62:ドライアドの能力と恩恵
ドライアドの族長さんにいつ挨拶していいのか悩んでいたら、ウィルと話し終えたらしい族長さんがこちらを見てにっこりと微笑んだ。
にっこりと微笑み返していると「ふむ。可愛いらしいおなごだえ。こっちも吸っていいのかえ?」とウィルに聞いていた。
まって、何を吸われるの!?と慌てていると、ウィルも珍しく慌てていた。
「あいつは人間だ!」
「ちょっとくらい……」
「駄目だ!」
ウィルの強い拒否の言葉に、族長さんがケタケタと笑いながら「冗談だえ、重いのぉ」と呟き、森の奥へと歩き出した。
「はぁ……。行くぞ」
どうやら族長さんについて行くらしい。今から何するのかと聞くと、ドライアドさんたちにフォン・ダン・ショコラの余剰魔力を吸い取ってもらう交渉をしたのだと言われた。
そんなこと出来るのかと驚いたとともに、その吸い取った魔力はどこに行くのだろうかと気になった。
ドライアドさんが成長するとか? それともこの森に栄養が行き渡るとか? どうなるの? とウィルに聞くと、にやりと笑って楽しみにしていろと言われた。
「よし、犬っころよ、そこに寝転がれ」
森の奥には少し小さな祭壇のようなものがあり、その周囲は木のベンチで観客席のように囲まれていた。
族長さんが祭壇の上を指差すと、フォン・ダン・ショコラたちが首を傾げていた。
「え……なんでですか?」
「なんでだよ」
「はーい」
ショコラは首を傾げていたのに、なぜか素直に返事してそそくさと祭壇の上に寝転がっていた。その行動に驚いたらしい族長さんが一瞬目を見開いたあと、クスクスと笑いながらショコラの額にか細い手をそっと翳した。
「ふむ……あぁ、上質な魔力を阿呆なくらい溜め込んでおるえ。これはこれは……ふむ」
族長さんの薄緑の頬が、ほんのりと桃色に色付き始めた。虚ろな瞳と恍惚とした表情は、まるでほのかにお酒に酔っているみたいで、なんだか色々と大丈夫なのかと心配になった。
しばらくすると、族長さんの腰から広がる枝のスカートに紫と白のモジャモジャしたような花がポンポンと咲き始めた。そして直ぐに萎むと同時に緑色の玉のようなものが出来て、ぐんぐんと大きくなっていく。
「えっ……え?」
緑色の玉は拳より少し小さいサイズで成長が止まり、今度はどんどんと赤いような茶色いような色へと変化していった。そして、枝のスカートからボトリボトリと落ちていく。
「ふむ。随分と豊作だえ。ほれ、約束の取り分だ」
妙に肌艶の良くなった族長さんが、他のドライアドさんに指示して地面に落ちた果物っぽいものを拾わせていた。そして取り分だと言って、三分の一をウィルに渡していた。
なんなのかなと顔を近づけると、甘さと酸味のある南国のような匂い。どこかで嗅いだことのある。これ……なんだっけな? と考えていて、脳内にパッションフルーツとマンゴスチンが浮かび上がってきた。形と匂い的に、たぶんパッションフルーツな気がする。
「なんのくだものー?」
「人の付けた名前は知らんえ」
祭壇から起き上がったショコラが、ショコラになっていた。自分で何を言っているのか分からないほどに混乱している。
いつの間に? なんで? いや、たぶん魔力を吸ってもらったからなのよね? 青年くらいになっていたショコラが、いつの間にか少年サイズに戻っていた。嬉しいんだけど、驚きの方がちょっと勝ってしまっている。
「あれー? ちいさくなってる……ちえー」
ショコラ、なんで残念そうなのよ。私はどっちかといえば、小さいショコラの方がいいよ。





