7:ふわふわのスフレパンケーキ
ウィルのお父さんに会いに行くのは来月だ。夏休みということでお店を一週間休むことにした。そのためもあって、告知も含めて少し先にした。
今は休み明けから出す新メニュー『ふわふわスフレパンケーキ』の開発を重ねているところだ。
泡立てた卵白と生地を混ぜるのだけれど、配合を思い出せなくて、失敗作を繰り返していた。
「むーん……小麦粉はかなり少なかったはず」
焼き上がると、膨らみはするものの、記憶にあるよりも重たくて、これじゃない感。
「なんじゃ、まーた失敗なんか? 充分美味いがのぉ?」
むんむん言っていたら、ナマズのおじいちゃんがスンスンと匂いを嗅ぎながらカウンターにドサリと座った。
二日前に失敗したとき、私もフォン・ダン・ショコラもお腹いっぱいでおじいちゃんにあげたことがあった。確かに美味しいんだけど、これにクリームやソース、フルーツを付けるとなると、重たすぎるのだ。
「あ、おじいちゃん、いらっしゃい。失敗作だけど食べる?」
「「食べる!」」
「ん?」
おじいちゃんじゃない返事が二つ。声の方を見ると、お店の入り口に魔人の兄妹が立っていた。
「お金払うから、食べさせて!」
「ずっといい匂いが漂ってたんだよな。絶対にここだと思った!」
妹のシャーマちゃんはカウンターに突進して前のめりに、兄のナイトくんはケタケタと笑いながらゆっくりと歩いて来た。
「ぬほほほ。ワシはまた今度でええよ」
「じーちゃん! ありがとぉ!」
シャーマちゃんに抱きつかれて、ちょっと照れているおじちゃんが可愛かった。
失敗作パンケーキに生クリームと蜂蜜を掛けて渡すと二人とも大喜びしてくれた。どうせなら成功したのを食べてほしかったけど、仕方ない。
「んっ! ふわっ……んふふふんむ?」
「んぐっ! もふっ……ふんんんふむむぅ?」
二人とも変な声しか出していないけど、何やら会話になっているらしい。何話してるんだろうなと眺めつつ、新たな配合にした生地を弱火にしたフライパンにもっさりと乗せて隙間にお湯を少しだけ注ぐ。
ゆっくりと焼き上げている間に、他の仕事をしつつ様子見。焼き色が付いたら、そぉーっとひっくり返して少し形を整える。
またフライパンの縁にお湯を少し注いで、蓋をする。
側面の生地に火が通ったら完成だ。
「よっ」
大きめのフライパンで三つ焼いていたので、まず一つだけ味見をしてみた。
「んっ! これだぁ!」
「お? できたんか」
「食べる?」
「「たべるー!」」
「っ、あははははは!」
フォン・ダン・ショコラはじめ、皆から返事が来て、つい笑ってしまった。
切り分けて皆に渡す。
ナイトくんとシャーマちゃんには、食べ比べてみての感想をお願いした。
「んんーっ! おいひいぃ。確かにこっちのほうが軽いわね! シュワッと溶けてく感じ。断然こっち!」
「確かに、ふわふわで美味いな。でも俺はズシッと重たいほうが好きかも」
「えー? そうなのぉ?」
そうか、私はふわふわ至上主義だったけど、ズシッとしている方法が好きな人もいるのか。スフレパンケーキは生クリームとかと相性がいいけど、ずっしりタイプは蜂蜜とバターが最高よね。
「二種類出すってありかも?」
「おっ、それいいな!」
デザートはかき氷くらいだったので、増やしてもそんなに問題がない。何より、貯蔵庫のおかげで焼き立てを保管できるのだから、ストックつくり放題だもの。
「よーし! メニューに採用!」
「さいよー!」
ショコラがぴょんぴょんと飛び跳ねて一緒に喜んでくれた。
――――うん、可愛い!





