


あの爆発の衝撃だ。もし市街地に落ちていたら…被害は想像を絶する。


【ヴァンダ】「そこにあります。スフィアのエネルギー反応を確認。間違いなく、対象です」


デレクは軽く跳躍し、クレーターの縁に着地。斜面を滑り降りるようにして下へ向かう。


足場が安定したところで歩みに切り替え、慎重に進んでいく。


底部で、淡い紫の光が脈打っていた。


スフィア。あのブロンズ級の球体。


表面に目立った損傷はない。焦げ跡も、割れもない。


【デレク】「ヴァンダ、状態確認。これ、持ち運べるか?」


【ヴァンダ】「エネルギー放出は安定状態にあります。現在の汚染リスクは限定的です。

推奨処置:即時回収」


【デレク】「だよな。落下の瞬間にエネルギーが広がって、アイツを狂わせた。

でも今は、だいぶ落ち着いてるってわけだ」


デレクはNOVAの胸部ハッチを開け、生体サンプル用の格納コンパートメントを展開。

手で持ち上げたスフィアを、そっとその中へと置いた。


これで、落とす心配はない。以前のように、手で握っていたせいでコンテナを失くしかけた苦い経験は、もう繰り返さない。


【デレク】「ヴァンダ。ここに入れておくの、本当に安全か?」


【ヴァンダ】「このコンパートメントは高レベル放射遮蔽に対応しています。現時点では最適な選択です。

持ち歩くより遥かに安全です」


【デレク】「なら、問題ないな。……さっさと戻ろう」


アクチュエーターが再び唸り、斜面を駆け上がる。


飛び上がれば早いが――――スフィアを揺らしたくない。慎重に、慎重に。


上部に出た瞬間。


……空気が変わった。


デレクは、自然と動きを止める。


目の前に、男が立っていた。


兵士のような姿。だが、明らかに普通ではない。


黒く長い口髭、ぎらつく目。使い古されたジャンク品のような装甲を纏っていた。

ヘルメットには針金が巻かれ、肩のパーツは革ベルトで無理やり固定されている。

全身ボロボロ。まるでゴミ捨て場から拾ってきたみたいだ。


そして、胸元には――――


【デレク】(眉をひそめ)「……紋章がねぇな」


オルビサルの聖印は、どこにもなかった。


デレクは軽く手を上げて挨拶する。形式的に、試すように。


……だが、男は一歩も動かない。


無言で剣を抜く。


ギィ……と音を立てて刃が外気に晒され、鈍く光る。


雷鳴が空を裂き、木々が一斉に身をよじるように揺れた。


そして――――


その男の頭上に、淡く光る文字が浮かび上がる。


《レベル:ブロンズ4》


【デレク】(息を吐きながら)「……このクソったれな宇宙が……」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


この章では、幻影との戦いに加えて、デレクの葛藤と選択が色濃く描かれました。

本物を見抜く力とは何か。信じられるものは何か。

答えは簡単ではありませんが、彼の一歩一歩がその答えに近づいていくはずです。


次回は、正体不明の新たな戦士との遭遇から始まります――お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ