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群青と焔(あおとあか)  作者: 旭ゆうひ


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焔翼の戦姫編 眠り姫はいかにして…

『黎明龍霊の吐息』のルビについて。

作中で『黎明龍霊の吐息』を「レイメイリュカ・ブレス」と「光の矢」と二つの表記があります。

ひとつは私達読者サイド。ひとつは異世界サイドでの現時点での呼び方です。


これは、赤毛の少女が『光の玉から発射されえる光の筋』について、名前を付けていないからです。

彼女的に候補はありますが、例えば「フォトンレーザー」とか「荷電粒子砲」などSF寄りになってしまうため、考えるのをやめた結果です。

ですが、これでひとつの話ができるので、その時まで取っておくつもりです。


今しばしお待ちを。

 川辺で焚き火を囲う一行。

 赤毛の少女とハフネは、肌を寄せ合い一緒の毛布にくるまっている。


 男連中は各々の毛布を使ったり、使わなかったりだ。


 焚き火には鍋が掛けられており、お湯が沸かされている。この後でとろみのあるスープにする予定だ。


 焚火の暖かな炎にかざすように、棒にひっかけた彼らの濡れた服が干されている。


 そんななか、見慣れない黒いものが二つ、ゆらゆらと風に煽られていた。

 赤毛の少女の下着である。

 同じくその横では、ハフネの物も干されている。



 赤毛の少女と、ハフネはセイロが作った痛み止めを飲み、今は静かに寝息を立てている。


「その黒いのって、メルニアの下着だよな?」

 セイロがよそよそしく、誰ともなしにそう聞いた。


「ん?ああ、そうだな。珍しいよな。黒の下着なんて」

 ショーが手にとって、まじまじと見た。

 布の向こう側に、自身の手が見えた。

「わ!?なんだこれ!?透けてるぞ!」

 そう驚きながら布を顔前へ持っていき、四方八方を眺めてはその透け具合に感心している。

「おい!ちょっと俺にも見せてくれ!」

 セイロが奪う様に手に取り、興奮しながら透かして見た。


 それはショージーも、サルマールでさえも好奇心から手に取ってみていた。

 ただ、キオリスだけが「確かに刺繍は見事なものだが、だから何だというのだ」と冷めていた。

 半淫魔である彼は、その経験豊富さから『下着は脱がすもの』以外の何物でもなく、興味を示さなかったのだ。


 この場の空気は、最初はただ『珍しい物に対しての好奇心』と『精緻な作りに対する感心』とが大部分であった。

 しかし彼らはその布を透かして見るために、鼻先が触れるほどに近付けているうちに、最初の空気は薄れ、別の空気が蔓延していく。



 彼らの言葉は次第に少なく、そして一言一言に熱を帯びていく。

 彼等に宿る熱は、焚火の熱かそれとも……。


 キオリスにとっては慣れ親しんだ空気だ。

 だからこそ、放置はできなかった。


「これ、メルニアが履いてたんだよな」

 誰のセリフかはどうでも良かった。

 この場にいる皆の視線が、無防備に寝息を立てる二人へ注がれる。


「ということは……今は……」

 ゴクリ

 そんな音が聞こえた気がした。


「あの痛み止め……しばらく寝たまま……だよな」

「ああ、俺特製の薬だからな」


 しばしの沈黙のあとセイロが立ち上がる。

 その熱を宿した目には、赤毛の少女しか映っていなかった。

 つられる様にショーも立ち上がった。


「そういえば……」

 誰かが口を開いた。


「そういえば、ドラゴンスレイヤーなんだな、私たちって」

 キオリスだった。

 彼はじっと焚き火を眺めながら、よく通る声で続けていった。


「ま、全部、メルニア――そこで寝てるお嬢さんの、剣の冴えがあればこそだけどね」


 そういって、焚き火から少女へと視線を移す。


「おかげで、故郷に錦を飾れる。返しきれない恩を受けた――私はそう思ってる」


 視線を少女からセイロへ向ける。

 その目がなにを語っているのか理解したセイロは、そのまま一言いってこの場を後にした。


「……小便してくるわ」

「あ、俺も!」

 ショーもついて行く。


 川面で冷やされた風が、彼らの頬をそっと撫でていく。

 熱のこもった肌に、気持ちよかった。


 大きく息を吐くキオリスだったが、それを見たショージーとサルマールは、ほっと一息ついて礼を述べた。

「あー……その、ありがとう。正直助かったよ」

「そうだな……そうなんだな。本来なら、俺たち大人が止めるべき場面だった。すまん。ありがとう」

 ショージーとサルマールはバツが悪そうに、そう言って深く頭を下げた。


 キオリスは苦笑して、

「彼は経験がないんだろう?それも相手が好きな女ならああなりもするさ」


 性に関する半淫魔の言葉は、この場の誰よりも説得力があった。


「しかし……メルニア殿に聞かれなくて良かったよ。我々が生きているのは、彼女の優しさのおかげだからね」

 彼の胸中にあったのは、かつて幾度となく黎明龍霊の吐息レイメイリュカ・ブレスで狙われた事だった。


「ああ……確かにな。アレはその気になれば必中レベルだぞ……俺たちが無事なのは……そういうことだな」

「必中!?彼女がそう言ったのか?」

 弓を使うサルマールが驚いて聞き返したのも無理はなかった。

「いや、こっそり練習してたのを見たんだ。――こう……目を瞑って投げ上げた沢山の石を、全部撃ち落としてた」

「まじか……俺の仕事ないなったわ」

 サルマールは自嘲気味に言って笑った。


「そういえばあの黎明龍霊の吐息(光りの矢)をロックドラゴン相手に使ってないよな……まだ、余裕があったってことか、ドラゴン以上かよ……ははは」


「ロックドラゴンは『亜竜』とはいえ、(ドラゴン)は竜だからな……もしかしたら『大竜』にも手が届くかもしれないな。こいつなら」


 赤毛の少女は、姉御と慕うハフネと共に、かわいらしい寝息を立てている。

 キオリスが、ショージーが、サルマールが、謎の一体感を覚えたのだった。


 ※※※※



 数時間が過ぎ、まるで夜の様にあたりが暗くなった。

 食事をとり終えた彼らは焚火の温もりに、心身ともに解されていた。


 夜空――仮に頭上のそれが『空』であるならば――には星が瞬き、見たことのない星座を形作っていた。



「あれ……柄杓みたいに見えるな」

「どれだよ?」

「ほら、あれだよ、あれ」

「なるほど……じゃぁあっちは……」


 やがて話題はつき、ふと眠気と静寂が訪れた。


「……静かだな」


 辺りを見渡せば、ダンジョンとは思えないほどに、ここは『川辺』だった。

 川が流れ、岸辺があり、植物が茂り、森へと繋がっている。


 まるで本当に外にいるかの様である。

 しかし、本来なら聞こえてくるであろう、虫の音は無く、滝の音は遠い。

 焚き火の音だけが彼らの耳に届いていた。


 モンスターの気配すら感じない。


 そして交代で見張を立て、睡眠をとっていく。


 キオリスとセイロが見張りになった時のことだった。

 セイロが口を開いた。


「昼間は……その、ありがとう」

「……なんだい、藪から棒だよ?」


「その、どうかしてた。感謝してる。……それだけだ」

「……町へ戻ったら、良いところへ連れていってあげよう」

「それって……」

 セイロの期待がこもった言葉が言い終わる前に――「しっ!」キオリスの顔が厳しいものに変わった。


 ざざざ ざざざ


「……風の音ではないようだ。セイロみんなを起こせ」

 その音はまるで、なにかの足音のように、彼らの耳に届いた。


 セイロは真っ先に赤毛の少女を蹴飛ばし、次にショージーを殴りつけた。

 優しくないのではない。

 もし、音の主が敵対者であった時、起きていないことは命に関わる。

 故に、これこそが優しさであり合理的な判断だった。


 それでも、赤毛の少女とハフネは目を覚まさなかったが。


 それほどに、セイロの調合した痛み止めは、睡眠効果が強かった。


 彼らが、女性二人を守るように広がり、剣を構えた時――


 それは……光の中に現れた。


 

面白かったら・・・面白くなくても、星を推すんだ・・・推すんだぁ(泣く

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