11話
「お待たせ。じゃあ会計に行こうか」
「そうだな。雨宮、欲しい服と幸村に着せた服をくれ」
「ありがとうございます!」
「剛くん!?」
「これは参考資料として買うだけだ。特に他意は無い」
残念ながら正面からの写真しか撮影できなかったからな。別にもう一度着させたいとかそういうわけでは全くない。決して。
幸村が何か文句を言っていたがスルーして、美琴と二人で会計に向かった。
「合わせて6万5千円となります」
「じゃあクレジットで」
「美琴、俺が払う」
美琴がそのまま全員分の会計をしようとしていたので慌てて止めた。
「良いのかい?ここは私も行きたいと提案していたんだけど」
「ああ、よく似合っていたからな。これはサービスとして払わせてくれ」
あれだけ良いものを見せてもらったんだ。感謝代として当然だろう。
「へえ、嬉しいなあ」
美琴は余裕そうな口ぶりをしているが、顔が真っ赤だったせいでカッコつけられていなかった。
「というわけで現金で」
俺は財布から現金を出して支払った。クレジットはよく分からないからな。
「じゃあ次のお店に行こうか」
会計を済ませた後、美琴に次の店へ連れていかれた。
「ここ?僕店の前で待ってても良い?」
「駄目に決まってるだろ」
この程度で躊躇っていたら次耐えられないぞ。
「そうですよ!幸村先輩、選んでくださいね!」
雨宮は幸村の腕を掴み、店の中に入っていった。
「じゃあ頼むよ、剛君」
「ああ、分かった。本当に俺のチョイスで良いんだな?」
「うん」
俺達が服屋の次にやってきたのは水着専門店。
再来週あたりに劇団で海に行くことになったらしく、選んで欲しいとの事。
美琴が言うには普通の服と違い胸のサイズで見栄えが大きく変わるから似合わない可能性があるからマネキン買いは嫌らしい。
俺も女子の水着を選んだことなんて当然あるわけが無いんだが、漫画家としてのセンスを信頼されたらしい。
「そうだな……」
というわけで今回は取材欲を抑えて真剣に水着を選ぶつもりだ。
別に漫画家としてのプライドが理由ではない。
幼馴染として、そして美琴の魅力を知る男として露出を控えつつ、美琴の美しさを最大限に引き出せる最高の水着を選びたいのだ。
「これは駄目だな……」
ビキニは駄目だ。露出度が高すぎる。
絶対に似合うとは思う。だが谷間もへそも露出するのはアウトだ。せめてどちらか一方は隠さなければ。世の人間に刺激が強すぎる。
「これも、これも、これも、これも」
下着と変わらない露出量じゃないか!これが主流だなんて世の中狂ってるだろ!
そして最後のは何だ!ほぼ紐だけじゃないか!誰が着るんだ!痴女か!?!?!?
こんなゾーンの水着を選んでられるか!
「別の場所を見てみよう」
「うん」
俺は危険地帯から身を引き、比較的健全そうなゾーンへとやってきた。
「一部変な物が混じっているが、比較的まともそうだな」
ここにあるのはワンピースに似た形状の水着たち。それでも普通の服よりも露出は多めだが、特に問題の無い範囲だ。
3着に1着くらいの割合で生地が透けている物があるが、気にしたら負けだ。
「美琴に似合うとなれば黒とか紺当たりの暗い色が無難な所か」
「そうかい?」
「ああ。美琴はカッコいいからな。大人の女性感が出て非常に良い」
「ありがとう」
だが、それでは無難すぎるんだよな。たまにはイケメンな椎名美琴ではなく、現役高校生の椎名美琴を見てみたい。
「だが今回はこういうのはどうだろうか?」
俺が1着目に選んだのは純白のワンピースタイプの水着。これでも美琴が着たら大人っぽく見えるかもしれないが、比較的元気で清楚な少女に見えるのではないか。
少なくともイケメンではなく、可愛いと言われるに間違いない。
「へえ、珍しいね」
明らかに可愛い系に寄った服を選ばれた美琴は何故かにやけていた。
「たまにはこういうのも良いんじゃないかと思ってな」
別に理由を隠す必要も無いので正直に話した。
「ふーん。着てあげるよ」
美琴は俺が持っていた服を手に取り、試着室へと向かった。
数分後、
「じゃん、どうかな?」
「良いな……」
試着室から出てきた美琴を見た俺は何か気の利いた感想でも言おうかと思っていたが、咄嗟に出た言葉はそれだけだった。
「好評で何よりだよ」
凄く似合っている。
可愛い系にしようという試みには若干失敗した所はあるが、最高に綺麗な女性に変貌を遂げていた。
「だが……」
俺は悔しい。美琴にはこれを着て堂々と海を闊歩して欲しいのだが、確実にナンパされるに決まっているじゃないか。
100m歩いたら10人の男に話しかけられるに決まっている。
俺は幼馴染として、そんな危険な状態は看過できない……
「これは駄目だ」
「え?似合っているんじゃないのかい?」
「当然似合っている。ただ、その服は危険すぎる……」
「どういうことかな?」
「その服を着たらナンパされまくって身動きが取れなくなるし、人によっては誘拐を企てるかもしれない……」
許してくれ、劇団の皆。これを見せてやれないことを……
「そっか。これ買うね」
「人の話聞いてたか!?!?」
「この私が誰かにやすやすと捕まるわけがないでしょ。それに、劇団の皆のこと知ってるよね?」
「?」
劇団の皆がどうかしたのか?
「剛君に聞いた私が悪かったね。まあとにかく大丈夫だから」
それだけ言って美琴は更衣室の扉を閉じた。
「嘘だろ……」
あんな服を着た美琴を海に放つことになるだなんて……
軽い気持ちであの水着を選ぶんじゃなかった。
後悔してももう遅い。ここでいくら買うのを引き留めたとしても後で戻ってきて買うに決まっている。
「あの人に連絡しとかないとな……」
俺は美琴が着替えている間に劇団の信頼できる人に連絡しておいた。
「じゃあ行ってくるね」
美琴はそのまま着ていた水着を会計に持って行った。
「あいつらはどこに……いた」
もう美琴はどうしようもないと諦め、更衣室の一番奥に居た幸村と雨宮の取材をすることにしよう。




