第30章: シャーマンの業火、聖騎士の裁き
今回は物語の転換点となる重要なエピソードです。
怒りと混乱の中で、それぞれの立場が試されます。
デレクたちがたどり着いた都市の門では、想像を超える「出会い」が待ち受けていました——。
デレクはそれが起こるのを予測すべきだった。あの狂気じみたシャーマンには常に目を光らせておくべきだったのだ。しかし、あまりに多くのことが一度に起きていた。
マレン――彼を逮捕しようとする兵士。
トーマス――彼を偽のメサイアと呼び、裏切った男。
イザベル――その間で揺れ動き、どうするべきか迷う心を抱えている。
ただ安息の地を求めていただけの難民たちは、今、何が起こっているのか理解できずにその場で立ち尽くしていた。
その混乱の中で、デレクはツンガが何をしているのかを見逃していた。気づく間もなく、その馬鹿者は兵士に向かって火の玉を放っていた。そして、全てが混沌に陥ったのだ。
ツンガの杖から放たれた炎の爆発がマレンの顔を照らし、その表情は怒りに歪んでいた。その炎が彼に届く寸前、青く透き通った結晶のようなバリアが兵士の周りに発生した。
バチッ!
鋭い音と共に衝撃を吸収し、瞬く間に消え去り、マレンは全く無傷だった。
無傷で、しかも激怒していた。
難民たちの間から一斉に息を呑む音が上がり、中には膝をついて祈り始める者もいた。兵士がその怒りを彼ら全員に向けるのではないかと恐れたのだ。
【デレク】「くそっ、ツンガ!」
デレクは振り返り、低く唸った。
「何を考えているんだ、てめえは!」
しかしツンガは無視した。その表情は無表情で、兵士に視線を固定し、杖をしっかりと握り締めていた。
【ツンガ】「ここから去れ。シャイタニ(悪魔)はここに留まる。それができなければ、貴様の骨と灰しか残らん。」
マレンの唇が冷酷な笑みを浮かべた。
【マレン】「貴様、やってはいけないことをしたな」
彼は低く唸り、一連の動作で馬から滑り降りた。その手に握られたスパイク付きのメイスは、不気味な冷気を放ち、その先端は氷が割れるような音を立てて微かに揺れていた。その存在自体が恐るべき力を放っている。
マレンは顎を引き、重心を低く構え、メイスを正面に構えた。
【マレン】「最後の言葉だな、シャーマン。」
イザベルは二人を見つめ、その口がわずかに開いた。
【イザベル】「お願い、ここまでエスカレートさせる必要はないはずです。もし私がハイプリーステスと話をすれば――」
【マレン】「話はもう終わりだ」
彼はツンガに向かって一歩前に踏み出した。その動きは意図的で、そのメイスの先端は氷河が自らの重みで割れるような音を立てて、
バチバチッ!
と音を立てていた。
デレクは唾を飲み込んだ。あの野蛮人は一体何を考えているんだ?なぜ、数日前に彼を殺そうとしたくせに、今度は命をかけてまであの騎士に挑むつもりなのか?
選択肢が尽きかけていた。NOVAなしでは、マレンのレベルをスキャンすることもできない。しかし、その動き、その武器から放たれる生のエネルギー。これは絶対に勝てる戦いではなかった。NOVAがあっても難しい。ましてや今はそれすらない。
【デレク】「わかった、降伏する。」
デレクはゆっくりと手を挙げた。このジェスチャーがこの世界で降伏を意味するかどうかもわからなかったが、やってみる価値はあった。
「マレン、お前について行く。抵抗はしない。ツンガ、やめろ。頼む。」
ツンガはデレクに向けて怒りに満ちた視線を投げた。その杖は依然として兵士に向けられ、揺らぐことなく構えられていた。
難民たちは驚いたようにささやき合った。イザベルはデレクに視線を向け、わずかながらも肯定の頷きを返した。
マレンの目は依然としてツンガに固定されていた。
【マレン】「遅すぎる、異邦人。」
彼は唸り、メイスの先端が青白く輝き始めた。
「貴様らにはその機会を与えた。それに対する答えがこれだ。聖なる護衛隊を攻撃する者に逃げ場はない。」
【イザベル】「マレン、だめだ!」
イザベルは一歩前に出て叫んだ。その瞳は見開かれ、その声には切迫感が滲んでいた。
「あなたは何をしているのかわかっていない!」
マレンは彼女に冷たく視線を向けた。
【マレン】「下がれ、ウォーデン。私はハイプリーステスの直接命令に従っている。これはもうお前の問題ではない。」
イザベルの目に何かが変わった。彼女は背筋を伸ばし、その声は鋭く研がれた鋼のように響いた。
【イザベル】「どうして私にそんな口をきくのですか?私はこの地のウォーデンであり、これらの人々は私がロスメアに護送するまで私の保護下にあります。」
【マレン】「そうはさせない。」
デレクは頭を振った。状況は完全に手に負えなくなっていた。雷、火の玉、そして氷の球が飛び交う前に、何かをしなければならなかった。
ブウウウン…
ドローンの低い音が背後から響いてきた。NOVAが近づいている。デレクは一瞬、希望を感じた。まだ何かできるかもしれない!
マレンはデレクに軽蔑の視線を投げかけた。
【マレン】「お前がメサイアだと?馬鹿げている。オルビサルの力の痕跡さえ感じられない。奇妙な服を着たただの下賤の者に過ぎない。お前など素手で殺せるぞ。オルビサルが授けた力さえ使わずに。」
デレクは腕を大きく広げた。
【デレク】「その通りだ。完全に同意する。そして、俺は都市に行って、そのご婦人にも同じことを伝えるつもりだ。キャシュナールやメサイアと呼ぶのはやめてくれたら、俺ほど喜ぶ者はいない。」
ドローンの音がますます大きくなった。ヴァンダの緊張した声が彼のイヤーピースから響いた。
【ヴァンダ】「すぐ後ろにいる。ロックインシーケンス開始!」
マレンの眉がひそめられ、その表情が険しくなった。
【マレン】「その音は何だ?」
彼の目が見開かれ、ドローンがデレクの背後に降下し、そのままパワーアーマーに変形するのを目にした。
デレクは動かずに立ち尽くした。腕を広げたまま、NOVAがようやく彼の元に到達した。その瞬間、モジュールが滑らかな動きでロックされ、彼の四肢を覆った。周囲の世界が変わり、彼の視界はアーマーのHUDに置き換えられた。データが画面に溢れ出す。
《全システムオンライン》
リペアボットはその役割を果たしていた。そして、彼の目に飛び込んできたのは、一つの重要な情報だった。
《レベル ブロンズ 7》
デレクの胃が縮み上がった。やはり彼の予想通り、相手は手に負えない敵だった。マレンはただ強いだけではなかった。全く異なるレベルの存在だったのだ。
彼の武器から放たれるオーラは、一撃必殺の威力を示しており、デレクにはそれを止める術がなかった。
歯を食いしばり、彼はプラズマブレードを引き抜き、防御の構えを取った。宗教狂信者の手にかかって死ぬなど、宇宙からのひどい嫌がらせに他ならなかった。
彼が反応する前に、イザベルが前に飛び出し、その手に握られた剣が光を放っていた。彼女はデレクとマレンの間にしっかりと立ちはだかった。
【イザベル】「やめなさい、マレン!これ以上一歩でも近づかないで!」
彼女の鎧には生の魔力が流れ込み、その大剣は彼女の鍛え抜かれた手の中でしっかりと構えられていた。空気は静かなままだったが、彼女のブロンドの髪は目に見えない力に揺れ、魔力の波動が放たれていた。
死の淵に立たされているにもかかわらず、デレクは彼女がどれほど見事な存在かを感じずにはいられなかった。彼女の強さはただその魔力にとどまらず、その存在そのものから放たれていた。
ツンガもまた彼女の隣に立ち、杖を掲げて構えた。彼の体を炎の舌が包み込み、生きたオーラのように揺らめいていた。デレクがジャングルで見たあの狂気じみた笑みが再び彼の顔に浮かんでいた。彼の黄色く変色した歯が、凶悪に輝いていた。
三人が揃っても、あの怪物に対抗できる見込みは全くなかった。しかし、彼らが彼のために命をかけて立ち向かってくれる姿を見て、デレクの胸に久しく感じていなかった感情が湧き上がった。まるで、彼が何かの一部であるかのような感覚だった。
マレンは動きを止めた。その手に握られた武器が緩み、彼の顔は青ざめていた。
【マレン】「どうしてこんなことが…?」
彼は呆然とつぶやき、デレクを見つめていた。
デレクは瞬きをした。今度は何が彼を怯えさせたのか?まるで幽霊を見たような顔をしている。
イザベルとツンガは武器を構えたまま、警戒を解かなかった。
しかし、マレンは彼らではなく、デレク、いや、正確にはNOVAに視線を固定していた。
その瞬間、マレンの手からメイスが地面に落ち、重々しい音を立てて転がった。その武器を包んでいたエネルギーのオーラは瞬時に消え、地面に薄い氷の層を形成した。
次の瞬間、兵士はその場に膝をつき、武器の横に倒れ込んだ。彼の膝の下で氷が割れ、そのひびが蜘蛛の巣のように広がった。
【マレン】「あなたは…あなたは…」
彼の声は途切れがちで、言葉にならなかった。
イザベルとツンガは目を見合わせ、武器を下ろした。
デレクは彼らの間をすり抜け、兵士の前に立ち、その顔を覗き込んだ。
【デレク】「おい、今度は何がおかしいんだ?」
男はただ彼を見つめていた。その瞳は見開かれ、顔は青ざめ、下唇は震えていた。
【デレク】「ヴァンダ、何が起こっているのか心当たりはあるか?誰か、もしくは何かがこの男を攻撃しているのか?」
【ヴァンダ】「いいえ、デレク。彼のエネルギーレベルは急激に低下していますが、外部からの攻撃は検出されていません。」
【デレク】「おい、大丈夫か?具合でも悪いのか?」
マレンは瞬きをし、そのぼんやりとした視線が徐々に焦点を取り戻していった。彼がデレクを認識した瞬間、その目が見開かれた。そして、彼は前に倒れ込み、鼻が地面に触れるほどに崩れ落ちた。
【マレン】「私は…私は知らなかった。見えなかった。あなたこそが本物のメサイアだ!どうか、許しを…!」
デレクは苦々しく呻き、勢いよく立ち上がった。
【デレク】「おいおい、冗談だろ。いや、そんな馬鹿な話があるか?またしてもかよ!俺をメサイアだと思っている馬鹿がまた一人増えたか!」
彼は苛立ちを込めて地面を蹴り、土塊が数メートル先まで飛んでいった。
イザベルは片眉を上げた。
【イザベル】「メイスで攻撃された方が良かったのかしら?」
デレクは頷いた。
【デレク】「ああ、本音を言えばその方がマシだったかもしれないな。」
彼はまだ地面にひざまずいているマレンを指差した。
「それにしても、ただ俺がパワーアーマーを着ただけで、なぜこいつがひれ伏したんだ?ジャングルで会った他の連中は笑っていたぞ。」
イザベルは彼に冷ややかな視線を送った。
【イザベル】「他の者たちは、あなたがオルビサル教会による何らかのトリックだと思っていたのです。しかし、マレンは違います。彼はオルビサル教会があなたの出現に関与していないことを知っています。さらに、彼は私の知る限り最も敬虔な男の一人です。」
ツンガは二人の間で眉をひそめた。
【ツンガ】「お前ら、奇妙な奴らだな。力があるのに、なぜ膝をつく?」
デレクはツンガの肩を軽く叩いた。
【デレク】「お前の言う通りだ。そして、この狂った場所に長くいればいるほど、お前のような狂った野蛮人がこの世界で一番まともに思えてくるから困ったもんだ。」
そう言って、彼は跪いている兵士に一瞥もくれずにロスメアの方へ歩き始めた。
イザベル、ツンガ、そして難民たちは急いで彼の後を追った。
彼らはしばらくの間、無言のまま街への最後の道を進んだ。
NOVAを脱ぐ気は毛頭なかった。今や、アーマーを身につけている方がはるかに安全だった。トーマスがすでに彼の正体を半分以上ばらしてしまった今、アーマーなしで密かに都市に入り込むなど到底不可能だった。
次に機会があれば、あの狡猾な男にきつく問いただすつもりだった。
ジャングルはようやく姿を消し、広々とした草原、湿地、さらに遠くには耕作された農地が広がっていた。
ついに文明の地に到達したのだ。
たとえ古臭くても、数日間ジャングルに閉じ込められていた後では、新鮮な空気のように感じられた。もしかしたら、屋根のある部屋、ベッド、そして実際のテーブルで温かい食事にありつけるかもしれない。その考えに、彼は一瞬ゾクッとするような喜びを感じた。
ただ、マレンのような出来事がこれ以上起こらないことを祈るしかなかった。もしツンガとイザベルの決意がなければ、彼は既に地下牢に放り込まれているか、火あぶりの刑に処されていただろう。
マレンはようやく立ち直り、馬にまたがって彼らの後を慎重に追っていた。その馬の蹄が地面を軽やかに踏みしめる音が響いていた。彼は決して頭を上げず、デレクの方に視線を向けることはなかった。
デレクは街の巨大な門の前で立ち止まり、首を傾けてその全体を見渡した。
彼は、この光景に全く準備ができていなかった。
遠くから見てもその壁は十分に印象的だった。しかし、近づけば近づくほど、その巨大さに圧倒されるばかりだった。
それは、彼が想像していた中世の建築物とはまるで違っていた。滑らかな黒い石が何十メートルも空に向かってそびえ立ち、一つの巨大な一枚岩のようだった。それはまるで、彼が探索したワーディライ(古代文明)の遺跡を思い起こさせる構造だった。そして、その前に立つ巨大な門も同様に、その暗い物質で作られているように見えた。
門の向こうからは、怒号、行進する足音、武器の金属音がこだましていた。
マレンは彼の隣に並び、その背筋を再び伸ばし、前方の扉に視線を固定した。
デレクは硬直した喉でイザベルに小声でささやいた。
【デレク】「これ、お前のアイデアだろう?だが、これが最悪のアイデアじゃなかったとは思えない。」
イザベルが口を開こうとしたその瞬間、門が金属の軋む音を立てながら、少しずつ開き始めた。
デレクはその巨大な扉を動かすにはどれほどの力が必要かと思わずにはいられなかった。彼は今、まさに小魚が大海に放り込まれるような気分だった。マレンですら、彼を簡単に引き裂くことができた。その向こうには、それ以上に危険な者たちが待ち受けているに違いなかった。
だが、一つだけ安心できるのは、難民たちはここで安全だということだ。もし何かがうまくいかなかったとしても、逃げ出すという選択肢はまだ残されている。
門が半分開いたその時、一人の背の高い女性が現れた。その銀色の髪は精巧に整えられ、彼女の肩にマントのように広がっていた。彼女は深い青色のローブを身にまとい、その縁には輝くルーンが刺繍されていた。彼女の背には、磨かれた金属の留め具で固定された白いマントが掛けられており、まるで異界から来た存在のような威厳を漂わせていた。
兵士たちは彼女の両脇に二列に並び、その鎧は朝日の微かな光を反射して鈍く輝いていた。
【イザベル】「デレク…」
イザベルは緊張した声でささやいた。
【デレク】「なんだ?」
彼も小声で返した。
【イザベル】「どうか、ハイプリーステス・ウリエラ・ヴァレンに対して無礼を働かないでください。」
【デレク】「え…わかった。」
デレクは困惑しながら答えた。
イザベルは横目で彼に厳しい視線を向けた。
【イザベル】「そして、オルビサルや私たちの信仰を侮辱するのもやめてください。」
デレクは眉をひそめた。
【デレク】「それは少し無理なお願いじゃないか?」
イザベルは彼の肩を軽く殴った。
【デレク】「ニュートロンスチールにその程度のパンチで傷がつくわけないだろ。」
デレクはニヤリと笑った。
「まあ、できる限り努力するよ」と彼は小声で呟いた。
その後、ハイプリーステスを指さし、
「だが、それは彼らがどれだけくだらないことを言い出すかにもよるだろう。俺のそういうものへの耐性は低いんだ、知ってるだろ?」
イザベルは彼の隣で背筋を伸ばし、ウリエラが優雅で自信に満ちた足取りで近づいてくるのを見つめた。その顔は細長く、頬骨が高く、冷徹な知性を宿した氷のような青い瞳が輝いていた。彼女に続く聖なる護衛隊の兵士たちは、整然とした列を保ちながら彼女に従っていた。
【デレク】「うーん…」
デレクは小さく唸った。
「彼女が自ら出てくるとは思わなかったな。兵士を先に送るのが普通じゃないか?」
【イザベル】「どうしてそう思うのですか?」
イザベルは静かに返した。
「彼女はナルカラ地方で最も強力な存在です。私たちを恐れる理由も、兵士の保護が必要な理由もないのです。」
デレクの喉が一瞬カラカラになった。ウリエラが彼の前で立ち止まった。その顔は滑らかで若々しかったが、その瞳には遥かに長い年月を生きてきたことを示す深い光が宿っていた。
彼女はマレンに鋭い視線を向け、彼は短く頷いた。次に、彼女の冷ややかな視線がデレクに向けられた。その声は厳かで力強く、巨大な壁に反響していた。
【ウリエラ】「あなたが我々の神聖なるキャシュナールの姿を現す者なのですか?」
デレクは心の中で命令を送り、NOVAの装甲を解除した。
ウリエラの眉がわずかに動いたが、何も言わなかった。
デレクは一歩前に出て、彼女との距離を1メートル未満に縮めた。兵士たちは動かず、彼を止めようともしなかった。ウリエラはただ彼を見つめ、その表情はまるで石像のように動かなかった。
彼は手を差し出し、薄笑いを浮かべた。
【デレク】「どうも。俺はデレク・スティールだ。」
デレクにとっての「都市到達」は単なる目的地ではなく、また新たな始まりでした。
ウリエラとの対面は、彼の運命を大きく揺さぶることになります。
読んでいただき、ありがとうございます!次回もお楽しみに!




