組織・施設
総司令部
薄暗く、半円形の劇場の様な場所。
正面の一番低い舞台の様な位置には、巨大モニターが設置され、画面分割により各戦区の状況が刻々と更新され、流れる様に表示されている。
ひな壇に設置された制御盤の前に管制官が座る。制御盤は、ブラインドタッチが出来る様にあえて、物理キーが採用されている。
管制官は、皆が透明のバイザーを顔前に貼り付けさせ、目まぐるしく変わる表示を読み解いた。時には自分自身で操作し、部隊へ指示を出し、画面表示を更新させていた。
そんな管制官達がこの劇場の様な広く天井の高い部屋に数十人居る。
ひな壇の最上段中央にはガラス張りの部屋が設置され、そこは最高司令官とその参謀が陣取っている。
ここが日本軍の中枢であり、全ての判断を行う総司令部であった。
この場所を正確に知る者は、若干名しかいない。それが誰かも明かされていない。
ここに来るには、管制官達に渡されている通行カード一枚だけが頼りになる。
指定されたエレベーターを数本乗り継ぐことによって、この総司令部に到着できる。だが、管制官はエレベーターの階数を指定することはできない。通行カードをエレベーターの操作盤に差し込むと幾度か上下し、突然、籠が停止し扉が開く。その階層で降り、別の扉が開いて待機しているエレベーターへ乗り換える。
そして、通行カードを差し込むとまた、ランダムにエレベーターが動き出し、乗り換えを強制される。
時折、横方向への重力を感じる為、エレベーターは垂直方向の移動だけでは無い。
それを幾度か繰り返すと総司令部の区画がある耐爆気密扉の前に到着する。この間、エレベーターに階層表示は一切無く、どこの階に止っているのか判断することは不可能だった。
出勤するには面倒ではあるが、日本軍の中枢である総司令部とメインサーバーを護るための処置だった。これは高官達も同じであった。毎日、エレベーターの軌道は、乱数にて決定され、過去に使用された軌道は、使われる事はないとされている。電波発信による追尾を防ぐため、籠は電波暗室にもなっており、通信機器を使用する事もできない。異常が発生した時は、エレベーター据付の通信機を使用することになっている。
総司令部内への私物は一切持ち込み禁止であり、もしも所持していた場合、エレベーターは総司令部に辿り着かず、憲兵隊が待機する検査場へと到着する。その場で身体検査を強制的にされ、発見された私物は例外なく即座に調査され、破壊処分される徹底ぶりだった。
調査の結果、問題が無いと憲兵に判断された場合、再度エレベーターに乗り、ようやく出勤することが可能となる。もしも、ここで嫌疑がかけられた場合は逮捕され、憲兵隊本部へと送られ、調査され、軍事裁判を受けることになる。
その事から、エレベーターの籠には走査装置が組み込まれているのだろうという噂が管制官の間では噂になっていたが、真実であるかどうかは公表されていない。
問い合わせにも反応しない。疑心暗鬼が抑止力になるからだ。
ゆえに私物を持ち込む愚か者が居なかった。
憲兵隊の調査は苛烈を極めると聞いている。治外法権が認められ、如何なる法が適用されないとの噂があった。それを自分自身で確かめる様な馬鹿は居ない。
もっとも、その様な馬鹿な事を考える人物は、総司令部の管制官には選ばれない。
日本軍立病院付属研究所
地上に充満する放射線、毒ガス、病原菌、ウイルスに対して抵抗を持つ人類を造り出し、敵を殲滅する。
そして、地表環境を適正にし、地上に人類が戻る事を最終目標とする。
生産は、行政府が行ない、新種・改良は軍立病院が行なっている。
行政府が生産を統括することにより、少ない資材を効率的に使用し、促成種、熟成種等の割り当てを行う。
新種・改良は日々治療に携わる医師、看護師の意見が重要視される。その意見を集約し、軍からの要望と摺り合わせ、軍立病院が開発にあたる。
人造人間を制御するための昏睡剤を作製も担当。
昏睡剤…液体またはガスを注射、呼吸、飲食等により摂取すると昏睡状態に陥る。投入量により昏睡時間は変わる。投入後は、自己分解されるまで解毒されることはない。
自然種が摂取した場合、五分以内に解毒薬を投与しなければ、死亡する。
この場合、発熱⇒痙攣⇒嘔吐⇒出血⇒死亡のプロセスを踏む。出血を確認した時点で手遅れである。昏睡剤を摂取する前に解毒薬を摂取する事により、薬が分解される間まで無効化する事ができる。
蟲毒を行わせ、戦闘に強い人類を目指すため、昏睡させて箱庭に放置する。
良い結果を出した個体は、捕獲され、人工子宮に戻される。皆殺しが目的では無い。あくまでも優良種を選別するためである。なお、蟲毒にて死亡した死体は、箱庭に放置される。これは、死体に慣れさせ、即戦力化させる為である。その為、腐乱死体から白骨死体まで多岐にわたる。また、骨を武器に戦う者も居る。
腐乱死体より病原菌が発生するが、これも耐性を持っているかの試金石とされる。耐性が無ければ、死が待つだけである。
箱庭より戻された個体は、人工子宮にて、一般常識と近代戦闘の知識を書き込まれ、兵士として戦線に送り込まれる。戦闘結果は、定期的に研究所に報告され、敵の殲滅を目指す為、更なる遺伝子操作に活用される。
時折、自然種へも遺伝子操作が行われ、研究成果を確認される。これも研究所のみの極秘事項となる。妊娠の定期検診の時に遺伝子操作を行われる事が多い。両親も本人も知らされない。
日本軍開発部
地下都市KYTの深層にある。
深層は、研究施設が立ち並ぶ区画であり、研究員以外が立ち寄ることがない区画。
警備は厳重である筈なのだが、廊下に警備員や研究員の姿は全く見ない。
これは逆手に取った警備方法だった。廊下が常に無人であれば、人が存在するだけで異常であると判断できる。
また、許可を持たぬ者が不用意に研究区画に立ち入ることは不可能だった。
唯一の入口は常に真空に保たれ、人間だけでなく細菌等の侵入を拒み、四方より銃撃され、蜂の巣にされる。
ここでの研究内容は、全く明かされていない。
人造人間の生産、新種の研究や改良は基本的に行なっていないことは知られている。
隔壁の横についている読み取り機へ認識票を当て、網膜センサーを覗き込むと、ようやく開発部への隔壁が開く。
隔壁は分厚く多重構造になっており、各種防疫防爆の防壁も兼ねている。
隔壁の向こう側もエレベーターホールと全く同じ構造が広がっていた。
向かいの隔壁にたどり着くと先程と同じ様に読み取り機に認識票をかざし、網膜を読み取らせる。
二つ目の隔壁を通り抜けると白い廊下が真っ直ぐにのびていた。廊下は軍用車両がすれ違える程の幅があった。廊下ではなく、道路と言った方が良いのかもしれない。
廊下の壁には、途切れ途切れに大きな隔壁があった。表札や看板の類は無い。恐らく研究内容が漏れない様に部屋の名前も秘匿されている。
廊下に水色の点線が発光し、来訪者へ道順を案内する。
体育館の様に広い研究室は、一面真っ白な壁と床に包まれ、面全体が照明として光り、影が出来ない様になっていた。
司法府
法律の作成及び執行を司る行政機関。
警察、裁判の部署も含まれる。
技術職が多いため、促成種は居ない。自然種と熟成種で構成される。
階級を級で表示する。一級が上位、九級が最下位。例、司法府警備部一級官。
司法府警備部…警備官と武装警備官の二種類有り。警備官はハンドガンまでの装備。通常の警察業務に当たる。武装警備官は、軍同様の複合装甲とアサルトライフルを装備する。
凶悪犯に挑む。また、落盤事故等の力仕事が必要とされる災害救助にも出動する。
司法長官…最高位=社長
司法府長官「五木田」家も「三津谷」家の分家。
1級官…将官(特1級官…大将、1級官…中将、準1級官…少将)=専務
2級官…佐官(上に準じる)=常務
3級官…尉官(上に準じる)=本部長
4級官…曹長(特4級官…准尉(兵曹長…兵卒の中で准尉相当)、4級官…曹長、準1級官…軍曹)=部長
5級官…伍長=次長
6級官…兵長=課長
7級官…上等兵=係長
8級官…一等兵=主任
9級官…二等兵=一般社員
行政府
日常の政府運営を司る行政機関。地下都市の保守管理。市民への行政サービス。上下水道、電力、救急、消防等。
また、配給やイワクラム鉱山、発電所、命の水の管理も行う。人間の生活関わる些細な事項は、基本的に行政府が担当する。
技術職が多いため、促成種は居ない。自然種と熟成種で構成される。
人造人間の計画的生産も担う。
行政長官…最高位
行政府長官「三津谷」御三家の総本家。
以下、司法府と同じ。
動力
地下都市を建設中に見つかった鉱石「イワクラム」が燃料。
イワクラム=磐座が語源。西洋の賢者の石にあたる。固形がサイコロに似ている。1㎝四方の大きさに加工される。
精製したものを、液体化させ、空気中の水素と反応させることで莫大な電力を産み出す。固体の状態では安定しており、何も起きない。ただの石。
液体となった時は、爆発物として真空状態での取り扱いが必要。
その為、普段は固体化させる。固体のイワクラムを燃料タンクに投入すると液体に戻され、燃料として使用される。真空で使う場合は、水素ダイスを一緒に燃料タンクに投与する事で反応させる。
地下都市の動力源の一つになっている。地熱発電や原子力発電も主力である。
太陽光発電、風力発電、火力発電、水力発電などは廃止されている。
地下都市
直径5~20km。多層型で10~50階層。
心臓部である動力炉は最深部にある事が多く、関係者以外は立ち入り出来ない。
また、人工子宮や政治、行政、司法の中心も深層にある。
都市中央に大型エレベーター(交通塔)が設置されている。地表には接していない。一つ以上、下の階層が終点となる。核爆発に耐える構造のため。
地表へは表層の外縁部より出入りする事になる。
各階層への移動は、住民票または認識票により制限される。関係の無い階層ヘの立入は許可されていない。
建設当時は、完全に地下に潜っていたが、地殻変動により地上の土砂が除去され、上面が露出している。露出部分を表層部と呼ぶ。
本来の一階層は、高さ二十メートルの天井に白色の強化セラミックスを使用した三階建ての建物が四車線道路を挟むように均一に並び市民の憩いの場として一区画が緑化公園として点在していた。
主要道路に沿いの天井からは照明が昼間の様に照らしていた。朝六時にゆっくりと点灯し、夕刻六時にゆっくりと消灯して太陽を表現していた。
幾つかに分けられている通風口からは、空気清浄した気温二十三度、湿度六十%のそよ風が吹き込んでいた。
緑化公園には、樹木に偽装された排気口が設置され、空気清浄機と空調機へ戻され循環していた。
定期的に都市内の埃を除去するため、天井のスプリンクラーから散水され、溜まった埃を排水溝へ流し込んでいた。
行政区画、軍区画、病院区画、居住区閣の使用用途によって、多少の構造の違いはあったが、これが地下都市の基本的な構造だった。
露出部…剣山の様に砲塔陣地が張り巡らされており、敵の接近を許さない。
表層…軍事基地。地上へはここからしか出入り出来ない。厳重に管理され、月人の突破を許さない。道路は、曲がり角で構成されており、真っ直ぐに交通塔へ接近する事は出来ない。
また、軍人の居住区は、ここにある。
月人の死体処理のためのシューターがある。ここから中層部最下層の命の水まで落とされる。
シューターは、垂直に設置され、途中どこの階層にも接しない。メンテナンスをする場合は、投下口からリフトにて昇降しメンテナンスを行う。
逆止弁が幾重にも取り付けられ、一度落とされた者が這い上がって来る事は、不可能である。逆止弁にはカメラと銃が備え付けられ、登って来る者を排除する。誤って人間が落ちた場合は、階級・身分を問わず戦死扱いとされる。
命の水は、下水処理も兼ね、投下された物をバクテリアや化学分解により細かく分解し、再資源化している。完全リサイクルの構造になっている。前世紀の焼却処分は存在しない。
上層…公園。殺風景な地下都市のオアシス。ここは緑がたくさんある。また、競技場やスタジアムなどもある。有事には、水を満たし凍結させ、月人の侵攻を阻む。
中層…居住区。上層に近い階は、集合住宅。下層に近い階は、高級住宅地。一戸建て。
最下層…葬儀場であり、墓地である。水葬になる。既定の場所に棺桶が納められた後、下部が開き水槽へと遺体が落とされる。ここで命の水と呼ばれる水溶液に溶かされ、元素に分解され、再利用される。月人の死体も軍事基地表層部から直接水溶液に落とされ、資源化される。また、労働力や研究、政治等に役立たたない者は、誘拐され溶かされるか、配給品に毒を混ぜ安楽死させる。口減らしの為である。役立たずを生かす余裕は人類には無い。
住民達は、死体が食料となり、自分達が口にしていることは十分理解している。それに関し嫌悪感も忌避感も無い。当然の行為であると理解している。逆に命を取り込む重要な事だと解釈している。
人造人間の製造工場がある。育成筒が数百機~数千機が並んでいると言われている。
最重要施設の為、情報は公開されていない。
下層…工場区。鉱山入口。水、食料、生活物資、武器等の生産工場が建ち並ぶ。労働者の大半は、促成種である。力仕事に機械を使う余裕は無い。促成種の筋力と敏捷を使う方が効率が良い。また、空調や有毒ガスにも耐性がある為、劣悪な環境に生身で投入できる事も関係している。
監督者は自然種である。地下都市と完全に独立した地下鉱山の入口がある。ここからイワクラムが産出される。また、上層の命の水から様々な物が作られる。
深層…政治局・研究所。ここには、自然種が大半を占める。人造人間は、ほんの少しである。
最深層…動力部。危険な為、熟成種が多数を占める。技術系の仕事も多い為、自然種も多い。
別構造…箱庭。地下鉱山。入り口は地下都市経由である。地表には通じていない。地震によりごくまれに地下鉱山が地表とつながる場合もある。穴は発見され次第、封鎖される。
軍用都市コード
KYT(旧 京都)
OSK(旧 大阪)
KBE(旧 神戸)
OKY(旧 岡山)
HSM(旧 広島)
TTR(旧 鳥取)
OTU(旧 大津)
交通塔
幾つもの大型エレベーターが束ねられたもの。エレベーターにより、行先が決まる。エレベーターの横には、階段も設置されている。
小型の交通塔も外縁部や中間地帯に設置されているが、その場合、直通か。一層毎の移動に制限されている。表層の軍事基地には接続していない。




