第24章: ジャングルの罠とメシアの選択
今日は、デレクが新たな試練に立ち向かう場面をお届けします。猿から手に入れた謎の球体。その力は彼をさらに強くするのか、それとも新たな災厄を招くのか?進むべき道が徐々に見えてくる中、彼はこの狂った世界でどうやって生き延びるのか?ぜひ最後までお楽しみください!
デレクは無言で歩きながら、あの忌々しい猿から手渡された球体を手の中で転がしていた。今すぐにでもジャングルに投げ捨てたい衝動に駆られたが、それは馬鹿げた行動だろう。これがあれば、生き延びるチャンスが増えるかもしれない。もし研究室に持ち帰ってその秘密を解明できれば、コラールノードに匹敵する発見になる可能性もあった。
とはいえ、現実的にはスーツに戻ったらNOVAにその力を吸収させるしかなさそうだ。少しでも多くのエネルギーを確保しなければ、この狂った場所で生き残ることは難しい。特に今や、「メシア」として注目を集めている状況では。
正確には「キャシュナール」だが。
この連中は、信じているすべての馬鹿げたものに対して、馬鹿げた名前をつけるのが得意なようだ。
デレクは大きくため息をついた。
ヴァンダの声がイヤーピースからかすかに響いた。
【ヴァンダ】「デレク、どうやら今度は猿たちの王から、この地の人々のメシアに昇進したようですね。随分と出世しましたね。」
【デレク】「ああ、冗談はいいから、偵察結果を報告しろ。」
【ヴァンダ】「かしこまりました、デレク。現在、私たちはジャングルの端に近づいています。植生は薄くなり、奇妙な浮遊エネルギー球体も減少しています。猿たちは相変わらず木々の中に潜んでいますが、決して私たちを見失ってはいません。」
デレクは空と木々の上の方を見上げた。低い太陽が地平線をピンク色に染め、ロスミアへの道は人気がなく、聞こえるのはジャングルの動物たちの声だけだった。小さな魔力の粒子が羽のように漂い、空中に浮かんでいる。湿った植物と花の香りが鼻腔をくすぐった。この静寂を楽しむこともできただろうが、後ろをついてくる宗教狂信者たちがそれを台無しにしていた。
イザベル、ツンガ、そしてアリラも他の避難民と共に距離を保ちながら歩いていた。少女はイザベルの手をしっかり握っており、そのことにデレクは内心安堵していた。イザベルは間違いなく自分よりもはるかに良いロールモデルだった。
【デレク】「ヴァンダ、なぜ俺が何をしても、奴らの馬鹿げたメシアの予言にぴったりと当てはまるのか、どう思う?」
【ヴァンダ】「現在のデータに基づくと、二つの可能性があります。第一に、彼らが曖昧で不確かな経典の解釈を自分たちに都合の良いように調整しているというものです。」
デレクは考え込むように頷いた。
【デレク】「そしてもう一つは?」
【ヴァンダ】「第二に、それを書いた者があなたの到来を事前に知っていた可能性です。彼らはあなたが何をするかを予見し、それを意図的に予言に組み込んで、他の者があなたをメシアとして認識するように仕組んだ、という可能性があります。」
デレクは唇を噛んだ。
【デレク】「俺の行動を事前に知っていた、だと?もしそいつがタイムトラベラーでもなければ、最初の仮説の方が遥かにあり得るな。」
【ヴァンダ】「同感です。現時点では、タイムトラベルは理論上の仮説に過ぎず、その実現可能性は証明されていません。」
【デレク】「ありがとう、ヴァンダ。そのうち、あの『聖書』とやらを自分の目で見てみるとするか。俺がパワーアーマーを着て歩き回る預言が本当に書いてあるかどうか、確かめてやる。」
【ヴァンダ】「かしこまりました、デレク。」
もう一つ、デレクが考えたくなかった大きな問題があった。もし宇宙船を見つけ、この惑星から脱出できたとして、その後どうするかだ。この技術的な宝庫の秘密を自分だけのものにすることもできる。しかし、それはこの地の人々を見捨て、彼らを厳しい生活に閉じ込めることになる。
一方で、もし当局に通報したら、まだ発見していない全ての宝も失われるだろう。
右側からの遠くの叫び声が彼の思考を断ち切った。道端の茂みが激しく揺れた。
デレクは立ち止まり、背筋に寒気が走った。後ろの他の者たちも立ち止まった。
茂みが割れ、一人の男が転げ出てきた。息を切らし、やせ細った体にボロボロの服がまとわりついている。皮膚は骨に張り付くようで、その顔は青白く、目はくぼんでいた。汚れた髪が額に張り付き、首の傷からは血が滴り、ぼろぼろのシャツを濡らしていた。
【男】「お願いだ、助けてくれ!」彼は声を震わせながら懇願した。
イザベルが駆け寄り、彼の肩に腕を回して支えた。
【イザベル】「何があったの?怪我をしているの?」
【男】「い、いや。でも、違う、そうだ、でも関係ない。頼む、助けてくれ!息子が、ジャングルで襲われたんだ!」
イザベルはデレクに視線を送った。
【イザベル】「どうする?」
【デレク】「ああ、今度は俺がメシアだから、全ての決定も俺が下すのか?素晴らしいな。次は祝福でも始めるべきか?」
彼を無視して、ツンガが男に近づいた。
【ツンガ】「何が襲った?その傷、動物じゃない。」
男は激しく唾を飲み込み、目を大きく見開きながらあたりを見回した。
【男】「そ、それが…わからないんだ!あっという間の出来事で…お願いだ、助けてくれ!」
【イザベル】「わかったわ。案内して。どこにいるの?」彼女はデレクに鋭い視線を投げ、避難民たちに向き直った。
【イザベル】「皆、道から離れないで。絶対にジャングルには入らないこと。すぐに戻るわ。トーマス、私がいない間、彼らの面倒を見ていて。」
【トーマス】「かしこまりました、ワーデン。」彼は軽く頭を下げた。
不安のざわめきがグループ全体に広がった。
【デレク】「ヴァンダ、NOVAを持って来い。」
【ヴァンダ】「既に到着しています、デレク。」
背後で低い音が響き、ドローン形態のNOVAが現れた。デレクは球体を地面に置き、体をまっすぐに伸ばして準備を整えた。
イザベルは茂みの縁で一瞬ためらい、最後にデレクを一瞥した。その間にNOVAの磁力ロックが彼の腕と脚にカチリと固定された。そして彼女は何も言わずにジャングルの中へと消えた。
アーマーの内部で、デレクの視界がHUDのオーバーレイに切り替わった。彼はしゃがみ込み、地面に置いた球体を拾い上げた。画面に通知が点滅する。
鉄級強化を検知。属性:火。
そろそろこの忌々しい球体の力を吸収する時だ。これ以上の遅れは許されない。彼のこの世界での一歩一歩が、まるで他人の計画通りに動かされているような感覚が拭えなかった。
クソッたれな宇宙だ。
【ツンガ】「次、何する?」彼は静かに尋ねた。
デレクはアーマーに覆われた手の中で球体を回しながら肩をすくめた。
【デレク】「使うさ。ここにいる限り、生き延びるにはもっとこういうものが必要だ。」
ツンガは彼のヘルメットを杖で軽く叩いた。
【ツンガ】「イザベルは?お前、助けない?」
デレクは再び肩をすくめた。
【デレク】「先に行け。」
ツンガは頷き、その鋭い視線をデレクに向けた。
【ツンガ】「お前、キャシュナールなりたくない。でも、もう変わった。」彼の声は静かで、どこか考え込むような響きがあった。「イザベル、あそこに一人。お前はここでそれと遊んでいろ。」彼は球体を指差した。
デレクは鼻から鋭く息を吐き出し、球体を右のガントレットにかざした。
強化をプラズマエッジガントレット(右)に適用しますか? Y/N
彼は「Yes」を選択した。
球体から放たれたエネルギーのビームがNOVAのガントレットに流れ込む。彼の実際の手には一瞬の暖かさが伝わり、その後すぐに光が消え、球体は暗くなった。
ツンガの言葉は彼が認めたくないほど心に刺さった。メシアになりたくないと必死に抗っていること自体が、彼を変えてしまっているのかもしれない。
彼はプラズマブレードを起動させ、そのオレンジ色の光刃をツンガの顔の数センチ前で燃え上がらせた。火のように燃えるエッジがエネルギーの音を立て、ツンガの真剣な表情を照らした。
【デレク】「遊びじゃない。」
彼は脚のアクチュエーターに力を込め、ジャングルに向かって突進した。
プラズマブレードはツルや茂み、下草を軽々と切り裂いた。ミニマップには、イザベルが先ほど追っていた男の後を追っていることが表示されていた。ツンガの動きは追跡が難しかった。彼は木々の間をまるでそこに属するかのように移動し、ツルや枝が彼を持ち上げ、前方へと跳ね上げていく様子はまるで重力を無視しているかのようだった。
彼らがイザベルに追いついたのは、彼女が開けた場所に足を踏み入れた瞬間だった。
痩せた男は前かがみになり、激しく息を切らしていた。イザベルは目を大きく見開きながら周囲を見回した。
【イザベル】「なぜ止まったの?あなたの息子はどこ?」彼女は問い詰めた。
デレクもその場に止まり、彼女から数歩離れた位置に立ち止まった。その直後、背後で鈍い音が響き、ツンガが到着したことを示した。
その男は振り返り、唇を歪めて不気味な笑みを浮かべた。腐った歯がむき出しになり、その顔は一瞬で冷たい恐怖に変わった。
デレクの腹がひやりとした。危険の直感が警報のように鳴り響く。
【デレク】「くそっ、待ち伏せか!」
周囲の木々から静かに四人の男が現れた。彼らは廃材から作られた粗雑な武器を手にしていた。スパイク付きの棍棒、重い木槌、傷だらけの肉切り包丁、そして錆びた短剣。
痩せた男は地面から何かを拾い上げ、フックのついた鎖を片手で振り回しながら身を起こした。
【男】「自己紹介がまだだったな。」彼は軽く頭を下げながら言った。「アイボリー・クレイだ。」
デレクの目が細くなった。その鎖は、数日前にイザベルが殺した男と関係があるに違いない。
【アイボリー】「お前たちを見つけるのに時間がかかったよ。」彼は鎖をさらに素早く回転させながら続けた。「ジャングルを追いかけ回すのは…面倒だった。でも、おかげでお前たちは主要な道を使ってくれたからな。」
なぜヴァンダが彼らを感知できなかったのか?恐らく、他の猿たちの信号と混同したのだろう。ジャングルは生命で満ちているため、その中から重要な信号を見分けるのは容易ではない。
四人の他の山賊たちは、退路を完全に断つようにデレクたちを取り囲んだ。
デレク、イザベル、ツンガは背中を合わせて立ち、戦闘態勢を整えた。
【イザベル】「私たちに何を求めているの?あなたたちのことは知らないし、私たちもあなたたちを知らない。戦う理由なんてないはずよ。」
アイボリーはゆっくりと首を横に振り、その笑みが獰猛な唸りに変わった。
【アイボリー】「違うな。俺はお前たちが誰かをよく知っている。新しいワーデンだろう?それに、あのブリキの案山子と野蛮人も連れている。」彼の声は怒りに満ちていた。「そして俺は知っている。お前たちが俺の友、レンを殺したこともな。」
デレクの頭は高速で回転した。奴らは友の死体を見つけた後、その痕跡を追ってここまで来たのか。密集したジャングルの中でこれほどの大勢が移動すれば、必ず痕跡が残るはずだ。そして、彼らが以前に戦った敵と同じようなレベルの連中なら、戦わずに済む道はなさそうだ。
彼らは数で勝っていたが、デレクはまだそのレベルを確認できていなかった。それがわからない限り、どれほど危険な状況にあるか判断できなかった。彼らの粗末な武器は一見すると脅威には見えなかったが、デレクは見た目で相手を判断しないことを学んでいた。
【デレク】「聞け、お前の友は自らその運命を招いたんだ。俺たちは彼に求められたものを渡し、その場を去るように言った。それだけだ。」
【アイボリー】「それでどうなった?」
【デレク】「あのクソ野郎は、俺たちをレベルアップのためのいいカモだと判断して、殺す気でかかってきたんだ。」
アイボリーはくつくつと笑った。
【アイボリー】「ああ、それはレンらしい話だな。」
デレクは眉をひそめた。
【デレク】「それが面白いのか?まあ、お前がそう思うなら構わないが、俺たちはお前に対して何の敵意もない。」
まだだが。
アイボリーは頷いた。
【アイボリー】「ああ、その理由はよくわかった。だが俺はどうでもいい。俺は友の死を必ず討つ。だがその前に、一つ感謝しておく。」
【デレク】「何に感謝するって?」
【アイボリー】「レンの最後の楽しみを提供してくれたことだ。」彼は鎖を振り回しながら言った。「どうやってあいつを倒したのかは知らないが、よほどの幸運があったに違いない。あいつが簡単にやられるとは思えないからな。」
デレクはため息をついた。
【デレク】「幸運か?ああ、俺は本当に運がいいらしい。」
彼はプラズマの流れの一部を武器に回し、外部装甲を強化した。
【デレク】「あまりにも運が良すぎて、時々この宇宙が俺を愛しているんじゃないかとさえ思うことがある。」
その時、彼の視界に山賊たちの頭上に浮かぶ数字が次々と現れた。5、5、6、6。全て鉄級。
その中央に立つアイボリーの頭上には、赤い文字でそのレベルが点滅していた。
《レベル ブロンズ 2》
デレクの腹が冷たく締め付けられるような感覚が走った。彼は鼻から息を強く吐き出した。
【デレク】「俺の運は本当に馬鹿げたレベルだな。」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!今回は、デレクが再び危険な選択を迫られる場面を書いてみました。彼は本当に「キャシュナール」になる運命なのか、それとも科学の力でこの世界の運命を変えるのか?次回もどうぞお楽しみに!
お気に入り登録やブックマーク、評価をしていただけると励みになります!コメントも大歓迎です。今後ともよろしくお願いします!




