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Messiah of Steel:異世界で最強科学装備無双!  作者: DrakeSteel
第二章 聖都の影と覚醒の機構
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第101章: フルクラム・ストライク――芽生えた力

アリラは足元で体をもじもじさせ、唇を噛んだ。体育館は不気味なほど静かだった。ヴァロムがいつ入ってきてもおかしくはない。それなのに、生徒たちは普段のようなおしゃべりすらしない。その沈黙は重苦しく、まるで自分だけが知らない何かを皆が知っているかのようだった。


――今日は「本格的」になるらしい。


そんな囁きが耳に残り、胃の奥に石のように沈んだ。訓練はいつだって真剣なはずなのに。


誰も説明してくれない。アリラは湿った手のひらを押し合わせた。特別な準備があるのなら、もう遅すぎる。


分かっているのはただ一つ。生徒たちがペアに分けられ、割り当てられた相手と並ばされたこと。


今回の相手は――ファエラ。


視線を向けると、ファエラは遠くを見つめ、相変わらず何を考えているのか分からなかった。その存在に胸が締めつけられる。静かで内気、けれど鋭い。少なくとも自分よりはずっと落ち着いていた。


灰白色の髪は乱れて肩に垂れ、灰色の瞳は虚ろに宙をさまよっていた。顔色は青白く、制服は清潔なのに体に合わず、しわだらけに見える。戦闘練習以外では鈍く動くのに、右手の指だけは絶えずぴくぴく動いていた。まるで目に見えない何かを数えているみたいに。


……奇妙だ。


誰も彼女と組みたがらない。だから当然、ファエラはもう一人の余り者――自分と組むことになった。


ヴァロムが前回の授業でペアを決め、不満も要望も一切認めなかった。不公平だと思いつつも、二人の『浮いた存在』がわざと組まされた気がしてならない。


ファエラは何の反応も示さなかった。練習用の人形と組まされても同じ顔だろう。友達なんて――欲しいとも思っていないはず。


……自分も似たようなものだ。ほんの少し、ミレルが組んでくれるかもしれないと期待した。でもそうはならなかったし、驚きもしなかった。


ミレルは優しく、敬虔で、誰にでも分け隔てなく接する。その親しさは、単なる性格の現れにすぎない。


一方、タニアは迷わず上級の少女と組んだ。授業の外での「契約」はここでは通用しない。体育館の中では、彼女ははっきりと――「アリラは一人だ」と示した。


規則正しい足音が響き、ヴァロムが入ってきた。背の高い痩せた体格に、短く刈られた白髪。その存在感だけで空気が張りつめた。


年齢を測るのは難しい。かつてイザベル・ブラックウッドの師であったなら、若くはないはず。だが、真っ直ぐな背筋と鋭い動作には老いを感じさせるものがなかった。


彼は部屋の端に立ち、全員を見渡した。表情は動かず、承認も非難も示さない。声だけが体育館に響いた。


【ヴァロム】「オルビサル学院のノーヴィスが学ぶ武術は、四千年以上前――《初降臨の時代》にまで遡る。最初の《球体》が空から降り始めた時代だ。」


少女たちはペアのまま、教官を見つめた。


【ヴァロム】「やがて分かったことがある。《球体》の力を吸収できるかどうかは、人のオーラ強度に依存するということだ。チャクラがどれほどの生のエネルギーを維持し、流せるか。その強度がなければ、肉体も精神も《球体》の力を宿せはしない。」


沈黙がさらに濃くなり、体育館を覆う。


アリラは必死に興味があるような顔を作った。――もう知ってる話なのに。なぜ今さら基礎から?


【ヴァロム】「今日、《芽生え(スプラウト)》は初めて、チャクラの力を打撃に込めることを試みる。真の制御への不可欠な一歩だ。」


――え?


心臓が跳ね、次の瞬間には暴れ出した。チャクラの力を打撃に込める? 本気で? そんなの無理に決まってる。


【ヴァロム】「呼吸法、循環訓練、クローディン教官の下で学んだ武術。そのすべてが今日挑む技へとつながっている。努力を怠っていなければ、困難はないはずだ。」


彼はタニアの前で立ち止まった。


【ヴァロム】「先を行く者には洗練された制御を期待する。力を振るうだけでなく、衝撃を自在に操れ。」


《ソーン》は目を逸らさず、静かにうなずいた。


ヴァロムは再び歩みを進める。


【ヴァロム】「エネルギーを体内を流れる川と見立てよ。チャクラはそれを集め、流れを変える。これまでは川を鎮め、均衡を保つよう求められてきた。」


彼はアリラの前で立ち止まった。


【ヴァロム】「だが今日は、その川を解き放ち、《支点撃フルクラム・ストライク》として相手に叩き込め。」


胸が締めつけられる。アリラはファエラに視線を送った。青ざめた顔が返ってきた。


【ヴァロム】「互いのオーラをぶつけ合うために相手がいる。打撃はチャクラの全力で放て。」


――全力? そんなの……。


アリラは息をのんだ。手袋すらしていない。本当に力を込められたら、怪我じゃ済まない。あの木をへし折った《支点撃フルクラム・ストライク》を思い出す。どうしてこんな練習を……?


ヴァロムは歩みを続け、ブーツの音が響いた。《芽生え(スプラウト)》たちは不安げに彼を見つめる。タニアは口元に冷たい笑みを浮かべ、年上の少女たちは表情一つ変えなかった。


【ヴァロム】「だが今日は、打撃を学ぶだけではない。防御も学ぶ。チャクラの力は肉体を硬化させる。拳も蹴りも、チャクラを極めた者には通じぬ。体のどの部位も焦点となり得る。一度そうなれば、その部分は鋼に等しい。」


彼は体育館の端に戻り、全員を見渡した。


【ヴァロム】「交互に打ち、受けよ。私が止めるまで続けるのだ。大会が迫っている。我らの《芽生え(スプラウト)》ですら高みに到達できると示すのだ。」


静寂が落ちた。


やがて、か細い声が割った。


【ヴァロム】「話せ、ミレル。」


【ミレル】「最初に挑戦する名誉をいただけますか?」


頬を赤らめながらも、瞳には揺るぎない決意が宿っていた。だが隣の小柄な茶髪の少女は顔を青ざめさせ、目を見開いた。ミレルのように真正面から《支点撃フルクラム・ストライク》を受ける気はさらさらなかった。


ヴァロムは顎を上げ、全員を見渡した。


――彼を喜ばせたいのは、ミレルだけ。


アリラの背に寒気が走った。その技は理論でしか学んでいない。腹から繰り出す一撃。腹部のチャクラから手のチャクラへと駆け上がる力。低速でも圧倒的な重みを生む。


痛みなしで放つ方法はない。失敗して外せばいい――だが、失敗すればヴァロムに繰り返しを命じられるだけ。


それが最悪ではない。


もしファエラが避けられず、防御もできなければ――壊してしまう。


アリラは彼女の痩せた顔に視線を落とした。か細い体、虚ろな灰色の瞳。平手打ちすら耐えられそうにない。正しい《支点撃フルクラム・ストライク》など、到底。


――今日は黙って、目立たずに……そう決めていたのに。


アリラは震える手を挙げた。


【ヴァロム】「アリラ・グリーヴス。手を挙げたな。感心だ。」


後ろでくすくす笑いが漏れる。


【アリラ】「は、はい、先生。その……質問、いいですか?」


ヴァロムの瞳は鋼のように冷たく、逃げ場を与えない。


――もう言うしかない。


体育館の隅で掃除係のトマスが立ち止まり、興味深そうに見ていた。


【アリラ】「もし……その、本当に相手に当ててしまったら? 彼女を傷つけたくないんです。」


彼女はファエラを指差した。


【ヴァロム】「ならば彼女が防御すればよい。」


タニアが冷たい視線を送り、首を振った。


【アリラ】「でも……もし防御できなかったら?」


ファエラの目が一瞬だけ揺れ、すぐ足元に落ちた。


【ヴァロム】「聞いたか、ファエラ。お前の相手はお前を信じていない。お前を傷つけることを恐れている。」


ざわめきが広がる。トマスも眉をひそめた。


ファエラは床を見つめ、口を閉ざしたままだった。


【アリラ】「違うの、そんなつもりじゃ――」


【ヴァロム】「十分に明確だった。全員が聞いた。お前は彼女が打撃を防げないと考えている。」


ざわめきが膨らみ、ヴァロムは止めなかった。むしろ歓迎しているように。


喉がからからに乾く。アリラはファエラに視線を向けた。彼女はさらに打ちひしがれたように見えた。


【アリラ】「ファエラ、違うの! 本当にそんな意味じゃなくて、ただ……誰も怪我してほしくなくて!」


【ヴァロム】「アリラ。オルビサル教会の教義は一つの原理に立脚している。神が授ける《球体》は試練だ。我らが神に仕えるに値するかを示すもの。試練を越えれば力を授かり、失敗すれば悪魔に心を奪われる。」


彼が一歩近づくと、アリラの脚は鉛のように固まり、その存在感が部屋全体を呑み込んだ。言葉を探しても、喉が閉ざされて声にならなかった。


【ヴァロム】「お前は今、オルビサルの弟子が無価値だと示した。ゆえに、ファエラにはその侮辱を否定する権利がある。」


ファエラが顔を上げ、灰色の瞳が濡れた鋼のように光った。


――ああ、もう終わった。黙っていれば……。


【ヴァロム】「円を作れ。アリラとファエラが最初の模範を示す。」


靴が床を擦り、ざわめきが広がり、少女たちは輪を作った。


ヴァロムはその中央に立ち、腕を組む。


【ヴァロム】「これから目にするのは普通の組手ではない。拳だけではなく、オーラで打て。一方が完璧な《支点撃フルクラム・ストライク》を放つまで、決闘は終わらぬ。」


ファエラの目が大きく開かれた。


アリラは唇で「ごめん」と形を作った。声は出なかった。


――こんなこと、させたくなかったのに。 もしかしたら、他の子たちが距離を置くのは正しかったのかもしれない。自分はただのジャングルの村出身の少女で、この神聖な学び舎では場違いで、どう振る舞えばいいのかも分からない。村さえ滅びなければ。祖母も両親も、動物たちも、あの家も……。


手にちくちくとした感覚が走った。


黒いものが、小さな蛇のように皮膚の下を這い、腕を駆け上がって消えた。


心臓が跳ねる。思わず手を背に隠した。

あの《エボンシェイド》の戦い以来、姿を見なかったのに。なぜ今? もしそれが打撃に流れ込んだら……。あの怪物の肉に拳で穴を穿った感覚が、まだ生々しく残っている。


【ヴァロム】「さあ、どうした? 理解したかと聞いたはずだ!」


【アリラ】「……は、はい、先生。すみません。」


ヴァロムは一歩下がり、腕を広げた。


【ヴァロム】「始めよ!」


アリラが構えるより早く、甲高い叫びが響いた。


ファエラが悲鳴を上げ、拳を突き出して飛びかかってきた。


アリラの世界は、その一撃に収束した。


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