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群青と焔(あおとあか)  作者: 旭ゆうひ


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第四章 今生 同僚編 沈黙の月光

登場人物紹介


いつも出てる人たち。


リア:二人の主人公のうちの一人。同僚。


ルー:リアの近衛で筆頭侍女。お姉さんみたいな人。


カタリナ:リアのお母さんの親友。若い。

「城門および外へ通じるすべての通路を閉鎖しろ!何人も通すな!」


 近衛のひとりが叫んだ。


「ルー!ルー!しっかりしろ!ルミナ!」


(私のせいだ……3秒で届かなかった……殿下の手を……!)


 ぱん!

 頬に衝撃を受ける。

 同僚の近衛が、ルーの頬を張ったのだった。


「しっかりしろ!城門閉鎖は指示を出した!この後はどうする!考えろルミナ!」


「……まだ城内におられるはずです!隅々まで探してください!――どんな貴族の部屋でも構いません!責任は私がとります!――私は、陛下にご報告を」

 一瞬、呆然自失となったルーであったが、すぐに同僚へ感謝し、指示を出した。

 そう、彼女にはなすべきことがあるのだった。


 玉座の間


「何!?リアが消えた!?」

 国王の声は震え、普段の威厳を失っていた。

 それは、父として理解を拒み、恐怖を滲ませた声だった。



「……はっ。申し訳ございません」

 ルーは膝をつき、額を床にすりつけるようにして答えた。

(殿下を見つけ出すために、貴族の私室など手間取ることは避けねばならない)

 焦りを内に秘め、冷静に、最善を手繰り寄せようと必死の姿であった。


「それは……神隠しか?」

 王の目は虚ろに宙をさまよい、必死に理由を探そうとしている。


「いえ……」ルーは唇を噛み、顔を上げた。

 ルーの言葉は簡潔で正確だった。

「誘拐を視野に入れて捜索しております」


「な……!?」

 王は拳を握りしめ、玉座に寄りかかる。

「城内で……まさか……そのようなことが?……犯人からの要求があれば、どんなことでもしよう」


 一瞬、重苦しい沈黙が広間を覆った。

 ルーは決意を込めて、国王をまっすぐに見上げる。


「陛下……捜索にあたりまして、城内の全ての私室の捜索許可を、賜りたく」


「……うむ、よかろう」

 王は深く息を吐き、絞り出すように答えた。

「必ずや、娘を取り戻してくれ」


「――この命に代えましても!」

 その声には揺るぎない決意と、理性に裏打ちされた覚悟があった。


 心の奥では、狂おしいほどリアの無事を祈っていた。

 だが、それを抑え込み、今はただ最短を行くべきと、努めて冷静に振舞っていた。



 ルーならば、リア救出のために、何だってするだろう。

 その命を擲つ覚悟は、とうの昔にできているのだから。




 城門、通用口、下水道、外に通じる全ての道は、完全に封鎖されている。

 関係者には緘口令が発布された。

 城内、城下には「宝物の盗難」と偽って緊急の通達が出され、捜索活動が展開された。

 街の城壁は閉じられ、すべての船は臨検を受け入れることを義務付けられた。


 当日現場にいた者全てに、証言がとられた。

 当時どこにいて、周りに誰がいたのかを調査され、その証言を突合させ、矛盾点を洗い出す試みがとられた。

 しかし当時、軽いめまいを覚えたという証言は多数あったものの、混乱のため、誰が隣にいたかなどの情報は信用に値する精度には至らなかった。


 現場周辺の調査により、爆発物――爆裂魔石が発見された。

 このことから、偶発的ではなく、計画的に仕込まれたものだと考えられた。


 城内のすべての部屋が徹底的に捜索された。

 事情を知らない貴族たちからは、強い反発を受けたが、すぐに国王かカタリナ公爵が同伴するようになり抑え込むことができた。


 兵士たちは王城の隅々まで目を光らせ、どんな些細な異常も見逃さなかった。

 その結果、本件とは無関係と思われる、不審者の拘束が数件行われたのだった。


 外郭の見張り塔、武器庫、魔道具庫――床の隅々、天井裏、棚の裏まで確認し、兵舎や倉庫の隅々もひとつ残らず調べる。

 階段の踊り場、階段下の小部屋、倉庫用の小部屋、廊下沿いの控え室も順に目を通す。


 途中、下級兵士がこのあまりにも大掛かりな捜索行動について疑問を口にした。


「宝物が盗まれたって話ですけど……いったい何が盗まれたんです? それに、こんなとこ探してもしょうがなくないですか?」

 廊下に飾られた、甲冑の中を確認しながら、隣に立つ騎士へそう尋ねた。


 聞かれた騎士は顔色一つ変えず、低く厳しい声で答えた。


「いいんだ……」

 どう説明したものか、彼は逡巡の後、見逃してしまう可能性を少しでも減らすために、苦悩の結果を口にした。

「もし、途中で……子供が……そう、子供がかくれんぼしているかもしれん。必ず保護して差し上げろ。これは王命である。」


 下級兵士は息を呑む。


「!? 国王陛下の……? まさか……その子ど……」


 騎士の眼光は鋭く、兵士の疑問を遮った。


「我々が探しているのは【国の宝】だ。くれぐれも、下手なことは言うな。三族の首が飛んでも知らんぞ」


 その瞬間、下級兵士の固唾をのむ音が、いつになく大きく聞こえた。


 再び捜索は続く――最も神聖とされる、聖堂・正殿、王の寝室から最も不浄とされる、トイレ、ゴミ捨て場、下水まで。

 彼等は必死になって、すべてを網羅し捜索を――完了させた。




 指揮所として利用している広間に、月明かりが差している。

 皆が疲れていた。

 特に、あの日、リアの傍にいた近衛たちは、一睡もできなかった。

 過労のあまり倒れた兵士も出てきている。


 カタリナは一緒にこの場に居たが、戦場で睡眠がとれないことで起こるパフォーマンスの低下を知る彼女は、静かな寝息を立てていた。


「……殿下」

 ルーの指揮のもと城内の約400の部屋や施設の捜索が終わった。……終わってしまったのだ。


「全てです!全て……調べたんです!」

 ルーが苛立ちに任せて吠えた。

「姉さん……殿下は、もう外に……」

 見習いとはいえ騎士であるカイルは、姉の補佐として共に行動していた。


 カイルは、ここまで憔悴した姉を見たことがなかった。

 母が死に、家が没落したときも、気丈に振る舞っていた姉が、今は目の下に隈を作り、その目は血走っていた。

「姉さん……」

「殿下は……まだ、中にいらっしゃいます。私にはわかります」

「……」

「それに、外はバヤル団長が蒼龍騎士団と組んで捜索してくれています」

「でも、もう三日だよ。城内のどこを探しても、影も形もないじゃないか!」

「わかっています!分かっているんですよそんなことは!」

 ルーの頬は涙で濡れていた。

 それがどんな感情であったのか――この時のカイルには、まだ理解出来なかった。


 差し込む月光は冷たく、其の移ろいが時間の経過を示していた。

 時の鐘が、あれから3日経ったことを告げた。


「……休憩を回してください。30分、目だけでも休めてください」

「ルー……貴女の方が疲れてるはずよ」

 同期の近衛が、ルーの肩へ手を置いて(ねぎら)った。

「私にはわかるんです。殿下は近くにいる。間違いないんです」

「……それは、貴女の特殊能力(スキル)?」

「……いえ、勘です」

「そう、あなたも休みなさい。私がその間引き継ぐわ」

「いえ、貴女には拘束した不審者を尋問してもらおうと思ってまして」

「わかったわ。でも、貴女も休むのよ?」

 同僚はそういって、拘束場所へと向かった。


 ルーは机の上に広げた、城の見取り図へ再び目を落とす。

 その地図の上には「捜索済み」を現す赤い印がびっしりと書き込まれていた。

 それでも――見落としはないか、指でなぞって確認していく。


 近衛の一人が、舟をこぎ、椅子から落ちそうになっていた。


(みな疲れている……だけど、殿下をお救いするまで、皆耐えてください……)


 窓から吹き込む風が、蠟燭の灯を揺らす。

 映し出される影が、ルーたちを笑っているようだった。

 その幻想的な光景でさえ、今のルーには腹立たしかった。


「全てです!全て……調べたんです!――それなのに!」

 さっきと同じ言葉が、冷静でいようと努める、ルーの焦りを現していた。


(カイルにはああいいましたが、本当にバヤル団長は、ちゃんとしてくれているのでしょうか……いえ、あの方は出世に命懸けのはず、殿下救出という手柄を逃すとは思えません)


 眠気覚まし効果のある『苦豆の煎り汁』を口に運ぶが、カップが空なのに気が付いた。

「カイル」

 お代わりを要求するも、その弟は暖炉の鍋の前で舟をこいでいた。

 瞬間に怒りが込み上げてきた。


 ルーたちの家、ソレイユ家は没落した子爵家である。

 生活能力のない現子爵である父の代わりに、ルーがこうして働いているのである。

 そしてルー、カイル、セレネという兄弟を召し抱えてくれた上に、騎士にまで取り立ててくれた相手、大恩あるリアが、危機にさらされているというのに!


「カイル!」


「はい!」弟はビクッと返事を返す。


 ルーは自分を抑えることができなかった。

 弟が悪いわけではない。

 彼も寝ていないのだ。


(なにが、殿下の剣ですか、何が殿下の盾ですか……最もお傍に控えていながら、何もできなかったのは私ではないですか……)

 ルーは拳を握って、その怒りに耐えている。


「姉さん……?」

「ふぅ……お代わり……お願いできるかしら」




 捜索の報告は尽き、証言は食い違う。

 手がかりは薄く、爆裂魔石だけ。

 王城は封鎖され、城下も沈黙し、全ての船は足止めを食っている。


 疲労と、焦燥だけ募る。

 響くのは祈りばかりだ。


「感じるのです。殿下は必ずここにいるのです……」


 呪文のようにも、祈りのようにも聞こえるその言葉は、広間の扉が乱暴に開かれる音にかき消された。


「ルミナ近衛騎士はいるか!」

 そう怒鳴り込んできたのは『ドミニク・エリオット・ヴィアトーレ・コローインフィーリンネ』。

 年のころは60代。身なりのいい老人である。

 先王の弟であり、リアの大叔父。

 そして、所謂、門外貴族であった。


 ルーは彼を見るなり、眉根を寄せた。

 普段なら、そんな感情を見せず笑顔で対応していただろが、今は無理だった。


「これは、ヴィアトーレ殿下。如何なされましたか?」


 ルーは礼も取らず、身体を向けただけで対応を始める。


 その態度に対しても、怒りを募らせるヴィアトーレであったが、いまはなにより本来の目的が重要だった。

「何故、我らを城内にとどめ置くのか!」

「お部屋を改めさせて頂きました折にご説明申しあげたとおりです」

「あのような嘘を信じろと言うのか!我は騙されぬぞ!」

 机をバン!と叩く。

 置かれたカップがかちゃりと鳴った。


(く……このご老人は、いつもいつも、リア殿下の邪魔を……いっそここで……)

 日頃の鬱憤と、進まない捜索に苛立ちは限界を迎えようとしていた。


 そこへ声をかけたものがいる。

 その声は凛と響く、カタリナの声であった。

「ヴィアトーレ、久しいな」

「!……これは、ヴァリャリエル『殿下』」


 通常、『殿下』という敬称は王族へ向けて行うものだが、カタリナのヴァルアリエル公爵家は開国以来の名門中の名門で、王家に次ぐ権威を持っている。さらには古い王族の血が流れているため、先王の弟であっても、敬意を払わねばならない相手なのだ。

 しかし、本来は『公爵』、あるいは親しい中であれば『卿』でもいいが、彼はあえて『殿下』とする事で皮肉を込めたのだ。


 それに気が付きながらも、カタリナは平然と言葉を返す。

「ヴィアトーレ、今、ルーは忙しいのだ。用があるならば、後にせよ」

「『殿下』、我らはすでに三日も足止めを食っているのです。せめて本当の理由をお聞かせいただきたい」


 ヴィアトーレは先王の弟である。

 身分上では、公爵であるカタリナより高い権威を持つはずだった。

 だが、この国では開国王が定めた制度により、王族の分家は代を重ねるごとに格を下げられる。

 彼の家もまた、次代には侯爵、その次には伯爵へと落ちてゆく定めにあった。

 衰退を宿命づけられた一族と、王家に次ぐ権威を誇るカタリナの公爵家とでは、扱いに差が生じるのも当然だった。


 ヴィアトーレは、それが我慢ならなかった。

 だが同時に、彼は自身の野望のために、時と場所を弁えることができる人物でもあった。


「しつこいぞヴィアトーレ。説明はあったはずだ」

「……説明によれば、【国の宝】が盗まれたと。それに相違ありませんか?」

「そうだ」

 ヴィアトーレは、カタリナ、近衛たち、ルーの顔色を窺っている。

「我が【国の宝】といえば……ここ数日、リア殿下を見かけませんな?」

 この瞬間、ルーの顔色が一瞬変わったことを、ヴィアトーレは見逃さなかった。

「結構。我は部屋に戻って城門が開くのを待ちましょう――その時が楽しみですな」


「そうだ、ヴァリャリエル『殿下』はお疲れの御様子。よろしければ、この場をお預かりいたしましょうか?」


(こいつ、そう言いながら足を引っ張るつもりだろう)

「よい、『指揮』なら我らの方が慣れている。任せておくがいい」


 ヴィアトーレは領地を持たない。

 国からの年金で生計を立てている門外貴族だ。

 当然、領民はいないし、雇い入れている家臣団の規模も小さい。

 それを皮肉りながらの、拒絶であった。


「手に余るようでしたら、いつでもお声掛けください」


 そう言って扉へと向かう彼は、途中足を止めて、月を見ずに、含み笑いを浮かべた。

「――ああ、今宵は【月光】が明るいですなぁ」



 誰も返す言葉を持たなかった。重苦しい沈黙だけをのこしてヴィアトーレは出ていった。


 彼の発言に違和感を覚えたものはいたが、その真の意味に気が付いたものは少ない。


 カタリナと、ルーである。


 ――【月光】が明るい。

 彼は確かにそう言ったのだ。


 リアの治世を指して【夜明け】と、リアを支持する者たちは言う。

 ならば、月光とは何を指すのか?


 それはリアの弟、サイ・カリス・セレスティン・コローインフィーリンネを指す言葉だった。

 そして、ヴィアトーレは彼を推す派閥の人間だ。


 つまり、リアがいなくなれば彼らにとって、利益となることは間違いない。


「落ち着け、ルー。あやつらは本来、単なる夢想家だ。その実行力も資金もない」


 今にも剣を片手に追いかけていきそうなルーの腕をつかんで、カタリナがこれを止めた。


「……必ず、夜明けは来ます。必ず」

 ルーは血走った瞳で、閉じた扉を睨みつける。

(殿下……必ず、お救いしてみせます)


 ルーの言葉は、広間に小さく響いた。

 しかしその外で、月光はなお冷たく輝いていた。



 

登場人物も増えてきましたが、お気に入りのキャラクターは居ますか?


お気に入りのシーンなどありますか?




教えていただければ、もしかすると、登場機会が増えるかもしれません。


確率はわかりませんが、私の心に残っていれば、ありうると思います。




コメントに書いてくだされば!




そのほか感想や★もお待ちしております。


よろしくお願いします。

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