表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女がめちゃくちゃモテる件 〜派手にモテる彼女と、地味にモテる彼氏〜  作者: 丸深まろやか
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/38

023 「あくまで噂だけどね」


 翌日の昼休みには、再び美湖みこが教室にやって来た。


 歓迎の声にざっと対応してから、また侑弦ゆづるの前の席に座る。

 弁当を広げると、開口一番、こう言った。


「また、聞き込みしてきました」


「……聞き込み、ね」


 要するに、綿矢紗雪わたやさゆき佐野桜花さのおうかの不和について、前回当たった『同じ中学だった子』以外からも、情報を集めてきたということだろう。

 なにもわからない、という紗雪と、なにも答えようとしない桜花。

 ふたりに聞くだけでは、埒が明かないと判断したらしい。


「やっぱり綿矢さんと桜花ちゃん、最近急に喋らなくなったんだって」


 少しヒソヒソ声になって、美湖が言った。

 控えめに教室中を見回して、ふたりを探している。


 桜花は先日と同じく、友人たちと昼食。

 対して、紗雪は今日は教室におり、ひとりでサンドイッチを食べながら、本を読んでいた。


「いつもは、ふたりでいることもよくあったのに。ちょっと前から、それが全然なくなったって、何人かが言ってた」


「そうか……」


 たしか、紗雪と桜花は、ふたりでどこかのグループに混ざったりはしない、ということだった。

 一緒にいるときは、いつもふたりきり。

 それ自体はやはり珍しいが、たしかに紗雪のイメージには合っている気がする。


「ただ、原因は誰も知らないみたい。周りから見てもわからないなにかがあったんだと思うけど、問題は……」


「綿矢にも心当たりがないってところだな」


「そう、それ」


 侑弦の方をピンと指差して、美湖は言った。

 難しそうに眉をひそめ、はぁっとため息をつく。


「つまり、なにもわからないってことか?」


 確認するように、侑弦が尋ねる。

 が、美湖の反応は、侑弦の予想したものとは少し違っていた。


「……仮説があるんだよね、実は」


「仮説?」


「うん。聞き込みで、ふたりの関係のことだけじゃなく、綿矢さんと桜花ちゃん、それぞれのことについても、聞いてみたんだけど」


「……」


「桜花ちゃんには今、好きな人がいる」


 それまでよりも一段小さな声で、美湖が言った。

 やけに神妙で、慎重そうな表情だった。


「佐野に好きな人……それで?」


 恋をしている、ということ自体は、珍しいことでもない。

 それどころか、高校生に恋はつきものだろう。

 にもかかわらず、なぜ美湖は、こんな顔をするのか。


「桜花ちゃんが好きなのは、碓氷うすいくん。あくまで噂だけどね。知ってるでしょ?」


「碓氷って……あの碓氷か」


 言いながら、侑弦はチラと、横目で教室の中央を見た。


 碓氷(つかさ)。侑弦や桜花と同じクラスの男子で、ひと言でいえば『爽やかイケメン』。

 穏やかで人当たりがよく、それでいて気配りもできるという人格者。

 おまけに運動神経も成績もよく、目立った欠点がない。

 男子からはある程度妬まれているものの、おおむね誰からも好かれる人気者だ。


 いつか玲逢れおが司のことを『男子版天沢美湖』と称していたのを、侑弦は思い出した。

 司は今も、数名の男女グループに混ざり、楽しげに雑談をしていた。


「まあ、納得の人選ではあるな。碓氷、いいやつだし」


「ね。桜花ちゃんも、数多いる碓氷くんファンのひとりってこと」


「そういわれると、佐野は怒りそうだけどな。で、それが?」


 佐野桜花の、碓氷司への恋。

 それが、今回の紗雪との確執にどういう関係があるのか。


 だが、美湖に尋ねてすぐに、侑弦の頭にはなにか、不吉な予感のようなものが浮かんできていた。


「もうひとつ、ほかにも噂を聞いたの」


「……」


「碓氷くんは、綿矢さんが好き」


「……ほぉ」


 思わず、苦笑いが出た。


 ――女の子の大きな喧嘩の原因って、やっぱりあれが多いかも。


 脳裏に、昨日の佳音かのんとの会話が蘇る。


 ――あれ、っていうと?

 ――うん、恋愛系。


「本当かどうかは、まだわからないけどね。ただ、もしこの噂を、桜花ちゃんがどこかで聞いたとしたら」


「……綿矢にマイナスの感情を持っても、おかしくないってことか」


「まあね。綿矢さん、かわいそうだけど」


 なるほど、つまりは本当に、痴情のもつれというわけか。

 もちろん、まだ真偽は不明ではあるけれど。


「噂の出どころは?」


「桜花ちゃんの方は、噂っていうより、見てればわかる、って感じみたい。碓氷くんに、好き好きオーラ出てるんだって」


「そういうことか……好き好きオーラね」


 まあ、好意を向けている相手にアプローチできるというのは、かなりいいことだろう。

 こうして噂になるリスクこそあれど、恋の重要さに比べれば些事だとも思える。

 少なくとも、侑弦にとっては。


「もうひとつの方は?」


「そっちは、発信源はわかんない。でも、バスケ部の人から聞いたって子がいた」


「……碓氷の部活は?」


「バスケ。部活で、恋バナでもしたのかもね」


 そして、それが噂として漏れている、と。

 人の口に戸は立てられぬ、というやつだろうか。


 気の毒に、と侑弦は首を振る。


「それで……これからどうするんだ?」


「まあ、まずは確かめなきゃね。それぞれ、嘘かホントか」


 美湖は間髪入れずに、そう答えた。

 たしかに、それが先決か。


「侑弦って、碓氷くんと友達?」


「いや……残念ながら違う。それでも、わりと親しく話してくれる、いいやつだけど」


「ふぅん。さすが博愛主義者」


 感心したように、美湖が言う。

 おかしな表現だが、意外としっくりくる気がするのが不思議だ。


「碓氷って、あれだよな。去年、生徒会副会長選挙で、美湖に負けた」


「ああ、うん。ちょっと申し訳なかったけどね」


 ちょうど、去年の今頃だったか。

 当時一年生だった美湖と司は、生徒会副会長に立候補した。


 周囲からの人気、人望。それらを踏まえても、接戦になるだろうと、侑弦は予想した。

 が、結果は美湖の圧勝。同学年票ではそれなりに競ったものの、上級生からの得票率では、美湖が大差をつけていた。

 選挙期間中に、美湖がすっかり他学年の心も掌握してしまったことが、勝敗を分けたと思われた。

 美湖は未だに罪悪感を抱いているようだが、侑弦にしてみれば、人気という基準で美湖と戦ったというだけで、司に対しては尊敬の念を禁じ得ない。


 しかし、そうか。そんな司が、紗雪のことを。


「ところで、どうやって確かめるんだ? 噂の真偽」


 気になっていたことを、侑弦は美湖に尋ねた。


 噂とは、あくまで噂だ。他人が好き勝手に尾鰭をつけたり、そもそも根も葉もなかったりする。

 特に桜花のそれについては、そもそもが周囲の人間の憶測が元になっている。

 つまり、真実を知っているのは、本人だけだ。

 いや、美湖だってそれは、重々承知しているはず。


 となると――。


「そりゃ、本人に聞くでしょ」


「……やっぱりな」


 迷いのない返答に、思わずため息が出た。

 天沢美湖にとっては、よっぽどのことがない限り、回り道は単なるタイムロスなのだろう。


「けど、佐野は教えてくれないんじゃないか。前回の反応からして」


「まあ、そうかもねー」


「策はあるのか?」


「もちろん。っていうか、侑弦もわかってるでしょ?」


 美湖はふふんと笑って、侑弦を見据えた。


 彼女の考えと一致しているかどうかは、わからない。

 けれどたしかに、侑弦にはひとつ、案があった。


 とはいえ、ほかに方法もないだろうという、いわば消去法ではあるのだけれど。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ