焔翼の戦姫編 Breath × Bliss × Blow
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「お゙え゙え゙ぇ!」
煌めくような赤毛。
黒瑪瑙の瞳は強い意志を宿し、柔らかな曲線は女性の魅力を十二分に備えている。
控えめに言っても美少女である。
そして、素っ裸である。
しかし、それを恥ずかしがっている暇はなかった。
そんな彼女は今、絶賛嘔吐中であった。
胃まで届いたチューブを引っこ抜き、涙を流し、鼻水を垂らして、涎と一緒に嘔吐している。
「お゙え゙え゙ぇ!」
「メル!」
その鋭い声は少女に『ただ事ではない』と理解させるには十分だった。
紫色の煙が吹き出る吐瀉物が、セイロにかかる。
彼女は吐瀉物そのものに驚きもしたが、ひとまず短く謝罪を口にし、状況の把握に努めた。
――だが、その瞬間、魂消た。
薬のせいではない。
GRに囲まれていたからだ。
現世でも嫌われ者だったアレ。
しかも、細かなところまでよく見えるほどの大きさである。
「ぎゃああああ!!」
《ぎゃああああ!!》
《うわぁ!?何!?どうしたの!?》
「メル!……静かに!……静かに……」
なんとか正気を保った赤毛の少女は、GRを見ないようにしながら「殺虫剤!殺虫剤はどこ!」
「落ち着け!例のアレ、ヴューン!ってやつ、あれでどうだ?」
ショージーが振り向かず、GRの群れから目を離さないままそう言った。
「……やってみようか!合図したらしゃがんで!」
仲間たちに緊張が走る。
少女の周りに光の珠がポツポツと現れる。
少女は両手を振るう。
それはまるでオーケストラの指揮者の様に。
その腕の軌跡を追うように、珠が連なって浮遊する。
その様はまるで舞の如く、艶めかしくも美しい。
両手を大きく広げる。
――鳳が翼をはためかせるかの如く。
一瞬の間を置き、一気に両腕を前に!
「今!」
仲間は一斉に頭を低くする。
GRの群れは、目の前の邪魔な『火』がなくなったのを見て、突撃してくる。
「ひぃ!近寄るなぁ!」
六つの珠から、それぞれ六本ずつの光の矢が超速で連射されていく。
空気が焼ける匂いがし、振動しているのを肌で感じる。
撃ち出された光の矢は、まるで横凪の雨の様にGRへと襲いかかる。
GRの焼ける匂いが、再び吐き気を誘う。
「ギィィ!」「ギィィ!」
ヤツラの悲鳴だろうか、錆びた金属を擦り合わせた様な音を響かせて燃え上がり、倒れていく。
倒れたGRを超えて新たなGRが押し寄せる。
それはまるで黒い津波の様だった。
光の矢はGRの甲殻を貫き、後ろの更に後ろの……何体ものGRを穿ち燃え上らせていく。
その嵐の様な連射を屈んで避け、チームメンバーは赤毛の少女の背後までなんとか下がって来た。
素っ裸の少女を見かねて、キオリスがマントを少女へはおらせた。
それに言葉はなく、無言のまま、彼女に触れないように気を付けながら。
「す……すげぇ……光魔法ってこんなことができんのか」
ショーが驚きと感心とが混ざった言葉を口にしたが、キオリスがすぐさまそれを否定する。
「これは光魔法じゃないよ。光魔法に、こんな……殺意の高いものがあってたまるものか」
「じゃぁなんだよ?」
「後で本人に聞いてみるしかないな」
少女の多連装光の矢(仮)は、ダンジョン素材をも溶かす超高熱である。
それをGRは何本も、何十本もその体に受けたのだ。
発火し新たな篝火となった個体もいれば、中には体内が蒸発し死に至るものもいた。
そして……ついにGRが出て来た森から火の手が上がる。
当然だった。
森に向かってそんなものを撃ち込みまくったのだ、火事になって当然だった。
そして、森の中から悲鳴の様な、異常ほどの数の「ギィィ!」「ギィィ!」の声。
森の中にどれほどのGRがいたのか……想像するだけで恐ろしかった。
ひとりでこの戦線を支える少女の後ろ、サルマールとショージーが大声で仲間の名を呼んでいた。
「セイロ!セイロ!」
「ハフネ!大丈夫か!ひとりで立てるか!」
意識を取り戻したハフネは立とうとするも、まだ朦朧としているのか、視点が定まらずふらついて倒れてしまう。
ショージーが肩に彼女を担ぐ。
紫の煙を吐き出しているセイロをキオリスが担ぐ。
その間、ハフネとセイロへの呼びかけは続く。
炎に追われるように、燃えたGRが森の奥から飛び出してくる。
それを嵐の如く光矢をばら撒き迎え撃つ少女。
ヴューーン!!
流石に疲れて来ていた。
「くそ!キリがないよ!」
そう叫んだ少女の足が水に濡れる。
いつのまにか彼女たちは、川の中まで下がって来ていた。
元の焚き火の場所がずいぶん遠く感じる。
「このままだとジリ貧だよ!何か考えてよ!」
「……メルニア!すまん!頑張ってくれ!」
「くそがぁああ!!」
つい地が出てしまう赤毛の少女だった。
赤毛の少女は、光矢の放つ熱で揺らぐ視界の向こう側、黒い濁流のごとき群れを睨みつける。
六連装六門、計三十六条の超高出力な青白い光矢が放たれると、通過する大気はプラズマ化し、衝撃波が川面を叩きつけた。
そして、新たな篝火と死体の山を量産していく。
群れの後続は、自身へ延焼することもお構いなしにそれらを乗り越え、迫りくる。
光珠の直下には水蒸気が渦を巻き、光矢は容赦なく、無数の死を振りまいた。
年端もいかぬ少女がたった一人で、数千に及ぶ数の暴力すら圧倒し、敵の進行を圧し留めていた。
《お兄さん!デッカいのが来るよ!》
《うお……か 怪獣だぁあ!》
《え!?なんでテンション上がったの!?》
《ホラーと特撮の違いだよ!》
《分かんない!お兄さんが言ってることが分かんないよ!》
地響きが近づき、まるで森全体が動いているかのような錯覚すら覚えた。
「おい!お前ら!取り敢えず時間を稼いでくれ!」
赤毛の少女が振り向かないままそう叫んだ。
「そんなこと言ったって……ってなんだ……あれ」
サルマールが松明を用意しながら、呆れとも絶望ともつかない声を上げた。
「こいつは……私の武勇伝はとんでもないものになるな!」
キオリスが武勇伝を考えているのは、生きて帰れるという信頼があるからか、それとも単なる軽口か。
「きっっしょ!」
ショーが素直な感想を吐き捨てた。
――それは燃え盛る木立を踏み倒し、足元のGRすら踏み潰しながらやってきた。
超・超・超巨大なゴ◯◯リだった!
『ギャオオオオオン!』
森が踏み開かれていく。
赤毛の少女――お兄さんの気分はもう『地球防衛軍』だった。
《分かんない!お兄さんの事が分かんないよ!》
《怪獣退治は男の浪漫だ!》
《日本って怖すぎるよ!》
胸の内でメルニアの叫びがこだましたのだった。
R15ラインを反復横跳び




