表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高飛車な侯爵令嬢と不器用な騎士団長  作者: ヴァンドール


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/42

16話

 わたくしがお父様と伯父様に送った手紙は、予想通り、すぐに実を結んだ。


『お前がそこまで決意を固めたのなら、こちらも手を貸さぬわけにはいかぬ』


 返信と共に、実家の侯爵家と伯父様の公爵家の領地の流通ルートが動き出し、薬草栽培に必要な質の高い有機肥料が、驚くほど迅速にこちらの領地へと運び込まれてきた。


「さすがは侯爵家、そして公爵家でございます。奥様の行動力と人脈、まさに千人力です」


 レイモンドさんは、運び込まれた大量の肥料を見て、感嘆の声を漏らした。

 肥料の確保という最大の懸念が払拭されたことで、薬草栽培への転換は一気に加速した。わたくしは、父の領地で学んだ栽培技術を惜しみなく教え、レイモンドさんが計画通りに領民を組織した。


 そして、数ヶ月後。

 初めて収穫された薬草は、予想を上回る品質だった。その優れた効能はすぐに都の商人に評価され、領地にはこれまでにないほどの富が流れ込み始めた。


「奥様の言われた通りになりました! 今年の収穫は例年の二倍、来年はもっと増やせるぞ!」


「領主様が奥様を連れてきてくれたおかげだ!」


 不安視していた領民たちの顔には、活気と笑顔が満ち溢れていた。


 わたくしの領主代行としての地位は、この目に見える成功によって、完全に確立された。

 もはや、わたくしは

『元侯爵家の高貴な令嬢』ではなく『エドガー様を支え、領地を豊かにした領主夫人』として領民に敬愛されるようになっていた。

 領民の生活を第一に考えるわたくしの姿は、平民出身のエドガー様が持つ実直さと重なり、領主夫婦への信頼は揺るぎないものとなった。


 レイモンドさんは自信たっぷりに言う。

 

「奥様。薬草の売上を元手に、水路の修繕計画を前倒しで進められます。ご主人様がお戻りになる頃には、この領地の財政は金脈と化しているでしょう」


 わたくしは、執務室の机に置かれた契約書にサインしながら、ふと遠い戦場に思いを馳せた。


「……よかったわ。これでエドガー様のお帰りを、堂々と迎えられますもの」


 領地が一番活気づき、わたくしの心にも静かな安堵が満ちてきた頃。


 一通の、戦場からの手紙が届けられた。

 レイモンドさんから受け取ったその手紙は、エドガー様自身の筆跡だった。

 わたくしは胸の高鳴りを抑えられず、すぐに私室へ戻り、封を切った。

 中には、簡潔な近況報告と共に、わたくしに向けられた個人的なメッセージが添えられていた。


  ミリアンへ

 戦況は苛烈だが、私は大丈夫だ。君の存在そのものが、私の心を支えている。

 戦場での闘いの中、必ず君の元に帰るという約束が私を強くする。どうか、無理はしないよう身体を大切に。

 必ず勝って、君のいる領地へ帰る。

                エドガー


 わたくしの目尻に、熱いものが滲んだ。これまで流さなかった涙が、一枚の手紙によって溢れそうになる。


『どうか、ご無事で』


 彼からの手紙は短いが、胸が締め付けられるほどの愛情を感じた。

 わたくしは、彼が帰るべき場所を、誰にも文句のつけようのない最高の場所にすることを、改めて深く誓った。


『ええ、必ず最高の領地で、あなたをお迎えいたしますわ』


 わたくしは、彼の筆跡をそっと撫で、それを大切に胸に抱きしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ