60:ウィルの優しさは誰のため?
最後に届いたのは、酢豚。
片栗粉系の衣をつけて揚げたコロコロした豚肉と、素揚げされて甘みが増したタマネギやピーマンやニンジン。それらに優しい酸味のタレがしっかりと絡んでいて、キラキラと輝いていた。
小皿に取り分けて、火傷しないようにフーフーと息を掛ける。マナー的にアウトらしいんだけど、中華料理ってこうやってハフハフ食べるのが絶対的に美味しいと思うのよね。
ゴロッとした豚肉を食べると、サクッとした歯ごたえとともに甘酸っぱい餡の風味が口の中に広がった。そして、豚肉の脂独特の甘みがじんわりと染み込んでくる。
素揚げされた野菜たちは、ちゃんと火が通っているのに、サクッとした新鮮さも残っていてこういうのが中華料理の凄いところだよなぁと感心する。
火力、大切なのよね。
「あーっ、美味しすぎてつらい」
もっといっぱい食べたいのになぁ。
前にウィルが言っていた意味がやっとわかった気がする。美味しいんだけど、これ以上食べたら、美味しさが損なわれるくらいにはお腹いっぱい。もう食べられない。でも食べたいのよね。無理なんだけど。
「酢豚うまいな。この黄色い肉厚なのは……野菜か? これは何だ?」
ウィルがスプーンに乗せてまじまじと見ていたのは筍だった。食べたことないのかな? 筍だと言ってもきょとんとされてしまった。ドワーフの女将さんいわく、この地域以外ではほとんど食べられていないのだとか。
「へぇー。ん? ってことは、ここの特産品ってことよね? 魔王なら覚えときなよ」
「まお? あっ、魔王陛下っ!」
「…………はぁ」
女将さんの反応に違和感を覚えて首を傾げていたら、ウィルがどでかいため息を吐き出して項垂れた。なにそのあからさまな落胆は……と思ったら、軽めの認識阻害を掛けていたらしい。
別に魔王だとバレてもいいけれど、気を遣わせるのも悪いのと、私たちが食べづらくならないようにという優しさで。
「ウィルって、魔王のくせに本当に気遣いしいだし、優しいわよね」
「…………お前にだけな」
ちょっといじけたように横を向くウィルに胸が締め付けられた。なによ、本当に可愛いじゃないの。
もうすぐ四年になるけど、いまだに発見があるのって楽しいし、嬉しいわね。
「ごしゅじん、デザートたべていいか?」
「いいわよー。何にする?」
いじけたままのウィルを見てクスリと笑いつつ、ダンが差し出してきたメニューを受け取る。
あら、ごま団子があるじゃないの。ごま団子は絶対ねっ! ごま団子も油断すると口の中を火傷するから要注意よ、とフォン・ダン・ショコラに言い聞かせた。
昨日完結しました。
サクッと読める異世界恋愛です。
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