焔翼の戦姫編 地底の空
ドラゴン戦の翌々日。
一行はついに『六鍵』しか知らないという秘密のルートへと差し掛かる。
暗く長い――時には荷物を下ろし這いつくばって、時には完全に水没した水路を溺れそうになりながら――通路を進む。
戦闘後の様な爽快感も、心地よい疲労感もなく、重たい荷物と重たい体を引きずる様に進む。
すると、前方に明かりが見えてきた。
それと同時に、水の流れる音が響き、風が流れるのを感じる。
通路の天井から垂れる植物の根をかき分けてさらに進むと、通路は川によって分断されていた。
その通路は壁が大きく崩れており、その穴から滝となって落ちていた。
光と風は此処から入り込んでいた。
「うわぁ……すっごぃ」
目の前に広がったのは、地底とは思えない青空だった。
しかし、遠くの空に違和感を覚える。
そこにはひびが入っており、そのひびからも滝が落ち、虹がかかっていた。
渡り鳥だろうか、連なって飛ぶ鳥の群れが見えた。
視線を下にやれば森に浸食された街。
石造りの塔は森の一部となっており木々が、崩れる石の塔を支えているようにも見えた。
暗く圧迫感のある場所から、違和感はあるとはいえ、青空の下へ出たのだ。
風が、頬を、髪を弄んで流れていく。
地底とはとても思えない光景は、控えめに言っても『絶景』だった。
「地下遺跡って聞いてたけど……町が丸っと飲み込まれて……じゃないな、あの空を見ると、最初から地中に作られた?」
赤毛の少女は、推論を口にした。
それを聞いたハフネが驚きの声を上げた。
「メル、あんたここの事を知ってるのかい?」
「? 知らないけど?」
「そう……でも、そうか、知らないからこそ、或いは的確なのかもしれないね」
「ハフ姐?」
「ああ、すまないね。あたしはこういう遺跡を研究するのが好きでね」
恥ずかしそうにそういうハフネは、随分と可愛らしい表情だった。
「ハフ姐って可愛いよね」
ついポロッと本音を漏らす。
「……はっはっは!何をいうかと思えば!嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」
照れ隠しだろうか、赤毛の少女の背中をバシン、バシンと叩く。
「いいかい やろうども!女を落としたきゃ、メルを参考にしな!」
そんなやり取りをしながら『六鍵』は荷物を下ろし身軽になっていく。
新参のハフネをはじめ、キオリスは勿論、赤毛の少女も何をしてるのかわからなかった。
「ちょっとあんたたち、何やってんだい?まさかここをキャンプ地とするのかい?」
「まさか!まぁともかくおんなじ様にしな。なんせ流れが早いからな」
そうして三人は言われた通りにしていく。
《なるほど。確かに流れが早そうだね。服を着たままだと流されちゃうかも》
《そうだね。それで壺へなんてなったら……笑えない》
渋々服を脱ぎ――女性陣は文句を言いながらも、互いに広げたマントに隠れながら――その服は下ろした荷物に仕舞い込む。
女性陣はマントを纏ってショージーの指示に従って作業を進める。
荷物にロープの端をくくりつけ、もう一方を手に持つ。
「じゃぁ俺が先に行くよ」そう言って荷物を抱えたサルマールが滝へ向かって走り出し、跳んだ。
「ちょ!?おい!」
「なんてこった!?」
「まじか!?」
滝の高さは正確には分からないが、しばらくしてサルマールが元気に泳いでいるのが見えた。
「滝へ流されない様に渡るんじゃなくて、滝に飛び込むのかよ!」
「コツは荷物で着水の衝撃を和らげる事だな」
そう言ってる間にショーが飛び出していく。
「下で待ってるぜぃ!」
少女の空いた口は塞がらない。
「しょうがないねぇ……メル大丈夫かい?」
恐る恐る下を覗き込んでいる赤毛の少女を見かねて、ハフネが声をかけた。
「……こんな高いとこから……飛び込んだ事ない」
「ぷっ ふふっ あははは!」
「なっ なんで笑うんですか!」
「だって!ドラゴン相手に飛び出して行くくせに、この高さで怖がるのがおかしくて!」
「だって!あれは自力でなんとかなりますが、これはそうでもない……だから」
「よしよし。ならあたしが一緒に飛び込んであげようかね。そしたら怖くないだろう?」
「……」
「あたしはこう見えて、昔は水軍に居たんだ。この程度の高さなら、お手のものさ」
「いいか!こうやって跳ぶんだよ!」
セイロが飛び込んだ。
しかし、緊張している少女は、そのセイロの声に気が付かなかった。
「さ、次は誰がいく? 因みに俺は最後だから、おまえらの誰かだぞ」
ショージーがそう言って、現代のトランクスに似たパンツ一丁で、仁王立ちである。
しかも、柄も何もない素朴なものだ。
そしてハフネはシュミーズと、同じくトランクスの様なパンツである。
そう、皆んな下着姿であった。
そんな中、赤毛の少女の下着だけが、現代日本で流通する、セクシー系の下着だった。
マントに隠れて見えないのがせめてもの救いだが、なぜこんなものを身につけているのかといえば……そう、天女による脳内スキャンである。
お兄さんの記憶にあるそれらをスキャンし、転生にあたって物質化した物を持たせてくれたのだ。
そしてお兄さんは、男である。
つまり普段、女性がどんな物を身につけているのかということを知らないのだ。
現実は、なんなら上下がセットになっていない事だってある。
しかし、彼はそれを知らないのだ。
彼が知っている物――それは、とある映像作品に出てくる様な、そんな下着たちだった。
そして、赤毛の少女のマジックバッグには、それ系の下着しか入ってないのだ。
そう今身につけているものは、その中でも比較的おとなしい、黒いレースが多用された、割とスケスケの、扇情的な下着だった。
《気分が上がるから身に着けてたけど……まさか、ここで……服を脱ぐことになろうとは》
《まさかだよねぇ。水に飛び込むなら、服は脱いだ方がいいのは確かにそうだけど……まさかだよねぇ。あ、ちなみに私泳げないから》
《ああ、うん。俺は多少自信あるから》
《じゃぁ、脱がなくてもよかったのでは?》
《服着てこの流れを泳げるほど上手くはないよ》
《なら、しょうがないよねぇ……ところで、こういう下着が好みなの?》
《……まぁ、その……はい》
《変態だねぇ》
《ちがうよ!?世の男たちはみんなこうのが好きなんだって!》
《ふーん》
《信じてないでしょう!?》
《お兄さんは、変態だからなぁ》
《……嫌いか?》
《ううん 好き》
「メル?どうしたんだい?そんなに怖いのかい?」
少女は内面の会話に気を取られて惚けてしまっていたようだ。
それを見たハフネが心配そうに少女をのぞき込む。
「いえ、大丈夫……ではないけど、大丈夫」
「ふふ、おかしな子だね。おいで」
そういってハフネは赤毛の少女を抱きしめた。
鎧の上からではない。
マントの下は下着なのだ。
当然、それは柔らかく、お兄さんの心の鼻の下は伸びるばかりである。
となれば、内面は修羅場であった。
《おにいさん!何デレデレしてんのさ!》
《いや、これでするなっていう方が無理だよ!》
《いいや、だって自前のがあるでしょう!》
《ちょっと静かにして!集中してるんだから!》
《もう!あー!あー!》
そんなやり取りを内面でしている間に、キオリスが飛び込んでいた。
「さぁ次はあたしらの番だよ。一緒に行こうね」
「え?あっはい」
「3、2、1、それ!」
「ひゃぁああぁぁぁ………」
思い切って飛び込んだ、赤毛の少女の悲鳴のようなその声は、滝の音に飲み込まれ、かき消されていくのだった。
ちらっと見えたその下着姿――思わず目が留まる。
「……キオじゃなくても、あんなの見たら……抑えきれねぇだろうが」
瞼の裏に焼きついたその姿に、ショージーの声は低く、しかし内心の動揺を隠せなかった。
こうして少女は、知らず知らずのうちに周囲の理性を揺さぶっていくのだった。
・・・えっち///




