第100章: 死がデレクの中にいる
ギャラスはヨリンの死体の上に立っていた。死骸は捨てられた殻のように床に横たわっている。彼の鋭い視線は部屋の隅のイザベルを射抜いた。彼女の手には紫のクリスタルが震えていた。
息が止まった。冷気が背筋を走り、血管の奥まで広がる。彼が去るのを確かに見た。自分の目で見届けた。それなのに――今ここにいる。まるで世界そのものがねじれ、彼を引き戻したかのように。
瞬きをしても、何も変わらなかった。重苦しい裁きの光を宿した視線はそのままだ。
どう説明できる? 自分がここにいること、足元の死体、握りしめたクリスタル。どれも疑いを晴らす答えにはならない。光景のすべてが彼女を告発していた。
【イザベル】「ギャラス……どうして……戻ってきたのです?」
言葉は空虚だった。血で汚れた部屋で、必死に取り繕った理屈にすぎない。
ギャラスの顎がこわばった。彼も動揺しているようだった。低く、語尾を切る調子で答えた。
【ギャラス】「外で声を聞いた。お前の声に似ていたが確信できなかった。だから戻った。扉の外で聞き耳を立てたが、中は静まり返っていた。鍵もかかっていなかったので中に入った。」
イザベルは唾を飲み込んだ。冷静さだけが盾になる。
【イザベル】「そう……」
視線はヨリンに向いた。
【イザベル】「私が来たときにはすでにこの状態でした。」
ギャラスの眉が寄る。
【ギャラス】「じゃあ、お前は……」
イザベルの声は鋼のように冷たく澄んでいた。
【イザベル】「私が、オルビサルに命を賭して守ると誓ったこの都市の中心で、罪なき者を斬ったとでも? どうお考えです?」
彼の目は鋭く彼女を観察し、短い沈黙のあと肩がわずかに緩んだ。
【ギャラス】「ヨリンの喉は切られていた。お前は白いチュニックを着ているが、血は一滴もついていない。」
イザベルは安堵の息を吐いた。オルビサルに感謝を。少なくとも尋問官としての目は確かだ。
【イザベル】「その通りです。誰かがナイフで容赦なく殺しました。」
ギャラスの視線は彼女の手の紫のクリスタルに移った。
【ギャラス】「それは? 何のためのものだ?」
イザベルはそれを少し持ち上げた。持ち続ければヨリンを殺して盗んだと思われる。唯一の道は証拠として渡すことだった。彼女は差し出した。
彼は慎重にそれを受け取り、表面をなぞった。
【イザベル】「ヨリンはこれで依頼人の名前を記録していたと思います。」
ギャラスの眉が曇る。
【ギャラス】「それがなぜお前にとって重要だ?」
【イザベル】「殺した者は、私と同じように依頼のためにここへ来たはずです。」
【ギャラス】「依頼人の一人を疑っているのか?」
イザベルはうなずいた。
彼の視線が鋭くなる。
【ギャラス】「ではお前は何を依頼しようとした?」
イザベルの目が細まり、声は刀の刃のように研ぎ澄まされた。
【イザベル】「おそらく、あなたと同じことを。尋問官殿。」
ポケットからコインを取り出し、親指で弾いて投げた。
ギャラスは空中でそれを掴んだ。手に重みを感じ、開いたときには険しい皺が刻まれていた。
【ギャラス】「このコインは……?」
イザベルは静かにうなずいた。
【イザベル】「そうです。カシュナールを襲った者が落としたコインの一つ。私はその持ち主を突き止めようとしました。」
ギャラスの手が腰袋に触れた。中には他のコインがある。彼は渋々うなずいた。
【ギャラス】「どうやら同じ考えだったようだな。もっとも、俺から勝手に持ち出すべきではなかった。それは正式な証拠だ。」
イザベルの視線は鋭くなった。
【イザベル】「私はこの件の管轄を持ちません。だから非公式の手段を用いました。それが理由です。あなたは? 異端審問官付きの予言者に、このコインを読ませれば済んだはずでしょう?」
ギャラスの肩がわずかに動いた。視線はヨリンの死体へ。
【ギャラス】「ここで話すことじゃない。」
イザベルは彼を見つめ、その言葉を測った。自らの組織の予言者すら信じられないのなら、事態は想像以上に深刻だ。
【イザベル】「これからどうします? 私たちはどちらもここにいてはいけません。」
ギャラスは顎を固めた。
【ギャラス】「お前は去れ。俺が物音を聞いて調べに入ったと言う。」
【イザベル】「本当に?」
彼は短くうなずいた。
【ギャラス】「お前が殺していないのは明らかだ。」
クリスタルを回し、その光を見つめる。
【ギャラス】「むしろ、しっかりした予備調査をした。これが真犯人に繋がるかもしれん。」
イザベルは目を見開いた。ギャラスが――彼がそう言うとは。今まで彼をウリエラの道具としか思っていなかった。だがここにいるのは、かつて兵士だった男だった。
【イザベル】「この都市で何が起きているのか、教えていただけますか?」
彼は扉を指した。
【ギャラス】「行け。早く。誰かに見つかる前に。説明は時が来ればする。」
イザベルは深く頭を下げ、彼の肩に手を置いた。
彼も短くうなずいて応えた。
ワーデンはヨリンの家――かつての住まいであり工房でもあった死の館を後にした。
イザベルはデレクの部屋の前に立ち止まった。ごく普通の木の扉で、聖なるカシュナールが住んでいるとは思えない。
こんな場所に彼が住んでいるのは不思議だった。だがデレクのことだ、特別扱いを拒んだのだろう。いや、そうとも限らない。部屋の割り当てを決めるのはエラスマスで、彼のデレクへの嫌悪は隠されてもいなかった。これが「すぐにでも出て行け」という無言の圧力かもしれない。
以前なら、カシュナールがこんな扱いを受けていることを気にしただろう。だが今は――そんな余裕はなかった。
重い息を吐いた。前回の面会は最悪だった。今回がどうなるかまったく分からない。彼は自分とアリラを危険に晒したことに激怒していた。彼女は理解してほしかった。彼を救うことは全員を救うことだと。だが彼は聞こうとしなかった。
それでも今、彼の扉の前に立っている。
顎を固く結んだ。義務――それが理由だ。教会と部族の戦争を招きかねない事件を調べ、カシュナールに報告する。その誓いが、二人の間に残るわだかまりより優先される。
ノックしようと手を上げたが、拳は空中で止まった。
中から声が響いた。
【デレク】「どうした? ノックの仕方も忘れたか? 聞こえるくらいでいい、でも扉は壊すなよ。見習い課程で教わらなかったのか?」
イザベルは首を振った。ヴァンダが彼に知らせたのだろう。NOVAは離れた場所の気配すら察知し、内蔵の人工知能が逐一彼に伝えていた。それが彼女をいつも不安にさせた。取っ手を掴み、中へ入った。
二つの金属製の円筒――エール樽ほどの大きさ――が彼女の前に滑り出て、道を塞いだ。光るロッドを突き出し、胸に狙いを定めている。
【デレク】「落ち着け、坊主ども。彼女は俺と一緒だ。下がれ。」
浮遊する機械は武器を引っ込め、低いうなりを残して床に降りた。だが先端の赤い光はまだ点滅していた。警告のように。
イザベルは目を見開いた。
【イザベル】「これは……何ですか?」
デレクがその背後から現れた。
【デレク】「リペアボットだ。忘れたか?」
イザベルの視線は彼と機械を行き来した。
【イザベル】「以前はこんなに大きくありませんでした。それに、なぜ武装しているのです?」
デレクは気軽に肩をすくめた。
【デレク】「俺の安全を気にしてたらしい。NOVAが復旧するまでの間に、こいつらが自律的に自分たちを強化したんだ。」
【イザベル】「アーマーはまだ動かないのですか?」
デレクは両腕を広げた。
【デレク】「バラバラだ。直すこと自体は難しくない。問題は《球体》から吸収した死のエネルギーだ。強力だが不安定だ。」
顎の髭を撫でる。
【デレク】「イサラとヴァンダが二交代で、修理中の漏出を抑えてる。厄介な仕事だ。」
イザベルの胸に冷たいものが走った。
【イザベル】「漏出……? つまり、死の《球体》のエネルギーがアーマーから漏れるかもしれないということですか?」
デレクはうなずいた。
【デレク】「専門家じゃないが、イサラは相当怯えてたな。」
イザベルはベルトを握り、息を鋭く吸った。
【イザベル】「怯えるのも当然です! そのエネルギーがもし――」
【デレク】「わかってるって。」ため息を吐き、彼女を遮った。
【デレク】「全部死ぬんだろ? はいはい……。安心しろ。イサラが安定させる方法を見つけたそうだ。」
【イザベル】「では、あなたは? なぜ一緒に作業せず、ここにこもっているのです?」
表情が暗くなり、軽さは消えた。
【デレク】「今は他にやることがある。」
イザベルは冷静さを保って手を下ろした。何かがおかしい。彼の態度も声も。NOVAについて怒ったことはあっても、今の反応は違っていた。
【イザベル】「NOVAより優先することがあるとでも?」
デレクは背を向け、机に散らばる書類に視線を落とした。
【デレク】「要件を言え。忙しい。」
イザベルの目が細まる。
【イザベル】「何を調べているのです? その書類は……」
彼は鋭く振り返り、短く答えた。
【デレク】「お前の関知するところじゃない。カシュナールに関わることだ。で、何の用だ?」
イザベルは一歩引きかけたが、踏みとどまった。
【イザベル】「カトーに不利な証拠が判明しました。」
デレクは何も言わず、ただ見つめた。
【イザベル】「短剣です。柄が部族の意匠でした。」
デレクの手が脇腹の傷跡に触れた。
【デレク】「あの短剣のことは覚えている。――十分な証拠だな。お前の敬愛するウリエラは、ついに望みどおりの戦争を手に入れるってわけだ。俺の“心からの祝福”も伝えておけ。」
イザベルの顎が固くなり、歯を食いしばった。やはり彼はすべての責任をウリエラに押し付ける。驚くことではない。だが、戦争をまるで祝祭の招待状のように語るとは――彼女の知るデレクなら、そんな言い方はしなかった。
【イザベル】「それだけではありません。コインも見つかったのです。教会の鋳造でした。」
デレクは義務的に視線を向けただけだった。
【デレク】「それで?」
【イザベル】「部族は貨幣を使いません。誰かが渡したはずです。」
デレクは一度うなずき、冷たく言った。
【デレク】「なるほど。俺を殺すために雇われた。そして支払いは教会の金、ってわけか。」
イザベルの鼓動が速まった。本当にこれがデレクなのか? 怒りも焦りもない。視線は机の書類に釘付けだ。
【イザベル】「そうです。教会に繋がる誰かが暗殺を命じたのかもしれません。もし証明できれば、戦争を止められるのです!」
誓いを果たす機会。彼にとっても意味があるはずだ。今こそ反応を示すべき――。
だがデレクはただ長い息を吐き、再び書類へ視線を戻した。
【イザベル】「それで? 何かお考えは?」
彼は考えから引き戻されたように目を上げた。
【デレク】「ん? ああ……よくやったな。」
拳が震える。
【イザベル】「戦争が起きても構わないのですか?」
デレクは目を天井に向けた。
【デレク】「もちろん気にしてるさ。お前のやってることは立派だ。拍手でもしてやるよ。だが俺は忙しい。」
再び背を向けた。
胸に熱がこみ上げる。許せない。
【イザベル】「何にそんなに忙しいのです? その書類は?」
デレクはぞんざいに手をひらひらと振った。だがその仕草は不自然に滑らかすぎた。
【デレク】「大したことじゃない。ここに来てからずっと追い求めていた答えが全部載ってる地図だ。この惑星――エリンドラと呼ばれているらしい――のな。お前も知ってただろ?」
イザベルの目が見開かれる。
【イザベル】「答え……ですか?」
【デレク】「ああ。俺にまつわる予言が必ず現実になる理由とか、なぜ《球体》が空から落ち続けるのかとか。小さな疑問だよ。」
イザベルの視線が書類から彼へ移る。
【イザベル】「それは……驚くべきことです。でも戦争は――」
【デレク】「戦争なんて」鋭く遮った。
【デレク】「俺の問題じゃない。出て行け。扉は閉めろ。」
背を向け、肩を固める。
イザベルの呼吸が止まった。皮肉も機知もない。残っていたのは冷たく空虚な闇だけ。
胸が締めつけられる。どうしてそんな言葉を? 避難民ですら「自分の問題じゃない」と言いながら彼は助けた。アリラもそうだった。それでも気にかけていたではないか。
あの地図が、本当に戦争で失われる数千の命よりも重要なのか?
「……違う。」
石のように低い声が響いた。
イザベルは振り向いた。
ツンガ・ンカタが戸口に立っていた。杖を握り締め、危険な怒りを眉間に刻んでいた。
【イザベル】「ツンガ! 戻ったのですね! な――」
【ツンガ】「違う!」
杖を床に叩きつけ、重い音が鳴り響いた。
ワーデンは眉をひそめた。
【イザベル】「どうしたのです?」
シャーマンは指をデレクに突きつけた。
【ツンガ】「死が奴の中にいる!」
デレクの眉間の皺が深まった。
【デレク】「何を言ってる、じいさん?」
ツンガはさらに近づいた。一歩ごとに杖が床を叩き、重い音を響かせた。
【ツンガ】「感じる。死が奴の中でとぐろを巻く。だから戦争を気にしない。」
イザベルはデレクを見た。
彼は肩をすくめただけだった。
本当なのだろうか? 彼の冷たさ、無関心――それは本当に彼自身の選択なのか? それともNOVAから滲み出す死の毒が彼を侵しているのか?
ツンガの声は獣の唸りのように低く響いた。歯を剥き出しにして。
【ツンガ】「こうして始まる……」
イザベルは唾を飲み込み、心臓が激しく打った。
【イザベル】「何が始まるのです、ツンガ? 何を言っているのです?」
彼は彼女を見なかった。視線はデレクに釘付けのまま、杖に火が走った。
【ツンガ】「感じる。血の中の蛇。木の中の腐り。人はこうして悪魔になる。こうしてお前は――シャイタニになる!」




