第29章: 信仰が砕ける時
今回は、信念と忠誠が試される章です。
仲間の間に生まれた亀裂、迫る都市ロスメア、そして新たな敵――。
信じていたものが音を立てて崩れ始める時、人は何を選ぶのか。
デレク、イザベル、ツンガ、それぞれの「信仰」が問われます。
いよいよ物語の転機です。
どうぞ最後までお楽しみください。
デレク、イザベル、そしてツンガは、ロスメアに向かう砂利道を並んで歩いていた。周囲にはまばらな植生が広がり、大きなバオバブのような木が点在し、灌木と草原が続いていた。湿気は徐々に薄れ、深い車輪の跡が刻まれた広い道が、この世界での「文明」への接近を示していた。
最近の盗賊団との衝突にもかかわらず、デレクは歩き続けることを選んでいた。NOVAはドローン形態でヴァンダに操縦させており、街に入った途端に「メシアの到来だ!」と叫ばれるような事態は避けたかったのだ。
ロスメアが近づいている。デレクは緊張感を強めた。
到着すれば、イザベルは間違いなく、この土地を司る女性、ウリエラ・ヴァレンに、自分が待ち望まれたメシアである可能性を伝えるだろう。さらに、おそらく自分が盗賊であることも漏らしているに違いない。それがどのような結果をもたらすのかは未知だった。
彼の本能が警戒を促していた。この世界の住人が、異端者として火刑台で彼を燃やす可能性も十分にあり得る。
本来なら、彼は街に入らず、難民が無事に到着するのを確認するだけで済ませたかった。しかし、それでは不十分だった。彼には情報が必要で、ロスメアはそれを得るための唯一の場所だった。
彼は、スフィアの仕組みを理解できる誰かを見つける必要があった。また、他のコラー・ノードが隠されている禁忌の遺跡への道も知りたかった。さらに、可能であれば、この「カシュナル」と呼ばれるものが、なぜ自分のパワーアーマーとこれほど似ているのか、その理由も知りたかった。この最後の点は優先度が低かったが、答えが出せないことが彼を苛立たせていた。
彼は横を歩く仲間に目を向けた。イザベルとツンガは、出発して以来沈黙を保っていた。昨夜の会話がデレクに話す気分を失わせたことを察したのか、二人とも彼に距離を置いていた。後ろを歩く難民たちも、何か異常を感じ取っているのか、道や到着後の計画についての実用的な会話以外はほとんどしていなかった。
彼は、イザベルやツンガが、自分が盗賊であることをどう受け止めているのか理解していなかった。正直なところ、なぜ自らそれを打ち明けたのかも分からなかった。賢明な判断ではなかった。今後は彼らに監視され、二度と信頼されないかもしれない。救世主や恩人のように見られるのに飽き飽きしていただけかもしれない。
少なくとも、イザベルに関しては効果があった。今朝、彼女はデレクに一瞥すらくれなかった。
―――
デレクの目は、道端にある大きな三角形の石に引き寄せられた。その表面には、円形の模様が精密に並び、それらが平行に走る角ばった線でつながれていた。まるでプリント基板のような複雑な構造だった。
彼はその前で立ち止まり、眉をひそめた。
【デレク】「これは一体なんだ?」
イザベルも彼の隣に立ち止まった。
【イザベル】「それは防護のルーンよ。」
デレクは目をむいた。彼にとっては単なる迷信に過ぎなかった。
【デレク】「マジかよ?何から守るって言うんだ?」
その時、ツンガの荒々しい声が割り込んだ。
【ツンガ】「獣からだ。魔法に歪められた生物は、この記号を恐れる。近づかない。」
【デレク】「冗談だろ?」
彼は二人の顔を見比べたが、どちらも真剣そのものだった。彼は首を振った。
【デレク】「つまり、獣が近づいてきたら、この模様を見て怖がって逃げるってことか?」
イザベルは肩をすくめた。
【イザベル】「なぜ効果があるのか正確には分かっていない。でも、古代のこの記号は獣を遠ざけるのは事実よ。強力な獣は突破することもあるけど、それでもこれがある場所では攻撃の頻度が大幅に減る。それは確かよ。」
【デレク】「で、どうやってこれが見つかったんだ?」
【イザベル】「遺跡よ。どうやら、これらの記号は聖なる遺跡の近くで発見されたらしいわ。誰かが、獣がその地域から離れる原因がこれらの記号だと気づいたの。」
デレクは顎をかいた。
【デレク】「この星の全員が馬鹿ってわけじゃないらしいな。つまり、遺跡からこれを持ってきて、ここに設置したってことか?」
イザベルは顎を引き締め、鋭い目つきで彼をにらんだ。
【イザベル】「違うわ。私たちは聖なる遺物を盗む者ではない。学者たちがこの石の種類を見つけ、同じ形に切り出し、これらの奇妙な刻印を再現したのよ。」
ツンガは唇を歪め、軽蔑の表情でルーンに杖の先を当てた。
【ツンガ】「壁と魔法のルーンか。こいつらは自然と共に生きる術を知らん。ただ閉じこもって、安全を祈るだけだ。」
彼は杖を地面に叩きつけた。
【ツンガ】「戦わなければ強くなれない。強さこそが安全をもたらす。」
【イザベル】「誰もが戦うために生まれてきたわけではない。戦えない者、戦わない者も生きる権利がある。」
【ツンガ】「生まれながらにして生きる権利などない!」
ツンガは歯を食いしばって唸った。
【ツンガ】「命は奪い、守るものだ。」
イザベルはため息をつき、両手を腰に当て、唇を引き結んだ。
デレクはため息をつき、耳の後ろのイヤーピースをタップした。
【デレク】「ヴァンダ、この石から何か検出できるか?力場、信号、何でもいい。」
【ヴァンダ】「いいえ、デレク。この高度からは何も検出できません。もし希望するなら、低空に降りてさらに詳しくスキャンすることもできますが。」
【デレク】「いや、そのまま上空に留まってくれ。もしこれらの石がどの町にもあるなら、今後いくらでも調べる機会はあるだろう。」
【ヴァンダ】「これらの石、何か秘密を隠していると思う?」
【デレク】「かもしれない。もしこれらが生物を遠ざける何らかの周波数を発しているなら、NOVAもそれを再現できるかもしれない。毎回脈動のあるものに襲われるのはごめんだ。」
【ヴァンダ】「良い考えですね、デレク。」
ヴァンダは少しだけ柔らかなトーンで答えた。
ツンガは眉をひそめ、興味深そうにデレクを見た。
【ツンガ】「お前、耳触って鎧に話しているのか?」
【デレク】「ああ、そうだ。彼女はとても賢いんだ。」
【ヴァンダ】「ありがとう、デレク。」
ヴァンダがイヤーピースの向こうで明るく答えた。
ツンガは首を振った。
【ツンガ】「生きていないものが話すの、まだ理解できん。アンデッドじゃないか?」
【デレク】「アンデッドって、歩く死体ってことか?それって本当にこの世界であり得ることなのか?」
ツンガは真剣な表情で彼を見た。
【ツンガ】「生命のスフィアが空から落ちて割れると、その力が世界に広がる。植物を成長させ、傷を癒す。しかし、死んだものに触れた場合……もしスフィアが十分に強ければ、それもまた動かそうとする。」
デレクは一瞬息を飲んだ。信じられない。スフィアの力がそこまで影響を及ぼすことがあり得るのか?
彼はツンガとイザベルの間を見比べた。
【デレク】「つまり、生命のスフィアが死者を蘇らせることができると?」
イザベルは喉を鳴らした。
【イザベル】「正確には蘇らせるわけではない。ただ動かすだけよ。でも、その時点でそれらはもはや単なる野獣に過ぎない。スフィアのエネルギーに汚染された他のものと同じように。」
デレクはうなずいた。一行は歩みを続け、その後ろには難民の群れが続いていた。
スフィアは強さだけでなく、その効果も大きく異なる。そして、それがこの世界とどのように相互作用するかは……狂気の沙汰だ。NOVAが受けた影響を見れば明らかだ。プラズマキャノン、プラズマブレード、さらには中央の発電機までも強化された。もしこれらを正しく研究すれば、各スフィアがパワーアーマーにどう影響するかを予測できるかもしれない。武器の威力を強化し、装甲を強化し……あるいは、デレク自身が中に入ったままNOVAを飛行させることさえ可能かもしれない。
そして、それはほんの始まりに過ぎないかもしれない!
後方の難民たちのざわめきが大きくなってきた。ロスメアがさらに近づいている証拠だった。彼らが歩いている道はゆるやかに丘に向かって登り、密集した木々が視界を遮っていた。しかし、難民たちの顔に浮かぶ安堵の笑みが、目的地が近いことを物語っていた。
デレクは後ろを振り返り、疲れ切った表情の生存者たちを確認した。アリラは数メートル後ろで一人で歩き、その視線はまっすぐ前に向けられていた。表情は硬く、何を考えているのかは読めなかった。ロスメアに着けば、彼女を助ける方法が見つかるかもしれない。オルビサル教会にはあまり期待していなかったが、他に彼女を託せる相手がいなかった。
デレクはトーマスに目をやった。彼はデレクを見ると、すぐに顔を背けた。
若者はイザベルに駆け寄り、小さく礼をした。
【トーマス】「ワーデン様、ロスメアはもうすぐです。到着を告げに先行しましょうか?」
【イザベル】「ええ、お願い。難民たちがいることも知らせて。中には負傷者もいるし、皆空腹だから。迎え入れる準備をするよう伝えて。」
トーマスは礼をし、その場を離れ、曲がり角の向こうに姿を消した。
デレクはその後ろ姿を見送りながら、ぼそりと呟いた。
【デレク】「あのガキ、お前にはやけに忠実だな。」
イザベルの表情が硬くなった。
【イザベル】「彼はオルビサルに忠誠を誓っているのよ。神の意思に従っているの。」
デレクは皮肉な笑みを浮かべた。
【デレク】「いや、あいつはお前に個人的に忠誠を誓ってるって感じだな。あの様子だと、火の中にでも飛び込むだろうさ。」
イザベルは彼を一瞥し、眉をひそめた。
【イザベル】「何を言いたいのか分からないし、知りたくもない。信仰とは、証拠がなくても信じること。それに対して何かを捧げる覚悟がなければ、あなたには理解できないわ。」
デレクは軽くうなずいた。
【デレク】「それは否定できないな。信仰ってのは、証拠もなしに信じることだからな。宇宙に裏切られるための見栄えのいい方法ってやつだ。」
彼はワーデンに横目をくれた。
【デレク】「で、アリラはどうするつもりだ?」
イザベルはため息をついた。
【イザベル】「彼女はあの小さな村で唯一の孤児よ。オルビサル教会に頼んで、見習いとして引き取ってもらうつもり。そこで居場所ができて、誰かが面倒を見てくれるわ。」
デレクは片目を転がした。
【デレク】「で、結局あんたたちと同じように洗脳されるってことか?」
【イザベル】「私も同じ道を歩んだのよ。彼女も大丈夫よ。」
【デレク】「じゃあ、オルビサル教会に忠誠を誓うことだけが、この地でまともな人生を望む唯一の方法か?」
イザベルはその皮肉を無視した。
【イザベル】「いいえ。他にも異なる生き方をしている者たちがいるわ。ツンガの部族、ナコリ族もその一つよ。」
ツンガは真剣な表情でうなずいた。
【ツンガ】「若者、大事にする。」
イザベルは彼を鋭くにらんだ。
【イザベル】「生き残った者だけを、でしょ!」
ツンガはまったく動じずに再びうなずいた。
【ツンガ】「そうだ。獣の精霊に力を示した者だけが守られる。」
デレクはツンガに顔を向けた。
【デレク】「で、それ以外の者はどうなる?」
ツンガは肩をすくめた。
【ツンガ】「普通、食われる。何かに、誰かに。」
デレクは目を瞬かせた。確かに、アリラにとってはさらに悪い選択肢もあったようだ。
【デレク】「どうして皆が君の部族に加わろうとしないのか、理解できないな。」
ツンガは頭をかいた。
【ツンガ】「俺もわからん。」
【デレク】「で、お前はどうして教会に入ることになったんだ?突然、オルビサルに召されたってことか?」
イザベルの視線が地面に落ちた。
【イザベル】「そうではないわ。私の村も、アリラの村と同じように、強力な獣に襲われたの。」
【デレク】「ああ、そうか。」
デレクは急に気まずくなった。
【デレク】「どんな獣だったんだ?」
イザベルは眉をひそめた。
【イザベル】「記憶は曖昧だけど、爪、牙、そして影の中を滑るように動く姿。それしか覚えていない。人々は、その姿を見る前に引き裂かれた。」
彼女は一瞬ためらい、小さな声で続けた。
【イザベル】「時々、その悪夢を見ることがあるの。」
【ツンガ】「お前の戦士たちはどこにいたんだ?」
ツンガが鋭い声で尋ねた。
【イザベル】「彼らもそこにいたわ。私の両親もその中にいた。」
イザベルの手は剣の柄を強く握りしめ、その指関節が白くなっていた。
【イザベル】「彼らは私を籠に隠し、戻ってくるまで静かにしていろと言った。私はただ、その叫び声を聞きながら、じっとしているしかなかった。」
デレクは拳を握りしめた。彼の目はイザベルの白いドレスと無表情な顔に留まった。
この神に見捨てられた星で、どれだけの人々が同じような苦しみを味わったのだろうか?
存在すべきでないはずの生物と戦うために、どれだけの無駄な命が奪われてきたのだろうか?
イザベルはデレクに向き直り、その声は静かだが揺るぎなかった。
【イザベル】「ウリエラ・ヴァレン大神官が私を見つけ、助けてくれたのよ。彼女は当時、この地域のワーデンだった。彼女は兵士たちと共に現れ、その獣を討ち取り、私を引き取ってくれた。」
デレクはうなずき、唇を薄く結んだ。
彼女が教会に対して揺るぎない忠誠心を持つ理由が今や理解できた。
彼女は命を救われ、未来を与えられたことに感謝し、それに報いるために忠誠を誓っているのだ。
アリラも同じ運命をたどる可能性が高い。
そして、どれだけ嫌っても、彼女がもっと悪い手に渡る可能性もある。
ツンガが今、それを痛感させてくれた。
―――
【ヴァンダ】「デレク。ロスメアから誰かがこちらに向かって接近しています。おそらく、騎乗した者です。数秒以内に視認できるはずです。NOVAが必要であれば知らせてください。」
【デレク】「分かった。ありがとう、ヴァンダ。」
デレクはつぶやき、仲間たちに目を向けた。
【デレク】「どうやらお客さんが来るようだな。騎馬の単独行だ。心当たりは?」
【イザベル】「おそらく、大神官ウリエラが、我々が何か緊急の支援を必要としていないか確認するために誰かを送ったのでしょう。」
【デレク】「うーん……でも、トーマスを先に送ったばかりだろう?」
ツンガは杖を握りしめ、眉をひそめた。
イザベルは彼に安心させるような微笑みを向けた。
【イザベル】「大丈夫よ。心配する必要はないわ。」
地面が震え、馬の蹄の音が近づいてきた。
その騎手は全速力で突進しており、鎧にはデレクがよく見えない紋章が刻まれていた。
馬は彼らの近くで急停止し、その蹄が砂と小石を巻き上げた。
イザベルは微笑んだが、ツンガは杖を持ち上げ、騎手に向けてそれを突きつけた。
デレクはごくりと唾を飲み込んだ。冷や汗が背中を伝った。
彼はすでにこの忌々しい杖がどれほどの威力を持つかを知っている。
もしツンガが激昂すれば、事態は悪化するだろう。
【兵士】「ワーデン様!」
兵士は彼女に頭を下げ、ツンガに鋭い視線を送った。
デレクは両手をポケットに突っ込み、黙って状況を見守った。
まるで古いホロフィルムの一場面のようだった。
兵士の胸甲には、七色の光線を放つ単眼とその下に開かれた書物が描かれていた。
デレクの胸が緊張で強張った。その七色の光線は、あのアーティファクトと同じだった。
偶然だとは思えなかった。
【イザベル】「お疲れ様です、マレン。」
イザベルは微笑んで答えた。
【イザベル】「もし私たちを護衛するために来たのなら、それは不要です。最後のこのほこりっぽい道くらいなら、歩いても問題ありません。」
彼女は後ろの難民たちを指さした。
【イザベル】「でも、年老いた者たちの中には、この最後の区間を免れることを喜ぶ者もいるでしょうね。」
兵士は軽く礼をした。
【マレン】「ご無事で何よりです。しかし、それが私のここに来た理由ではありません。」
彼の笑みは消え、デレクに向けて指を突き出した。
【マレン】「私は偽メシアを捉えるために来たのです。」
―――しまった。事態がこんなに早く悪化するとは思わなかった。
どうしてこいつが自分をメシアだと見抜いたのか?
パワーアーマーすら持っていないのに。
誰かが彼に詳細な説明をしたに違いない。
その人物が誰なのかは一人しか考えられなかった。
あの裏切り者――トーマスだ!
イザベルの目が見開かれ、デレクとマレンの間を行き来した。
彼女は何が起きているのか理解できない様子だった。
兵士は鞍に吊るされたスパイク付きのメイスの柄に手をかけ、冷静に構えた。
彼の目はデレクに固定されていた。その余裕に満ちた態度、危険な熟練兵のそれだった。
【イザベル】「誰がそのようなことを言ったのですか?偽メシアなど存在しません。私はウリエラ・ヴァレン大神官に会い、状況を理解するためにここにいるのです。今この段階で誰かを逮捕するのは、少なくとも時期尚早、最悪の場合は完全に間違っています!」
マレンはため息をついた。
【マレン】「トーマス。お前の忠実な従者がすべてを話しました。彼は私に、難民、ジャングルの野蛮人、そしてメシアだと名乗る男と共に旅しているお前を見つけるだろうと確信していた。ウリエラ大神官ご自身もこのことをご存じで、即刻彼を逮捕せよとの命令を下された。」
彼は冷たく、揺るぎない視線でデレクを見据えた。
【ヴァンダ】「デレク。あなたの周囲でエネルギーのスパイクを検知しています。何か問題がありますか?」
デレクは喉を鳴らし、口が渇いていることに気づいた。
これはまずい状況だ。確かにイザベルが誤解を解いてくれると信じていたが……
【イザベル】「何かの誤解に違いありません。トーマスが何か誤解したのかもしれません。」
【マレン】「誤解ではない。」
マレンは鋭く遮った。
【マレン】「彼は非常に明確に、お前もこの男に騙されていると言った。」
イザベルの口が開いたまま固まり、その目は驚愕に見開かれていた。
返答する言葉が見つからないようだった。
【デレク】「この野郎……」
彼は歯を食いしばった。
【マレン】「もう言い訳は必要ない。」
マレンは鞍の上で姿勢を正し、腰に巻きつけられたロープに手を伸ばした。
その先端は輪になっており、絞首縄の形をしていた。
デレクは深呼吸し、冷静さを取り戻そうとした。
これは本当に現実か?
この辺境の狂信者どもが、自分、デレク・スティールを、こんな馬鹿げた宗教劇に巻き込んでいるというのか?
まさか彼らは、こんなボロ縄で自分を縛り上げようと本気で思っているのか?
彼の拳はあまりにも強く握られ、爪が手のひらに食い込みそうだった。
彼はイザベルに目を向けた。
彼女の表情は張り詰め、彼が気に入らない迷いが見え隠れしていた。
メシアかどうかを信じるべきか、それともウリエラへの忠誠を守るべきか――
その狭間で揺れているようだった。
彼女はこのまま黙って見ているつもりなのか?
絞首縄はマレンの手の中でゆっくりと揺れ、その目はデレクを試すように冷たく光っていた。
まるで彼が何か愚かなことをしでかすのを待っているかのように。
【ヴァンダ】「デレク。心拍数が急上昇しています。何が起きているのですか?」
デレクは両手をポケットから抜き、イヤーピースをタップした。
【デレク】「ちょっとしたトラブルだ。」
【ヴァンダ】「すぐに向かいます。到着まであと六分です。持ちこたえてください!」
マレンの目が細まり、その顔には不機嫌な皺が刻まれた。
【マレン】「お前、何か愚かなことを考えているな。その表情に全て出ている。やめておけ。後悔することになるぞ。」
マレンはさらに一歩前に進んだ。
【デレク】「これが俺の普通の顔だ。それに、愚かなことをするのは俺の得意技だ。だが、暴力に訴える必要はない。まずは話し合おうじゃないか。」
【マレン】「私はヴァレン大神官からの直接の命令を受けている。逮捕してから話せばいい。そういう指示だ。」
ツンガが前に出て、杖を地面に突き立てた。その顔は険しく、目は怒りに燃えていた。
【ツンガ】「ここに一人で来るとは、愚かな選択だ、兵士。」
【マレン】「黙れ、野蛮人。お前には関係ないことだ。」
デレクはため息をついた。
【デレク】「イザベル、お前の宗教は本当に寛容で開かれているな。予想通りだ。」
ワーデンは緊張したように身をこわばらせ、その手は剣の柄に力を込めたが、その視線はマレンとデレクの間で揺れ動いていた。
デレクが何か言おうと口を開いた瞬間、機会は失われた。
―――
鋭い笛の音が空気を切り裂き、熱風が肌を焼き、髪をかき乱した。
デレクは何が起きたのか確認する暇もなかった。
ツンガのファイアボールが彼の横をすり抜け、ミサイルのようにマレンへと突き進んだ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
今回は信仰、裏切り、そして立場の揺らぎが交錯する重い展開でした。
ウリエラ、トーマス、イザベル、そしてデレク――誰を信じるべきなのか。
この先、彼らの選択が物語を大きく動かしていきます。
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