83:惚れ直す。
熱々の器を片手に、スプーンでお米やらなんやらを掬い、パクッ。
「はっふ、はふはふ……ふんーっんまっ!」
「……んまい」
魔王と二人、向かい合って雑炊をもりもりと食べる。
おかわり? 自分でつぎなさい。そのためにお鍋とお玉をそのまんま持ってきてるんだから。
魔王はほぼ無言で何度もおかわりしていた。これは好きだったとき、食べることに熱中してる証拠。子供かな?
「そうそう、私ね、前世の記憶が蘇ったパターンだから。あ、それ最後のエビじゃん! ちょうだい!」
「ん。前世……」
魔王、エビくれた。優しいな。いま本気で惚れ直したよ。
「…………エビで惚れ直し……あんまり嬉しくない」
「なんでよ!? マジでいい男だなって思ったのに!」
「っ……ん」
何故か照れられた。なんだそれ、可愛いじゃないか!
「んで、死んでないから! わりとちゃんとミネルヴァだから………………いややっぱそうでもないかも。前世の私の性格がゴリッと出てきてるから。いやでも、ミネルヴァはミネルヴァなんだよね。なにこれ?」
そういえば今まで、自分がどっちかとか、どういう状態なんだろうかとか、しっかりと考えたりしてなかった気がする。
「いや、俺にもわからんが。まぁ……ミネルヴァだろうがなんだろうが、今のお前ならそれでいい」
ちょ、真顔で普通に爆弾投下しないでぇ!
「ふっ…………お前は、こういうストレートな言葉に弱いよな」
「なななななんだとぉ、やんのかこらぁぁぁ!」
「ん? ベッドでならいいが?」
「ギャァァァ! 魔王が下ネタ言った!」
魔王がくすくすと笑いながら「お前は本当にうるさいな」とか言いやがって、なんだか負けたような気分になって悔しい。
負けてない、負けたような気分だから、負けてないと、自分に言い聞かせた。
「ふぅ。しかし、雑炊、うまい」
「でしょでしょ!」
「わりと適当に具材を入れていたが、最終的にまとまった味になっているな。何でだ?」
「え……さあ? 醤油のおかげじゃない? 醤油って万能だし」
「ルヴィは醤油が好きだな」
え、どういう意味? 醤油って普通に使うよね? 万能だよね? 何にでもちょいっと入れたらなんかキマるよね?
「みんな普通に使わないの?」
今まで実家で食べてた…………のは洋食ばっかだったからあんまり出番はなかったかも? でもコミックで見た下町飯みたいなのにはなんか醤油使ってそうなやつあったけどなぁ?
「使いはするだろうが、あまり前面というか、味のメインとしては使われていない感じだと思うぞ」
「ほへぇ?」
醤油普及委員会でも発足させそうかな?
そもそも、普通に売ってるんだし、普及はしてるか。
そんな事を話しつつ、お鍋とお皿を片付けて、お風呂に行こうとした。
何故か魔王が後ろからついてくる。
「なんだ、やんのかこらぁぁあ!」
「ん」
…………『ん』?
え、えっ? え?
ではではまたお昼ごろに。





