焔翼の戦姫編 できちゃった
末にプチ解説あります。
森はまだ燃えている。
そして今日もすることがない。
いや、技名を考えたりなどやれることはある。
しかし、一行の目的はこのダンジョンを抜け、大草原地帯へ行くことだ。
この地底都市を抜け数日も行けば外に出られる。
それは天蓋山脈を超え、大地溝帯をも越えるルートだという。
別離の森と呼ばれる森林地帯があるが、その多くをショートカット出来るのだ。
火災で足止めされてはいるが、外を行くのと比べれば、一月くらいの遅延はどうということはない。
しかし、その前に食料が底をついてしまう。
それは、各自で管理している食料が減っていくにつれ、皆の心に確実に影を落としていった。
そんな中、赤毛の少女といえば、朝起きて光の矢の手加減の練習をし、剣の訓練をし、魔法の練習を兼ねて消化活動をし、そして寝る。
これの繰り返しだった。
最初は何事も丁寧に集中して行なっていたものが、気がつけば粗く雑になってきていた。
そんなどうしようもない焦燥感を抱いていたのは、赤毛の少女だけではなかった。
皆が、苛立ちを隠せなくなってきていた。
百食分の食糧を保存できるマジックアイテム『オカモチ』を持つハフネでさえ、周りの空気に引きずられ苛立ち始めている。
そんな中、ショーが天井の大穴を見上げながら、ポツリと呟いた。
「あの大穴から出られれば早いのにな」
皆がその言葉に釣られて天井の大穴を見る。
そこは燃える森林の煙が排出され、まるで煙突のような状態だ。
「……何を馬鹿な事を」
「そもそも、あの淵にさえ届かないのに、どうやって登っていくんだい」
皆同じ事を考えていた。
赤毛の少女でさえ、同様に。
ところがである。
「あの龍のやつであそこまで届くんじゃないか?」
ショーが言った『あの龍のやつ』とは以前、赤毛の少女が織り上げた魔法のことであった。
皆が無言のまま少女へ視線を送る。
「いやいや……ええ……やってみる?」
「メルは『やったら出来た』ってのがあるからね。試してみて損はないよ!」
ハフネがノリノリでそう言った。
彼女もやはりこの状況を、打開したいと考えているのだ。
「ハフ姐がそう言うなら」
少女は苦笑いを浮かべて立ち上がり、軽く準備運動をしてから湖へ入っていく。
『畏み畏み申す
高天原の大海原の海神の
水脈を束ねる理の
神威なる御姿を
かこしめし給へと請い奉る』
前回同様に湖面が激しく波打ち始める。
『千里万里の龍
集い集いて天翔けよ
天地を結ぶ架け橋と成れ』
すると少女を持ち上げるように竜巻が形成され、龍へと変じた。
「……ははは、いけそう」
「ほらなぁ!」
ショーがドヤ顔である。
「じゃぁ早速行こうぜ!」
ショージーがそういって少女へ近づいていくが……。
「待って待って!まず、本当に行けるか試すのと、何人まで運べるかを確認しないと!」
少女の言うことはもっともだった。
先日、ペースを考えず魔力切れを起こして気を失った経験から、慎重になっていた。
「あそこから落ちたら流石にタダでは済まないでしょう?」
少女はそう言って大穴を視線で示した。
いくつかの実験の後分かったことは、一度に運べるのはひとりだけ。
つまり少女は六往復が必要ということだ。
しかも、龍の頭に立って乗れるのは赤毛の少女のみであり、運ぶには少女に抱きつくか抱き付かれるか、であった。
さらに六往復には魔力が持たないことも分かった。
結果3日に分けて運ぶことに。
外にも中にも先ずは自衛できるメンバーを。
最悪何かがあって落下した時に備えて、回復役は下で待機。つまり後回し。
結果、初日の一番、ショージー。
二番、ショー。
二日目の一番、サルマール。
二番、ハフネ。
三日目の一番、セイロ。
二番、キオリス。
「……三日目」
赤毛の少女はあからさまに嫌な顔をした。
少女の胸中にかつての事が思い出された。
赤毛の少女から見たセイロは、口汚く意地悪だ。
キオリスに対してはチーム内の二大痴漢野郎だ。
悪気があろうがなかろうが、彼の行動が無かったことにはならない。
とは言え……ダンジョンを行く中で多少の信頼は芽生えた。
二人きりにならなければ、肌を接触させなければ……という条件付きだったが。
しかし、この順番も頭では理解できた。
感情は別としても。
《お兄さん、三日目はダメだったとか言って、コイツらを中に置いて行けないかな?》
《無茶言うね》
《だって、痴漢野郎と陰険野郎だよ?》
《まぁまぁ、今はまだ仲間だから》
《……なるほど、チームを抜けてからってことね?理解した》
《違うけど……とりあえず、今納得してくれてるならいっか》
初めて外へ出た時は、少女もショージーも感動したものだった。
空を飛ぶということ自体が初めてであり、それによってダンジョンからの脱出。
初めての経験、開放感、絶景。
彼らの人生において間違いなく最高の瞬間だった。
輸送は問題なく順調に進み二日目のハフネの番の時だった。
「メル、アンタがあの二人と色々あるのは知ってるけど……セイロは、なんて言うか……悪いやつじゃないよ。キオだって……ちゃんと対策とってればそんなに影響ないって言ってるし……こればっかりは、頑張ってとしか言えないから……」
ハフネは運ばれた後、穴の中へ戻る少女にそう声をかけたのだった。
大穴を降下しながら少女は考える。
《悪いやつじゃないって言っても、あの態度ではなぁ》
《そうだね、やっぱり置いていこう?》
大穴からは絶えず煙が上がってきている。
闇の底で火事の火だけが浮かび上がって見えるのは、まるで地獄へ向かって降りていくような感じでもあった。
そんな中で、二心同体の少女はその相棒たるお兄さんをそそのかす。
《ねぇお兄さん、前にも言ったけど、陰険野郎のあれは草原だったら八つ裂きだよ?今ここでやっちゃってもいいんじゃないかな》
《いやいや、ダメだよせめて鞭打ちくらいで》
《痴漢野郎は生かしてたらきっと被害が増えるよ?》
《それはそうだけど……そうだけどさぁ》
《……お兄さん、アイツのこと少し羨ましく思ってない?》
《……そんなことないよ?》
《その間は何?》
《なんでもないよ》
《ハフネと話すとき、だいたい胸見てるよね。ねえ、前にも言ったよね?自前のものがあるんだから、ほかを見ちゃダメだって!》
《だって……》
《だってじゃない!》
《だって!自分のは一方向からしか見れないし!顔を埋めることもできないんだぞ!》
《な!?な、その代わり触り放題でしょうが!》
《そう言う問題じゃないんだよ!》
そうこうしている間に、底へついたのだった。
その日の夜は焚き火を挟んで距離をとり「近付いたら撃ち抜くから」と言って少女は眠りについた。
魔力回復を優先させるための措置ではあるが、少女の不安は拭えないままだった。
教科書や魔導書に乗っている魔法は、開発者や発見者以外でも使えるようにしたものです。
少女の使った魔法については、少女オリジナルであり「不思議な現象を起こすなにか」という意味で言えば魔法です。
しかし以前ハフネが言ったように、何かが違うのが彼女の使っている「魔法」なのです。




