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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第一章 廃墟から聖都ロスメアへ
38/102

第38章: 幻の巨木、紫の瞳、そして斧の咆哮

本日もお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、デレクが墜落現場に接近し、ついに「それ」と遭遇します。

センサーが効かず、幻覚が混じる中で、彼の理性はどこまで保てるのか――。


ジャングルに潜む「何か」との初接触を、ぜひ最後までお楽しみください!

ジャングルの景色が、緑の線となって視界を流れていく。目で追える速度ではなかった。

バサッ、バサッ――ときおり枝や葉がヘルメットに当たるが、すぐに風に吹き飛ばされる。

ウリエラから渡された奇妙な箱は、まだ腕の下にしっかり抱え込まれていた。

ディスプレイに映る細い青線だけが、木に激突したり倒木に足を取られたりするのを防いでいた。

NOVAの脚部アクチュエーターがフル稼働するこの速度――ほんの一歩のミスで、即・死。


【デレク】(うん、実に最適だな。地雷原ダッシュ並みの緊張感ってやつだ)


頼れるのは、ヴァンダのナビ精度とNOVAの反応速度だけだった。

ミニマップの端では、修理ボットの緑点が点滅していた。

アイヴォリーに囮として使って以来、まるで拗ねたように距離を置いていたが――


【デレク】(感情がないはずだよな?本当に?)


それでも墜落地点に向けて飛び出した瞬間、やつらは姿を現した。

何をしていたかは知らないが、即座にそれを切り上げ、背後にぴったりと並ぶ。まるで、狩りに向かう猟犬のように。


【デレク】(……誰が命令したんだ?俺じゃないのは確かだ)


だが、来たからには使う。偵察だ。

本来、偵察任務なんてできる構造じゃない。けど、このイカれた星に来てから、あいつらは進化を続けてる。

なら、どこまで進化したか見せてもらおう。

すでに前方へと送り出し、衝突地点の状況確認と報告を命じていた。


【デレク】「何か掴んだか?」


【ヴァンダ】「決定的な情報はありません。墜落現場では、あらゆる周波数帯でエネルギースパイクが発生しています。ボットでは解析不能です。」


【デレク】「ほぉ……。なら、あまり近づけるな。何が潜んでるかわからん。失うには惜しい連中だ。」


【ヴァンダ】「了解しました、デレク。」


ザワ……ザワ……

葉の擦れる音とアクチュエーターの駆動音を除けば、ジャングルは息をひそめたように静まり返っている。


【デレク】「おい、静かすぎると思わねぇか?」


【ヴァンダ】「イザベルによれば、動物たちは衝突地点から本能的に離れる傾向があるそうです。」


【デレク】「…賢いな。少なくとも俺より。」


【ヴァンダ】「いいえ、「バカ」か「メサイア」しか向かわないとのことです。」


【デレク】「その二つ、区別あるのか?」


【ヴァンダ】「……論理的には、ありません。」


―――――


【ヴァンダ】「ところで、デレク。最近のあなたの振る舞いは、あなた基準でも異様に無礼です。この土地の文化に対して、まるで個人的な敵意があるように見えます。この都市に滞在する限り、少なくとも侮辱によって拘束されるリスクは避けるべきです。」


【デレク】「俺は本音で話してるだけだ。「事実」をな。思考停止で祈ってる奴らに『あんたら神頼みしてるだけだぞ』って教えてやるのは、むしろ親切だろ。」


【ヴァンダ】「あなたの「親切」の定義には問題があります。」


【デレク】「長話してる暇があったら、侮辱一発で片付けた方が効率的だろ。時間の節約だ。」


【ヴァンダ】「……処理能力の無駄遣いだと、つくづく思います。」


【デレク】「学習が進んでて何よりだ。」


ザーッ……!

ディスプレイ全体にノイズが走った。


【ヴァンダ】「デレク、環境中に急激なエネルギースパイクを検知しました。」


次の瞬間、強烈な干渉波が襲い、画面がブラックアウトした。


【デレク】「チッ――!」


息を止め、彼はNOVAの脚部を強制的にブレーキ。装甲の両脚を地面に突き立て、ジャングルの土を数メートルにわたって抉りながら滑走。

ようやく停止。

幸い、進路上に木はなかった。


【デレク】(……画面死んでたら回避不能。今のは運が良かっただけだな)


彼はその場でフリーズしたまま、腕に抱えていた箱の感触を確認する。まだある。

装甲の内側に、ドクッ、ドクッと心臓の鼓動が響いた。


【デレク】「ヴァンダ、何が起きた!?俺、完全に目が潰されてるぞ!」


ザ――……パチ……ッ!

ノイズが走ったあと、一瞬だけ画面がちらつき、ゆっくりと再起動。

ミニマップを即座に確認――敵影なし。緊張が、ほんの少しだけ緩む。


【ヴァンダ】「原因は不明です。一時的な干渉だった可能性があります。」


【デレク】(……「一時的」で済めばいいがな)


彼の視線は、修理ボットが最後に確認された地点へ。

……点、消えてる。


【デレク】「おい、ヴァンダ。ボットはどこ行った?」


【ヴァンダ】「確認中です。墜落地点に近づくほど、センサーデータが不安定になっています。」


【デレク】「放射線か?」


【ヴァンダ】「可能性はありますが、確証はありません。「測定を試みた瞬間に」データが歪む印象です。」


【デレク】「……は?放射線って、そんな都合よく意識して反応してくるもんか?」


【ヴァンダ】「私にも理解できません、デレク。」


センサーの誤作動という可能性もある。なら、ボットはまだ無事で、単に「見えていない」だけかもしれない。


【デレク】(のんびり調べてる場合じゃねえ。こんな場所で被曝してたら本当に死ぬ)


彼は脚を沈み込ませ、反動で前方へと跳び出した。再び加速。

そのまま全速で突っ走っていた――

ザワッ!

茂みが開いた。

そこに現れたのは、巨木。


【デレク】「――ッ!」


すぐそこ。あと数メートル。

近すぎるッ!


【デレク】「ッラアア――!」


両足を揃えて地面を蹴り、腰をひねって横へ跳ぶ。視界が緑の渦となって回転する。

ディスプレイに赤いアラートが並び、警報が耳をつんざく。

葉を掴み、枝を引き裂き、必死に体を止める。


【ヴァンダ】「デレク!」


【デレク】「ぐッ……!」


装甲の手が茂みに引っかかる。肩から腕にかけてテンションが走り、NOVAの補助システムが悲鳴を上げる。

ズザザザザッ――!

ようやく止まる。

息を切らしながら、デレクは仰向けに葉の上に倒れた。


【デレク】(今のは……確かに「いた」はずだ。巨大な……幹が)


ぶつかっていない。

――だが、避けきった感触もない。


【デレク】「何だ今の……!?ヴァンダ、なに考えてルート引いた!?でかい幹に突っ込む気だったのかよ!」


彼は起き上がり、振り返った。

そこには――

低木と、草の生えた開けた空間だけが広がっていた。


【デレク】「は……?」


【ヴァンダ】「何か問題でも?」


【デレク】「……あの木は?俺を潰しかけたやつ!」


【ヴァンダ】「? ……そもそも、なぜ突然地面に飛び込んだのかと思っていましたが」


デレクはゆっくりと立ち上がり、ディスプレイを確認。

システム:異常なし。


【デレク】「……おい。お前、セコイア級の木幹を素通りさせるルート引いたって自覚あるか?」


【ヴァンダ】「デレク。そこに木など存在していません。記録上、最初から何もありませんでした。」


彼は眉をひそめた。


【デレク】「……嘘だ。あった。俺の目は確かだった。」


【ヴァンダ】「ルートテレメトリがあります。記録再生しますか?」


【デレク】「見せろ。」


NOVAのヘルメットカム映像が表示される。揺れる視界、葉と枝が流れていく。

……最後の茂み。そして、転倒。


【ヴァンダ】「ご覧のとおり、映像には木は映っていません。」


【デレク】「バイタルチェックしろ。幻覚や知覚障害の兆候は?」


【ヴァンダ】「ストレスレベルはやや上昇していますが、この状況下では想定範囲内です。」


【デレク】(……あれは幻覚だった? いや、「見た」はずだ。確かに、存在してた)


これは偶然じゃない。

NOVAのセンサーがバグった瞬間に、存在しない「木」を見た。


【デレク】(……もし球体の影響なら、笑えねぇな)


【デレク】「墜落現場まで、あとどれくらいだ?」


【ヴァンダ】「残り約100メートル、直進です。」


さっきまで空を裂いていた光柱は、すでに消えていた。代わりに、淡い灰色の煙が空へと静かに立ちのぼっている。


【デレク】(こんな時に幻覚……。洒落にならねえぞ)


放射線が原因なら、あの球体を箱に封じ込めればすべて元通りに――


【デレク】「……箱だッ!」


装甲の腕を見下ろす。――ない。


【デレク】「落としたのか、俺!?」


【ヴァンダ】「現在スキャン中です。近くにあれば、すぐに反応があるはずです。」


【デレク】「なあ……なんでお前、俺が落としたのに気づかなかった?」


【ヴァンダ】「あの……私のせいですか?放射線の解析、修理ボットの探索、ナビゲーションの調整、あなたのバイタル監視……全部同時進行でやってたんですよ!?あなたはただ「箱を持つだけ」だったはずです!」


【デレク】「……」


【デレク】(感情インストールした俺の過去の判断、誰か早く殴ってくれ)


とはいえ、NOVAは正常稼働中。感覚もクリア、敵影なし。

まだイケる。まだ終わっちゃいない。


【デレク】(箱を探す。球体を確保。さっさと立ち去る。シンプルな話だ)


そう思って、前傾姿勢で移動に入ろうとした瞬間――

ザッ……。

前方の低木が揺れた。

デレクの動きが止まる。

ゴンッ。……ドンッ。

重たい何かが、木の幹を叩いている。

バキッ――音が響き渡る。鳥が一斉に飛び立つ……こともなかった。


【デレク】(……そういや、さっきから鳥の鳴き声、一切聞こえねぇな)


ここにはもう、動物の気配すらない。

いるのは、自分と――あの音の主だけ。

前方、約50メートル。

そこに立っていたのは、異様な白い巨木。棘だらけの幹が、ゴツッと揺れた。

もう一撃。

バキバキバキッ――ッゴオオン!!

幹が折れ、枝を巻き込みながら地面に崩れ落ちる。

ズズ……ッ。

土煙が上がる……が、沈まない。

モワァ……と辺りに広がり、ゆっくりとジャングルを包み込んでいく。

まるで――死者のヴェール。

……その時だった。

グガァ……フッ、ヒヒヒ……

喉を鳴らすような、不気味で、いびつで、明らかに「人間ではない」笑い声が、空気を震わせた。


【デレク】(……何だ今の声……)


本能が、ヤバいと叫んでいる。

ミニマップに目をやる。

灰色の点が、こちらにじりじりと近づいていた。

敵マークも、味方マークもない。分類不能。


【デレク】(システムすら判断できねえってか……クソの役にも立たねえ)


周囲に遮蔽物はない。隠れる場所もない。

動いた瞬間にバレる。あと数秒。正体を見極められるか、それとも――


【デレク】「ヴァンダ。分析しろ。あれ、何者だ?」


【ヴァンダ】「センサーは依然として反応していません。位置と距離は、音の到達時間と倒木の位置から推定したものです。直接の読み取りは、なしです。」


拳を握りしめる。

近づいてきている――それだけが確かだった。

ガサッ……。

茂みがざわめき、広い緑の葉が垂れ下がった――

そこから、よろめくように一人の人影が現れた。


【デレク】(……人間、か?)


光学ズーム、即展開。

塵の中、男が立っていた。

汚れた、茶色のボロシャツ。ズタズタの暗色パンツ。片手に太い木製の柄を持つ、重たい伐採斧。もう一方の手は、額に当てられていた。


【デレク】(激しい頭痛か? あるいは……)


一瞬、緊張が緩む。鎖を持った狂信者でも、火のゴーレムでもない。

ただの――バカ。

よりによって銅等級の球体が落ちた地点で木を切ろうとしたバカ。

……が、その巨木を、たった「二撃」で倒したバカ。


【デレク】「また球体の加護持ちってわけか。ろくな連中いねぇな」


【ヴァンダ】「視認しました。ですが……明らかに様子がおかしいです。」


【デレク】「ああ、そりゃ俺もだ。さっき幻覚見たしな。コイツも同じか、あるいは単に酔ってるだけか」


【ヴァンダ】「酔っている人間が「あの木」を二撃で倒せるとは思えませんが……」


【デレク】「……それな」


ゆっくりと距離を詰める。無暗に突っ込めば、敵意と受け取られかねない。

男が顔を上げた。

紫の光が、眼窩の奥でぐるぐると渦巻いていた。瞳孔はない。

口元には、唾液の混じった歪んだ笑み。片側から泡が垂れ、布を濡らしている。


【デレク】「……ッ」


心臓が、二拍、飛んだ。

高解像度光学――嬉しくねぇディテールばかりが、よく見える。

一歩、後ずさる。だが――

パキッ!

NOVAの足元で、乾いた枝が砕けた。


【デレク】「……ッあ」


男の首が、バキィッと音を立てるような勢いでこちらに向いた。

紫の目がギラリと開き、笑みが裂ける。

――人間の表情じゃない。

斧を両手で握りしめ、爆発的な勢いで突進してくる。


【デレク】「ちっ――!」


ディスプレイが切り替わる。

タクティカル・インテル・リレー起動。

接近経路、衝突までの秒数、推定速度、回避ルート、迎撃ポイント――すべてが表示される。

地面に踏み込み、姿勢を低く。


【デレク】「……上等だ」


カチャッ!

両腕のコンパートメントが開き、プラズマキャノン展開!


【???】「ラアアアアアアアッ!!」


斧を掲げ、唾を撒き散らしながら男が突っ込んでくる。


【デレク】「来いよ……」


照準、斧の柄にロックオン。

発射――!

――ザザッ!

視界にノイズが走る。


【デレク】「……は?」


消えた。

男の姿が、いない。

プラズマショットがジャングルを切り裂き、天蓋に黒い焼き痕を残す。バチッバチッと枝が焼け焦げ、煙が立ち昇る。


【デレク】「ヴァンダ。見たよな?」


【ヴァンダ】「確認済みです。現在、再スキャン中ですが……センサーは未だ不調です。」


【デレク】「……少なくとも、幻覚じゃなかったわけか」


ミニマップに目を走らせる。だが、どこにもいない。

まるで空気中に溶けたように、消えた。


【デレク】「……地下か、迷彩か、あるいは透明化でも持ってるか。どっちにせよ――」


ガシャッ!

キャノンを収納する。音が辺りに響いた。


【デレク】「あんな木を二撃で倒せる奴と、再戦? ノーサンキューだ」


【デレク】「球体を確保して、とっとと消える。それがベスト」


――そう思って進もうとした瞬間。

グアアアアアアッ!!

ジャングル全体を揺るがす、獣のような咆哮。

ズゥッ……!

腐ったような吐息が、フィルター越しに届いてきた。


【デレク】「……ッ!」


アラームが鳴る。

斧が、閃いた。

――頭上、高く振り上げられたそれが、今にも落ちてくる。


【デレク】「やめろおおおおッ!!」


両腕をクロスさせ、顔を守るように上げる。

刃が、振り下ろされた――


ご感想や評価、いつも本当にありがとうございます!


幻覚か、センサー異常か、それとも――

次回、ついに衝突地点の「正体」に近づきます。

引き続き『鋼の救世主』をよろしくお願いいたします!

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