48:生ですからっ!
ウィルに出してもらった蟹は、殻ごとぶつ切りにしてお鍋でボイル。
そのあと、キッチンメイドさん達がほぐし身にしてくれた。ありがたや。
生春巻きの巻き作業は、料理長やキッチンメイドさんたちも手伝ってくれるとのことで、心の底から感謝した。いやね、ウィルが全力で食べるとなると、何十個巻かなきゃなのって戦々恐々としていたのよね。
とりあえず、私の巻き方を見たいと言われたので、フライパンに浅くぬるま湯を張り、そこへ買ってきてもらっていたライスペーパーを一枚ゆっくりと差し込む。ここでライスペーパーの端を手放さないのが重要。
両手でライスペーパーの端を持ち、CDをゆっくりと回転させるような気持ちで、フライパンの中でライスペーパーを回す。
手をお湯に入れる猛者もいるだろうけど、私はちょっと斜めにしてお湯には触れない派だ。
一〇〜一五秒くらいでお湯からあげてまな板の上に出す。このときライスペーパーにまだちょっと張りがある方がいい。何とも伝えづらい感覚だけど、アルデンテというかなんというか……そんな感じ。
そしてここからが生春巻きの本番。ライスペーパーの手前の方に具材を並べて巻く工程だ。
まずは、ボイルした海老を二尾並べて、その上にシソと細切りにしたニンジン、そして揉み潰しておいたレタスを俵型になるように形成してから乗せる。
ここまでの手順をおおよそ一〇秒程度でやる必要がある。なぜなら、まな板の上でライスペーパーがふやけて、巻くときにデロンデロンに破れてしまうからだ。
なぜそうなるかというと、表面に付いたお湯が徐々に染み込んで行くから。
あとは手前の生地を具材に被せるようにして固定し、更に左右を被せるように折りたたむ。そうしたら、揚げる春巻きと同じようにクルクルと転がしつつ巻くだけ。本体がかなりベタ付くので、生地の端は勝手にくっついてくれる。
「こんな感じですけど、どうです?」
料理長たちに聞くと、おおむね一緒だと言われた。それなら、具材は好き好きでいいので、とりあえず巻きまくろうということになった。
ウィルはこれで完成なのかと驚いていたけど、本当に食べたことなかったんだ?
お義父さんのお屋敷の人たちは食べたことあるような感じの反応だけど。
「ん、ない」
「おぉぉ。ウィル、生は初体験かぁ!」
「…………言い方」
「へ? なに?」
ウィルが眉間に皺を寄せて、何やら苦情を訴えてきたけど、意味が分からずに聞き返すと、更に眉間に皺を寄せられてしまった。
「……無自覚か」
いったい何の話なのよ。





